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Lv 8 森林の森

 森に出たのはいいものの、どこへ行けばいいのか皆目検討がつかない。町から出る門の前にいた、いかにも道案内してくれそうな中年に話しかけておけばよかったかなと、今さらになって後悔した。数十分ほど森を彷徨って、得たものといえば途方もない疲労感のみ。今すぐにでもこの場に座り込みたくなる衝動にかられるほど、一也は疲弊しきっていた。

 見渡す限りの『緑緑緑』で、呆れはてるほど周りには木しかない。『森林の森』なんていう理解しがたい地名も、いまとなっては意味が解ってきた気がする。地図を開くなんていうコマンドも見つからないため、一也は迷子になっていた。

「誰かいませんか!」と大声で叫んで助けを求めるが反応はない。霧でもかかったようにぼんやりとしているこの森では、声さえもうまく響かないらしい。

 途方にくれてしまって足取りが悪くなる。のそりのそりと進める足が壊れかけのドアのように悲鳴を上げる。なんだこれホントにゲームなのか?

 

「く......っそお......何してんだよ俺......」


 かすれた声で呟く。もちろんそんなことをしたって現状に変化はない。ゆっくりと地面を踏みしめてなにもない道を一人で歩き続ける。

 と、そこで足に何かを蹴っ飛ばした感触があった。驚いて足元に目をやるが、先ほどと変わらず、そこには何もない。あれ? と、一也は一人で首をかしげる。しかしそれでも何かを蹴ったのは確かなことだった。

 緊張が一也の体を駆け巡る。思わず進めていた足が止まってしまった。

 一瞬の静寂が訪れる。

 その時だった。

『NORMAL BATTLE』の文字が視界の右端に現れた。三条一也という文字の下に、相変わらず短いHP MPバーが表記される。視界の左端には『モグモグラ Lv8』という文字が5つ縦に並べて表記されており、HPとMPは全て揃って120だった。

 ぼこりぼこりと一也の足元が奇妙な音をたてる。それがモグモグラの地面を掘る音だということに気付く。慌てて飛び退くと、一斉にモグモグラ達が顔を出した。一瞬でも遅れてしまっていたら、相当危険だっただろう。

 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、一也は二歩下がって敵と距離をとる。握り拳をつくり、いつでも対応できるように戦いの準備をした。

 だが、正直言って勝てる気がしなかった。相手は五体もいるのだ。ブラックサタンの時は一対一で戦えたから良かったものの、五体同時に攻撃されてしまうと、全てを防ぐことに成功する自信がない。

 通常のHPならば全てを防ぐ必要はないのかもしれないが、あいにく一也のHPはたったの6。一撃でも攻撃をくらってしまえば、敗北は免れない。たとえそれがどんな雑魚の攻撃であってもだ。

 飛びかかってくる五体のモグモグラを叩き落とすことは__できるのだろうか。


 頭を掻いて悩む一也に向けて、モグモグラは奇声を上げて飛びかかった。思考を放棄して一也は殴ることだけに専念する。一匹目は難なく撃破。二匹目と三匹目は横に手を薙いで弾き飛ばす。四匹目も紙一重の差で一也のほうが動きが早く、避けて蹴り飛ばす。

 五匹目は__体をねじりながら飛翔し、一也の腹部をめがけて飛んできた。

 狙われた部位が、腕等ならば動かして避けることもできたのだが、あいにく腹部だけを分離させて攻撃を回避する能力はない。


 結果、攻撃を避けることが__できなかった。


 回転により強まったモグモグラの攻撃が、一也の腹部に穴を開けるほどの勢いで、めり込む。肉の裂ける感触が体中に伝わり、それに伴う痛みが心なしか少し遅れてやってくる。「__うがああぁあぁあぁ!!」ぐりゅぐりゅと奇妙な音をたて、血と肉を辺りにぶちまける。ミミズのような飛び散ったはらわたが一也の足元を赤色に染めた。

 うがあああと痛々しい悲鳴を上げるなかでふと目に入った視界の右端のHPバー。それが減少していく。

 6、5、4、3、2、1__と、そこでHPの減少が止まった。同時に視界を埋め尽くす『Skill Motion』の文字。一也の右腕が__正確には腕輪が眩く発光したのも同じタイミングだった。

 

 なにが起きたかは分からなかったが、とりあえず今が好機だと、目の前のモグモグラを殴り飛ばした。というより痛みで手に力が入らなく、平手打ちみたいにしてモグモグラを倒したのだった。

 視界の右端から、自分のHP、MPバーが消えた。それが、この痛々しい戦闘の終わりを告げる。

 戦わなければいけないという使命感だけが一也を動かしていたのか、戦闘が終わると途端に膝が折れ、そのまま地面に倒れ込んでしまった。制御しきれずに腹部を打っていてぇいてぇと土の上を転げ回る。このゲームは『HP』が全てにおいて優先されるものであるらしく、普通なら死んでいてもおかしくないような傷でさえも、HPが1残っていれば生きることは可能らしい。死なないだけ御の字なのだろうが、とにかく痛い。それも宿屋に行くことができるくらいには体の自由がきくから、痛みを司る神経が全く麻痺しない。

 できることくらいはしておこうと立ち上がって、どこにあるのか分からない宿屋(それに宿屋で傷が治るかは分からない)を探そうとした、その時だった。


「............あの」


 背後から唐突に、聞き覚えのある少女の声がした。痛む腹を、無理やり意識の外に追いやって振り返ればそこには道具屋で見た少女がいた。


「いやっ、そんなに睨まないで下さいよぅ......」


 彼女は体を少し反らして、怖がっていた。

 一也は歯を食いしばって痛みを我慢しているだけだった。もちろん睨んでなどいない。


「睨んでないから......ちょっと、助けて」


 掠れた声で呻く。正直、声が出たことに一也は驚いた。

 彼女は平べったい胸を反らして、先ほどとは正反対に、偉そうに言う。

 

「いいですけど。でも一つ条件があります」

「条件?」


 どんなことを頼まれるのかと一瞬恐れた一也だったが、しかしそれは予想とは違って、彼女にも一也にも利益をもたらす条件だった。


「一緒にパーティーを組みましょう。三条一也くん」

やっと会話が増えそうです。

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