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異世界から

「何で!! こんなことあっていいわけないだろう!!」

 制御室に一也の悲痛な叫びが響く。

 あまりの悔しさに制御モニターを叩き割ってしまった。

 けれどもう割ったところでなにが起きるわけでもない。

 

 だって。


 __制御パネルのパスワードがわからないからだ。

 そのうえ考えてみれば、何をどうすればプレイヤーが解放されるのだろうか。

 安直な思いつきでここまで来てしまったがついにその報いがやって来た。

 何も知らない糸川は壁に背を当てて驚いたという顔をしている。

 振り返ると糸川と目が合いどうにもいたたまれない気持ちになった。

 どういうことがあったのかすべてを話すと、糸川は目を充血させ、そして泣き出した。

 なんでそんなことになるの、と。私たち頑張ってきたのになんで、と。

 繰り返し繰り返し、泣いた。

 泣いていた。

 いつの間にか一也の目からも、涙が涙腺を振り切って、頬を伝っていた。

 現実はそう甘くなかったのだ。たかだか高校生が人間の命を救おうなんておこがましいことだったのだろう。

 今さら涙を拭う気にもなれずそのまま流し続けていると、何故か前が見えなくなった。

 ああこんなに悔しいんだ。泣いているんだなあと思っていると知らぬ間に嗚咽が漏れ、時々むせて唾液を地面に吐いていることにも気づく。

 バカみたいだ。

 膝ががくりと折れ、ついでに自分の心もポッキリと割れた。

 タイミングを見計らったかのように、地面が消えてゲーム世界の完全崩壊が始まる。

 数秒もたてば視界が完全に開けた。ビルもなにもすべて消えてゲーム中の太陽が明々と泣き崩れる二人を照らす。


「糸川、さよならだな」


 落ちる涙が赤色に染まる。


「そうだね。いろんな意味で、さよならだ」


 ふと思い出したことなのだが、ゲームの崩壊に巻き込まれて死んでしまうと、ここから出られなくなると言っていたはずだ。

 天国または地獄に行きたいのであれば腰にあるサーベルを自分自身に突き刺せばいい。

 ここから出られなくなることだけは回避したかった。

 切腹だ、と軽い冗談を交えながらサーベルを引き抜く。

 剣先を自分の腹に向けて、風穴を開けてやるくらいのつもりで剣を力強く握った時だった。


「三条くん、待って」


 小さな、小さな糸川の声が聞こえてきた。よく聞き取れたものだと思う。

 サーベルを握ったまま糸川の方を向くと、彼女は何故か手招きをしていた。

 なすがままに糸川に近づくと、次はしゃがめと掠れるような声で言われた。


 そして、言われた通りにすると。


 突如抱きついてきた糸川の唇が、一也の唇としっかり重なった。

 とたんに毒が感染する。ちらと目をやると糸川のHPが残り5だった。

 一也のHPはもう残り1だ。


 そして、

 おぼろげな視界の中で。

 彼の鼓膜が捉えた糸川の言葉。

 それは一也を困らせる一言だった。


「大好きです、三条くん」

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