高層ビル part2
あと少しで終わらせられたらいいなと思っています。
「え? なんで」
「さっきの草が毒を持っていたとしか考えられないな__くっそ、このままじゃ製作者のおじさんの二の舞だぞ」
糸川がみるみる青ざめていく。
しかし彼女は彼女なりに成長したようで、死ぬことを恐れているものの、すぐに落ち着きを取り戻した。
「とりあえず三条くん、薬草食べたら? そのままだと次ダメージくらったとき死んじゃうよ」
「いやでも糸川が使った方が__」
「ちゃんと自分のぶんは持ってるから。それにどうしても心配なら残ったのを頂戴」
なぜか一也のほうが焦っていた。
アイテム欄を開くと薬草の下にインスタントラーメンとスマートフォン、それにいまとなってはなにを読んでいたのか忘れたがひとつの文庫本があった。だからなんとなく笑えて、少しだけ気分が楽になった。
階段に腰かけて薬草を使用する。残りを糸川にすべて使って、彼女も自分の持っていた薬草を使いきった。
「このままだと、私あと二時間で死んじゃうね」
「なんでわかるんだ」
「計算したの。残りHPと1秒間にどれだけ減るかわかったらできるでしょ」
確かにできないこともないが。
糸川のHPの総量を暗算で割るのはなかなか大変なことである。
顔もよくて頭もよくて剣道もできる。性格も悪くないだろう。元の世界ではさぞかし男子や女子に好かれていたはずだ。
このな女の子と二人でいていられるなんて。
「幸福者なのかな......」
思わず変な言葉が出てしまった。
糸川に聞かれていないかと心配したが、彼女も何か考えごとをしていたようで、見向きもしていなかった。
何かできることはないだろうか。とりあえずとゲームのオプションを開いてみる。するとそこには『状態異常一覧』というものがあって選択を押した。
麻痺、眠り、風邪、熱、腹痛など多彩な状態異常の中から毒を見つけて開く。
毒には、もちろんのこと何もしなくてもHPが減るものだと書いてあった。その下には特性が書いてあり、間接的に移ることがあるらしい。飲み物を二人で飲むことはできないということだ。まあそんな機会そうそうないからどうでもいい。そして説明を下へ下へとスクロールしていくと解毒草が生えている場所が表示されていた。
「糸川」
「なに?」
「深淵の墓場、って分かる? 解毒草の生えてる場所らしいんだけど」
「それ、チュートリアルで集めたルールに乗ってたやつだね。確かボス手前」
無理だねえと二人で笑った。
「じゃあさっさと制御室に向かおう。このゲームを終わらせられれば毒もクソもないからな」
立ち上がると糸川がアイテム欄から飲料水を取り出して飲み出した。
偶々目があって「いる?」と聞かれたから毒には間接的に移ることがあると軽く教えて階段を登り始める。
そこそこ長かった階段もついに終わり上の階に到着した。
二階は洋画でよく現れる薄暗い地下道のようなステージだ。水の滴り落ちる音がどこからともなく聞こえてくる。気味が悪くて進みたくないという衝動にかられたが制御室につくことが最優先。あきらめて足を踏み出す二人だった。
しかしあまりに静かで時々道を間違えたのではないかと不安になる。敵くらい出てきてもおかしくないのになぜ何も現れないのだ。
突き当たりを左に折れたり右に進んだりする。しかしそれでも延々と変化を見せない道に嫌気がさしてきた。
糸川のHPも時間がたつにつれて減っていっている。
このままではいけないと分かっていてもどうにもならない現状を打破したい。
そんな願望をもちながら角を右に曲がると、ついに二人の努力が報われた。
「あ! これ__『制御室行きエレベーター』って書いてるよ!」
右に曲がると『制御室行きエレベーター』左に曲がると『スタートに戻る』という文字の掘られた曲がり角を見つけた。
もちろん右に曲がる。すると分厚い鋼鉄の扉があり、その内側を覗ける穴が空いていた。
糸川が真っ先に扉の内側を覗きに行った。
しかしその後振り返った彼女は虚ろな目をしていた。あきらめているようでもあった。
「三条くん。ここは無理っぽい。これ多分嘘の入り口なんだね。道順を知っている人間しか制御室に繋がる扉につけなさそう」
一也も扉の穴を覗いてみた。
すると真っ先に見えたのは、とてつもなく広い空間に佇むライオンに似た超大型モンスターだった。
背後から糸川の声が聞こえる。
「ここと同じような扉いっぱいあるの分かるよね」
確かにこの分厚い扉と同じようなものが数十個確認できた。
「多分、あのモンスターの後ろにある扉についたらこいつにバレずに進めると思う。その扉の隣にエレベーター見えるよね?」
「うん。見える」
「じゃあその扉につかないと__」
一也は糸川の言葉を遮った。
「いや、こいつ、倒そう」
「え?」
「時間がないんだ。少しくらいはリスクを侵さないとできることもできなくなってしまう」
糸川が少し悩む様子を見せる。
「あいつのレベル見たの? 120だったけど」
「俺の攻撃力があれば勝てるかもしれないだろ」
確かにそうだけど......と糸川は困ったように言葉をつまらせた。
「糸川は下がっといてくれ。今はお前のHPをアテにできない」
「でも......」
「行ってくるから、ここで待っててくれないか」
すると一也を引き留めるのをあきらめたようで、彼女も今は自分のできることがないのを知ってうんと短く頷いた。
「じゃあ行ってくる」
「うん。頑張ってきて」
そして一也は、扉を開いた。




