Lv? 聖夜の小屋 part2
食事はそれなりに、というかめちゃくちゃおいしかった。
見たこともないような食べ物が長方形の細長いテーブルにずらりと並べらて、部屋の隅にはメイドやらなんやらが食べ終わるまで立っていた。
お風呂もいうまでもなくよかった。寝室もこれ以上ないくらいに広い。
だからというわけではないが、一也は本当に危険な予感がした。
「大丈夫じゃないだろ......これ」
一人、寝室で用意されていたバスローブを着て呟く。
べつに何かが起こったわけではないのだ。いたって平和である。
何かが起こりそうで怖いのだ。それは、何の根拠もなく。
不安になって窓にもたれかかる。ふと思い立って窓を開けようとしてみた。
しかしガタがきているのか鍵を開けることはできるものの窓枠が硬い。
数分間窓枠と格闘して、それでも窓は動こうとしない。
もう開かないと決めつけて小さなお年寄りに悪いが、窓枠を外してしまった。
途端に凍えるような風が部屋の中を駆け巡る。思わず身震いしてしまった。
「ここから逃げれる、な」
とそう思った一也だったがここは四階である。木製の家だからといって小さいわけではないのだ。他の家と比べてここは格段に大きい。
飛び降りたら死んでしまうのではないだろうか。
あきらめて窓を嵌めなおそうと試みたが、しかし外すことができても嵌めることはできなかった。一也はどうするか悩んで窓を適当に部屋の隅に置いていおくことにした。
ふうとため息をつく。その時だった。
「__っ」
強い振動が部屋を揺らした。しかし地震みたいなそれは数秒もすればおさまった。
気づけば隣には大量の本が納められた本棚が倒れてきていた。
少しでも右側に寄っていれば危なかっただろう。
すると急に糸川のことが心配になった。
まさか__寝ているあいだに本棚にでも押し潰されてしまっていたら__
そう思ってしまえばいてもたってもいられない。
糸川の部屋は__どこだっけ。
あわてて寝室のドアを開けて廊下へ飛び出す。
赤い絨毯をこれでもかと強く踏みしめて廊下の突き当たりを右に折れる。
__糸川の部屋は大浴場の隣だったはず__
果てがないと感じてしまうほどに長い廊下をひたすら走る。
バスローブを着ているとどうにも走りにくい。脱ぎ捨ててやろうかと思ったがさすがにダメだろうとバスローブのことはそれっきりにして脇目も振らずに走った。
異常に気づいたのは、いつになっても大浴場が見えてこないとわかったときだった。
そう思ったとほぼ同時に周りの景色がまったくといっていいほど変わっていないことにも気づく。
やっぱりここはボスの館だったのかもしれない。
それならなおさら糸川を早く見つけなければいけない。
しかしそうは思うものの景色が一向に変わらない。これではどれだけ進んだとしても意味がないのだ。
解決法を見いだそうと、昔やったゲームのことを思い出す。
__結界か幻惑か__
確実にそうとは言い切れないが、ゲームならばそのどちらかだろう。
幻惑にかかってしまっているのなら、術者を倒さなければならない。
結界なら__一也の異常な攻撃力で壊してしまえばいい。こちらのほうが簡単だ。
結界であることを強く願いながら辺りを見回す。
廊下に等間隔に作られたドアを一つずつ調べて怪しいところはないかと調べる。
ドアが多すぎる。景色も変わらないから一度見た部屋をもう一度見ているかもしれない。
このままやっていてもらちが明かないと近くのドアを適当に開いてみた。
しかし、そこはまた赤い絨毯の敷かれた長い廊下へつながっているだけで、疲れてしまってかあきれてしまってか重苦しいため息をが出る。
この場所自体が結界ではないのかとほとんど無理矢理に案をひねり出した。
よしそれでいこうと清々しいほどに考えなしに思い切り壁をぶん殴ってみた。
あ、と思わず声をあげてしまう。
正解だったのかどうなのかは分からないが、とりあえず結界を壊すことには成功したらしい。
中心からまるで花の形になるようにきれいに壁が割れていく。
そして、割れた壁の向こう側には糸川が気を失ったのか倒れていた。
「__おい!」
叫びながらあわてて駆け寄る。まさか、と心の中で小さな不安が一つ生まれた。
「おい、起きろ!」
肩を揺すって声をかけ続けるが糸川はまったく反応をみせない。
なにがあったのか苦しそうな表情をしてううと絶えず呻いている。
起こすことは不可能だろうと決めつけた。
糸川が戦える状況ならボス戦も考えたがあいにく彼女は気を失っている。
ここがボスの館ならすぐに逃げ出さなければならない。
一也一人でボスに勝てるとは到底思えなかった。
苦しそうに呻いている糸川を肩に担いでドアを足で蹴って開ける。
脇目も振らずに廊下へ飛び出して呼吸がついていかないほどに勢いよく走り抜ける。
__出口はどこだ__
わけもわからないままにまるで迷宮のように入り組んだ廊下を駆ける。
そうしてついたのはこれまたよく分からない大広間だった。
その大広間の奥には小さな人間がたっている。
いうまでもなくそれはさっきのお年寄りだった。
「どうされましたか、そんなに深刻なお顔をなさって」
話を聞く気など毛頭ない。
すぐさま踵を返して、お年寄りが追ってこないことを一心に願いながら元きた道へと引き返す。
くそっと舌打ちをした。見つからなければ逃げきれる確率は高かったのに。
__と。
「お待ちなさいな」
急に発されたお年寄りの声に驚いて振り返る。
メイドやら執事やらとお年寄りの周りにはいつのまにか大量の人間が集まっていた。
あ、と思い出して驚く。
あのお年寄りは最近人と話していないと言っていたのだ。
これだけの人間がいてなぜ言葉を交わしていないのだろうか。
「気づいたようですね__まあ、逃がしませんよ」
瞬間、轟! という爆音が煙と共に大広間に鳴り響いた。
煙が晴れるとそこには一也の二倍ほどある大男がいる。
それは何かと尋ねられたら、誰もが口を揃えて言うことだろう。
真っ赤な衣装に身を包んだそいつは__サンタクロースだった。




