Lv 8 森林の森 part4
もちろん道具屋にはよらなかった。どう考えても糸川のHPの量なら回復道具は必要ない。
特に必要なものもなかったから、宿屋から出るとすぐさま『森林の森』へと入った。薬草欲しい欲しいと口を尖らせていた糸川だが、今はもう機嫌をなおしてひょこひょこと一也の後ろをついてきている。
足に絡みつく草やらを掻き分けて進みながら、一也は暇になった口を何の気なしに動かす。
「何であんなに薬草欲しがってたんだ?」
「用心するにこしたことはないと思うけど」
「いやでも......そのHPなら用心もクソもないんじゃないか」
「私じゃないよ。三条くんのための薬草だよ__」
いいやつだった。
「__いくらHPが1から減らないっていってもねえ。気を付けないと」
「だから一応?」
「うん。でもまあ三条くんが持ってるんならいらないかなと思って」
へえと適当に相づちをうってそっぽを向いた。少し恥ずかしかったからだ。
今日は糸川の発言にいちいち反応しすぎだと一也自身も思う。しかし、それは現実の世界で女友達のいなかった一也には無理もないことだろう。
そんな思考をどうやってか読み取って、糸川はにんまりと顔を歪めて笑った。
「照れてるんだね」
「照れてねえよ」
「顔赤いよ」
「え、あ......嘘だろ」
「嘘__じゃない。今赤くなった」
なってないと否定するとループしてしまいそうだから、もう知らんと言い捨てて再びそっぽを向いた。「照れ屋さーん」と背後からバカにする声が聞こえたが、反論すると面白がって言い続けるのを一也は知っていたので、しっかりと無視した。
それから少し歩くと森が姿を消した。代わりに現れたのは上が見えないほど高い鉄の壁だった。横も長くて端が見えない。触ってみてもどこかの隠し扉が開いたりするわけでもなく、軽く叩いた音が響くだけだった。
「ここは行き止まりみたいだな」
「そうかな。もっとちゃんと調べた方がいいと思うけど」
「どうやって」
すると糸川は横一直線に伸びた壁を指差した。
「壁に沿って進むの」
「......端見えないだろ、何もなかったとき帰ってくるのめんどくさそう」
「まあいいじゃない。いこう」
それだけ言うと踵を返して糸川はずんずん進んでいった。かわいらしい見た目のわりに強情なやつだった。
進んだところで何もなさそうな予感がして、糸川を引き留めようと思った。しかし話を聞いてくれるとは到底思えなかったので、結局黙って後をついていくことにした。
ずいぶんと歩いて、ようやくがらくたと泥と腐った木だけで作られた古代都市らしいものを見つけた。壮大なその景色に少しばかり感動している一也に、自慢げな糸川の声がかかる。
「ほらね。やっぱりあったじゃない」
「途中で絶対何もないとか騒ぎ出したの誰だ」
誰だっけな、とおどけて脇目も振らずに古代都市へ近づいていく糸川の背中を慌てて追う。森にいたときより気温が上がっているのか、走り出してすぐに汗をかいた。照りつける太陽の下を駆けるのは久しぶりで、自分がサッカー部だったことをうっすらと思い出した。