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異世界転生ライフ 〜ニューゲーム→ニューライフ〜  作者: ㌔㍉コン
第一章〈聖域都市ツェルグブルグ〉
8/33

第七話【とある休日のお話】

3日ぶりです。

『────けて......』


『────れか......』


『────すけて......』


『────だれか......』



『────助けてッッ!!』



 ユリウスはゆっくりと目を開いた。

 窓の方に視線を向けるとカーテンの隙間からは何も見えず、漆黒の闇。

 時刻はどうやら真夜中らしい。

 何か不思議な夢を見ていた様な、何もなかったような......。


(変なかんじだ......)


 起きようかなと思い体を動かそうとした時、ユリウスは違和感に気付いた。

 体が動かないのだ。

 まるで何かに抑えつけられ、縛られているかの様に。

 ──変な夢を見た後に身体が動かない。前世では良く耳にした話だ。

 昔は信じて無かったが今は違う。

 なんせ神様なる者に出会ってしまったのだから。

 それにここは異世界だ、何が起こるか分からない。魔法なんて地球の科学では説明できない物まであるのだからもしかしたら、と思ってしまう。


(本当に何なんだこれは......。まるで体が動かない)


 そこでユリウスは更なる違和感に気付いた。

 今はそんなに暖かくもない時期である。

 そこそこの服を着ればまるで寒くなく、運動すれば暑いぐらいの丁度いい時期。

 だが、それにしても朝方は冷え込む。

 そして今はおそらく真夜中。

 しかし、薄手の布団を羽織っている体は寒いどころか暑くすらあるのだ。

 ......おかしい。

 直ぐに疑問が湧いて来る。

 これは何かの魔法なのか......?

 それとも


 ──モゾ......


 その時、布団の中。正確に言うとユリウスの右胸の辺りが僅かに動いた。

 一気に寒気がユリウスの体を駆け抜ける。

 まずい、非常にまずい。ここには何かがいる、と......。

 ユリウスはその何かを刺激しないようになるべく息を殺し、心を落ち着けようとした。


「......おにぃ、たん......」


 瞬間、布団の中から聞き慣れた声が聞こえたのだ。

 その声はいつでもユリウスに元気をくれ、ジョルジュとの筋トレなどでへばった時にも一瞬でユリウスのHPを回復に導く天使の声だ。

 そう、つまり


天使達(シスターズ)か......。 あれ......? 今、勝手に脳内変換された様な......。まあいい。それにしても何でマリアとエミリアが?)


 そう、それが一番の疑問なのである。

 ここにどうしてマリアとエミリアが寝ていて自分の両腕に抱き付いているのか。

 この四年間、一度たりともそんな事は無かった筈だ。

 ユリウスは到底答えには行き着かない。

 自分を縛っているのがシスターズだと分かると同時に体に力が出てくる。これは別に妹に抱きつかれているからと言うわけではない。

 いくらシスコンのユリ──いや、シスコンでは無く。妹思いのユリウスでもそんな、とんでもパワーは出てこない。

 これは単に、恐怖による筋肉の強張(こわば)りが解けたのと、もう既に準備運動が必要ないくらい──シスターズによって──体が温まっているからである。

 だが、ここで二人を振りほどけないのがユリウスである。

 下手に振りほどいて二人を起こしてしまったら?

 もしかしたら寒いのかもしれない。

 風邪を引いてしまうかもしれない。

 そんな不安が頭に広がる。

 そしてユリウスは名案を思いつく。


(一緒に寝ればいい、うん)


 もともと変に目覚めたのだ。別に意識が完全に覚醒した訳ではない。

 それに今はとても暖かく──縛られる事による寝心地を除けば──寝易い環境の筈だ。

 よし、寝よう。

 そう決意したユリウスは徐々に意識を手放していった。






 ******






「キャァアァアアーーーー」


 その声は朝方、グラッドレイの屋敷に響き渡たった。

 その声に一早く反応し行動に移したのは、やはりジョルジュだった。素早くベッドから起き上がると直ぐ、枕元に立て掛けてある愛剣を握り部屋を飛び出す。

 と、同時に気配探知を行った。これは周りの気配を魔力で強化した聴覚などの感覚器官なんかを使い、文字通り気配を探知する技術だ。

 そんな一瞬の間に目的地へと到達する。

 目的地──エミリアとマリアの部屋の前には、どうやら先程の声の主らしいフェルムが立ち尽くしていた。その顔は青く、その口は「どうしよう、どうしよう......」と震える声で呟いている。


「どうした!?」


 ジョルジュはフェルムの目を見ながら問う。


「あぁ......旦那様......あの、あっ、」


「どうしたのっ!?」


 そこに一足遅れてユニアスがたどり着く。だが、別に遅い訳ではない。

 ジョルジュが早過ぎたのだ。一緒に寝ていたユニアスが悲鳴に気付き目を開いた時、ジョルジュは既に部屋を出るところだったのだから。


「ああ、ユニアス様......」


 そう呟いたフェルムは部屋を指差し、その青い顔を部屋の中へ向ける。

 ジョルジュとユニアスはそれにつられ、ゆっくりと部屋の中を覗き込むと


「「──ッッ!!」」


 同時に息を飲んだ。

 本来エミリアとマリアが寝ているべき部屋には誰もおらず、掛け布団も下に落ちてしまっている。

 極め付けはその窓だ。

 開け放たれ風にそよぐカーテンの隙間からこぼれる朝日。更に落ちている布団は窓とベッドの間に、まるで放られたかの様に落ちているのだ。


 ──誘拐。


 その単語には簡単にたどり着いた。部屋の現状を見る限り簡単に分かる事である。


「あぁ、ジョルジュ......」


 ユニアスは崩れるようにジョルジュにもたれかかる。一瞬にして青くなった顔色、目には涙をためている。

 それをジョルジュはギュッと抱き寄せて優しく頭を撫でる。


「大丈夫、俺が必ず見つけるから......」


 まるで映画さながらのシーンである。だが感動的なシーンとは裏腹にジョルジュの目はこの間もしっかりと部屋の中を見つめ続け何か手掛かりになる物は無いかと真剣に、必死に探し、(せわ)しなく動いていた。


「──ユリウス......」


 ジョルジュの胸の中でユニアスが力なく呟く。だがジョルジュの現在の強化された聴覚には十分過ぎる声量だった。


「──ユリウスッッ!!」


 ジョルジュは間髪いれずに息子の名前を叫ぶ。

 もしかしたらユリウスも......。

 そんな不安が二人の体を強張らせた。


「は、はーい!」


 数瞬遅れてユリウスの子供らしくハッキリとした明るい声が聞こえて来る。

 それだけでユニアスの身体からは力が抜けかけるがジョルジュは違う。ここで息子の無事を喜んでいる暇は無い。

 それよりも攫われたと思われる娘たちの方だ。


「ユリウス、直ぐに出て来い!」


 だがジョルジュも自分の焦りを感じている。少しでも息子の顔を見て心を落ち着けて少しでも冷静な思考を、と考えたのだ。

 きっと少しは、そう思い。


「直ぐに行きます! ほら、エミリア。引っ張らないで、父さんが呼んでるからさ。もう、マリアも。一旦離れてよー!!」


「「やぁーー」」


「「「..................えっ?」」」


 三人──ジョルジュ、ユニアス、フェルムの声は見事にハモった。

 その間の抜けた様な声が。

 容易に場面が想像できそうな──いや、出来てしまう幸せな光景があの扉の先に広がっているのか?

 三人の声にはそんな疑問も含まれていた。


 ガタンッッ


 そんな音を立てながらユリウスが部屋を転げ出た。

 それに続き楽しそうな声を出しながら二つの青い物体──エミリアとマリアが部屋から飛び出て獲物(ユリウス)にぶつかる。


「えいっ!」「おにぃー!」


 そんな愛らしい声を出しながらユリウスを取り押さえた。

 その下では「うぅ......」と苦しそうな声を出すユリウス。


「おい......?」


 ふとジョルジュの口から出た疑問を含んだ様な声に反応し顔を上げる三つの顔。

 二つの潤んだ瞳と四つのキラキラした瞳。計六つの瞳がジョルジュの事を不思議そうに見上げていた。






 うーん、どうしてこんな事になってるんだろうか......?

 俺の上にはエミリアとマリアのプリティーシスターズ──略してプリスタが乗っかっている。ようは拘束状態ってやつだ。

 そして目の前には驚いたのか目を見張る父さん、今にも泣き出しそうな母さんとフェルムちゃん。いや、母さん涙流れちゃったよ。

 本当にどうしたんだ?


「お前ら!!」


 えっ?

 ちょっと、まずいって。

 止まって、ストーップ!!


「グフッッ」


 ってエミリアとマリア、俺の事を見捨てやがった。

 父さんが嬉しそうな声を出して、いかにも抱きつきますよ雰囲気で突っ込んで来たら俺を残してよけやがったよ。

 まあ、きっと二人の事だ。驚いて飛び退いただけだろう。

 それにしても苦しい......。


「ああっ、エミリア! マリア!」


 良く分からないがシスターズは母さんに抱き締められている。

 いやー、絵になるなあ。

 ぜひとも一枚の絵に残したいくらいだよ。

 まるで離れ離れの家族の再開の様なワンシーン。役者もハイレベルで素晴らしい。


「本当に良かったです!!」


 ん?

 フェルムちゃんが声を上げる。

 何が良かったんだ。

 よく分から無いが取り敢えず。

 俺は流れに任せる事にした。





 うん、どうやらエミリアとマリアが誘拐かなんかをされたと思って慌ててたら俺の部屋から出てきたってのが最後の場面らしい。

 そして、エミリアとマリアが俺の部屋に侵入したのは夜中に目が覚めてしまったから二人で星を見ようと思ったようだ。そして途中で布団を落としながら窓へたどり着き外を見ると一面の星空。

 そしてふと、後ろを振り返ると真っ暗な部屋。

 そして怖い。

 そうだお兄ちゃんに助けてもらおう。

 いや、お兄ちゃんと寝れば......。

 やったーお兄ちゃんと寝れるぞー。

 って、感じらしい。

 マジ可愛いな、おい。


「ユリウス」


 俺がそんなプリスタを見ていると父さんが声をかけて来た。

 どうやら母さんが落ち着いたらしい。

 本当に泣いてたからな......母さん。

 プリスタには後で説教や。


「はい、どうしたんですか?」


「今日は二人で出掛けようか!」


 そのイケメンな顔から白い歯をニッと出しながら言った。

 相変わらず、

 ──眩しいぜ、父さん......。







 おおっ、スゲえ......。

 いつもより高い視点。二メートルくらいか?

 まあ、そんな事はどうでもいい。俺はとにかくこの景色に感動していた。

 始めての視点から見る、見慣れた筈のツェルグブルグの街並み。いや、見慣れては無いか。

 街に出るとしたら母さんやメイドさんと買い物に行くぐらいだったしな。その場合は外に向かって──二等区画にある我が家から三等区画の方向に行く。

 そして、今は二等区画の中を一等区画を目指して歩いていた。

 正確に言うと俺は歩いていないのだが。

 現在、俺は父さんの上、ようは肩車されて歩いている。

 だが本当に凄い。

 上に乗っている俺の体は全くと言うほど揺れないのだ。

 言ってしまえば簡単であるがこれは尋常じゃない。

 普段の立ち振る舞いから──いつもはただの親バカだが──普通ではないと思ってはいたけれど改めて驚愕である。

 俺の体重は二十キロぐらいだ。それを肩の上に乗せて歩いているのだ、ただでさえ重労働。そしてもう数十分は歩いている。

 それだけならある程度鍛えた人なら出来るだろう。

 だが、父さんの軸──体幹は全くと言っていいほどブレない。まるで巨木の枝の上に座っているかの様な安心感だ。

 信じられない。


「どうだ、ユリウス?」


「最高だよ、父さん」


「ん、そうか♪ 怖くは無いか?」


「はい、全く。父さんの上はとても安心しますよ」


「そうか、そうか!」


「ところで父さん、僕たちはどこへ向ってるんですか?」


「ん、それは秘密だ秘密。着いてからのお楽しみってヤツだ。もう少しだから待ってろー」


「もしかして一等区画ですか?」


「..................」


「父さん......?」


「......よっ、よーしさっさと行くぞー」


 父さんはまるで誤魔化すように言った。

 一等区画か何があるんだ?

 よく分からないが......楽しみだ。








「あっ、どうもですジョルジュさん」


「おうっ、お疲れ」


 巡回していた警備隊の一人がジョルジュに声をかけた。


「............そちらは息子さんですか?」


 警備隊員の目がジョルジュの頭部に注がれる。

 そこにはもちろん肩車をされたユリウス。


「父さん父さん、降ろして下さいよ。この位置から挨拶するのは失礼じゃ......」


 自慢の息子、ユリウスはわざわざ気を使ってそんな事を言う。

 そんな出来た息子に苦笑いを浮かべながらジョルジュはユリウスを降ろそうとしたが、


「そのままでいいですよ。えっと、ユリウス君、こんにちは」


 警備隊員の声に遮られる。


「えっ、あ、はい。こんにちは、お仕事お疲れ様です」


 そんな警備隊員の態度に戸惑いを感じながらも挨拶をするユリウス。

 と、同時に何で名前を?と疑問が沸く。


「ははっ、本当にジョルジュさんが言っていた通りなんですね」


「だろだろ? 自慢の息子だからな」


 ジョルジュは頭上に手を伸ばし、乱暴にユリウスの頭を撫でながら嬉しそうに言った。

 その顔は緩み笑っている。

 警備隊員の男はそんなジョルジュの様子に笑みをこぼす。

 そして改めて「やっぱり親バカだな......」と思った。


「それじゃあ、仕事頑張れよ」


「はい。まあ、この街は平和ですから特に仕事なんてないんですけどね」


 警備隊員は苦笑いしながら答える。

 事実、二等区画とも成れば犯罪の数は無いと言っても過言ではない。

 だが、別に仕事が無い訳ではない。例えば式典や祭りなどの時には二等区画の兵が駆り出される。

 他にも討伐隊を編成したり、防衛戦などがある時などは二等区画から順に行く事になるのだ。ゆえに二等区画の兵は仕事が少ない訳では無く、その時間をトレーニングなどの自己鍛錬に費やしているのである。


「まあ、平和なのはいい事だ」


「そうですね。ジョルジュさんもお子さんたちと一緒にいたいでしょうしね」


「そうだな。そろそろ仕事に戻らないとドヤされるだろ......?」


「いえいえ、そんな事は。うちの隊長様は寛大なので」


「そりゃそうだ。それじゃあ俺は行くわ」


「はい、息子さんと楽しい時間を過ごして下さい」


「おう、ありがとな」


「さようなら。お仕事頑張って下さい」


「はい、さようなら」


 そう言って警備隊員の男と別れた。

 そして、ジョルジュは再び歩みを進め始める。


「父さーん」


「ん? どうしたんだ」


「まだ、着かないんですか?」


「ん? 疲れたか」


「いえいえ、疲れたのは父さんの方じゃ無いんですか?」


「大丈夫、父さんは鍛えてるからな」


「庭での事ですか?」


「いや、一等区画はに色んな訓練施設があるんだよ。そこでな──」


 そこまで言った瞬間、ジョルジュはユリウスの雰囲気が変わるのを感じた。

 なんと言えば良いのか、突然子供の様な。いや、ユリウスは子供なのだが......。

 やはり子供っぽい(・・・・・)が良いのだろう。

 それは無邪気な、新しいオモチャを与えられた子供の様な。ユリウスから稀に感じるこの感じ。そしてジョルジュはその瞬間のユリウスを見る事が大好きなのだ。

 いつもの賢いユリウスも良いのだが、子供らしいこの姿も好きなのである。


「父さん、父さん。早く行きましょう」


 そう言ってユリウスはジョルジュの頭を叩く。


「まあまあ、落ち着けユリウス。ほら、あそこを見てみろ」


 そうやってジョルジュは少し先に見える塔の様な物を指差した。


「あれは?」


「あれはな、訓練施設の休憩所、みたいなもんだよ。つまり」


「つまり?」


「あそこが目的地って訳だ」


「──父さん、走りましょう。まだお昼だから......その、たくさんいれるように!!」


「ははっ、そうだな。走るか」


 そう言ってジョルジュは走り出した。

 ユリウスをその肩に乗せたまま。それが意味する事はジョルジュの凄さ。

 だが今のユリウスの目には、徐々に近づいてくる塔に釘付けでその事実に驚くのは少し落ち着いた後になる。




誤字指摘などありましたらお願いします。

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