第六話【世界一幸福な男】
個人的には好きな回です。
俺が産まれてから四年が経った。
長い様で短かった四年間。
この四年間で色んな事が分かった。
まずはグラッドレイ家の家族構成。
俺、母さん、父さん、メイドさんズ、シスターズの七人家族である。
流石に四年も暮らしてると美少女とイケメンを自分の両親だと認める事に、特に違和感は無くなった。
産まれた当初は前世との対比で少しね。
そして俺──ユリウス・グラッドレイの見た目についてだ。
俺の髪の色は父さんの銀髪をベースに母さんの綺麗な金髪が薄っすらと混じっている、顔はまだ四歳だから何とも言いようがないが親父とお袋の顔を見る限り期待はできそうだ。
ちなみに瞳の色は碧色をしてる。
綺麗な碧だ。
そして妹達だが......可愛すぎる。
贔屓目をなくしても綺麗な蒼髪で整った顔、キラキラして純粋そうな瞳、どれを見てもナンバーワンである。
妹達の体から感じる膨大な魔力もあいまって神々しさすら感じられるしまつ。
メイドさんは人族で赤髪に茶眼のほうがフェルムちゃん、もう一人の猫の獣人族で橙髪に黄眼をしている方がリニアちゃんである。
そして今、俺は広い庭のベンチに座り、木陰で読書をしていた。
読書は三歳の時からコツコツ読んで来て我が家では「ユリウスは読書好き」で通っている。
本のタイトルは「聖域都市ツェルグブルグ」、挿絵付きで分かり易く街の事を表記してある。俺の住んでいる都市だ。
ツェルグブルグは元々、城を中心に成り立っていった都市らしい。
初めは都市と言うには余りにもぞんざいなものだったそうだ。
だがそこに勇者が誕生したらしい。
勇者ってなんだ?と思い母さんに質問した所「魔王を使って侵略してこようとした邪神を打ち倒したの。確か......そのもの漆黒の髪を持ち、神の与えし七つの神器を手に立ち上がらん......だったかしら?」らしい。
転生者か転移者だろ......と思ったのは内緒である。
そして勇者が役目を終えた後、ツェルグブルグ城に七つの神器を収めたらしい、すると元々整備が行き届いてなかった城の敷地──小さな湖や林なんか──が聖なる力を得て聖域になったとか。
ちなみに聖域ってのは聖なる魔力が溢れる場所らしく普通の人間には魔力濃度が濃過ぎて毒なのだそうだ。
よってツェルグブルグ城のは聖域の形に沿って塀に囲まれている。
そしてこの都市、ツェルグブルグは勇者誕生の街として今でも栄えている。聖域を中心にして円形に一等区画、二等区画、三等区画、四等区画、五等区画まであるらしい。
聖域は先の通り。
一等区画は遊技場や訓練場、式典に使われる広場なんかがあるらしい。ようは公共の施設なんかだ。
二等区画は主に大きな──金持ちや貴族と呼ばれる連中の──家、屋敷が立っている。ちなみにグラッドレイ家も二等区画に建っている。
三等区画は主に店が出ている。肉や野菜、生活必需品ってやつだ。他にも三等区画には学校やら道場やらがあるらしい。
そして四等区画には普通の街が広がっている。民家、商店、露店、宿屋なんかだ。
そして五等区画。
ここは冒険者やら旅人なんかの街。ツェルグブルグの玄関口ってやつだ。
冒険者なんて心踊るね。ぜひやってみたいもんだ。
本当に読書はいい。
どんどん知識が増えていく。
「「あはっ、おにぃーー」」
ん、シスターズか?
二階の窓から仲良く顔を出して手を降っている。
相変わらずあの二人は可愛いなぁ。
取り敢えず手を振り替えしておく。
おそらくあの二人はフェルムちゃんと勉強でもしてるのだろう。
変に邪魔しちゃ悪いしな。
「ほら、エミリア様、マリア様。続きをやりますよ」
「「あーい」」
そうやってシスターズは手を振るのを止めて顔を引っ込めた。
その時、名残惜しそうな顔をしてたのにキュンとする俺。
そうして俺はもう一度、本に視線を落とした。
******
「ふーぅ。終わった、終わったー♪」
「ん?どうしたですか隊長、機嫌良さそうですね」
そう言って伸びをしたジョルジュに後輩が声を掛けた。
「ん、聞きたいか? 聞きたいよな〜? しょうがない、それがなぁ──」
「って、やめときなよ。今、隊長の話聞くと長くなるよ」
そう言って気持ちよく話を始めようとしたジョルジュの声を女性の同僚の声が遮った。
「む、別にいいだろ聞きたいって言ってるんだから......」
ジョルジュは眉を寄せて怪訝そうな声を出す。
しかしそれとは対象にその頬は緩み、今にも話したそうにそわそわしているのが微笑ましい。
そんなジョルジュの様子に頬が緩むのを感じながら他の同僚が口を開く。
「だってジョルジュさんがするのは決まって、息子さんの自慢じゃないですか〜」
と、疲れた風に言った。
事実、この数週間。ジョルジュは休憩の時間などはいつも息子──ユリウスの自慢ばかりしていた。
「俺の息子は四歳で本が読める」
「俺の息子は家の家事手伝いをする」
「俺の息子は妹の面倒まで見る」
「俺の息子は剣術に興味を持っている」
「俺の息子は一緒にトレーニングをしている」
「俺の息子は計算が出来る」
「俺の息子は読み書きが出来る」
「俺の息子は........................」
「俺の息子は..................」
「俺の息子は............」
「俺の息子は......」
と、挙げていったらキリが無い。
だが、ジョルジュの人柄や人望も合間って、決して邪険にされる事はなかった。
みんな「親バカだねぇ〜」と暖かい目で見守ってるのである。
それもしょうがない。
ジョルジュの話は余りにも四歳児からかけ離れていて信じられないものばかりなのだ。
そして、ジョルジュの人柄を知っている故に皆、突っ込まないのである。
誰にでもあるものだと。
親だからしょうがないと。
「──それでだな。これから帰ったらユリウスと......ユリウスってのは俺の息子の事な。そして──」
何度聞いたか分からないこの台詞。
その時、一人の若い──成人したばかりの新米が口を開いた。
「そんなに自慢するなら連れて来て下さいよ?」
みんな分かっている。
こいつは嫌味など一切含まず。
ただ、興味本位で言った事だと。
別に他意は無いと。
そして言った直後、周りの空気で気付き直ぐ「しまった」と顔をする新米。
当然、親バカの父親は話を盛るものだ。
故にユリウスを連れて来させたらジョルジュに恥をかかせてしまうと。
だがジョルジュはそんな同僚の心配を他所に、笑顔で言い放つ。
「おっ!本当か!? ウチの息子を見たいか〜。それはしょうがない。今度、仕事が休みの日にでも訓練場に連れて行ってやるか? おそらくユリウスも喜んでくれるだろう。うん、みんなも見たいんだろ!? な?」
ジョルジュは機嫌を良くする一方。
なぜなら、新米の言葉は「隊長の自慢の息子を是非とも見たいです!!」と、勝手に脳内変換されているのだから。
そんなジョルジュの様子にただ、ただ苦笑いを浮かべるしかない同僚達であった。
(((マジでどうすんだよ......)))
そしてジョルジュ=グラッドレイ班の心が一つになった瞬間でもあった。
ジョルジュは機嫌良く、足取りは軽く家路に付いた。
なんと今日、親愛なる部下たちがユリウスを見てみたいと言ったのだ。
これの嬉しさと言ったら......。
考えるだけで頬が緩みそうだ。
「あっ、こんにちはジョルジュさん。今日はいつにも無く機嫌がいいですね。何かいい事でも?」
家の前を掃除していた女性に声を掛けられる。
と、同時に頬が緩んでいる事に気付き締め直す。
そして、自分は軽い鼻歌まで歌っていたのだ......。
「ふふふ、楽しそうで何よりです。それじゃあ」
「はい、それでは......」
頬が熱を持つのを感じながら足を動かす速度を早めた。
愛しの我が家へと。
ジョルジュは家の前、塀に丁度隠れる位置で足を止めた。
そのままゆっくりと指を掛け、中を覗き込む......。
と、やはりいつもの場所で息子が本を読んでいた。
エミリアとマリアは家の中にいる様で好都合。庭にはユリウスしかいない。
ジョルジュはその整った顔を薄く歪める。悪巧みの顔だ。
魔力を体に──足を中心に行き渡らせてゆく。
身体強化、活性化、魔纏、闘気、気。なんて呼ばれているものの初歩的な物だ。
それは身体能力を向上させ、到底できない様な動きを実現する。
ある一定の心得がある者、全てが使える術だ。
そして膝をほんの数センチ曲げ一跳び。
──サクッ
ジョルジュはその体を簡単に持ち上げ──二メートル近くある塀を越てしまう。
そして、小さな音を立てつつ庭の芝生にに降り立った。
その所作には無駄は無く、立てた音も軽い何かが芝生の上に落ちたかのような軽やかな物。実際は音を立てずに降りる事も可能なのだが今回はあえて音を立てたのだ......。
そうやって息と足音を殺し、綺麗な芝生の上を一歩一歩と歩いて行く。
家族みんなで手入れしている自慢の庭だ。
(あと一歩)
「父さん。何やってるんですか?」
ジョルジュがそう考えるのと同時に獲物が声を発する。
その声はとても子供らしく本当に不思議に思っているらしい。
「あー、えっと。これは......そのだなぁ............」
「──ふふふっ、懐かしいわね」
ジョルジュがどう答えるか考えていると家の、窓の方からそんな声が聞こえて来た。
そこからはジョルジュの妻──ユニアスが顔を出し笑っていた。
「懐かしい?」
すると母の声を聞きつけたのか、ユリウスが疑問を乗せた声を出す。
そうやって不思議そうにジョルジュとユニアスを交互に見るのだ。
そして、ジョルジュはユニアスに懐かしいと言われてやっと説明する言葉を得る。
「ユリウスはどこら辺で父さんの存在に気付いた?」
「えーっと......芝生を踏む音?」
「ああ、正解だ。これはだな警戒心を試す為の訓練──様は遊びなんだ」
そこまで発した所でユリウスは居住まいを正しこちらをジッと見てくる。
これはユリウスの癖?の様な物だ。
気になる話や説明を受ける時は必ずこちらをしっかりと見つめて来る。
するとこちらもキチンと話さなくてはと、言う気持ちにさせられるのだ。
相変わらず出来た息子だと舌を巻くジョルジュ。
「初めの内はわざと音を立てたりするんだ。さっきの父さんみたいにな。それを日を増す毎に小さくしていくだろ、そしたらどうなる?」
「......警戒心が、身につく......?」
「そうだ。さすが俺の息子だ」
そう言ってジョルジュは自分の息子の賢さに笑みを溢した。
実を言うと、ユリウスは心の中で「ハイレベルだるまさんが転んだか!!」とか思っているのだが理解しているには違いない。
「さすがユリィちゃんは賢いわね〜」
どうやら今の間に玄関から出て来たらしいユニアスがそう言いながらユリウスを抱き寄せた。
ユリウスは照れているのかほんのり頬を染めながら笑った。
するとユニアスは「キャー、可愛いぃっ」と言いながら更にユリウスをきつく抱く。
「あっ、お父さん」
「ほんとだー」
「(ぺこり)」
どうやら今のユニアスの声に反応したらしいエミリアとマリアが顔を二階から出した。
それに続きフェルムも顔を出したが、二階からの声掛けは失礼と思ったのか声は出さずに頭を軽く下げる。
これがリニアなら普通に声を掛けたのだが、メイド二人の間での決定的な差だ。
おそらくリニアは家事がひと段落した辺りに「あれ、帰って来ていらっしゃったんですか?」とか言いながら出て来るのだろう。
彼女は耳は良いのだが物事に集中すると周りが見えなくなる事がある。様は少し抜けているのだ。
「おう、ただいま」
ジョルジュは娘たちの顔を見て顔を緩めた。
それはまさに親バカ──いや、それを通り越してデレデレなのである。
「父さん、父さん」
笑いながら手を振って来る二人の天使を見ていると直ぐそばから声がかかる。
声の主──ユリウスの手には四歳の誕生日にプレゼントした小さな木剣が握ってあり、先ほどまで持っていた本は既にユニアスが預かっていた。
ユリウスは既に動き易い様に軽装だ。
これはジョルジュの仕事が昼間でに終わった場合の日課の様な物。
トレーニングだ。
ユリウスの希望で基礎を中心に体を作っていっている。
「おお、すまんなユリウス。それじゃあ始めるか?よしっ、先ずは体をほぐさないとな」
──こうやってとある昼下がり。
自称世界で一番幸福な男──ジョルジュ=グラッドレイの一日が過ぎてゆく。
どうでしたか【世界一幸福な男】は?
同時に子供が三人──ユリウス、エミリア、マリア──もでき、愛する妻と暖かい同僚に囲まれた生活です。
自分も書きながら裏山とか思っていました......。
次回から物語が進展する予定ですので期待して待っていて下さい。(少しハードル上げたか......?)
誤字指摘などありましたらお願いします。
子供、可愛いですよね......?