第四話【魔法】
久しぶりの投稿です。
ほんのりと差し込む日差しの眩しさで俺は目を覚ました。
おそらく産まれてから十日ほど経過している。
この体は本当に赤ちゃんで直ぐにお腹が減るしトイレも............余り思い出したく無いな。
そして困った事に直ぐに眠たくなるのだ。
俺は睡魔が襲って来たら逆らわないと決めている。
それが一番体には良いはずだからな。
まあ、そのせいで時間の感覚が狂うんだけどね。
(うーん......)
今日は何故か部屋に人がいないな。
いつもはメイドさんのどちらかがいてくれるんだが......。
まあ、これは返って好都合だ。
今日こそは実行するのだ。
(我、光の精に魔力を捧げ、長きを照らす光の球を望む......光)
これは数日前、美少女が使った詠唱?の様な物だ。
俺はこれをここ数日忘れた時が無い。
毎日、毎日ひたすら心の中で唱えて忘れない様にして来たのだからな。
おそらくこれを唱えると魔法が発動するのだろう。
だがもちろん、
「あぇ、いかぃのせえにぃまよくおさあけ、なあきおへらすぃかいのまみゃをのぞん......あいとおーる」
──発音出来るはずも無い。
しかもこれが精一杯だ。
息が上がって来た。
だが俺も無駄に過ごしていた訳じゃない。
そして遂にこの条件が揃った。
誰もいない、昼間、おしめがキレイ。
別に最後のは無くても良いんだが気分の問題。
さあて、始めようか。
ゆっくりと深呼吸をして、
「(我、光の精に魔力を捧げ、長きを照らす光の球を望む............光!!)」
そして俺の手の平から淡い輝きの光球がゆっくりと飛び出した。
──成功だ。
ここ数日間で少しずつ一節一節心の中で詠唱をしていく中で詠唱により起こる微弱な魔力の流れや方向性に気付いた俺はさらにその練度を高めていった。
この事より、おそらく無詠唱で魔法を使うと効果が落ちるのだろう。
だがら俺は少しずつ詠唱を分ける事によりその練度を上げる事にしたのだ。
(まだまだだな......)
そう思うと同時に光球は消えてしまった。
やはり練度が足りないようで安定していない。
もう少し、もう少しで掴めそうなんだが......。
せめてもう一度魔法を使っている所が見れたら、なんて。
これは俺の問題だしな。
キィィイッ
静かに開けようと意識した結果音が出てしまった、という感じの音を立てながら部屋のドアが開く。
この開け方はメイドさんかな?
美少女だったら「ガチャンッッ」って感じに開くからな。
「ユリウスさま〜、起きてますか?」
余り大きな声を出さない様に注意しながらメイドさん──リニアちゃんが俺の事を呼んだ。
俺の事を起こさない様に、もし起きてたら驚かさない様にって気を使ってる様、健気だ。
そんな事を考えつつも彼女へ返事をする。
「あ、あーいぃ」
「あは、起きていらしたんですねー。ふふふ ♪ 」
おお、今日はいつにも増してご機嫌だな。
この子は俺の所に来る時はいつもご機嫌だからな。
曰く、「大奥様がいつも笑顔でいなさいって言ってたんですよ。笑顔でいると何事も乗り越えられるって。......あっ、いや、でも別にユリウス様の所に来るのが嫌な訳じゃ無いんですよ、本当ですって!!......あれ? 私なに言ってるんだろ。どうせ分からないですよね?............ハハ......」という事だ。
赤ちゃんである俺に素で話しかけ、弁解する。
さらには最後に俺が理解して無いと言う事を自問して少し落ち込む所も彼女の魅力だ。
「──それでですねー。今日は旦那様がお庭で剣術の稽古をしていらっしゃっ..................やっぱり剣という単語に反応してる......?まあ、そんな訳ないか......」
む、そうなのか?
無意識の内にって奴か......。
確かに最近体を動かしたくてしょうがない。
特に剣を使いたいんだよな。
せっかくの剣と魔法の世界なんだし。
それに元から剣が好きだからな。
ああ、早く大きくなりたい。
ガチャンッッ
この音は、
「ユリィーちゃーん!!」
「あー、奥様。扉はゆっくりと開けてくださいって何度も言っているじゃないですか」
「ぶー、だって早くユリウスに会いたいんだもん」
本当に何なんだろこの人は。
子持ちでこの可愛さって......犯罪だろ。
「ユリウスもママに早く会いたいよねー?」
「あぃいー」
取り敢えず返事を──
「きゃー可愛いっ!」
「ちょっと落ち着いて下さいユニアス様......」
テンションの高いお袋に抱きつかれる......む、胸が。
隣でリニアちゃんがオロオロとしているのがまた面白い、そう思い俺が笑うと。
「きゃーー」「うっ......」
お袋は大喜びリニアちゃんは頬を赤く染めている......可愛い。
「あらあら、リニアちゃんったら照れちゃって。ユリウスを抱っこしてみる?」
「いえ、私なんかがユリウス様を抱っこするなど......」
とか言いながらリニアちゃんは俺の方をチラチラとみてくる。
「何言ってるの、いいに決まってるじゃない。はい」
「う、うぅ......」
そう言いながらもリニアちゃんはゆっくりと俺を抱っこした。
どうやら緊張しているようだ。
ここは年上としての気遣いを見せますかね?
「だぁー」
声を出してリニアちゃんに手を伸ばした。
「ッッ......」
「ほら、ユリィちゃんもリニアちゃんの事を気に入ってるみたいよ」
それから暫くの間俺はお袋にほっぺたをいじられたりしながら過ごしていた。
「あっ!そう言えば奥様、ユリウス様にあの事を言わなくてもいいんですか」
お袋は不思議そうな顔をしたあと何かを思い出したようでとても笑顔になり。
「ユリィちゃん、明日ね、あなたの妹がやって来るのよ」
花が咲いたような笑顔でそう言った。
******
目を開くと辺りは真っ暗だった。
俺はどうやら眠っていた様だ。
確か......美少女の言葉に驚いて黙り込んで、気付いたら目の前に二つの霊峰が............。
うん、俺はお腹いっぱいになってねむったんだな、よし。
そう言う事にしとこう。
えーと、確か美少女は俺の妹が来るとか来ないとか言ってたな。
妹............?
あれ、妹っておかしくないか。
もしかして、この世界は一夫多妻制なのか?
だとしたらあのイケメン............。
マジで羨まし──くないし。
......きっと俺の母親があんな美少女なんだし、もう一人も............。
い、いや、断じて羨ましくなんかない!!
つーか、あのイケメン舐めやがって。
もし一夫多妻なんかだったらぶっとばす──成長してからだけどな。
流石にこの体とスペックでは無理だしな。
まあ、考えても仕方ない。
取り敢えず魔法の練習でもするかね。
──意識を集中させる。
身体の中を循環している魔力の流れを意識的に捉えそれをゆっくりと、だが確実に支配していく......。
その流れに方向性を持たせ加速させ──
魔力を一点に集め放出し、
(光!!)
..................失敗、か。
光を起こす事には成功したのだが一瞬の内に消えてしまった。
やはり詠唱は全てしっかりとしないといけないのか?
感覚で覚える事が出来たら......。
恐らくしっかりと詠唱が出来る様になれば誤差を修正していけるのだろう。
あーあ、早く大きくなりたい。
そしたらしつこいぐらいに詠唱してやるのに。
まあ、取り敢えず精度を上げるために......。
俺はそのまま目を瞑り魔力操作の練習に務めた。
******
リニアはグラッドレイ家のメイドである。
リニアは元々、孤児院に居たのだがグランドクロス家に姉──孤児院でいつも一緒にいて世話を焼いてくれた血は繋がっていない──のフェルムと一緒に引き取られた、いや、引き取ってもらった。
そして彼女はフェルムと二人、グランドクロス家で家事と簡単な礼儀作法を学んだ。
これも全て、グラッドレイ家でメイドになるために必要な事だ。
そうして半年程の期間を経てジョルジュとユニアスにリニアとフェルムの四人でこの都市にやって来たのだ。
リニアは今の仕事をとても気に入っている。
孤児院にいた頃から家事や手伝いが好きで色々な手伝いをしていた。
彼女自身、一生こうやっていれたらと思っていたくらいなのだ。
だが現実はそう甘くは無い。
リニアは勉強と言う物があまり得意ではなかった。
生活に支障をきたさないレベルの読み書きや計算が出来るだけでそれ以外は全くだ。
そしてその事に不安を感じていた。
そんな時だ。
グランドクロスの人間が孤児院を訪れたのは。
やって来たのは成人したのかどうかも分からない、リニアより少し年上の少女と優しそうな女性、そしてとても凛々しい青年だった。
少女はユニアス=グランドクロスと名乗った。
そして直後に、
「あ、でも、もうすぐグラッドレイになるんだよね......ふふふー」とほんのりと頬を染めながら言った。
と、同時に一緒に来ていた青年の事をモジモジしながらチラチラと見ていて、青年の方も恥ずかしそうに俯きながら笑った。
──いいな。
リニアはこの時、二人の関係を悟ると同時にそう思った。
明るい少女と爽やかな青年。
それはまだ色恋を知らない小さな彼女にはまるでお伽話に出てくる王子様とお姫様のように映った。
それからユニアスは度々(たびたび)リニアたちの孤児院を訪れる様になる。
そしてその度にユニアスはリニアに色々な話をしてくれた。
彼女がする話はリニアにはとても新鮮で痛快で楽しみの一つとなった。
そんなある日、
「リニアちゃん、ウチのメイドにならない?」
いつに無く真剣な目をしたユニアスがそう言ったのだ。
そう言われた時、リニアの頭には幾つかの事が浮かぶ。
いつも世話をしてくれたフェルムの事。
自分が居なくなった後の孤児院の事。
そして、これからの事だ。
その事をユニアスに話そうと思い口を開こうとすると、測ったかの様にユニアスが口を開いた。
「でも、あと一人。勉強が少しだけでも教えられる子が欲しいな」
瞬間、リニアはフェルムの顔を思い浮かべた。
フェルムはリニアや孤児院の皆に時々、読み書きや計算を教える事がある。
リニア自身、フェルムに習い使える様になったのだ。
そんなリニアの考えを置き去りにユニアスはまだ続ける。
「それに父様がこの孤児院の面倒を見る事になったみたいなの」
リニアの思惑を全て知っているかの様に、先回りして不安を払拭する。
「もし受けてくれたら、私達は家族になるのよ。ジョルジュとリニアちゃんにフェルムちゃん? それにもう一人......」
その時のユニアスの目が母親の様だったのを当時のリニアはしっかりと覚えている。
そんな慈愛の瞳でお腹を見ていたのを、
「生まれてくるこの子の為にも、リニアちゃんには是非来て欲しいの!!」
もうリニアに不安は無い。
大好きなユニアスとフェルムと暮らせる。
そしてユニアスの父についても知っている、孤児院も安泰だ。
それに仕事が見つかった。
そうして彼女はグラッドレイ家のメイドになった。
「ユリウス様ーー」
今日もリニアはユニアスとフェルムの目を盗んでユリウスの部屋に来ていた。
リニアにとってユリウスは癒しそのものである。
こちらの声に反応してか、短い手を一生懸命に伸ばし喘ぎ声を出すその姿はリニアの疲れを吹き飛ばし精気すら与えてくれる。
そうして今日も彼女は天使に話しかける。
「そうそう、今日はですねー。フェルム姉が──」
「あぃあぅうー」
「............ッッ」
((............可愛い))
自分と赤ん坊が同じ事を考えてるとも知らずに......
誤字指摘などありましたらお願いします。