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異世界転生ライフ 〜ニューゲーム→ニューライフ〜  作者: ㌔㍉コン
第三章〈グランドクロス領〉
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第三十話【サプライズ】


「ん、ぅう………………」


 ゆっくりと目を開くと、そこには見覚えのない天井があった。

 いや、どうやらこれは天蓋付きベッドというやつのようだ。

 フカフカのマットレスと二度寝の誘惑から体を解き放ちグッと一伸び。


「うっ…………」


 ズキリと後頭部が痛む。

 ゆっくりと触れてみるとそこには小さなコブができていた。


「ケイトさんめ……」


 昨日の出来事を思い出しつつオレはこのコブをつくった犯人の名前を呟いた。

 しかし殴る事はないだろ、殴る事は……

 確かにオレもやり過ぎたとは思うがあの人が提案した事だし。



 昨日、オレとサフィールが久々に魔力の同調とサフィールが個人で使えるようになった魔法の補助や強化の練習をしてたら、「的が欲しいだろ? 俺に撃ってこいよ。ついでにいいもの見せてやるから」なんて言って……

 いや、確かにケイトさんの剣に魔力を纏わせて魔法の核──単発魔法の中心となる場所──をなぎ払うように消していく姿は圧巻だった。

 ちなみに父さんは核を完璧に見切って核のみを消滅させるらしい。

 ケイトさんはゴリ押しで核の付近を荒れる魔力で無理やりって感じだそうだ。


 しかしさらに驚いたのがオレとサフィールが飛ばす三十センチ代の火球(ファイヤボール)を魔力を纏わせているとは言え木剣(・・)で消滅させるんだからな……

 それによりムキになってしまって弾幕なんて張ってしてしまったのだが……


 サフィールが火球を生成し、オレが狙いをつけて射出。

 同時装填数は十五。

 これを永遠に繰り返した訳だ。

 途中からテンション上がり過ぎて歯止めが効かなくなったもんな……

 しかしサフィールさんの成長ぶりには目を見張る所がある。

 本人曰く、この三ヶ月で基本属性の初級魔法は全て習得したらしいからな。

 頭が良く、協調性があり、強く、魔法を使える……

 なんか最近はサフィールがスライムなのかすら怪しく思えて来た。


 うん、ところで……


「──どうして喋りかけてこないんですか?」


 と、オレは目覚めた時には既に部屋にある扉のそばに立っていたメイドさんに声をかける。


「はい、何か考えていらっしゃるご様子だったので」


「ああ、お気遣いありがとうございます」


「いえ、メイドとして当然の事にございます。それとジェイド様から伝言でございます。『三ヶ月、ご苦労だった。大浴場でゆっくり風呂にでも入れ』だそうです。場所はお分かりになりますか?」


「うーん、少し曖昧ですね」


「それならばご案内いたします。どうぞ着いて来てください」


 そう言ってメイドさんは扉を開ける。

 そしてオレがベッドから降り、そちらに向かい歩き出したのを確認した後歩き出した。

 久々の広い風呂。

 楽しみだ。






 〜〜〜






「──ふ、ふぁあぁぁ〜〜〜」


 完全に気の抜け切った声が出る。


「いやー、やっぱり風呂、日本人の心だよなー」


 一人きりの浴室に声が響く。

 メイドさんは案内後、「ご入浴後は大広間へおこし下さい。昼食の用意がございます」と言うと直ぐに立ち去ってしまった。

 完全に一人だ。


 ザブン、と頭まで湯に浸かると少し長くなって来た髪がユラユラと浮く感じが伝わって来て少しこそばゆさを感じつつも思考を働かせる。


 昨日のケイトさんの動き……

 オレとサフィールの張った弾幕を掻い潜り、懐へ入り込んで来た時の、あの動き。


 ──チマチマした弾幕はケイトさんに通用しないと踏んでいたオレはあらかじめ足元に罠を仕込んでいた。

 中には粘度が強い泥沼と足を絡める仕掛けが張ってあり、万全の状態であった。

 しかし、ケイトさんには通じなかった。


 焦ったオレは一気にケイトさんへ砲撃を集中させて放った。殆どケイトさんとの距離はない。

 しかし次の瞬間、オレの意識は刈られていた。

 最後の記憶は「しまった」と言ったケイトさんの声と焦っている顔だった……




 あれでも手加減していたのだろう。

 最後のは集中砲火に驚いてうっかりって感じか……


「はぁ、俺って弱いな……」


 まだまだ魔法も十分に使えていない。

 今使える魔法も一見多彩に見えるが中身は一つの魔法を色んな使い方をしているだけである。

 それにフィジカル。

 肉体がダメだ。

 弱く、脆く、とてつも無く力がない。


「…………はぁ」


 溜息しか出てこない。

 弱い自分が嫌いだ。

 これじゃあ何もできやしない。

 知識が圧倒的に足りない。


 魔法に関してもしかり。

 この世界の戦い方に関してもだ。

 前世での戦いはシステムというアシストの上で成り立っていた。

 確かにプレイヤースキルと言う目に見えない物もあったが、確かにそこにはルールや法則が存在していたのだ。


 その上での戦闘。

 負け=死、ではない事に慣れてしまった日々。

 これじゃあダメなんだ。


 この世界での死=ゲームオーバー、本当に終わりだ。

 オレの甘い考えじゃ生きていけない。

 あの時を……


 あの地獄(デスゲーム)を思い出せ。

 常に全力で生きていたあの日々を……

 全力で剣を降り、呪文を唱える。

 脳を焼き切れんばかりにフル回転させて体に命令を出す。

 一瞬のスキが命を奪う、そんな日々を……


「──よしっ!!」


 ザブリと広い浴槽から立ち上がりピシャリと両の頬を打つ。

 ヒリヒリとした感覚とジンジンと熱い全身が思考を落ち着かせてくれる。

 今後の方針は決まった。

 後は実際に行動だ。


 浴槽から上がり脱衣所へと向かう。

 風で水気を飛ばし用意してあったタオルで湿った髪を拭く。

 そしてメイドさんが用意してくれた服を取り出した。


「………………えっ?」


 声が漏れた。

 いや、これはしょうがない。

 用意されていた服が燕尾服だったら誰でもこうなってしまう筈だ。

 だって風呂上り、用意されているのは燕尾服。

 どういうこっちゃ。


「………………うーん」


 脱衣所をいくら探してもこれ以外に見つからなかった。

 流石に腰にタオル一枚ってワイルドスタイルはどうかと思うし仕方が無い。

 この世界で着るのは四度目になる。

 ちなみに一度目は五歳の時の誕生日、二度目はツェルグブルグ聖域祭の式典に参加した時、三度目は父さんの付き添いで王族の人と会った時だ。

 あの時は父さんの顔の広さに驚いた物だ。


 サッと腕を通しこの世界では高価とされる巨大な一枚鏡に体を写し整える。

 うん、いい感じだ。

 前世で外に出る時は部屋着のままかスーツだったからな、気慣れてはいる。

 しかしまだ幼い体のせいか着られてる感がするが……

 まあいいだろう。


 メイドさんは確か大広間に来い、って言っていたな……

 確かあそこは一階の奥だった筈。

 分かりやすい繊細な作りの扉があったから覚えている。


 フカフカの絨毯の上を歩き目的地へ。

 改めて見るグランドクロス邸の内装は凝っている、という感想が持てる。

 所々で見る盾の上で剣が交差しているのが家紋の様な物なのだろうか?

 後で聞いてみよう。


「うへぇー、相変わらずな扉だなぁー」


 久々になる屋敷の内装を楽しみつつ歩き、大広間へとたどり着いた。

 不思議な静けさが支配する廊下からグッと扉を押し開け中へ……


「「「──ユリウスゥゥウウウウウッ!!」」」


 瞬間、シエル、サクラ、ユウの突進攻撃。

 うわぁ、ヘッドボアもビックリだぜ!!……


「──グヘラァッ!!」


 ユリウスへ改心の一撃。

 ユリウスは廊下へ倒れこんだ。


「会いたかったよー」


 ユウの締め付けるの攻撃。

 肋骨が折れます。

 抱きしめないで下さい。


「ユリウスー!!」


 シエルの引きちぎるの攻撃。

 かなり痛いです

 腕を引っ張らないで下さい。


「ユリウスー」


 サクラのヘッドロックの攻撃。

 痛いです。

 しかし後頭部が幸せなので続けてもよろしい。


「ははっ、見てジェイド。私の孫ってモテモテよ」


「いやな、マイヤ。あれってキツイと思うぞ……俺は」


 なんて話し声が聞こえる。


「何と言うか、予想通りっすねー」


「いや、あいつ一応怪我人だぞ……」


 おおっ、ケイトさんが心配してくれている。

 感動だ。


「ねぇねぇ、ユリウスー。あのね────」

「ユリウス。私ね────」

「あのね、ユリウス────」


 うん、この状況でこの距離で同時に話しかけられても僕にはどうする事も出来ないよ。

 と、思いつつ痛みと戦っていると声が。


「おら、お前ら離れろ。ユリウスは怪我人だぞ!」


 ケイトさん!!

 なんてステキな人なんだ。

 お、みんなケイトさんの声を聞いてハッとした感じで離れてくれた。


「ほらよ、ユリウス。その、なんだ、昨日は悪かったな……」


 そう言いながら倒れたオレに手を差し出すケイトさん。

 反対の手で鼻頭をかいている辺りは照れ隠しだろうか?


「いえ、僕も調子に乗ってしまっていたのでおあいこですよ」


 ケイトさんの手をかりて立ち上がり、改めて開いた扉の先を見ると色んな料理が用意されていた。

 意識した途端、いい匂いが鼻孔をくすぐりキュルル〜と腹がなる。

 いや、相変わらずオレのお腹の音は可愛いな……


「これは……?」


 そう、大広間でご飯を食べる事なんてないのだ。

 それなのに今日は大広間に……


 するとオレの疑問の声に反応したのか少女三人が再び寄って来た。

 そして、


「「「お誕生日おめでとう。ユリウスッ!!」」」


 可愛らしい声で言ったのだ。

 その声は何度も練習したかのごとく揃っていたと追記して置こう。




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