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第二十六話【道中】

久しぶりです

「へぇ、それでサクラが……」


「ああ、だから元々サクラは引き取る予定だったんだよ」


「世の中には危ない人たちがいますからね……」


 うん、あの狐っ子はオレが守らないとな……

 なんて決意を固める。


 ───今、馬車はコナータを後にし林道を走っていた。

 そこでケイトさんにサクラがついて来た理由を聞いたわけだ。

 なんでも狐の獣人は珍しい故に人攫いなんかに目をつけられやすいそうだ。そのための自衛能力が必要でそれを鍛えるためにも(ジェイド)さんの所に預けるんだとか……


 確かにあのふわふわで可愛い耳と尻尾。

 そして桜色のツヤツヤした髪に良い匂いがする毛。

 くりっと丸く可愛い瞳に小さな鼻と口。

 母親の血を引いてかすらっとした輪郭と体型…………ジュル


 っと、いかんいかん。

 このままではオレが犯人になってしまう。

 おまわりさん僕じゃないですよー。


 でもなー、


「どうしたユリウス?」


 くそっ、ニヤニヤしやがって。

 オレの事をバカにしてんのか?

 マジで大人気ないぞケイトさん。


「ユリウスは一人で寂しいんすよねー」


「くっ…………」


 図星かぁー?とニヤニヤするケイトさんに苛立ちを覚えつつもオレは男三人の御者台からチラっと後ろを見た。


 そこには桜色と翠色の小さな頭が並んでいる。その中心には我が愛しのサフィール。

 二人は互いにサフィールに手を当て会話していた。


 くそっ、あんな事教えなければ……

 と、後悔の念を覚える自分が少し嫌になる。


 でもさ、でもさ、

 サフィールのテレパシー能力を使って二人が会話できるのを教えた途端二人は仲良くなって…………

 オレはぼっちになるなんて。


 ああ、サクラが話す度にシエルの中でオレの株が急降下。シエルが話す度にサクラの中でオレの株が急上昇……

 何なんだろうね……全く。


 なんでサクラさんはあの朝の事を覚えてるんだろうね……

 それにオレの事を許嫁とか言ってるし。


 いやっ、シエルさん睨まないで……!!


 てな感じにコナータを出て三日。

 オレはぼっちになったのだ……






「ウインド」


 はぁ、涼しい……

 一人で風魔法を起こし涼むオレ。


「なあユリウス、前から思ってたんだが……お前の魔法って詠唱が短いよな」


「はい、別に詠唱しなくてもできますよ。ほら」


 ってな感じでケイトさんに風を送る。


「おおっ、それな。あんまり人前でしない方がいいぞ。ある程度の魔法なら良いんだけどな……」


「ん、どうしてですか?」


「お前は無詠唱で魔法を使う人を見た事があるか?」


「えーっと……」


 この八年間で出会った人達を思い浮かべて行く。


「父さん、母さん、ケイトさん、ハイトさん、フォル爺…………かな?」


「まあそんなもんだろ。それって全員そういう訓練を受けてるんだよ」


「はい」


「お前はなんか特別な訓練とか受けたか?」


「うーん……母さんに少し、ですかね。後は本なんかを読んだりして自分で、って感じです」


「だろ、無詠唱は珍しいんだよ。制限しろとは言わねえが……まあ、お前なら大丈夫だろ」


「そこら辺はマイヤさん……ユリウスのお婆さんが教えてくれるっすよ」


「僕のお婆さんですか……?」


「そうっすよ、ユニアスさんにそっくりなんすよ」


「へぇー、母さんに。おいくつなんですか?」


「あー…………俺たちは知らねえんだわ」


「そうなんすよ。あっしら、ジェイドさんとマイヤさんの年齢を知らないんすよねー」


「あんまり詮索しない方がいいぞ。怒るからな」


「怒るんですか……」


「いやー、マイヤさんは怒らないんだけどな……ジェイドさんが、な」


「あの人はマイヤさんにベタ惚れっすからねー」


「お前も気をつけろよ。マイヤさん関係でジェイドさんを怒らせたら、腕の一本くらい覚悟しといた方がいい……」


「そうっすよ……」


「冗談じゃなく腕、持ってかれるからな……」


 ケイトさんの真面目な顔……

 あ、愛妻家なのかな?


「聞いた話っすけど……。とある都市の兵士が誤ってマイヤさんを打ってしまったらしいんすよ……身重の時に…………」


「おい、それ俺も聞いた事あるぞ……確か…………」


「た、確か?」


「その都市は一晩の内に消えてしまったらしい……」


 都市を一つ……

 しかも一晩……

 確かに核撃魔法や儀式魔法なんかの、いわゆる戦略魔法と呼ばれる物を使用すればできるのかもしれないが……


「冗談、ですよね……?」


「あー、そうっすね……あっしらも聞いただけっすから」


「だな、事実かは分からん」


 うん、やっぱりそうだよね。


「……流石に腕が無くなったり都市が無くなったりはしないよね、うん」


「はぁ……お前なに言ってんだ。腕は無くなるぞ、なあ」


 否定して下さい、との願いを込めつつチラッとハイトさんを見る。

 だが、オレのそんな頑張りも虚しく


「はい、腕はなくなるっすよ」


 と、何でも無いかの様に言ったのだ。


 ……いや、オレの爺さん怖すぎだろ。










 木から木へと飛び移り移動する二つの影。

 ひとつは銀髪の少年。もうひとつはこの世界では珍しい黒髪の青年だ。

 タンッ、タンッと軽快な音と共に木を蹴り木へと……


「それにしても、あの二人はいつまでユリウスを無視するんすかねー?」


「ちょっとハイトさん……僕、気にしてるんですよ」


 そうっすかーと言って笑うハイトさん。

 そんなハイトさんを尻目にオレは並走する馬車の方を見た、


「あっ、隠れた……」


「ははっ、本当っすねー。いちいち面白いっすよー」


 オレはそんな事を言うハイトさんをジト目で睨む。

 確かに可愛いいと言えば可愛いのだが……無視されるこっちとしてはたまったもんじゃない。

 ヘラヘラするハイトさんから目を落としハァっとため息、


「そんな落ち込む事無いっすよー。まあ、元はと言えばあっしがユリウスを運んだからっす──って、危ないっす!!」


「え?…………ぐばぁっ」


 痛み。いや、激痛。

 木にぶつかった事により、主に顔面から腰にかけての体の前面に渡り痛みが走る。

 そしてそのまま…………オレの体は重力に従って自由落下を始めた。


 ああ、オレ。

 ここで生き残れたら……あの子と結婚するんだ。


 なんてバカな事を考えながら落下するオレの体。

 正直、この状態から助かれる気がしない。

 地上約三メートルからの落下。

 しかもご丁寧にダメージ判定大のペナルティ付き。

 フラグまでしっかりと立ててしまったのだ。


『「ユリウス!!」』


 ああ、オレの名を呼ぶ二つの声。

 声の持ち主は美少女×2。

 いい死に際だ、な……


「──あらよっと」


 しかし、そんな掛け声と共に浮上するオレの体。

 もちろん声の主はハイトさんだ。


「ダメっすよー、よそ見したら」


 なんて、オレを優しく論しながら抱きかかえてくれる。

 その瞳は心配の色が見て取れたが、次の瞬間には


「それにしてもあの二人。同時に名前なんて呼んでたっすね……良かったっすねー。ユリウス」


「………………」


 確かにあの少女たちの声を聞けたのは嬉しいが…………はてさて、顔面と前半身の強打(ぷらす)自由落下の臨死体験。

 釣り合うのだろうか……?


 もしこれがイケメンだったら……「キミの声が聞けるなら俺は死すらいとわないさッ」なんて言いながらイケメンボイス&フェイス(当社比)をするのだろう。


 あー、爆発しろ


 まあ、取り敢えずは無事で良かったかな。

 二人とも話すきっかけができそうだし……結果オーライ。うん、そう言う事にしておこう。


「野営の時に反省会ですか……?」


 オレの不注意が招いた事故だ。

 当然だろう。


「いや、今日は宿に泊まれるっすよ」


「え?」


「もうすぐつくんすよ、農業都市カルタと貿易都市ウルリスに」






 ******






 ───農業都市カルタ、貿易都市ウルリス。

 この二つはとても密接した関係を持っている。


 農業都市カルタはその名の通り。

 農業が盛んな都市だ。

 その規模は大きく、とにかく広大だ。

 農作物から家畜、さらには牧場で乗馬用の生物も育てているらしい。


 そして貿易都市ウルリス。

 ここは王都から最も近い都市として有名であると同時に交易の中心ともなっている。


 巨大な水路と公道を有し、海まで続く道や大陸の中心へと伸びる道、王都へと続く道、などと多くの交通の中心地となっているのだ。


 当然人も多く集まる。

 商人はもちろんの事、珍しい物が集まると旅人、隣接する森や大河なんかを標的とする冒険者、そしてここには鉱山都市コナータからの優秀な武器や防具が出品されたりする。


 それにより食料も大量に必要になってくる訳で、自然と農業都市カルタも潤ってくるのだ。


 さらにここの領主は前王である。

 優鬼(ゆうき)王ヴァルファナ・ウルリス・ガルストアド・エントルタ。

 優秀で優しく、時には鬼の様な面も持つ。王だった男だ。


 臣下は彼を恐れ(した)い、人民は彼を求めた。

 この国、エントルタの歴史上、最も好かれた王として有名である。

 彼は王座を息子に譲った後、この都市の発展に貢献した。


 税などの調整やカルタの人々が妨げられる暮らしを送らない様に、と。様々な改革を行っていった。

 名実共に認められ、国民からの指示も厚い彼だからこそできた改革だろう。


 そして人々は彼の事を敬意を込めてこう呼ぶのだ。


 勇気王ヴァルファナ、と…………








「──ふっ」


 そんな声と共に拳を突き出す。その拳はスバッと音と共に獣の眉間へと突き刺さった。

 目の前には断末魔の叫びと共に絶命する牙を生やした豚。

 ボクは豚の頭部に刺さっている手に力をいれてグッと引き抜いた。


「うへぇー」


 手に脳漿やらなんやらが付きベタッとする。

 だがこれで当面の肉は確保できたぞ。

 まあ、腐らせない様にするのが大変なんだけど……


 牙を掴みしっかりと体にくっついている事を確認。

 ボクはえいっと声と共に死んでしまったこいつを持ち上げた。

 流石に()メートルの巨体を運ぶのは骨が折れる。

 ボクの体は小さいんだ。


「──よいしょ、よいしょ……」


 声を出しながら豚を運んで行く。

 声を出すのは危険だが豚の死骸を持っているんだ。寄ってくる物は寄ってくる。

 いちいち気にするよりはこうやって運んだ方がまだましだ。


 周りの風景を見ながら、と言っても代わり映えしない森の中なんだけど気にしたら負けだ。

 ボクの体と豚の体……もしかして他から見たら豚が一人で動いてる様に見えるのかもしれない。


 他の人はどんな風に…………いや、人なんてどうでもいい。あんな腐った生き物なんて嫌いだ。

 ボクは一人。他人の目なんて関係ない。

 全て潰す。全て壊す。

 あんな生物……腐ってゲルスライムが付着した死体よりたちが悪い。


 表面だけを取り繕って、本当に上っ面だけ。

 こちらが油断したらなにをしてくるか分かったもんじゃない。


 父さんみたいに虐められて殺されるかもしれない。

 母さんみたいにオモチャにされて殺されるかもしれない。

 それならいっそ、いっそ……


 ──ピキッ


 ん、何の音だ?

 小枝の折れる音……いや、違う。

 なんて思考してる間にもパキッ、ピキッと耳ともで…………って。


 ああ、そう言う事か。

 納得、納得。

 どうやら無意識に手に力を込めて牙にヒビが入ってしまったみたいだ。

 うーん、これじゃあ少し運びにくくなるなぁ。


 気をつけないと。

 怒りと焦りは危険だ。

 落ち着いてやれば誰にも負けない。

 だってボクは強いんだ。


 父さんと母さんにもらったこの体。

 ボクの宝物だ。

 父さんは良く「強く生きろ」って言ってくれた。

 母さんは良く「自分の大切な物を見つけなさい」って言ってくれた。


 ボクの大切なこの体。

 ボクの強いこの体。


 父さんと母さんの言いつけを守れるぞ。


 ───ん?


 これは……


「へっ、へっ、へー」


 ガサガサと草を掻き分けボクの正面に現れた一人の男。

 人族だ。

 気配なんて隠す気もないって言わんばかりの登場の仕方だ。

 ボクは担いだ豚を下ろして男の方を見た。


「ごめんねー。俺、道に迷っちゃってさ。ちょっと道案内してくれないかな?」


 出た、上っ面だけの言葉。

 お前の真意なんてお見通しなんだよ。


「だからさ、おじさんに少しだけついて来てよ。ね?」


 次にお前、いやお前らがしてくる事は分かっている。

 こんな見え透いた罠……

 心意を隠し来れていない。

 まあ、ボクの前じゃ無意味なんだけど……


 ああ、やめてくれよ。

 そんなアイコンタクトなんて茂みの仲間に送らないでおくれよ。

 そんな事されるとさ、ボク……


 ──とっても殺したくなっちゃうからさ…………






「グハァッ」


「やめろ、もうやめてくれ!!」


 悲鳴を上げるかの様に叫ぶ男。

 お前らはボクがやめてって言ったら聞いてくれたのかな?

 くれないよね。

 だからボクはもう一度拳を振り上げる。


「ひぇええええええ。化け物っ!!」


 そんな言葉を最後にぐしゃっと潰れる男の頭。

 ああ、化け物か……

 それもいいかもしれない。

 お前ら人とは合い入れぬ存在。


 でも残念。

 ボクは化け物じゃない。

 ボクは、


「──鬼なんだ」


「お、お願いだ。助けてくれぇ!!」


 ふん、礼儀がなっていない。

 助けて下さい、だろうが。

 残りは二人。

 リーダーっぽい男二人だ。


 でも片方は仲間が四人も殺されて瞳が死んでしまっているな。

 面白くない。


「な、何でもする。だから……!!」


「うーん、何でもしてくれるの?」


「ああ、するとももちろん」


 必死に命乞いする男。

 惨めな物だ。


「じゃあいいよ」


「“ふっ、バカが。これだからガキは扱いやすい。こんな化け物でも油断したところで後ろから一突きだ”」


 ああ、面白い。

 命乞いしながらボクを殺す算段を考えるなんて、


「“仲間もまだいるんだ。こんな小僧一人、どうって事はない”」


 ああ、ああ、本当に面白い。

 筒抜けだってのも知らないで必死に考えちゃって……


 でも小僧ってのは関心しないなぁ。

 レディに失礼じゃ無いか。

 まあ、いい。


「じゃあ、おじさん」


「な、何だい。おじさんはなにをすればいいんだい?」


「簡単だよ………………死んで?」


「え…………って、やぁめっ!!」


 ぐしゃっと潰れる頭。

 これで害虫掃除は終わりだ。

 またこれで世界が少し、綺麗になった。


 っああ、そういえば一体残ってるんだった。

 目の焦点は定まらず助けて助けてと呟いている男。

 そっちに目を向ける、と


「“嫌だよぉ、死にたくない。妻と息子がいるんだ。何なんだよ。聞いてないぞ。こんな、こんな、化け物がいるって……。白い髪に紅い目の悪魔。実在するなんてよぉ、聞いてねぇぞ。ああ、妻と息子に会いたい。くそぉっ、くそぉっ。あいつら、俺が死んだら食っていけるのか……?なんで、どうして……”」


 心の声が聞こえてくる。

 なんで、どうして。

 ボクの振り上げた拳は動かない。


 もしかして同情してるのか?

 卑怯だぞ、人族!!

 お前らはボクの両親を殺したくせに……


「──殺したくせにっ!!」


 くっ、

 ドンッと音と共にボクが拳を振り下ろした地面が爆ぜた。

 ボクは人族の男から目を逸らし立ち上がる。

 ゆっくりと豚に近づき持ち上げ家路についた……






 ボクは白鬼。

 化け物になれない化け物。

 ボクは一人、森の中。

 心がある生き物なんてみんな消えてしまえばいいんだ。


 紅い目で全てを見破り、殺し、殺し、殺す。


「──っつ」


 頬を木の枝が(かす)り血が滲む。

 こんなはずじゃなかったんだ。

 ボクはあいつらを殺すはずだったんだ。

 なんで、なんであいつら…………


 あんなに沢山いるんだよ!!


 ボクが悪いのか?

 死にかけの男は仲間がいると言った。

 だからボクはその仲間を殺そうと思った。

  別に理由なんてない、ただの八つ当たりだ。


 家族の事を考えていた男を殺せなかったボクに対する怒り。

 そのはけどころに男の仲間を使おうと、そうやって弱く惨めなボクに…………


 ああ、これも天罰ってやつなのか?

 背後にはボクを追う十数人の男たち。ボクが殺した五人が下っ端と分かるほどの実力者たち。

 勝てっこない。


「──っっ」


 茂みを掻き分けでた先は、良く知っている崖だった。

 切り立っていて下には川が流れている。


 飛び降りるのは無理そうだ。

 よって行き止まり、袋小路。


 これで死ぬのかな……?

 ああ、つまらない人生だった。

 いや、でもこれで父さんと母さんの所に行ける。


「“──行き止まりか?”」


 これで死ぬのだ。


「“うへぇ、どうする気だよ……”」


 くそっ、こんな時まで。

 人族ってのは本当に……

 本当にどうしようもないな……


「“おい、どうする助けるか?”」


 ボクの事をバカにしているのか。

 こんな事を考えてるのはどいつだ!?

 そんな思いを込めてキッと男たちを睨む。

 と、


「おい、あいつ睨んでやがるぞ」


「生意気な」


「立場をわきまえさせてやる」


 ボクの目に怒った男たちは弓を構え、剣を抜き、怒声を吐き、詠唱を始めた。

 ああ、これは死んだな……


「ちっ、くそったれが。一対複数って構図は好きじゃないんだよ」


 突然目の前の空間が歪み人が現れた。

 そこから現れたのは子供……と言っていいぐらいの年齢の少年。

 銀色の髪にその身体に不釣り合いな銀色の剣を背負っている。


「おいおいあんたら、大人数で一人を追い回して楽しいかよ?」


 少年は指を突き出しながら言う。


「オレはお前らみたいな奴らが大っ嫌いなんだよ……!!」


 この少年は殺されるためにここに来たのか?


「別にオレは──っと、口調口調。……別に僕は一対複数が悪いとは言うつもりはありません。ただ……僕の目の前でやらないでください」


 凍える様な冷たい声。

 そう言い放った少年の声には力強い意思が込められているのが感じ取れる。


「と、言うわけで。僕は彼女に味方するとします。先制攻撃──頂きますっ!!」


 語尾を強めた声。

 言い終わると同時に少年が指差していた所の男が数人吹き飛ぶ、と共に土煙も巻き起こった。

 それによりボクの視界も奪われる。


「──来て!!」


 グイッと引っ張られる手。

 それに釣られるようにボクの体は崖から投げ出された。


 一瞬の浮遊感。


「“大丈夫、守るから”」


 そんな無責任な言葉がボクの頭の中に響く。

 繋がれた──いや、掴まれた手からは人肌の温もりと焦る気持ち。

 そう、焦る気持ちだ。

 この直接伝わってくる気持ちは少年が何の策も無しに崖から飛び降りた事を教えてくれた。


「サフィ、彼女を固定しろ。オレの事は構わなくていいから守ってやれ。衝撃は────オレが殺す……」


 自信、なんて物には程遠い様な感情。

 ボクはここで死ぬのだろうか?

 ボクの頭を胸元に優しくも力強く押さえ付けている少年。

 もしかしたらこんな最後も……


「──最後じゃない」


 え?


「こんな結末じゃ終わらないぜ……」


 再び、グッと押し付けられた胸からドクンドクンと伝わってくる心音。

 優しく包み込んでくれるそれに、不覚にもボクは心地いいと思ってしまった。


「“開戦だ……!!”」


「“がんばれー”」


 少年の声ともう一つの声が交差した。


「“ウインドブレス、ウインドブレス、ウインドブレス、ウインドブレス、ウインドブレス、ウインドブレス────”」


「“ごりおしー?”」


「“ははっ、そう言うなって。手がない事にはないんだが…………この子に危害が及んだら、な”」


「“あぶない?”」


「“そそ、だからこうして衝撃を殺す事に専念してるわけ。だからサフィはこの子を頼むよ……”」


「“うん、たのまれたー”」


「“おう、よろしく相棒”」


「“ふふっ、あいぼー”」


 何なんだこの二人?は、

 ボクを包んでいる真っ赤のぷにぷにもそうだが……

 この少年…………楽しそうだ。


「“……なあサフィール……”」


「“どったのー?”」


「“うーん……まずい”」


 少年の焦り……

 エアハンマーを体にブチ当てて軌道を逸らすから後は頼む……

 って言っているのだけど、


「“きぜつ?”」


「“そそ、では……エアハン……”」


「──グハァッ……!!」


 少年の叫び声と同時に着水。

 ザバァッと水飛沫をあげつつ冷たい水が体を侵食する。

 ゴンッと音を立てつつ川底へぶつかる感覚。


「──ごぼっ」


 ボクに痛みはない。

 少年が庇ってくれたからだ。


「“よ、かった……”」


 最後にそう残して少年からの返事はなくなった。


「“ゆりうすっ!!”」


 焦りを孕んだもう一つの声と共に……




色々とリアルが忙しく、やっと投稿できました。

このままの勢いで二章の終了まで持って行きますのでお付き合いいただけたら嬉しいです。


視点が変わり読みにくかったでしょうか?

どうしても一人称にするとユリウスを意識してしまって……

友人の作品を変わり少し執筆した時も「性格と口調がっ!!」って言われてしまいました。

僕は感情移入してどんどん書くタイプなので……


そんな訳で新キャラです。

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