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第二十三話【飛竜襲撃】

 サイレン音と咆哮。

 その二つが混ざり合い、不気味な響きとなり大気を揺らす。


「緊急招集クエストっすか……」


「よりもよってこのタイミングで、か……」


 ───緊急招集クエスト

 これはギルドとそのギルドのある町や都市が取り決めた基準を超える危機が迫った時などに発生するクエストだ。

 緊急招集クエストが始まると全ての冒険者は強制でこのクエストに参加しないといけない。参加しなかった者にはペナルティーが発生する。

 そして、そこで危機の排除や住民の安全確保、住民の避難誘導に協力する事になる。


「親方……」


「ああ、行って来い。だが……」


「分かってるっすよ。死ぬなって事っすよね……」


「俺たちも何かあれば自分の命を優先しますよ」


「そうか……ならちょっと待て」


 親方はそう言って部屋の棚へと向かった。


「ほら、預かっといた武器だ」


 ケイトへは幅広のロングソードを、ハイトへはいくつかの暗器と短刀をそれぞれ渡す。


「ありがとうございます」

「どうもっす」


「まあ、行って来い。小僧と嬢ちゃんの事はワシに任せとけ。下級の飛竜(ワイバーン)くらいなら単騎で十分じゃわい」


 そう語る親方の目に慢心と言う物はなかった。そこにあるのは己の実力を信じているからこその自信である。


「はい、任せたっすよ」

「お願いします」


 そう言うが早いか、ケイトとハイトは走り出した。


「小僧と嬢ちゃんはここにいるといい。ワシも小僧とは少し喋りたい事があるしな……」


 そう言われたユリウスは不安からか、シエルの手を握り直す。

 そんなユリウスを見たシエルもまた手を握り返しネライダ言語で「大丈夫」と言う。


「喋りたい事……?」


 シエルの言葉で緊張を解したユリウスは聞き返す。別に親方を恐れてる訳ではない、ただ親方の知らず知らずの威圧が凄いのだ。


「それはな──


 にかっ、と笑いながらユリウスへと話しかけた。






 ******






 金物屋フォルジュロンを出たケイトとハイトの二人は屋根の上を走っていた。

 眼下には避難する住民や旅行者などの群れ。これを回避する為にも屋根の上を走っているのだ。


「これは、マズイっすねー」


 避難する人々の表情を見ながらハイトが言う。


「慣れってのは一番の敵ってか?」


 そう、眼下の人々の表情には余裕があるのだ。決してパニックに陥る者はいなかった。中には笑っている者もいる始末。


 コナータはその特性上、飛竜(ワイバーン)の襲撃が多々ある。だがそれも下級のワイバーンが餌が取れない、なんかの生存競争に勝てなかった種が降りて来て人里、この場合はコナータを襲う。

 下級のワイバーン。さらにその中でも知恵もなく力もない。

 それにより冒険者の格好の餌食になるわけだ。


 旅人の中にはこの襲撃を楽しみにコナータを訪れる者もいるくらいだ。

 だが、


「今回に至ってはマズイっすよ」


 突き出た煙突を蹴り、対空時間を伸ばしながらその過程で声を出す。


「これは下級のワイバーンなんかじゃ無いっすよ……」


 先程から響き渡る咆哮。

 それを肌に感じながら二人は進む。


「ああ、分かってる。恐らくここの冒険者たちじゃ九割以上が相手にならないって事もな」


 そう言うケイト。

 その目には無駄に死んで行く人々を悲しむような色はなかった。ただ、怒り。自身の実力もわきまえず、無駄に命を散らす者たちへの怒りがあった。


「にしても下級以上のワイバーンっすか……」


「ああ、そうだな」


「いやー、いい素材が手に入るといいっすね」


「それもそうだ。親方にはいつもしてもらってばかりだからな。ここらで一つワイバーンの素材でもがっぽりプレゼントするか」


「もう持ってるとかいわれそうっすけどね」


「………………」


「はは、ここで本来ならジョルジュが無駄話はやめろとか言ってくれるんだろうけどなー」


「やっぱりジョルジュさんと三人のパーティーがいいっすね」


 そんな事を言う二人。

 そこにはかつての…………A()ランクパーティーの面影があった。











 ──トスッ


 そんな軽い音を立ててケイトとハイトは屋根から飛び降り、着地した。


「(おい、なんだあの二人)」

「(あんまり見ねぇ顔だな……)」

「(バカ、お前ら知らねえのか?)」

「(おい、あれってケイトとハイトだよな?)」

「(マジかよ……あんな奴らが来たら俺らの取り分が)」

「(おいおい、なんで来たんだよ……あいつらなら飛竜なんてどうでもいいだろ)」


 冒険者たちは小声で話しているつもりだろうがハイトとケイトの耳にはしっかりと届いていた。


「(いやー、なんて言うか……悪い意味で予想通りっすね)」


「(まあ、こんなもんだろ。冒険者なんだし……)」


 互いの活性化により強化された聴覚がギリギリ拾える声で会話する二人。これも長年の付き合いからくる物だ。


 そんな二人を周りの冒険者たちは遠巻きに見ているだけで誰も近づこうとする者はいない。

 事実、この二人は有名なのだが友好関係が絞られているのだ。

 そんな中。冒険者たちの壁を押しのけ二人に近づく影が一つ。


「ガッハッハッハッ、ケイトにハイトじゃねえか。久しぶりだなぁ!!」


 岩石を彷彿とさせるゴツイ装備に身を包み。その背には身長の倍はあろうかと言う長い槍。


「(おい、あれって戦陣のガルドじゃねえか?)」

「(マジかよ……あの人って滅多に姿見せないよな……)」

「(それにあの二人と知り合いっぽいぞ)」


 ガルドの登場にざわめく冒険者たち。


「おお、ガルドさん。お久しぶりです」


「どうもっす。ガルドさん」


「ガハハッ、お前らいつも言ってるだろ。さんはいらねぇって。それにしても本当に久しぶりだなー」


 そう言いながら二人に近づくガルド。

 そして、


「(気づいてるか?)」


 小声に変わる。


「(はい、ワイバーンの強さについてっすよね)」


「(ああ、こいつは何かおかしいぞ。普通あのレベルのワイバーンは降りてこない)」


「(でもまだ直接見た訳じゃないですから何とも言えませんが……)」


「(ああ、その事なら俺のパーティーの中に遠見の魔法を使えるやつがいるんだよ。そいつに確認してもらった所……リーダークラスだとよ)」


「(────っ!!)」


「(目的は分からんが未だ端の方にいるからいいものを……あれが中心部に来て暴れたら大変な事になるぞ)」


「(ブレス……っすか)」


「(ああ……。恐らく相当な威力だろう……)」


 ブレス。

 飛竜(ワイバーン)では一部の種しか放つ事ができない攻撃だ。

 飛竜(ワイバーン)のブレスの特徴はその範囲の広さにある。

 他の種に比べ威力は劣るものの、その口から扇状に広がる破壊の嵐。その一撃は地面を撫でる様に広がって行き、凄まじい破壊の後を残す。


 他の種のブレスと違い、一撃必殺とはいかないにしても甚大な被害が出る事になる。特にこの様な街の中心で打たれたりしたら……


「(その為にも少数精鋭で突っ込むのが正解だろう)」


「(しかし……)」


「(なーに、心配すんな。ギルマスの爺さんに話はつけてある。それに冒険者たちだってバカじゃない。下級じゃないのを知って突っ込む様なアホはいないだろう)」


「(まあ、それも……)」



「──助けてくれっ!!」


 三人が話していると突然大きな声が上がった。

 そこには傷だらけの冒険者。

 周りの冒険者たちは静まり返り、次の言葉を待つ。

 そして傷だらけの冒険者は響き渡るような大きな声で、自分を責めるように言った。


「先遣隊が……!! 全滅したっ!!」


 と、




 その声に動揺を隠しきれない冒険者たち。

 先遣隊に選ばれる冒険者は基本的に実力者だ。確かな力量と観察眼を持っていないと務まらない。

 そして、自分たちがやれると思ったら標的を狩ってもいいとなっている。これが意味するのは敵を倒せるなら手柄を総取りできると言う事だ。


 そんな先遣隊が全滅した。恐らくその冒険者も先遣隊の一人なのだろうが、その様子から必死にここまでやって来た事が伺える。


 送り出す時に「羨ましい」や「後でおごれ」なんて声をかけていた冒険者たちは友人たちの死を実感できてないようだった。


 そんな先遣隊の全滅という前代未聞の出来事に動揺を隠しきれない冒険者たち。

 そんなにも強い飛竜(ワイバーン)なのか、と


「──静まれえぇぇえええいっ!!」


 そんな冒険者たちの中に響き渡る怒声。

 声の主、コナータのギルドマスターは一瞬にして自分に視線を集めた。


「よく聞けっ!!」


 その年をとった身体のどこから声が出ているのかいささか疑問に思う程の声量で続ける。


「これより飛竜(ワイバーン)迎撃部隊を決めるっ!!」


 その声に冒険者たちの間に動揺が走る。

 自分が選ばれるんじゃないのか、と。


「今回の飛竜(ワイバーン)は情報によるとリーダークラスだそうだ」


 再びどよめく冒険者たち。


「静かにっ!! …………従って今回は少数精鋭を組ませてもらう。ガルドのパーティーを中心としたレイドじゃ!! 異論があるものはいるか!!」


 そんなギルドマスターの声にスッと手をあげる物が一人。

 ガルドその人だ。


「どうした、ガルド?」


 ギルドマスターは問いかける。

 先程決めた通りだろ?と、


「ケイトとハイトにも加わってもらいたい。それが俺の出す条件だ」


 ガルドはそう大きな声で答えた。

 自分たちのパーティーじゃ勝利できたとしても被害が大きくなりすぎると踏んでの事だ。


「安心せい。もともと二人には頭を下げるつもりじゃったからのう」


 ギルドマスターのその言葉にまたどよめくが二人は苦笑いを浮かべるのみ。


「それじゃあ、迎撃部隊を発表する!!───






 ******






 とある室内。

 そこには銀髪の少年と翠髪の少女、さらにモジャモジャのドワーフの男の三人がいた。

 喋っているのは少年とドワーフの男。

 少女は二人の会話の内容を理解する事が出来ず、自分が支えている少年の腕を掴む力を強めた。


「───で、小僧。貴様にとってのこれは?」


「はっ、そんなの聞くまでもないですよ。浪漫に決まってるじゃないですか」


「ほう、その心は……」


「僕はまだしっかりと学んでいる訳ではないので推測も入りますが……」


「よかろう、話せ」


「モーニングスターのここの部分に加重魔法をかけて、さらにこの鎖のこの部分とこの部分に加速の魔法、軽重、加重と交互につけていくわけですよ。さらにそこから耐久力をあげる魔法をかけて、血液回路による魔力伝導率を上げるとします。その場合の弊害、使用者の限定は出て来ますが十分に機能するでしょう。そこからさらに……」


「───っなぁ、皆まで言うな。言わんでも分かった」


「本当ですか……?」


 そう聞く少年にドワーフの男はニカッと笑い。


「お前とは気が合う事が分かったわい」


 と、力強く言い、手を差し出す。

 ハンドシェイクだ。

 ガシッと音がしそうなほどに強く交わされる握手。


「なぁ、親方」


「どうした小僧……」


「相談があるんだ」


 真剣な顔で言う少年。


「聞いてやろう」


「実はさ───






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