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第十五話【合体技】

 ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト……


 そんな音を出しながら進む馬車。


 オレたちがツェルグブルグを出発してから四日が経とうとしていた。

 その間、特にこれと言った出来事(イベント)はない。


 前世でも長距離移動なんてものは良くしていたし、乗馬だってした事はある。

 恐らく御者台に座れば馬車だって操れる自身もあるくらいだ。

 特に苦は無かった。


 そんな中、オレは馬車の中にはいない。

 理由?

 もちろんそれは…………お尻が痛いからにきまっている。


 良く異世界物で耳にする馬車の性能。と、同時に「お尻が痛い」とはよく聞いた物だろう。

 オレは一日目は何も感じなかった。


 だが、二日目。

 朝起きると腰の痛みに気づいたのだ。

 そして馬車に乗り込み移動開始。

 お尻が痛い。


 だが二日目も耐えた。

 そして三日目。朝起きると腰とお尻が痛かった。

 そして馬車に乗り込み移動開始。

 お尻が痛い。


 このままでは負の連鎖が続いてしまう。と思ったオレは行動に移した。

 馬車の上に乗ればいいじゃないか、と。


 オレが今乗っている馬車は蓋がない箱のような形をしている。

 そしてその上に天幕がかぶさっている感じだ。

 オレはサフィールに頼んで上へ連れていって貰った。


 すると擬似ハンモックのようになりお尻が痛くないのだ!!

 さらには景色が良いのなんの。

 これは素晴らしいね、うん。


 と、言うわけでオレは馬車の中にいないのである。


「…………ふぅ」


 座禅を組んで一息。

 オレはサフィールの誘いである遊びを始める事になっていた。


 その名も「色鬼」。


 元々これはオレが魔力操作の一環で始めた事であったのだが何が面白いのやらサフィールはこれを気に入ったのだ。

 ルールは簡単。

 始めに鬼を決めて互いの魔力を揃える。これだけだ。


 一見簡単そうに聞こえるだろうがこれが以外と難しい。

 まず、魔力の操作だ。

 色鬼と言っているようにガラッと性質を変えなくてはいけない。

 これを毎秒変えてそれを追うように鬼が魔力の性質を変化させるのだ。


 本当に大変である。

 さらにはサフィールさんの鬼畜っぷりたらありゃしない。

 ポンポン変えていくのだ。


 だが、とても良い練習になる。

 さらにサフィールも喜ぶ。

 まさに一石二鳥とはこれの事だ。


「“かった!!”」


 サフィールが嬉しそうに声を上げる。

 ……もうね、きっとサフィールさんはオレに勝たせる気が無いんだよね。うん。

 ルールなんてガン無視でどんどん変化させていくんだもん……





「──おっと」


 そんな風にサフィールとじゃれ合っていると突然馬車が止まった。

 左手側には林、右手側には草原と小川がある。

 どうしてこんな所で?


「おーい、ユリウス」


「はーい」


 下からケイトさんの声がする。


「今から少し休憩を挟むそうだ。少し連絡に行ってくるから自由に過ごしてていいぞ」


 通信技術が発達していないこの世界ではこの小まめな連絡が大切となってくる。

 特に隊列を組んで移動なんかしてるとなおさらだ。


「了解です」


 まあ、別にやる事は……いや、これは良い機会だな。


「サフィール」


「“どうしたの?”」


「あれをやるぞ、あれを」


「“あれ……?”」


「そうだよあれ。合体技だよ」


「“…………、!!”」


「おお、分かったか。流石だサフィール。早速始めるぞー」


「“おー!!”」


 そう掛け声を出してサッとサフィールがオレの頭の上に乗る。

 そしてオレは座禅を組み呼吸を整える。


「いくぞ……」


 オレの合図を皮切りににサフィールと魔力を(かよ)わせて同調させていく。

 互いの体を一つにするかのようにゆっくり、ゆっくりと魔力を混ぜ合わせ………………


(できた……?)


 サフィールの声がオレの頭の中に響く。


(ああ、できてるぞ)


 きっとオレの声もサフィールの中に直接響いていることだろう。


 ──心話

 と、オレは読んでいるこの現象。

 互いの魔力の質を揃える事により繋がりを作り出して声に出さずして会話を成立させる技だ。


 切っ掛けは些細な事だった。

 互いの魔力量をあげよう、となったのだがオレがある素晴らしい方法を思いついたのだ。


 1.互いの魔力の性質を揃える。


 2.オレの魔力を少しづつサフィールへ渡す。


 3.サフィールはその魔力を自身に馴染ませながら魔力を貯めていく。


 4.オレは引き続き魔力を全て──気絶しないギリギリのラインまでサフィールへ渡す。


 5.サフィールはオレの渡した魔力を含めた全ての保有魔力をオレに渡す。


 6.オレは3のように魔力を自身に馴染ませる。


 7.オレは受け取った魔力を均等になるようにサフィールへと渡す。


 8.互いの魔力が回復するまで待つ。


 少し、いや非常にメチャクチャな手段だが単純計算で倍々に魔力が増えていくのだ。

 もともとこれを思いついたのはある本──「賢者の旅」を読んでいる時だった。


「賢者の旅」の内容を簡単に説明するならば、あまり戦わない俺TUEEEだろうか……

 全ての魔法を極め、寿命すらも超越した人族の賢者が世界を旅する話である。


 空を飛ぶなんて序の口。

 大地を割ったり、海を割ったり。

 さらには島を一つ氷に埋めてしまったりと…………

 無茶苦茶な話なのだが旅の途中、落ちこぼれの魔法学生に出会うのだ。


 そこで賢者は自身の魔力を学生へと流し学生の魔力量を増やし、その学生は天才と呼ばれるようになるとか……


 結局賢者は魂に関わる魔法を行使した事によって禁忌に触れ、最後は神に封じられてしまうのだが……


 まあ、そんな事はどうでもいい。

 大事なのは魔法を流し込んだ事により魔力量を増やした、という所である。


「みんなすれば良いのに……」と思うかも知れないがそうはいかない。

 まず、自分の魔力以外が体内に大量に入ると人は魔力酔いを起こし、ひどい場合は死に至るのだ。


 賢者の場合はそのチート性能により相手の魔力に合わせて流し込む、と書いてあった。


 ここまで言えば分かるだろう。

 そう、オレは気付いてしまったのだ。

「あれ……これってオレ、できるじゃん」と。


 母さんの中にいる時から始め。どんどん外部の魔力を取り込み続けていた若かりし頃……

 そのおかげか、オレの魔力は万能なのだ!!───ドンッ!!


 …………回想終わり

 と、言うわけでオレとサフィールの魔力保有量は日々増えているのである。


 そして……


(──ユリウス)


(ん、どうしたサフィール?)


 オレが物思いに(ふけ)っているとサフィールが横槍をいれてきた。


(おそい……)


 おお、どうやらサフィールさんはご機嫌斜めのようだ。


(ごめんごめん。それじゃあ始めようか…………)


 ──パァンッッ


 手と手を打ち合わせる。と、同時に魔力を合わせた手を中心に全方向へと飛ばしていく……


((──探知(ソナー)))


 オレとサフィールの声が重なった。






(うおー、すげー)

(すげー)


 オレとサフィールは感動していた。

 うん、きっとサフィールもしているはずだ。うん。


 今使った探知(ソナー)と言う魔法ののような物は魔力を空間に薄っすらと浸透させ、さらに空気中の魔素(マナ)と同調させる事で周りの空間の地形や生物などを探る事ができる技だ。


 実際使ったのは始めてだが……

 正直ここまで凄いとは思わなかった。


 なんて言ったって空間が手に取るように分かるのだ。

 どこに何があり何があるのか……

 ここに魔眼を組み合わせたらさらに面白くなりそ……


(──サフィール…………気付いてたか……?)


 オレがそう質問するとサフィールから肯定の意が返ってくる。


(やる事は…………分かってるな)


 どうやらオレが言うまでもなくサフィールはオレのしたい事を理解した様で早速行動を開始した。


 この探知(ソナー)を二人で行うのには理由がある。それは効率がいい、という簡単な理由だ。

 オレとサフィールで魔力を広げ、サフィールが空気中の魔素(マナ)と同調させる。そしてそれをオレが読み取るのだ。


(いっぱい……?)


 うん、サフィールの言う通りだ。

 ここから……五十メートルくらい離れた所に複数の人型の反応がある。


(サフィール、ちょっと範囲を絞ってくれ)


 流石にまだまだ精度が低い……

 円から楕円へ。さらに形を引き伸ばす事で探知範囲を面積を変えず領域を変える事で人型の反応をカバーできるようにする。


 反応は十三ってところか……?

 取り敢えず全て人型である事が確認できた。

 だがそれまで、流石に詳しい情報は分からない。

 これも要練習と心のメモ帳へメモメモっと。


「さてさて、百聞は一見に如かずってか……?」


(一見、百聞?)


「そそ、ついでに試したい技もあるしね」


(ワザー?)


 オレとサフィールはリンクを繋げたままで会話を続ける。


「ああ、やるぜ。透明化(インビジブル)を、な」


 ワクワクする心と浮き立つ声を隠しきれず、オレは頬を緩めながら言った。









 木から木へと、サフィールの触手を頼りに飛び移りながら進んで行く。

 もちろん目的地は例の反応があった場所だ。


 ふっと小さく一息。

 集団の木の上、その枝へと着地する。

 一瞬枝がきしむような音がしたが風が吹いたのと同時に着地したから大丈夫だろう。


 下には男が十二と少女が一人。

 何かを話していた。


「──ってんのか?」


「だから何度も言わせんな、あそこの馬車を奪うんだよ」


「だが……護衛がいるんじゃないのか?」


「確かになぁ、だがたった四台。恐らく八人ってところかな」


「なぁそうだ。このエルフを囮に使ってだな」


「はぁ、バカじゃねえの。こいつはオレらの言葉分かんねぇんだぞ!?」


「そんなの知ってらぁ。だからこいつをあの馬車の前に突き出すだろ。そして護衛の奴等が警戒をした時に一気に背後からやっちまうんだよ」


「…………?」


「はぁ、全くお前はバカだなぁ。つまり俺らは後ろからあいつらをやっちまえばいいんだよ」


「ああ、そう言う事か。分かりやすい」


「じゃあ早速やっちまおうぜ。おいエルフ」


 そう声を出して一人の男が手に持った鎖を引いた。すると「キャッ」と少女が声を出し手を引かれる。

 どうやらあの男が持っている鎖はあの少女の手に繋がって…………


(──おい、サフィール……)


(なに?)


(助けるぞ)


 あいつらは恐らく、いや確実に人攫いと言われる賊だろう。これで会うのは三度目か……

 全く、嫌な世界だ。


 サフィールに頼みゆっくりと枝から降りる。

 確実に少女を助ける。

 これが今回の目標であり、他に優先すべき事は、無い。


 透明化(インビジブル)はしっかりと発動している。

 あとは奴等を…………いや、よせ、やめろ。余計な事は考えるな。

 少女を救い出す。これが最優先。最重要。


 ゆっくりと少女の背後から近寄る。

 一歩、一歩と確実に近寄って行く。

 透明化(インビジブル)はサフィール、と言うかスライムの特性の景色に溶け込むのを利用して行う技だ。

 サフィールに全身を包んでもらう事で姿を隠し、さらに足音なんかもある程度なら消してくれる。


 そうやって少女のそばに近づいたオレは一瞬息を呑んだ。

 少女は血のような物で全身薄汚れお世辞にも綺麗とは言えない。さらには首にはゴツい首輪を、手足には枷がしてあり。手には鎖がつけられていた。


 ───ウッ

 それを見て溢れてきた怒りをぐっと噛み殺す。

 それよりも早急に彼女を助け無ければいけない。


(サフィール。オレが臨界突破(クリティカルオーバー)を使うと同時に彼女を飲み込め。食べたらダメだぞ、オレと同じようにするんだ…………いくぞ)


 オレが鎖に触れた瞬間、少女と男を繋ぐ鎖の一つが弾け飛んだ。

 と、同時にサフィールが不可視の体を広げ少女を飲み込んだ。


(逃げるぞ!!)


 男達に驚く隙も与えずにオレはサフィールの触手を使い離脱した。

 また木から木へと飛び移って馬車へと戻る。

 オレは少女の体を支える事に専念しサフィールにほとんどの機動を任せて、先へ先へと進んで行った。






 ******






「───ハイトさん!!」


 慌てて帰ってきたオレは急いでハイトさんに声をかけた。


「おっと、どうしたんすかユリウス?」


「えっと…………」


 オレはここまで言って考えた。

 突然オレなんかが賊がいます。人攫いです。

 なんて言って信じてもらえるのだろうか、と。


「ハイトー」


 オレが言葉につまっているとケイトさんがハイトさんへと声をかける。


「ん、どうしたユリウス……?」


 どうやらオレの慌てた様子に気づいたようだ。


「あの、その…………」


 オレはここで考えた。

 この人たちは父さんの親友で幼馴染で兄弟弟子だと……

 そして父さんはオレに「あの二人は絶対に信頼できる」と言ったのだ。

 なら、


「……向こうに賊がいます。そしてこの馬車を狙っています」


 オレは二人の目を見て正直に言った。


「はぁ?」


 ケイトさんが何言ってんだって感じの目で見てくる。

 だがオレは目を逸らさない。

 もしここでオレが逸らしたらほら吹きになる。

 そして、もし二人が目を逸らさないオレを信用しないなら……オレもこの二人を信用しない。


「………………」


 オレは目を逸らさない。


「………………」


 無言の時間が流れる。

 きっとほんの一瞬の時間だったのだろう。だけどその中には、短い時間の中には色んな気持ちが凝縮されていた。


「───ハイト」


 ケイトさんが口を開く。


「はいはい、もうやってますよーっと」


 何を?

 オレは疑問に思いケイトさんに視線を向ける。


「あー、ハイトはな索敵なんかの能力に()けてんだよ。百メートルくらいなら余裕でカバーできるくらいにはな」


 百メートル…………

 マジかよ凄いな。とオレはハイトさんに尊敬の眼差しを向ける。


「…………十二人」


 と、唐突にハイトさんが呟いた。


「ほぅ、内容は?」


「あー……男が、全部男っすね。体格はまあまあってとこっすか。ゆっくりとこっちに近づいてきてるっすよ。このハイド能力からしてそこそこやるっすね……こいつら」


「そんなもんか……。それにしてもよく分かったなユリウス。流石はあの二人の息子だ」


 そう言ってオレの頭を撫でるケイトさん。

 だが、オレはそんな事よりも驚愕していた。


 ハイトさんの索敵能力。

 人数、性別、体格、行動、実力。

 恐らくその全てを見抜いているのだ。もう、丸裸同然である。


「じゃあ締めちまうか?」


 そう言ってケイトさんが木剣(・・)を取り出した。


「いやー、賊との戦闘なんて久々っすよー」


 ハイトさんは御者台から飛び降りコキコキと首を鳴らしながら手首、足首をほぐしていく。


 その姿はまるで今からチャンバラでもしていい汗流そうか。ってな感じの気軽さがあった。




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