第十三話【旅立ち】
三日ぶりです。
どうも、転生歴八年。=八歳のユリウス・ グラッドレイです。
この八年、僕は色々な経験をしました。父様と鍛錬を行ったり、母様とお勉強に励んだり。とても充実した八年間を送ってまいりました。
と、まあ自己紹介はこんなもんだろう。
うん、完璧だ。
「“かんぺき?”」
「おうともサフィール」
オレの正面に鎮座しふるふると可愛く揺れながら質問してくるのは我が相棒サフィールさん。彼女はこの三年でコミュニケーション能力が向上し意思疎通が楽になってきた。
ちなみにサフィールの声は他の人には聞こえないらしい。
「えっとー............」
オレは今、自分の部屋のベッドの上で持ち物を確認していた。
なぜそんな事をしているかと言うと今日、オレはこの家、というかツェルグブルグを出て行くのだ。
別にずっと帰って来ない訳じゃないのだが、なんか寂しいな............。
父さんが言うには「お義父さんの所へ預ける。一人前になって帰って来い」だそうだ。
父さんと母さんの育った所らしく父さんもジェイドさん............いや、オレの爺さんに戦い方なんかを教わったらしい。
ツェルグブルグ最強を育てた男、期待大である。
「“いれる?”」
「ああ、よろしくな」
順番に服、タオル、ナイフ、木剣、暇潰しに作った釣り道具なんかのサバイバルに使えそうな各種道具なんかをサフィールにいれていく。
一年前にみんなが家にいないある日、「僕の私の皆のサフィールさんに限界はあるのか!? 試してみようツアー!!」を行った所、彼女には限界がなかったのだ。
オレやシスターズのオモチャから始まり次は家具へ、イス、テーブル、ソファー、ベッドとどんどん飲み込んでいくのだからびっくりだ。
サフィールは「どんとこい!!」って感じで構えてたけど「家具が無くなりますごめんなさい」とオレがギブアップしたのは今となってはいい思いでである。
「“おわり?”」
と、サフィールが拍子抜けってな感じでオレに質問してくる。
もうサフィールさんイケメン過ぎ!!
彼女は物を入れるのが好きらしくこうやってオレにおねだりしてくるのだ、可愛い。
──トントンッ
部屋のドアが可愛くノックされる。
トントン、トントン、トントン
まだまだノックされる。
「「おにぃーー」」
トントン、トントン、トントン
まだまだ続く............
実はこれがオレが爺さんの所へ行く事を後押しした一因でもあったりする。
オレはシスターズの自我が完全に芽生えた頃からそばにいた。そして俺は思った「彼女たちには幸せな人生を送ってもらいたい」と。
幸せな人生。
これを定義するとなると色々と難しい。だけどオレは小さい時から教養があり、ある程度自由に過ごして、よく遊びよく学ぶをすればいいだろうと思っていた。
そしてそれを実行に移した。
始めはシスターズに少しづつ文字や数字の概念なんかを教えていった。
そして次にフェルムちゃん協力の元、文法なんかを教えていった訳だ。ちなみにその間、オレは庭でトレーニングをしていた。
そしてこれが初めの失敗だった。
彼女たちの中でオレは勉強をしなくても何でもできるスーパー超人という認識に変わったのである。
父さん母さんはオレが本を読み、文字の勉強──実際は字を丁寧に書いたりする練習──をしていたからできていても驚きはした物のあまり不思議に思わなかったのだがシスターズは違った訳だ。
そしてオレは日々トレーニングを重ねていた。さらに前世での何千という戦闘経験なんかから身のこなしもなかなかと言えるだろう。
そんなオレが日々体を鍛えているのだ。これが二つ目の失敗だった。
それを見たシスターズがヤル気を出してくれて良かったのだが......シスターズの中でオレは妥協をしない偉い人になったのだ。
さらにシスターズが成長した頃、彼女たちは本を読む様になった。
その中には当然、色恋なんかが出てくる。王子様がお姫様と......なんてやつだ。
そして「愛ってなあに?」と彼女たちは感じたのだ。母さんは父さんとの馴れ初めを語って見せたり、父さんは母さんの以下略。
トドメにリニアちゃんがふざけてオレの事をカッコいいと言ってしまったのだ。
そこからは早かった。
カッコいい=お兄ちゃん。
お兄ちゃん=カッコいい。
カッコいい=王子様。
王子様=カッコいい。
カッコいい=お兄ちゃん。
お兄ちゃんは王子様。
「なんでやねん!!」と素でツッコミたくなるような等式がシスターズの中で完成してしまったらしい。
さらにそばにいる同年代の異性はオレだけという事が拍車をかけた。
これが三つ目の失敗。
しかし、オレはここで一発逆転の秘策を思いついたのだ。
「周りに異性がいないから俺の事を......? なら異性のいる環境に!? 学校に行かせればいいじゃないか」と思った訳である。
しかしこれは失敗。いや、大失敗に終わった。
六歳から通い始める学校。
──さて、ここで問題です。
テーレンッ
Q.六歳でユリウス君の様に流暢に喋り文字の読み書きができ、運動が大好きで大人たちに気が使える。そんな子供がいるでしょうか?
YES ←ピッ
NO
YES
NO ←ピッ
YES ←ピッ
NO
YES ←
NO
YES
NO ←ピッ
おめでとう正解です。素晴らしい。
もしYESを選んだ人がいたらきっとその子供は転生者だ。心の中で何を考えてるか分からないぞ。気をつけよう。
さらにその子が変態のロリコンだったなら要注意な!!
さてさて前置きはここまで。
つまり学校へ行ったシスターズは思ったらしい。
「やっぱりお兄ちゃんが一番凄い」、と............
ここまで言ったら分かるだろう。
なんとオレは期せずして光源氏計画を行っていた訳である。
ワーイ、凄いぞ、パチパチパチー、イェーイ
とはならない。
マジでそれなんてエロゲ?って感じだ。
あれはフィクションの世界だから許容できるのであって現実であったら正直シャレにならん。
なんかもう、あれだよね。うん。
彼女たちの将来が心配だよね。
なんだよ真性のブラコンって。
義理の兄妹だからOK?............なわけねぇだろ。
完全にアウトだよ。オレの中では。
だが、まだ彼女たちは幸いな事に愛という物の本質というか概念を理解していない。
きっとオレに対する気持ちはできる人に対する憧れの部分が大きいのだろう。憧れ=好きの等式は成り立つ訳じゃないって事だ。
まあ、彼女たちにはオレがいない間に色んな事があるだろう。その過程で大きく成長してくれる事をお兄ちゃんは願います、まる。
──コンコンッ
ん?
この叩き方は......
「ユリウス様。そろそろ......」
やっぱりフェルムちゃんだ。
彼女のノックの音は綺麗だからな。とても分かりやすくて助かる。
リニアちゃんは未だに緊張したような叩き方をするわけだが、それがまた彼女らしくて可愛い。
本当に家事以外はめっきりダメだからな......リニアちゃん。
「はーい。直ぐ降りまーす。先に下で待ってて」
「分かりました」
そう言ってフェルムちゃんは下、と言うか庭へ向かった。
フェルムちゃんが完全に去ったのを確認した後、オレは静かにドアへと近づいた。
そうしてゆっくりとドアへ耳を当てる。
「(ふふっ、お兄ちゃんが出てきたら驚かせるの)」
「(キャッ、お兄ちゃんきっと驚くよー)」
「(そうだねー。わっ!!ってするんだ)」
「(もうエミリア声が大っきいよ。それじゃばれちゃう)」
「(えへへ......ごめーん)」
「(うん、いいよ)」
てな感じでシスターズが可愛い悪巧みをしている訳だ。
だがここは兄たる者、無様に引っかかってたまるものか!と、小さな対抗心を燃やしてみたり。
オレはドアからソッと耳を離し、窓へ向かって歩き出した。
確か庭には父さん、母さん、リニアちゃん、フェルムちゃんがいるはずだ。
あ、それと俺を迎えに来たらしいケイトさんとハイトさんって人がいたな。この二人は父さんの親友らしく昨日は珍しく沢山の酒を飲む父さんを見れた。
なんかとっても楽しそうだったな。いずれ参加したいと思ったのは内緒だ。
「──サフィ」
オレはサフィールに合図を送り、ぷるっと了解の意が帰ってきたのを確認すると窓から飛び降りた。
襲ってくる浮遊間と同時にサフィールが触手を伸ばし壁へとくっ付く。そのままターザンよろしく庭まで飛び降りるのだ。
着地と同時にゆっくりと膝を曲げ転がる事で衝撃を緩和し、さらにはサフィールが隙間に入り衝撃を殺してくれる。その結果全くダメージを負わずに庭へ降り立つ事に成功した。
「おお、ユリウス。準備は終わったのか?」
「はい、父さん。全部サフィールに持ってもらってますけど」
父さんも俺が二階から飛び降りて来ても驚かなくなってしまった。
まあ、一年以上も飛び降りてればねって感じか。
「ユリウス。マリアとエミリアはどうしたの?」
母さんが俺に声をかけてくる。
「はい、二人ならまだ二階に......」
俺が苦笑い交じりに言うと母さんも少し苦笑いしながら二階の俺の部屋の窓の方を見た。
「兄離れ、か......」
母さんはどこか寂しそうに言った。
その言葉の中にどんな感情が含まれてたかなんて俺には分からない。
ただ、ケイトさんは「二人、ジョルジュとユニアスは仲良しな兄妹の様なものだった」と言っていた。
もしかしたら俺とエミリアとマリアの関係に思う所があるのかもしれない。
だけど俺もエミリアもマリアもまだ世界を知らない。
こんな小さな世界の中で全てを決めて言い訳がない。
それに、俺が誰かと一緒になる資格を持ち合わせているかどうかも問題になってくる............
「いたーー」
「見つけたーー」
そう言いながらシスターズが玄関から飛び出して来る。
全く元気なものだ......
「────グフぅっ」
シスターズのWタックルを正面から受けてしまった俺の口から一気に空気が吐き出される。
──彼女たちは俺の事を凄いとか言っているが凄いのはシスターズの方だよ、全く。
彼女たちは才能の塊だ。
そう才能の塊なのだ。
勉強については言うまでもなく優秀で俺に転生前の知識が無ければ負けてるだろう。
さらには活性化である。
この世界の人たちは多かれ少なかれ無意識に活性化を使っていたりするのだが彼女たちのそれは無意識とかいうレベルを超えていた。
普通は重い物を持つなんかの力を入れた時なんかに僅かながら魔力が流れ活性化が行われたりするのだがシスターズは僅かなんてもんではない。
元からある魔力量を活かし、相当な量の魔力が流し込まれると共に効率よく身体能力が強化されるのだ。活性化の弊害である身体へのダメージは無いに等しい。
つまり、彼女たちの活性化は質と量の両方を兼ね備えているのだ。
ちなみにオレはシスターズの活性化を真似してたりする。
はい、回想終わり。
そんなシスターズのタックルを、しかもWで受けたオレの体は面白いくらいに曲がり、吹き飛んだ。
「──グハァッ、ぐぶっ、げはぁっ、グバァアア」
そんな奇天烈な声を出しながら転がって行くオレ。
三メートルほど転がった所でやっと止まったオレの体。
庭が芝生だったのとサフィールのファインプレイが無ければ大怪我だったよ、もう。
その後、オレを行かせまいとするシスターズを説得したり。泣き出すリニアちゃんをなだめたり、と色々あったがなんとか出発の準備を整える事ができた。
「ユリウス」
そんなオレに父さんが声をかけてきた。
「ほら、俺からのプレゼントだ。しっかりやってこい」
そう言って父さんはオレに一本の真剣を渡した。
この剣をオレは知っている。
休日なんかに父さんがよく磨いていた剣だ。
「それはいつかお前にやろうと思ってな。大切にしろよ」
「はい、もちろんです!!」
もちろんだとも。
父さんがこの剣を大切にしていたのをオレはよく知っている。
恐らく今のオレじゃあまだまだ使いこなせないだろう。
だけどいつか、いつかこの体が大きくなった時には
「いずれこの剣で、父さんを越えて見せます」
ツェルグブルグ最強を越える。
今は一番分かりやすくて明確な目標と言えよう。
息子はいずれ父を越える物だ。
なんてどこかで聞いた事がある。
「そうか、それは楽しみにしてるぞ」
オレの言葉に対し、父さんは嬉しそうに笑って頷いてくれた。
我が父親ながら本当にいい笑顔をしやがる。惚れちゃいそうだぜ......
「ユリウス、こっちにおいで」
母さんがオレの事を呼ぶ。
「ふふっ、大きくなったわね......」
と、言いながら母さんはオレの事を抱きしめた。
その瞳には薄っすらと涙が貯められていた。
「向こうを向いて......」
そう言う母さんの指示に従い背を向けると、
母さんがオレに一枚のローブを羽織らせてくれた。
「ユリウスは魔法も使ってみたいんでしょ? やっぱり魔法使いはローブじゃないとね。それに雨風にも耐えてくれるわ」
ああ、よく知っている。
このローブを母さんがずっと作っていてくれた事を。
毎日少しづつ、少しづつ。縫っていてくれた事を。
そして縫う時、糸に魔力を流しながらしていた事を。
恐らくとても集中力を使う作業だったのだろう。
それでも母さんは毎日、毎日......
「ありがとう、母さん......」
「うん......頑張ってらっしゃい」
そう言うと母さんは優しくオレの頭を撫でてくれた。
ちなみにサフィールは空気を読んでオレの足元にいる。
「ユリウス様......」
続いてメイドちゃんズの方から声がかかる。
「私たちからはこれを......」
フェルムちゃんがオレへ黒革の手袋を渡す。
「ぐっ、ヒグッ、ユリウスざま......」
リニアちゃんは再び泣き出してしまっている。
「ごれを......」
泣きながらオレに籐の様な物でできたバスケットを渡して来る。
うん、匂いから察するにオレの大好物だ、
「ありがとう、リニアちゃん。フェルムちゃん」
「おにぃ......」「お兄ちゃん......」
続いてエミリアとマリアから声がかかる。
「「これ......」」
「御守り......?」
そう、二人から貰ったのは布製の御守りだった。
そこには二人の魔力が練り込まれているのか仄かに魔力を感じる。きっとこれも無意識の事なのだろう。
「ありがとな......二人とも」
「えへへ......」「うふふ......」
や、止めろ。
そんな笑顔を向けられるとオレの決意が揺らいじまうじゃねえか......
「さあ、出発だ」
最終的にはオレの、いや可愛い我が妹たちの所為で少し遅れてしまったが無事馬車に乗り込む事ができた。
「息子を頼んだぞ、ケイト」
「ああ、任せとけ」
そう言い合って男二人が硬く握手をする。
「父さん、母さん、エミリア、マリア、リニアちゃん、フェルムちゃん。............行ってきます!!」
オレのその声を合図に馬車が発信した。
「またねーーーーーーーっ!!」
オレはみんなが見えなくなるまで手を降り続けた。
******
馬車は今、五等区画を走っていた。
外に向かうに連れ広くなっていくツェルグブルグの特性上、外に出るまでに相当の時間がかかってしまう。
実際、もう一時間近く走っている。
「ユリウスは五等区画へ来るのは初めてだろ?」
「はい、僕は四等区画までしか」
流石は五等区画と言った所か、とても賑やかで道の両脇には色んな露天が立っており色んな格好の人が目に付く。
だが、やはりオレの目を引くのは冒険者風の格好をした人たちだ。
彼らは大小様々な武器を背負い豪快な笑い声を上げながら歩いている。
あっ、ビキニアーマーのお姉さん。
前世でもよく見かけたが相変わらずどこに防御力があるのかは謎である。
それでもゲームだしで済ませれた向こうと、現実であるこっちでは大きな差があるだろうに............
まあ、目の保養になるからありがたいんだが、眼福眼福。
「おい、ユリウス。何見てんだ?」
するとオレの視線に気づいたケイトさんがニヤニヤしながら声をかけて来た。
だが、オレは紳士だ。
きわどい装備に見とれてたなんて言える訳が無い。
「いやー、あの装備。どこに防御力があるのかな、と思いまして......」
うん、我ながら完璧な返しだ。
「ああ、そう言う事か......」
あれ、今少しつまらなそうな顔をしたのは気のせいだろうか?
「あれはな、極限まで装備を軽くして機動力を上げるためなんだ。それに、あの手の装備には軽量化や俊敏性アップの魔法がかかってるしな。なかなか便利なんだぞ」
「......付与魔法ってやつですか?」
「おお、よく知ってるな。付与魔法がつけられた装備なんかは高いからな。多分ユリウスのローブとグローブにもついてんじゃ無いのか?」
「え?」
オレのローブとグローブに......?
「あとジョルジュがやった剣には確実に付いてるぞ」
......ん?
「いやー、ジョルジュとユニアスは別としてメイドの二人には少しきつかったかもなー」
???
「あの二人の年収の数倍はあるぞ、あのグローブ」
「........................」
ちょっとマジかよ、そりゃねぇよ。
何それ、おいおいと使えねぇじゃん。
「ちょっと見せてみろよ」
とりあえずケイトさんに渡して見る。
「........................」
ローブと黒革の手袋を真剣な目で見つめるケイトさん。
「うーん、恐らく両方ともに自動修復とサイズ調整がかかっているな......」
自動修復とサイズ調整......
自動修復とは読んで字のごとく、傷ついたりした装備なんかを自動で修復してくれる優れものだ。
サイズ調整もそのまんま、使用者の体に合わせて装備の方が大きさを変えてくれるという魔法。
「おい、ユリウス。大丈夫か?」
「............はい」
便利なんだが......
使うのに気が引けるな。
「一つだけ忠告しといてやるよ。もったいないから使わないなんて考えんなよ。それはプレゼントした人の意に沿わないし、なにより装備が可哀想だ」
後半の方が力強かったのは気のせいだろうか?
......確か父さんが「ケイトのやつは武器や防具なんかが大好きなんだよ」って言ってたな。
それにプレゼントしてくれた人の意に沿わないってのは......あれだな。
うん、大切に使おう。
「そろそろ門に着くっすよー」
御者台の方から声が聞こえる。
「おう分かった。ユリウス、もうすぐ門に着くからおとなしくしてるんだぞ」
そうして暫く街並みを見ながらゆられていると馬車が止まった。
外を覗いてみると何台もの馬車の列の後ろに着く形でオレたちの馬車も止まっている。
これらの馬車は全て同じ方向へ行くらしく、大勢で移動した方が魔獣や魔物、賊なんかに襲われにくいという理由からこの世界では一般的らしい。
それぞれの馬車が冒険者や用心棒なんかを雇っていて隊列に加わるのにもある程度護衛を雇っている事が条件になる。
護衛を雇っていない馬車などはお金を払い隊列に加わるのが許されるらしい。
この馬車の護衛はケイトさんとハイトさんの二人で十分、と言うか二人は結構有名らしくオレたちの馬車はすんなりと隊列に加われたわけだ。
「出発するぞーーーーーー!!」
そんな掛け声と共に馬車がゆっくりと進み出す。
大きな門をくぐり抜けツェルグブルグの外へと向かい、ゴトゴトと音を立てながらゆっくりと進んでゆく。
目の前に広がるのはどこまでも広がる草原。空は晴天、サンサンと照らす太陽にサワサワと風に揺れる草。見事な旅立ち日和だ。
「もう大丈夫か、ユリウス?」
ツェルグブルグが完全に見えなくなって暫くした頃、ケイトさんが声をかけて来た、
そしてケイトさんの手がオレの頭の上へと乗せられる。
「そんな顔すんな。一生帰って来れないって訳じゃないんだぜ......?」
オレの頭を乱暴に撫でる手。
「だからさ......泣くなって」
「な、泣いてなんが......無いれす」
そう、泣いてなんてない。
精神年齢三十にもなって無くもんか......
久々、本当に久々の家族の温もりに包まれたこの八年間。
別に終わりでは無いとは分かっていても......
「確かジョルジュとユニアスはユリウスが全然泣かないって少し心配してたぞ......」
分かっていても......
「まだまだ先は長いぜ......」
やっぱりあの時を思い出す......
「これから楽しい事はいっぱいある」
オレが冒険へ出かけて帰ってくるまでの二年。
その間に消えてしまったオレの家族。
「特にユリウスはまだ先が長いんだ」
今回は何年になるのだろうか......?
「だからさ、そんな顔すんなって」
確かに父さんには家族を守れるだけの力があるし、ツェルグブルグは安全だ。
「男だろ?」
だけど、だけどさ......
「ほらっ、そんなベソベソしてっとお前の爺さんに怒られっぞ」
家族との別れは..................
──嫌だなぁ
そうしてオレの新たな異世界転生ライフが始まる。
今回は少し文字数が多めですね。
これで第一章は終わりになります。
次は第二章〈旅路〉です。
誤字指摘、感想なんかお願いします。