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異世界転生ライフ 〜ニューゲーム→ニューライフ〜  作者: ㌔㍉コン
第一章〈聖域都市ツェルグブルグ〉
13/33

第十二話【手紙】

三日ぶりです。

 とある建物の一室、

 そこにジェイド・グランドクロスはいた。少しくすんんだ雰囲気を持ちながらも鈍く輝く金髪を持ち、目尻が少し鋭くその双眸には年齢を感じさせない程の生気が宿っている。

 部屋の本棚から一冊の本を取り出しフゥッと息を一吹き、少し被っていた埃を吹き飛ばす。


『深淵』

 本の表紙には共通語──多くの国で標準語として使われている──では無い文字でそう書かれており、見る人が見ればそれがただの本では無く魔書と呼ばれる物だと分かるだろう。魔書とは特殊な魔法や呪いなどが掛けられたりしている書物の事で、普通一般の人の目に触れる様な所には無い。その証拠にこの部屋には厳重な封印魔法がかけてあり簡単に入る事は出来ない様になっている。


 ──コンコン


 静かな部屋にノックの音が響く、この建物に入る事ができるのは自身(ジェイド)を除くと妻であるハンナのみ。と、同時にここの扉を開けられるのもハンナのみである。


「──ジェイド」


「ん、どうした?」


 ハンナの声を聞いた途端に跳ね上がる声の調子。

 全く分かりやすい物だ。


「............深淵」


 ジェイドの手にしている本に気付いたハンナは声のトーンを落としながらそう呟く。まるで何かを恐れているような、恨んでいるような、そんな声。


「おいおい、そんな怖い顔するなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」


 そんなハンナにジェイドは明るい口調でそんな事を言う。エルフの血を引く彼女の顔は確かに整っており、十人が見れば十人が振り返るであろう容姿をしていた。

 そしてさらにスラッと伸びるその手足は無駄な肉は全くと言っていい程についておらず引き締まり、彼女の美しさに拍車をかけている。


「──でも............」


「──なーに、心配すんな。もし、俺とお前が出会った時点でこうなる事が分かっていたとしても俺はお前......ハンナを選んだ。俺は何が有ろうと家族を守る。たとえ何が有ろうとな......」


 そう言い切ったジェイドの瞳には確かな強い意思と光があり、ジェイドの気持ちと思いの強さを物語っていた。


「──ところでハンナ、どうしてここへ?」


 ジェイドは暗くなった雰囲気を変える為か、話題を変える。

 普段はここへ来たがらない彼女がここへ来ているのだ、不思議に思うのは当然と言える。

 そんなジェイドの様子に表情を柔らかくしながらハンナは言う、


「ユニアスとジョルジュから手紙よ」







 ハンナがそれを伝えてからのジェイドの動きは早かった。

 それを早く言えとばかりに動きだし、まずは魔書を本棚へとしまいサッと封印魔法をかける。

 キャッと可愛らしい声を上げるハンナを気にせず横抱き、いわゆるお姫様抱っこをしながら建物を飛び出した。


 愛娘からの久々の手紙だ。

 三人の孫の事も書いてあるのだろう。


 フッと息を吐くと共に跳躍するジェイド。そうして開け放ってある窓から屋敷の中に侵入した。


「──ほらぁ、あっしの勝ちっすよケイトさん」


「ちぇー、しょうがねぇ。ジェイドさん、窓開けてるからってそこから入るのは反則っすよ......」


 そこには騒いでいる二人の男。

 片方の黒髪に茶目の男、ハイトは嬉しそうに笑いながら器用にソファーのヘッドの部分でしゃがみバランスをとっている。

 もう片方の金の混ざった茶髪に黒目の男、ケイトはブスッとつまらなそうにジェイドに文句を言いながらソファーに深く座っていた。


「何言ってんだお前らは?」


 ジェイドが二人に疑問をぶつける。


「いやー、ジェイドさんがドアから入ってくるか窓から入ってくるかで賭けをしてたんですよ。そして俺が負けて、よっ」


 するとケイトは自分のポケットから金貨を一枚取り出し指で弾く。

 そして弾かれた金貨はクルクルと回転しながら綺麗にハイトの手の中に収まった。


「と、言うわけで窓に賭けていたあっしが勝ったんすよ」


「まーた、お前らはしょうも無い事を、大体なぁ......」


「──そんな事よりジェイドさん」


 と、ケイトがジェイドの声を遮る。


「手紙。読まないんすか? それとハンナさんがお怒りっすよ」


 ジェイドは手紙と聞くと同時に動こうとし、ハンナと聞いた途端動きを止めた。そしてジェイドの首はギギギと音がしそうな程にゆっくりと下、自分の手元を見た。

 そこには顔を少し赤くしお怒りの様子のハンナ。


「──ジェイド......」


「はい」


「私、言ったわよね......」


「............」


「今回で何度めかしら......?」


「............」


「ジェイド............








「──それじゃあ手紙を読みましょうか」


 ジェイドをお説教し、スッキリした様子のハンナが場を整える為か声を上げる。


「ああ、そうだな」


 光の早さで復帰したジェイド。手紙を早く読みたいのかソワソワしていて少し落ち着きが無い。


「一年ぶりっすか......」


「だよなぁ、ジョルジュとユニアスももっと頻繁にくれてもいいじゃねえか」


「まあ、そう言うな。あいつらにはあいつらの生活があるんだ」


「なーに、ジェイド。手紙が来るまではあいつらは手紙も寄越さんとか文句言ってたくせに来た途端それなの」


「............よ、よーし、読むぞ!」


 ジェイドはそう宣言し手紙を持っていたハイトの手からスッと抜き取り封を開ける。


「ジェイドさん、二人は呼ばなくていいんすか?」


「ん、ああ、あいつらは少し出かけているから後二日は帰って来ないだろうからな。しょうがない。それに............あいつらには聞かせたく無い内容も含まれてるかも知れんからな」


「それなら仕方ないっすね」


「ああ、それじゃあ読むぞ──











「──いやー、ジョルジュさん。楽しんでるっすね。それにユニアスさんも幸せそうっすし」


 初めに口を開いたのはハイトだった。

 それぞれがそれぞれの思いを持って手紙の内容を聞いていた。

 皆それぞれに感想を持つ中でハイトが言った事は的を射ていたと言えよう。だが、それが全てでは無い。


「......聖域に、スライム............」


 誰とも無く呟いた声。

 六歳のユリウスの頭の上にいつも乗っており意思疎通もできるらしいスライム。そこにいる四人は誰も聞いた事が無かった。

 それ以前に聖域に魔物が発生するのか?と言う疑問も湧いて来る。

 確かにスライムは精霊の亜種という学説も無い事も無い。

 だが「神聖な精霊とスライムが同族などありえない」とバッサリ切り捨てられて来た説だ。


 ジョルジュも疑問に思い影ながらスライムの事を見張っていたらしい。

 だがいつもユリウスと一緒に過ごし、一緒に遊び、一緒に学んでいる。ユリウスのパートナーの様な存在なんだとか。


 魔物使い。

 そんな存在がこの世界には存在する。

 時には魔物を乗りこなし、時には魔物と共に戦い、時には魔物と同じ時を過ごす。

 別に珍しい事では無い。


 だが、魔物使いには二種類の人間がいる。

 魔物を友と思う人間と道具と思う人間だ。

 四人とも手紙の中から受けた印象は前者だった。


『ユリウスがスライム(サフィール)と喧嘩をした。仲直りにお菓子を分け合っていたのが笑えた』


『ユリウスとサフィールが庭で戦っていた。ユリウスの木剣じゃサフィールに決定打を与えられず負けてしまい落ち込んだユリウスの姿はその銀髪のお陰か、どことなく懐かしく思えた』


『ユリウスがサフィールと新技を作ったと言って来た。なんとサフィールが体を伸ばし壁を登るのだ。ユニアスが慌てふためいて大変だった』


『ユリウスが新しい訓練を思いついたらしい。サフィールから繰り出される不規則な触手を(かわ)すのだが、これがなかなか難しい。ジェイドさんの所を離れてからはこんな体験は出来ない物と思っていた。全く世界は分からない物だ』


『サフィールが..................


 とこんな風に息子(ユリウス)の自慢の合間合間にサフィールの話が出て来るのだ。

 四人に思わず笑みがこぼれたのはしょうがない事であろう。


「いいんじゃねえの。危険は無いんだろ?」


 ケイトが口を開く。


「魔物使いは別に多くは無いけど少ない訳でも無いし、ジョルジュの奴が安全って言ってんだろ。なら大大丈夫だろ」


「それはそうなんだが............」


 ケイトの軽そうな言葉に対してジョルジュは悩んでいるような素振りを見せる。

 (なに)か、ケイトが想像もつかないような理由があるかのような......


「──あれ、ジェイドさん。あと一枚残ってませんか?」


「ん? ああ、本当だな」


 ジェイドが封筒の中から取り出し忘れた一枚の紙にハイトが気づき声を上げる。


「えっと........................」


 ジェイドは手紙を読み始めた。


「............ちょっとジェイドさん。何が書いてあるんですか? 一人で読んでないで教えてくださいよ」


「ん、ああ、すまんすまん。えっとな、ジョルジュとユニアスがユリウスの事を鍛えてやって欲しいだとよ」


 そう、手紙にはジョルジュの字でユリウスの向上意識と冒険者になりたいと言う夢が綴ってあった。

 確かに冒険者になるだけならツェルグブルグにいてもいずれなれはするだろう。

 だが───


「........................」


「ジェイド?」


 黙り込み何かを考える様な素振りを見せるジェイドを不思議に思いハンナが声をかける。


「──ああ、すまん。少しな」


 そう言いながらハンナに手紙を渡すジェイド。

 そうして、


「........................」


 手紙を読んだハンナも黙り込んでしまう。


「──ユリウスを預かろうと思う」


 ジェイドは一呼吸を置いて声をだす。


「迎えにはケイト、ハイト。お前たちで行け。久々にジョルジュの顔が見たいだろ?」


 ここでユニアスは?と聞く度胸は二人には無かった。

 もし、ここでユニアスに会いたいと言ったあかつきには............ひどい事になるだろう。


「ジェイドさんは......?」


 この質問には会いたいのではないのか、という意味が込められていた。


「いや、お前たちで行け。そしてユリウスを見極めろ。心身共にな」


 ジェイドはお前たちに決定権は無いと言わんばかりにそう言った。

 二人はこういう時のジェイドに何を言っても一緒だとのが分かっている。


「......了解っす」


 ハイトが承諾の意思を示す。


「......いつ出発ですか?」


「二年後だ。二年後、ユリウスが八歳になった時に───






 ******






「ユニアス様、ジェイド様からお手紙が届いています」


 そう言ったフェルムから手紙を受け取ったユニアスは読む事無く、どこかへと持って行った





 ───その日の夜


「ジョルジュ、お父様から手紙が......」


 部屋にはユニアスとジョルジュの二人だけ。

 そうして未開封の便箋をユニアスがジョルジュに渡した。

 先にジョルジュが手紙を読む。

 これは二人、いやジェイドとハンナとの四人で交わした約束だ。

 ユニアスが見るべきでは無い情報が入っている可能性も存在するからである。


「........................」


 無言でジョルジュは手紙に目を走らせる。

 全部で五枚の紙には何が書いてあるのか、時折笑みこぼしながらジョルジュは読み進めていった。


「──ふぅ」


 全て読み終えたジョルジュが軽く息を吐く。


「......どうだったの......?」


 そこへ少し心配そうなユニアスの声。

 ジョルジュは無言でユニアスに手紙を全て渡した。


「........................ふふっ、............うふっ、............」


 手紙を読むユニアスの口から笑い声が漏れる。


「......ふふっ、そう、分かったわ......」


 計五枚の手紙。

 一枚にはユリウスの事について。

 あとの四枚はジェイド、ハンナ、ケイト、ハイトのそれぞれから二人への手紙だった。


 ジェイドの手紙には変わりない事と近況報告と堅苦しい物ばかりが書いてあった。ハンナからはこちらを心配する事やエミリアやマリアについてなんかが。ケイトからの手紙にはジェイドの行動やハプニングが面白おかしく書いてあり。ハイトからは彼らしい細かい変化や人間関係なんかがこれまた面白おかしく書いてあった。


「............な?」


 ひとしきり笑い終えたユニアスに声を掛けるジョルジュ。


「ええ、向こうは大丈夫みたいね」


「そうだな、ユリウスについても問題なさそうだ」


「......そうね、やっぱりユリウスには───


「──ギャアァアァアアーーーー」


 ユニアスの声を遮るように響く絶叫。

 だが、二人は笑うだけで行動に移そうとしない。

 なぜならば絶叫と同時に「キャッキャッ」と可愛い笑い声が聞こえるからだ。


「お風呂アタックかしら......?」


「........................」


「懐かしいわね。でもこの場合は逆お風呂アタックになるのかしら?」


「........................」


 明るいユニアスとは対象的に「お風呂アタック」の単語を聞いた途端黙り込んだジョルジュ。


「......ユニアスが教えたのか......?」


 ──お風呂アタック

 かつてジェイドの元での修行の時代。ジョルジュ、ケイト、ハイトの三人が始めた遊びである。

 (いな)、三人は遊びなんて生半可な気持ちでお風呂アタックに挑んではいなかった。

 命懸け、その言葉がふさわしい程に全力で取り組んでいた。ハイトの索敵能力とジョルジュの俊敏性、ケイトの運動能力を合わせて(おこな)っていた命懸けの遊び「お風呂アタック」。


 見つかったら文字通り絶体絶命。おそらく地獄のシゴキが待っているだろう。

 だが、三人はやめなかった。

 桃源郷を目指し突き進んだ。


 ──お風呂アタック。

 湯けむり立つあの場所を目指し、なんて言って突き進みたどり着いた女性専用浴場(・・・・・・)

 そこに待っていたのはラスボスだった。


「──まさか、あそこにジェイドさんがいるとはなぁ。くそぉ、あとちょっとだったのに............」


 当時を思い出し悔しそうに呟くジョルジュ。

 そんなジョルジュを冷めためで見つめるユニアス。


「──っちょ、違うんだ、ユニアス。あれはちょっとした出来心で」


「へぇー、出来心で覗きを......?」


 お風呂アタック=覗き

 これは絶対に(くつがえ)らない等式だ。


「──まぁ、昔の事だし気にして無いわよ」


「はい。............所で()お風呂アタックって事は......もしかして............」


「うん、十中八九あの子たちがユリウスのお風呂に、アタックしたわね......」


 羞恥心を覚えたのかエミリア、マリアと風呂に入らなくなったユリウス。

 そしてシスターズにユリウスがお風呂に入ってくれない事によるストレスが溜まっていたのに気づいたユニアスは面白半分でお風呂アタックの話をしてみたのだ。


 それが昨日の夜の事。

 昨夜は既にユリウスが風呂に入り終わった後だったのだが昨日の今日。

 全く行動が早い事だ。


「──きゃあぁあああーーー」


 まるで乙女の様な悲鳴を上げるユリウスとそれを「キャッキャッ」と追いかけるシスターズ。

 平和で楽しい一日が今日も過ぎて行く。





質問がありましたので少し。

前話、第十一話での「冒険者の力や知識について学べない」についてです。

ツェルグブルグでは魔物はおろか魔獣すらあまり出現しません。

さらに二等区画となってくるとそりゃあもう............

それに知識と言っても色々な物が有ります。

確かに本なんかを読めば知識はつくでしょうが実践には劣る。

ジョルジュはそう考えています。

それならユリウスを自分が学び育った所で............って感じです。

長文失礼しました。


誤字指摘なんかあったらお願いします。



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