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異世界転生ライフ 〜ニューゲーム→ニューライフ〜  作者: ㌔㍉コン
第一章〈聖域都市ツェルグブルグ〉
12/33

第十一話【サフィール】

三日ぶりです

 ──気持ちいい

 そんな気持ちが湧いてきた。


 ──安心する

 そんな感情が湧いてきた。


 俺はこの感じを知っている。

 そう、母さんの中にいた時の様な......


 俺はゆっくりと目を開けた。

 眠っていたはずなのにまるで羽が生えたかの様に(まぶた)が軽い。


 ん?

 俺はここである事に気付いた。

 視界が赤いのだ。

 もちろん魔眼を使った覚えは無い。

 それに場所も移動しいてる様だ。

 俺は確か水辺に倒れていたのだがここは茂みの中。


 ゆっくりと落ち着いて気を失う前の状況を思い出す。

 ......確か俺はスライム(仮)を助けようとして、内側で魔力が荒れ狂って......そのまま気を失った......


 誰が俺を運んだんだ?

 それに暖かい。

 まるで何かに包まれてい............


「──って、うわぁっ」


 何と俺の体を例のスライム(仮)が覆っていたのだ。

 俺が驚いた拍子にスライム(仮)はスルッと俺から離れた。

 すると元のサッカーボールくらいのサイズに戻っている......


「......ってか、寒っ!! 何だよここ、めっちゃ寒いじゃん」


 俺は突然襲って来た冷えた空気に体を震わせ肩をだく様に小さくなった。

 周りも暗いしどうやら夜の様だ。


 あれ?

 どうしてさっきまで暖かかったんだ。

 目の前には心配そうに揺れるスライム(仮)。


「もしかしてお前が......?」


 ふよぷよ


「そうなのかお前が......。ありがとな」


 俺がお礼を言うと嬉しそうにぷよぷよと揺れる。

 何と言うか......すんごく可愛い!


「──ふぅっ......」


 寒さにより身体が震える。

 こんなに冷え込むものなのか。


 俺が肩を抱き、寒さを堪えているとスライム(仮)がこっちへとよって来た。

 肌へ触れるとほんのりと暖かい。


「ありがとな、えっと............名前は?」


 ぷよぷよ


「無いのか......」


 ふるふる


「付けて欲しい?」


 ふよ


「そっか............。よし、任せろ。ちょっと待ってくれよ〜」


 名前、名前......

 俺は量には自信があるボキャブラリーを総動員してピッタリの名前を探す。


 和風じゃダメだよな。

 やっぱり横文字か?

 こいつはオスなのかメスなのか......

 いや、その前に性別はあるのか?


 色んな事を考えながら記憶の中からピッタリの言葉を見つけ出すべく奮闘する。


「───サフィール......」


 気づいたらそんな単語が口から漏れていた。

 スライム(仮)の姿を見ていると透き通った綺麗なボディーが宝石の様に綺麗なのだ。


「なあ、サフィールってのはどうだ?」


 ふよ?


「サファイアって意味なんだ。誠実や慈愛って言葉を持ってるんだぜ。それにさ───」


 俺は魔眼を解放しスライム(仮)を見つめる。


「俺の魔眼で見ると、お前って青色に輝いて見えるんだよな。サフィール、どうだ......?」


 ふよっ、ぷるっ、


 おおっ、どうやら気に入ってくれた様だ。

 元気に揺れている。


「よろしくな、サフィール」


 ふよっ!!


 俺はサフィールを抱き上げてそう言った。


 ───契約成立


 瞬間、

 どこからかそんな声が聞こえた様な気がしたが、気のせいだろう......







 俺とサフィールは暗がりの中を歩いていた。

 正確に言うとするならば、俺はサフィールを纏い、サフィールは俺に纏われているので歩いているのは俺だけになるのだが。


 俺が目覚めた時、夜って気付けなかったようにサフィールを纏うと暖かく、さらに夜目がきくのだから便利便利。

 ここでさらに魔眼を使うと早速無敵である。


「おっ、あった、あったー」


 ここで俺は地面に突き刺さっている木の枝を見つけた。

 これは俺が目印に立てといたやつだ。

 後は目印に沿って帰るだけの簡単なお仕事となっている。


 俺は茂みを掻き分け林の中へと入った。

 やはりサフィールと魔眼のコンビは最強のようで「暗そうだなぁ〜」とか心配しながら入ったのにビビり損である。


 地面についていた目印を頼りに初めに降りた場所を目指し、ひたすら歩いていく。

 以外と距離があるな。

 来る時は声につられて先へ先へって感じだったしな。

 まあ、別に苦って訳じゃあない。

 サフィールのお陰で暖かいのと良好な視界があるから夜ならではの景色を楽しめる。


「なあ、サフィール」


 目的地に近づいて来た俺は、サフィールに話しかける。


「お前は本当に俺と来るのか?」


 これは今夜、何度目になるかも分からない質問だ。

 サフィールの正体を俺は知らないし、もしかしたら家族もいるのかも知れない。俺に付き合う義理は無いのだ。


 だが、サフィールは俺について行くという意思を変えようとはしなかった。

 聖域から出てでも俺と一緒にいくという意思を。

 サフィールとの意思の疎通は少し一方通行な所がある。俺が言葉で伝えて、サフィールは単語で返すって感じだ。

「うん」「いや」「ありがとう」「ごめん」「やった」「うれしい」と、こんな感じ。

 だが、不思議とサフィールの喜怒哀楽はしっかりと伝わって来た。初め俺がついて来るのを反対した時なんて、プルプルと震えてなんか今にも泣き出しそうな感じだった。


「なあ、サフィール」


 ふる


「お前は俺に命の恩人だから、借りがあるからと言ったな」


 ぷる


「そう言うならお前も俺の命の恩人だよ」


 ふる?


「不思議か? 俺はさ、勝手にお前を助けた訳だろ。そして気絶した」


 ふる


「もしかして、あのまま濡れた服であそこに寝ていたら俺は死んでいたかも知れないわけだ」


 ............


「だからさ、俺にサフィールがついて来る意味なん───ってわっ」


 ふるっ、るっ、


「っおい、冗談だって。怒るなよ、頼むから」


 ふるる


「分かった分かった。もう二度とこの話はしないからさ。お前は俺について来る。それでいいだろ?」


 ふるるっ、


 おおっ、納得したのか嬉しそうに揺れてやがる。

 本当にからかい甲斐が───いや、可愛いなぁ。


「おっ、これだこれだ」


 この異様に生命力と言うか魔力を持った木。

 うん、地面にはちゃんと俺が降りて来た跡と、木剣を落とした時に───


「───っあぁ!!」


 俺は気付いてしまった。

 いや、もっと早く気づかなければならなかった。

 俺の腰。いつもの定位置にそいつは無いのだ。

 いつも持ち歩いていた相棒ならぬ愛剣。木剣が、


「おい、サフィール。戻るぞ、俺の木剣がない!!」


「そう、木剣だ。俺が腰にさしてたやつ」


「えっ? ここにある?」


「どういう事だよ」


 俺が疑問に思うと同時にサフィールはドロッと俺から離れた。


「───ッ寒」


 当然、夜の冷えた空気が襲いかかって来る。

 全く何を考えてんだサフィールは。まあ、サフィールの暖かさに頼っていた俺が言えたもんじゃないけどな。


「ああ、大丈夫。それよりここにあるってどういう事だ?」


 肩を抱き、震える声でサフィールへと疑問を投げかける。


 するとサフィールがブルッと震えた瞬間。


「───え?」


 なんとサフィールの中から木剣が出て来たのだ。

 試しに引き抜いてみるも俺の木剣である。柄の所にU.G(ユリウス・グラッドレイ)と彫ってあるので間違い無い。


『物を隠したかったらスライムに食わせろ』


 とある童話の中にあった台詞(セリフ)を思い出す。

 確かあれはスライムの「自身の質量以上の物を捕食できる」という特性から来た言葉だったはず。

 でもその後に


『取り出す事は出来ないんだけどな』


 って言葉が続いていた。

 もしかしてサフィールは......


「もしかしてサフィールは物をしまったり出したりできるのか......?」


 俺が声に出し、疑問を投げかけるとサフィールは肯定の意を示す。


 マジかよそれって疑似アイテムボックスじゃん。スライムすげー。

 と、俺は驚きを隠しきれないでいた。

 いやでも、これは意思の疎通ができるからの事なのか?


「なあサフィール。お前ってどのくらいの量の物をしまえるんだ......?」


 ふるっ、ふるるっ


「........................」


 いやいやいやいやいやいやいや。

 制限はないって......

 何それ、チート?

 サフィールだけなのか、それとも全てのスライムがそうなのか......?

 それにしてもおかしいだろ。

 何考えてんだこのスライムさんは?


「......お前、凄いな」


 俺が漏らした言葉に反応しサフィールが嬉しそうに震える。


 まとめてみると、

 夜目がきく。

 暖かい。

 疑似アイテムボックス......


 いやいや便利(チート)過ぎんだろ。

 まあ、あって困るものじゃないんだが。いや、すんごくありがたいんだが......。

 複雑な気持ちだ。


 驚き黙り込んでいる俺にサフィールがゆっくりと近づき纏わり付く。

 あー、暖かーい。

 間違いなく仲間にしたいスライムナンバーワンっすよサフィールさん。マジぱねぇ。


「......ありがとうなサフィール。俺の家族も心配してるだろうし、帰るか......」


 ってか、どうやって上がろう。

 塀の高さは三メートル。木に登ったとしても塀までは横一メートル、縦一メートル。さらに足場の不安定さが追い打ちをかける。

 まず無理だ。


「......登れねーじゃん」


 そんな俺の小さな呟きを聞きつけた、と言うよりピッタリくっ付いてるので聞いたサフィールが行動を起こした。

 なんと身体の一部を伸ばして塀の上へとくっ付けたのだ。

 塀の高さは三メートル。もう一度言う、三メートルだ。

 この子にはもはや質量保存の法則なんて通用しない!!

 と、声を大にして言いたいね。

 ようは、ファンタジーだ。


 そのままスルスルと俺を塀の上へと持ち上げていくサフィール。

 気分はまるでス◯イダー◯ン!!

 なんて馬鹿な事を考えてる間に塀の上へと到着した。

 そこから見える一等区画は真っ暗で二等区画も生活の雰囲気はなく真っ暗で、どうやら今はそうとう遅い時間の様だ。


 キュルルルゥー


 街を見て安心した途端にお腹が可愛い音を立て空腹を訴えて来る。

 と、同時に言い訳について考え始めた。


 俺の年は五歳とちょっと。そんな子供が皆が寝静まるまで帰ってこない。

 ......うん、いろいろとマズそうだ。

 きっと母さんなんて............

 これは早速、帰りたくなくなって来た。


 まあ、帰らなくてはしょうがない。


「──サフィール」


 登った時と同様にサフィールの力を借りて塀を降りる。

 どこか、芝生の地面が懐かしく感じて来る。

 家までは歩いて三十分っていった所か?


「──おっ」


 俺が黙り込んでいるとサフィールが俺の体表面を離れTHEスライムって感じの形になり頭の上に鎮座する。サイズはソフトボールのボールが二つ分くらい。不思議と重さは感じなかった。


「──よしっ」


 一呼吸置いて気合を入れる。

 そうして闇の中、聖域内よりもだいぶましになった冷たい空気を裂きながら俺は走り出した。






 ******






 ───二等区画、グラッドレイ家のリビング


 そこには家主のジョルジュと妻のユニアス。そしてメイドのリニアとフェルムが同じテーブルにつき静かに過ごしていた。

 そんな時である。

 玄関の扉がギィィッと申し訳程度の音を出し開く音が静かな室内に響いたのだ。

 途端、ユニアスが勢いよく立ち上がり玄関へと走り出す。

 それにジョルジュ、フェルム、リニアと続く形で玄関へと急いだ。


 ジョルジュが玄関に着き、初めに見たのは泥だらけの息子(ユリウス)とそれを嗚咽を漏らしながら抱き締めるユニアス。

 ユリウスの顔は下がっており、「ごめんなさい」と誤っていた。

 ユニアスは「ユリウスが無事ならいいのよ」と言いながらユリウスの頭に手を伸ばしなでようとして何かに気づいた様にその手が止まった。

 そう、ユリウスの頭の上にいる真っ赤なスライムに気付いたのだ。


 この世界にはモンスター階級(ランク)と言うものが存在する。

 簡単に言うと魔獣や魔物の強さや危険性、もたらす被害から決められた階級だ。

 全部でSS S A B C D E F Gと九段階あるのだか最低のGランクに位置するのがスライムである。


 戦闘能力も低く、危険性も皆無。

 スライムによる被害が起きたとしても一般人の手で処理してしまえるレベル。

 ハッキリ言って危険なんて言葉は無縁だ。


 だが、その存在はハッキリとはしていない。

 他の魔獣や魔物は繁殖や産卵で増えるのに対し、スライムは突然発生するのだ。

 しかし発生するのも魔力溜まりなどの比較的に魔素(マナ)の濃度が濃ゆい所。故に人と接触する機会も無い。


 これらの理由によりスライムは唯一Gランクとされているのだ。


 ジョルジュの頭の中をこの情報が一瞬の内に駆け巡る。

 これも過去の、修行時代の経験からだろう。

 と、同時に何時でも動けるようにと体制を整える。


「──っと、待ってください父さん!!」


 ジョルジュの雰囲気の変化に目ざとく気づいたユリウスが声を上げる。

 そして、スライムに驚きユリウスを放していたユニアスを尻目に後方へ下がる。


「──サ、サフィールは安全です!!」


 そして頭に乗っていたスライムを持ち上げ、自分の背中に隠しながら言った。






 ******






 サフィール。

 ユリウスが真剣な目をしてジョルジュに訴えかけた。

 この時すでにジョルジュにはユリウスの帰りが遅い、と言うか日付が変わって帰ってきたのに対して怒る気はなくなっていた。

 別にこれはユリウスが心配じゃないなんて事はない。ただ、ユリウスの目を見て話を聞いてそう判断したのだ。


 ユリウスは聖域内に入った。

 そこでサフィールに出会った。

 まるでお伽話のようではないか。

 ジョルジュはそう思った。


『ユリウスは自由に生きさせてあげたい』


 これがジョルジュとユニアス、つまりユリウスの両親の願いだ。

 だからユリウスの事に対してあまり口出しをするつもりはない。

 自分たちは縛られた人生を送って来たのだ。

 ユリウスには(しがらみ)なんかとは無縁の人生を歩んでもらいたい。

 その上で間違った事をしたら正し、自分たちがやってあげられる事は全力でサポートしたい。


 それが二人の思いだ。







 数日後のとある朝、

 ジョルジュはユニアスとユリウスの三人だけの時に口を開いた。


「──ユリウス。将来、何かしたい事はあるか?」


 そんな言葉に一瞬悩む様子を見せるも直ぐに顔を上げるユリウス。


「......僕は冒険者になってみたいです。そしてこの世界を見て回って、色んな体験をしたい」


 そう語るユリウスの瞳はどこか輝いていて、まだ見ぬ世界に憧れを抱く子供の様に純粋だった。

 ジョルジュは昔を懐かしむと同時に「強さ」について考えた。


(ユリウスは賢く思いやりがあるいい子だ。きっと間違わないだろう......。それに冒険者になるのなら力も知識も必要だ。でも、ここじゃあそれを学べない)


「そのためには何が必要だと思う?」


「必要な、もの............」


 それからユリウスは(うつむ)き何かを考えているようだった。

 そして恐る恐るといった感じで口を開き、


「強さと知識、ですか?」


 と言ったのだ。

 ジョルジュは瞬時にユニアスの目を見た。

 ジョルジュのアイコンタクトに気づいたユニアスは視線をそらす事なく、静かに頷いたのだった。


「なあ、ユリウス」


 ジョルジュの雰囲気が変わったのに気付いたのかユリウスは居住まいを正す。


「──お前のお爺さんの所に行かないか......?」


 静かに、そしてハッキリとそう告げたのだった。




いやー、やっとここまで来ましたよ。

もうね、長かった


と、言うわけでおそらく後二話で〈聖域都市ツェルグブルグ〉が終わりとなります。

うん、三日ごとの投稿だから凄く長く感じた。


誤字指摘なんかお願いします。


サフィールさんまぢチートッッ!!

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