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秋の夜長と三連休

女上司×部下

 早く終わらないかな……。

 時計を確認すると、既に二十三時を過ぎていた。

 今日は無理か……いや、二枚位ならいける気がする。明日からは三連休。一日七枚は固い。だとすると……部長の話に失礼にならない程度に相槌を打ち、グラスに残った烏龍茶をちびりちびり飲む。

「あれぇー? 小倉くん、いつもビールなのに珍しいね」

 くそ、目敏いな。

「今日は体調がちょっと……」

 笑顔を張り付けてそう返すと、部長はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ「アノ日かい? 女性ってもんはアレとの付き合いが長くなっても慣れないもんなんだねぇ」などとぬかす。

 セクハラ親父め! 確かに私はアノ痛みとの付き合いも随分長いが、あれは付き合いが長いからと慣れるものではない。

 大体、今日はアノ日でもなければ体調も悪くはない。ただ酔うわけにはいかないのだ。酒を断る理由として体調不良を出したのだが、選択を誤ったようだ。

 苦々しく思っていると、やっと幹事がお開きの挨拶を始めた。

「えっと、じゃあお開きにしたいと思いまーす。二次会行く人はぁー……」

 勘弁してくれ。誰が行くものか。私には行く用事があるのだ。本来ならば一次会すら時間が惜しかったが、会社の一員としてそうもいくまい。だが、やっとその責務からも逃れられる。

 大体、男性が多い今の部署は女性陣は二次会には行かない。残念がる男性陣もいるが、今時の若い男性社員もドライなもので会社の付き合いは一次会まで、としている子が多いようだ。よって、二次会には頭髪の寂しさやポコンと突き出た下腹が気になるお年頃の面々が肩を組み騒々しく移動する。

 それを見送り、さて駅に向かおうかと思ったところで、同じく見送りメンバーだった女の子が聞こえよがしに呟いた。

「周防くんが送ってくれるって車取りに行ったんだけどぉー。どうしよーう。なんか人数多くなーい?」

 残っている女性陣は自分も合わせると四人。確か女性社員のアイドル周防くんはスポーツカータイプの車を乗っていたはずだから……なるほど、一人あぶれるという事か。

 周防くんに送ってもらい、あわよくば……と考えたお嬢さん方が牽制しあっているという事か。それならば心配はない。

「お疲れ様。私はまだ電車あるから駅に行くわ。あなた達は周防くんに送ってもらいなさい」

 これは遠慮でもなんでもない。早く目的地に行きたいのだ。そこは駅前だから、このまま電車で行きたい。

「えー。小倉主任、それはなんか悪いですぅー」

 そうは口で言いながらも彼女達の足は動かない。

 内心ほくそ笑んでいるのがよく分かる。

「あなた達は若いし優秀なんだから、何かあっては私も困るわ。じゃあ、周防くんによろしくね」

 それだけを言うとさっさと駅に向かった。


 家の最寄り駅に着くと、駅向かいにある店へと向かう。まもなく零時という深夜でも明かりが煌々と辺りを照らし、ここだけ昼間のようだ。

 念のため周囲を確認し、すばやく目的の棚に向かった。

「あぁ……! 今日は何を借りよう?」

 パッケージを見ているだけでウキウキする。

 ある程度の目星はつけていたのだが、最初が無かったり中が抜けていたり……せっかくの三連休、全巻揃って借りたいではないか。折しも今日は準新作半額クーポンまであるのだ。新ジャンル開拓もいいかもしれない。

 そう考え棚の裏にまわりこむ。

「あら? これ、以前は一枚ずつしか無かったのに……五枚ずつ置いてる」

 横には『四期制作決定! 今冬オンエア!』とある。

「新シリーズが始まるから再入荷したんだ。全巻あるわ。ラッキー」

 各十巻で三期となると、三十枚か……ちょっと大変だが、挑戦しがいのある数だ。なにせ人気のシリーズだ。再入荷したてと思われる今がまとめ借りのチャンスだろう。

 食事も簡単なものだけにして……うん、今日の事を考えてお酒もミネラルウォーターも事前に買いこんである。計画通り、三連休は家から一歩も出ないでやる! 三日間全てアニメ三昧だ!! どうしよう、考えただけでトキメキが止まらない。

 やる気の無いスタッフが三十枚のDVDをノロノロとさばくのを根気強く待って意気揚々と店を出た。

 家までの距離は徒歩で十分とちょっと。あ、ポテチも欲しいな。そういえばお酒を買った時に迷ったけど、お酒と一緒に雑に袋に入れる店員も居るので、避けたんだった。よし、飲物は買わなくていいんだから、今日ポテチを買っていこう。三連休なんだから三袋でしょう! うす塩にコンソメは鉄板。あと一つは季節限定から選ぼう。

 肩から提げたバッグと右手にレンタルDVDのバッグ、左手にポテチ三袋が入ったコンビニ袋を持って上機嫌でマンションへと向かった。

 マンションの横の空き地に見知った車が止まっていたのに気付いたのはマンション入り口のセキュリティを解除しようとボタンに向かった時だった。

 バタン!

 大きな音がしたと思ったら、長身の影が迫ってきた。

「満ちるさん!」

 一気にその影に抱き締められる。

 むぐぐぐ。苦しい!

 とっさの事でポテチの袋を落としてしまった。割れてないかな? ていうか、どうしてここに周防くんが居るのだろう。

「心配しました! 送ろうと思ったのに、満ちるさんは居ないし、こんな時間になっても帰って来ないし! 何度も何度も電話も、メールもしたのに!」

 送ろうと思った? 私を? ていうか何で名前? こんな時間って、今何時? 電話って? 私、メアド教えたっけ……? それに――。

「なんで家知っ――」

 その言葉ごと、周防くんの口に飲み込まれた。

 するりと素早く舌が入り込み、角度を変えて深くなった口付けは鼻で息をするのも困難な物になった。

「ん――ふぅっ」

 苦しさに漏れた声に、ようやく唇を離した周防くんが熱い息を吐いた。

「焦らしに焦らした挙句に、そんなに煽らないで」

 何の事だ。焦らしたつもりも煽ったつもりも無い。

 でも反論しかけた唇は、また周防くんの唇によって強く吸われる。


 結局、唇どころか全身くまなくキスされ、食われてしまった……。

 三連休、ずっと居座った周防くんの所為でDVDは一枚もケースを開けられる事無く返却する事になったのは大層悔やまれる。ポテチはやっぱり少し割れていたし。

 でもぐうたら連休の事前準備として掃除をしっかりしていた事には少し安堵した。

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