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もし教室に武装組織が襲撃してきたらどうしよう

作者: つばこ

 三年二組、男子、青山はふと考えた。

 今は世界史の試験中だ。みんな無言で試験用紙と向かい合っている。

 この状況でいきなり教室を武装組織に襲撃されたら、自分はどのように戦うべきか。ふと青山はそんなことを考えた。


(そもそも、武装組織の正体はなんだ? 相手の人数は? 装備はどこまで持っているのか、そこが重要だぞ……。俺は何も知らないまま相手と戦うことになる。だが試験中に強行突入する相手だ。最大限の武装はしているはずだろう。やっぱりアサルトライフル、暗視スコープ、グレネード、サブマシンガンや短銃にナイフまで持っているかもしれない。こいつは強敵だぜ……)


 ここは校舎の最上階。四階の隅にある教室だ。


(きっと屋上から攻めてくるな。俺たちは丸腰だ。即座に射殺することも可能だが、まずグレネードを投げ込むのも悪くないよな。まずスタングレネード、うん。これで来るはずだ。教室の窓が割られて何か丸い物が投げ込まれる。間抜けなクラスメイトたちは「なんだろ。鳥かな」とか思うだろうが、俺は即座に気づいてしまうのさ。きたな、グレネードだ。俺は即座に机の下に潜り込んで目を閉じて耳を塞ぐ。教室にスタングレネードの閃光と爆音が響き、これでクラスメイトは基本的に全滅だ。唯一立ち上がるのは俺だけ。敵は一瞬だけ油断しているはずだ。そこで俺は即座に教室の床を転げ回り、一人の男に跳びかかってアサルトライフルを奪い取るんだ)


 青山はシャーペンをライフルに見立て、何となく振りかぶってみる。


(これで弾切れになるまで撃ちまくるんだ。クラスメイトを誤射してしまうかもしれないが、そこは俺に免じて許してくれ。もう教室は戦場なんだ。生き残るためには戦わなければならないからな。アサルトライフルで敵を倒し、死んだ敵からまた武装を剥ぎとって撃ちまくる……)


 そこまで考えて、ふと疑問に思った。


(待てよ。なんで、そもそも武装組織が教室に襲撃してくるんだ……。理由がないじゃないか……。そうか、狙いは俺の片思いの人、平野さんの抹殺か。試験中という油断している隙を狙った襲撃なんだ。つまり平野さんは国家にも狙われるような超能力を持つスーパーエージェントで、その生命を狙いに来た、そのための襲撃なんだ。教室の敵を殲滅したら、平野さんと一緒に逃げよう。きっとスーパーエージェントであり超能力である平野さんも腕をガトリングガンに変化させて敵を殺しているはずだ。廊下に出ると教室が爆破され、俺達は手を取りあいながらまず学校を逃げ出す……)



 一方その頃、青山の後ろに座っていた岩瀬は、ひとり男性器を勃起させて苦悩していた。


(ど、どうしよう……。試験中に勃起しちゃった……。全然エロいことなんか考えてないのに、やばいって。徹夜で年号なんか覚えていたから、下半身に変な疲れが出ちゃったのかなぁ……。勃起なんて女子に見られたら即死だ。海綿体から血液を逃がそう。何か違うことを考えるんだ)


 血液を顔に逃がすため、岩瀬は「最近頭にきたこと」を考え始めた。


(怒りだ、怒りによって顔面と脳を興奮させて、血液を顔に逃がすんだ。最近、一番頭に来たのは……。そうだ。あれだよ。平野さんに酷いことを言われたんだ。僕が授業終わってお昼を食べようとしたら、スレ違い様に「このゴミクズが」って言われたんだ。くそぉぉ。あれは本当に頭にきたよなぁ。ちょっと可愛いと思って生意気なんだよ。男から告白されてるからって調子のってんじゃないぞ。お前は確かにスタイルも良くて髪もサラサラで八頭身でモデルみたいな体型で小顔の学校のどこを探しても見つからないほどの美形かもしれないけどなぁ、スレ違い様に「ゴミクズ」呼ばわりするなんて人間じゃねぇ。そうだよ。アイツは人間じゃないんだ。くそぉぉぉ、あんなヤツなんだ。鞭でピシピシ叩いて服従させてやる。そうだよ、そうやって躾てやるんだ)


 困ったことに血液が逃げない。


(くそぉぉぉ! 全然血液が逃げないじゃないかぁ! これも全部平野のせいだ! また家に帰ったら平野の写真の下に裸の写真をつけて飾ってやるッ! そうやって汚しに汚しまくってやるんだ! 見ていろ平野ぁ!)



 一方その頃、岩瀬の後方に座っていた益田は、右手に宿る悪魔の力が解放するんじゃないかと心配していた。


(俺の右腕が、血を求めている……。この震えはついに大邪神サタン様の力が目覚めようとしているんだ……。いつか夢で見た。力が欲しければ我と契約を結べ、と言われたようなそんなような夢を見たような見なかったような気がするようなしないような感じだ。俺は捧げた。サタン様の力を得るために契約したんだ。この右腕の痺れはそうに決まっている)


 右腕はプルプルと痙攣し、益田は左手でそれを押さえている。


(気のせいか、右半身も痺れているような気がする。足とか感覚もないし、頭も何かズキズキするような痛みに襲われている。くそっ、こんなところで力を解放しないでくれ。きっと俺の掌はゴーレムでも召喚して魔法を使っちゃうような気がする。そんなゲームをやった。サタン様はきっとそれぐらいの力を発揮するぞ。ここには俺の片思いの平野さんがいるんだ。平野さんを巻き込んでしまいたくない。頼む。学校が終わったら全ての力を解放する。それまで堪えてくれ俺の右腕!)



 一方その頃、益田の後方に座っていた増井は、テスト用紙の裏に人体の絵を描き、オリジナルの呪いを試していた。


(ヒヒヒ……。これが、僕の考えた呪いだ。これをまたオカルト板に貼ってやるぞ。また都市伝説を作ってやる。まず試験中に塩を机の下に盛り、紙に人体の絵を描き、その中心に呪いたいヤツの名を書くんだ。そうだなぁ。平野さんにしようかな。ヒヒヒ、呪いたい部分に赤丸をつけて、グリグリ押すんだ。右腕がいいな。右半身を真っ赤にしてやる。これで平野さんは謎の痺れに呻くんだ。こうでこうでこうだ。くらえくらえ)



 一方その頃、増井の後方に座っていた久保は、宇宙神パークマザイヤー様と交信していた。


(ムムム……パークマザイヤー様……ピッポルンポポス……バプポペルペル……ピピッ?)


 目を閉じ、そっとパークマザイヤー様の言葉を聴いている。


(パプ…………プニテル、平野?)


 思わず目を見開き、窓から空を見上げる。 


(ピーポーペルパパルペルンルポンピピッポンルルニポビーノ! 平野ピュルンルンペルンパ!)


 パークマザイヤー様の言葉は絶対だ。逆らうことは許されなかった。


(ピュペルン、パルン、ポルパー……)



 一方その頃、久保の後方に座っていた山口は、昨日うっかり食べてしまった謎の実の正体に苦しんでいた。


(やばいなぁ、なんだか体の調子がおかしいんだよ。増井がゾオン系の悪魔の実とか言ってたけど、あれマジなのかなぁ。なにがモデルなのか知らないけど、俺のお腹がずっとゴロゴロ鳴ってるんだよなぁ。ゴロゴロかと思ったけど俺の体は普通だし、もうトイレ行きたくてしょうがないんだよなぁ)


 何度か手を上げようと試みている。限界は近い。


(でもなぁ、試験中にトイレ行ったら絶対うんこしてきたぜ、とか言われちゃうよなぁ。それは嫌だよぉ。平野さんに「うんこ」してきたなんて知られたくないよぉ。いくらお腹が空いてると言っても、変な物食べちゃ駄目だよなぁ。それとも本当に能力者になったのかなぁ。でもお風呂で泳いでみたけど、俺は全然元気だったしなぁ。お風呂じゃ駄目なのかなぁ。トイレいきたいなぁ。でも能力者だったら何か能力なのかもしれないしなぁ。どんな能力なのか知りたいなぁ。主役級だったらいいなぁ)


 限界は近い。むしろもう、限界を超えている。


(やばいよぉ。もうやばいよぉ、もう立ち上がったら俺の能力が発動しちゃうよぉ、もうどうにもならない事態まで追い詰められちゃったんじゃんかよぉ。ああっ!)



 一方その頃、山口の後方に座っていた大石は、天井から頭を出している血まみれの生徒と見つめあっていた。


(お前は……誰だ?)


 顔だけが天井から突き出している。


(他のみんなは気づいていない。俺にだけ、見えているのか……?)


 男子生徒は薄ら笑いを浮かべている。その顔から血が垂れそうだ。


(……やらなくちゃいけないな。恐らく地縛霊だ。相手の霊力は……)


 大石は右手で輪っかを作り、その穴から天井に生えた頭を睨みつける。


(霊力は163……やれる。ここには師匠がいないが、俺の念力で成仏できるレベルだ。間違っても俺の大好きな平野さんに危害は与えないぞ! くらえ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!)



 一方その頃、大石の後方に隣に座っていた平野は、「テレパス」という名の心を読むことができる超能力を持つ本物のエスパーなのだが、世界史の試験があまりに難しいので何もかも諦めて寝ていた。



 一方その頃、平野の右隣に座っていたは西村は、こっそり小さいメモを取り出すと、試験監督の教師に見えないように増井に投げつけた。


「……ん?」


 不思議そうに振り返る増井に、顎で「拾え」とメモを示す。増井は「呪いをかけるな。死ぬぞ」と書かれたメモを見て仰天したように首を横に振った。


(なにを否定してんだよ。俺の左目にある邪気眼は全てをお見通しなんだよ)


 そっと左目の眼帯を元に戻し、自らの邪気眼を隠す。


(まったく、邪気眼で世界史をカンニングしようとしたら、変な呪いの絵を見てしまった。俺の邪気眼は一般人には毒でしかないんだ。長時間解放していれば倒れる人間が出てくる。家系とはいえ、厄介な能力を授かってしまったものだ……。この能力は妖との対決のために温存しておかなくてはならない。いつアイツらが現実世界を襲うかわからないからな。運が良いことにまだ一度も戦ったことがないが、その日が人類にとっての繁栄が終わる日だろう。だがただでやられると思うなよ。人類には最終兵器、この西村様がいるんだ。俺の邪気眼ビームで全滅させてやる。そして片想いの平野さんだけは守るんだ。俺の邪気眼で必ず守ってみせる!)



 一方その頃、西村の前方に座っていたブラジルからの留学生バーネットは世界史の問題に悪戦苦闘していた。


(オウ……ニホンゴ、ワカリマセーン……)


 世界史の知識は詳しいのだが、問題を読むことが難しい。


(コンナコトナラ、ダイスキナ平野サント、エッチナモウソウデモ、シテイレバヨカタ……)



 一方その頃、バーネットの前方に座っていた武田には神が降臨していた。


(私は神だ)


 神となった武田はそっと目を見開き、世界史の問題を見つめる。


(だが神は万能ではない。神とてわからないこともある。さぁ大天使ミカエルよ、この問いの答を教えるのだ)


 ミカエルの声を聞き、神は頷きながらマークシートを塗りつぶす。


(ふむ、これはC、と……。さぁ大天使ガブリエルよ。次の問いの答を教えるのだ)


 ガブリエルの声を聞き、神は困ったように顔をしかめた。


(なに? たまには休暇が欲しいだと? そんなことは聞いていない。そのまま休暇をとって堕天してもらっても構わないのだぞ。そうだ、それでいい。地下鉄が二十四時間営業となり、サラリーマンの残業に終わりがなくなったように、神は休暇の時間など与えないのだ。大天使メタトロンよ、代わりにこの問いの答を教えるのだ)



 一方その頃、神となった武田の左隣に座っている山口の後方に座っている大石の後方に座っている超能力者の平野は目を覚まして「そうだ、みんなの心を読んでカンニングすればいいじゃん」と気づいてクラスメイトたちの心を読んでいた。


「ちょっと! お、お前ら!」


 平野の叫び声に、アメリカ人ハーフのファルケンボーグ山本先生が驚いて尋ねる。


「なんだ平野、どうかしたのか」

「お、お前らホモばっか! ここは男子校! おまけにどいつもこいつも厨二病! まず増井! その変な呪いを止めろ! 益田が死んじゃう! あと久保! パークマザイヤー様って誰だよ! そんなことより山口! お前、早くトイレに行って! お願いだから早くトイレに行って! 炎上しちゃう! うんこ炎上しちゃう!」


 その声と同時に「うわあああ!」という叫び声が、山口の口から漏れた。そして肛門からも漏れた。


「ぎゃああああ!」


 激しい異臭と悲鳴が巻き起こる中、大石が天井を睨みながら叫んだ。


「れ、霊力が上がっていく! 霊力8635だと! く、くそっ! みんな逃げろ!」

「下がれ大石! この西村様の邪気眼で倒す! ついに現れたな妖め!」

「じゃ、邪気眼だって! よし、西村、力を合わせよう!」

「ポンピピッポンルルニポビー!」

「うあああ! もうダメだぁぁ! 右腕のサタン様が蘇るぅぅぅ!」

「この力は……ルシフェル! この神の前に現れるとは、決着をつける時が来たようだな!」


 バリーンと教室の窓が割られ、何か丸い物が投げ込まれた。クラスメイトたちが「なんだろ。鳥かな」と思った瞬間、激しい閃光と爆音が教室に響いた。


「うわああああああ!」


 また教室に悲鳴が巻き起こり、武装集団がアサルトライフルを持って襲撃してきた。青山は必死に銃を奪いとろうとし、岩瀬は男性器を勃起させたまま逃げ出し、サタン様の力を得た増田は無敵で、増井はあっさり気絶し、久保はパークマザイヤー様に祈り、山口は色々あって人生が終わり、大石は霊能力でバリアを張り、西村は邪気眼で空間をねじ曲げ、バーネットは泣いて逃げ出し、神となった武田は大天使ウリエルを召喚していた。一方その頃、担任であるファルケンボーグ先生はこんなことを思っていた。


(なんだろう。なんか一人足りない、どうも一人足りない気がするんだよなぁ……)


 平野は右腕をガトリングガンに変えながら叫んだ。


「どうでもいいよ! それたぶん……いや、もうそんなことどうでもいいよ! くそっ! 機関の連中め! ついに襲ってきやがった! 俺は人体解剖なんかされたくないぞ!」


 色々あって教室は爆破し、平野は急いで廊下に飛び出した。


「待ってくれ! 俺たちも一緒に行く!」

「お前ら、来てくれるのか! よし、一緒に戦おう!」


 この日から超能力者である平野と、邪気眼を持つ西村と、霊能力者である大石と、宇宙人である久保と、サタンと神とただの人間である青山、七人の戦いが始まった。やがて彼らが世界を救い、七英雄と呼ばれ、機関のボスであるミコライオを倒す日まで平野たちの戦いは終わらない。頑張れ平野! 平野たちの戦いはこれからだ!



(おしまい)

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