これも運命
死を迎える人のことを、死仰者と呼ばれている。
死を迎える人とはどんな人なのか。具体的に言うと。
後もう少しで死ぬ人のこと。と思って貰って結構だろう。
人の魂を冥界へ送るのが、私達死神の仕事。
しかし、死んでからの魂は冥界へ送ることが出来ない。
かと言って放っておくと、その魂が悪霊へと変わってしまう。
だから死神は、死ぬ寸前の命を絶たせなければならないのだ。
偶にあるのは、事故死での例。
死神には、『この人は後数秒で車に轢かれる』というのが自然と感じ取れる。
そう言うときは轢かれる寸前で魂を抜き取らないといけない。
だから、その『車に轢かれる人』を最後まで見届けなければならない。
私にだって多少は感情というものがあるし、決して心良いものではない。心は痛む。
それでもそれが使命だと私は思っている。
死神は世間でなかなかの数を誇っている。
貴方の目の前にいる友達も死神かも知れない。
まぁ、冗談はさておいても、数は結構多い。
それは、一つでも悪霊を生み出さないためである。
が、さっき言った事故死みたいなことを嫌う死神もいる。
そういうのは死神としてどうかと思うのだが、共感は出来なくもない。
しかし、そういうものがいる御陰で―――
「私がこうやって街に出ないといけないのよ…!」
思わず呟いてしまった。なかなかに怒りを含めてみた。
私は交差点前のベンチでただ一人座っていた。
季節は春。桜の匂いが鼻を擽る。
街の人々はファッションだ花見だ、とにかく楽しそうに見え、少し閑散としてしまった。
「隣、いいですか?」
そう訪ねてきたのはこれまた若い男だ。
何が狙いなのだろうか。早速、その人の『欲』を探ろうとした。
「はい」
敬語で話しかけてきたら敬語で返す。私なりのルールだ。
「……」
「……」
にしてもこの男。本当に座るだけだった。
賑やかな町中に出ると、若い男は所構わずお茶を誘ってきた。所謂、ナンパというか。
「ふぅ…」
座ってから発した言葉(?)はこれだけ。というより、溜息か。
何をするでもなく、ただ座っていて、じっと目の前を見つめていた。
まったく読めない。この人の考えが。
「僕に、何か付いていますか?」
知らぬ間にその男の顔を凝視してしまっていたらしい。
これで何かしら勘違いされたら困るな。
しまったと、心の中で悔しがる。
と、そんなことをしている間に、一人の中年っぽい男性が通り過ぎた。
その瞬間だった。
「!!」
この感覚だ。これが、死を予言する感覚。
何とも言えない、心をえぐるような、苦しい感覚だ。
私は急いでその男性の後を追っていた。
「よっこいしょ…」
すると、隣に座っていた男も立ち上がり、私に着いてきた。
なるほど。そういう奴か。
この男もストーカーという結局私の体目的の奴だったか。
やっぱり腐っているな。この世界は。
今度は拳をぶつけてみるか。
取り敢えず、今はそんなことを考えている場合ではない。
中年の男性は、交差点の信号が青になったにもかかわらず渡らない。
恐らく、赤になってから進むのだろう。
やがて、信号の青になったときに流れるメロディは流れなくなり、点滅すると、赤へと変わった。
そしたら案の定。男性は信号を渡り始めた。
そこへ、タイミングを見計らったかのように、オートバイクが信号を渡るのに急いだのか、猛スピードで曲がってきた。
終わりだった。
あっという間に男性は吹き飛ばされ、オートバイクもバランスを崩し、横転していた。
私にはその運転手の死の感覚が無い以上。その運転手は怪我をしても助かるだろう。
一方、さっきの男性。
10メートル以上も飛んでいき、恐らく即死だ。
即死でなくても、助かりはしない。これだけは言える。
周りの野次馬は、唖然としながら、携帯のカメラ機能で死体を撮っていた。まぁ、これも現実というやつ。
そして何人かが、その死体へ集まり、救急車を呼びかけていた。
私もその中へ紛れ込み、男性の近くに寄った。
人の魂を抜くには、半径5メートルくらいからだと出来る。
早速、魂を抜く作業に入った。
目を瞑り、神経を集中させる。
力を入れずに手のひら合わせ合い、小さな空洞を作るようにする。
簡単に言えば、おむすびを握るような感じだ。
そうすると、急にぽっと手のひらが暖かくなる。そうなるともう魂は抜けている。
後は、手のひらを擦り合わせると終了。死神としての任務が終わる。
筈なのだが、いつまで経っても手が温かくならない。
この儀式はそんなに時間が掛かるものではない。
少しの動揺が私に襲う。
しかし、そうやって独り相撲をとっていると、いきなり後ろから肩を掴まれた。
「ひゃっ…!?」
「あはは。キミにもそんな声が出せるんだ」
さっきの男だった。急に私に話しかけてきた。このタイミングで?
何なのか…。そろそろ喰らいたいのかな。私の拳。
そう思い、拳を握りしめた瞬間だった。
「ねぇ…。死神さん?」
何の冗談かと思った。
「何のことです?」
先程のベンチに向かいながら、あくまでも冷静に対応した。
といっても、この人も死神なんだろうなと予感めく。
「そんな改めなくても~。僕も死神です。先に魂の方。いただきました」
そんなことだろうと思った。
感覚が来て、その人が死んでいるのに魂が抜けない理由はただ一つ。
他に近くで魂を抜いている奴がいるからだ。
「はぁ。それはどうも。じゃあね」
この地域は用済みだ。既に此奴がいる。
死神同士が語り合っても何の楽しみもない。望もうともしないけど。
私は早々に歩を進めた。
「ちょっと待ってよー」
「何?」
「今の生活。退屈じゃないかい?」
急に何を言い出すかと思えば、今の生活のことだった。
「退屈よ」
「じゃあさ。僕と一緒に『学校』に行こうよ」
「学校?」
学校といえば、懐かしい響きだ。
寺子屋の時代は平和なものだった。が、戦争が始まったからか。
必ず授業前に「天皇陛下万歳」と言うのがかなり鬱陶しかった。
あの頃の人間ほど、愚かなものはなかったのを覚えている。
学校はそれ以来だ。
今は良くなっているという小耳を挟んだような気がするが、実際分からない。
「そうそう。転校生として高校生になるんだよ」
「高校…生」
正直言って、
興味がないといえば嘘になった。