魂の管理者
人間という生き物が住む、人間界。
実に腐っている。
欲がないと成り立たない者ばかりが住み着いている。
かなり昔からその『風習』はあった。
それは、言語が出来たあたりからである。
言葉が創り上げられたことで、自分の欲を相手に示すことが出来た。
「ねぇねぇキミ。可愛いよね。これからお茶しない?」
そう私に気安く喋り掛けてきたこの見知らない若い男も欲しか無い。
『お茶がしたい』という欲。『女が自分と付き合って欲しい』という欲。『交際がしたい』という欲。
まぁ、この程度の男ならそんな考えであろう。
人はそれから、自分の思うようにいかないと、無理にでもそうしようとしたくなる。
実際にそうしようとする者も中にはいる。
例えばある人間が、多額な借金を抱えたとする。所謂、思うようにいかなくなるのだ。
すると、何とかして返済金を造りたいと思う。
その時、ある人間は地道にコツコツ、『こうなるはずでなかった』と思いながらも返済し続ける。
だが、ある者は、『こうなるのはおかしい』と思い、他の者を犠牲にしてまでも無理に返済金を造る。
自分の思い通りにしたいからだ。
それが、強盗、詐欺、殺人。という、所謂、罪に繋がってくる。
「失せるんだ。私はその気はない」
「いいじゃねぇか…!俺と楽しいこと、しようよ…?」
無駄に強い力で私の手首を掴んでくる。汚らわしい手だ。
どうやら、この男は自分の思うようにいかないと、無理にでもそうする奴の部類らしい。
「止めろと言っている」
利き腕でない左手首を掴まれたので、取り敢えず右肘で顎に打ち付けておいた。
男は、私の手首を離すと、恐らく脳震盪を起こしたのだろう。ふらつき、後に倒れていた。
さて。先程から偉そうに何を語っているのか。気にはなると思う。
それはそうよ。だって私。偉いのだもの。
私の名前は、聞き慣れた名前で言うと、神。
あ。でも、神は神でも、死神。
人からは忌み嫌われる存在。
まぁでも、私がいないと人間界は悪霊で溢れかえってしまうということを忘れないで欲しい。
元々、死神というのは、『死を迎える予定の人物が魂のみの姿で現世に彷徨い続け悪霊化するのを防ぐ為、冥府へと導いていく』という役目を持っている。
そんな大事な役目を務めているのに、人からは嫌われる。
慣れっこではあるけど、私の立場にもなって欲しい。
死神ということもあって、老いもしなければ、汚れもしない。後は、空腹もしないだろうか。
進化しなければ、退化もしない。ただ、五感はしっかりとある。眠気もある。
そんな死神としての機能を持ってか、『欲』というものが無い。
唯一あるとすれば、『寝たい』くらいだろう。
ただ、死神としての仕事を全うするだけの毎日。
普段は人混みに紛れ込み、『死を迎える者』を探す毎日を過ごしている。
そんな私からすれば平凡な日々。
そろそろ退屈だと思っていた時であった。
私を変える人物が現れたのは。