第6話:ブリタニー様も
――――――――――数日後。貴族学院図書館にて。
「やっぱあたしがニコラス殿下の婚約者で決定なのかー。まあウソ吐かれているとは思ってなかったけど」
図書館でウテナさんに会えました。
休業期間中は人も少ないですから、お話しするのに図書館は穴場ですね。
ただ今日はブリタニー・モンクリーフス侯爵令嬢も一緒です。
ウテナさんとブリタニー様は同学年で、今日は図書館で勉強の約束をしていたのですって。
ブリタニー様はダークブラウンの髪と優しげな垂れ目が愛らしい令嬢です。
ニコラス殿下の婚約者の有力候補と見られていた一人ですね。
……モンクリーフス侯爵家もニコラス殿下の婚約事情について、情報が欲しいのだと思われます。
極めて当然のことではありますが。
「エルシーさん、ありがとう。あたし当事者なのに詳しいことがわからないから、すっごくモヤモヤしてたんだ」
「ウテナさんのところには王家から連絡がないのですか?」
「まだないね。憲兵とか宮廷魔道士におめでとうとは言われるけど」
憲兵とか宮廷魔道士?
そんなところに伝手があるのでしょうか?
ちょっとわかりませんけれども。
ブリタニー様に聞いてみます。
「モンクリーフス侯爵家にはどうでしょう? ブリタニー様もまたニコラス殿下の婚約者候補と言われていましたけれど、王家から通達はなかったですか?」
「なかったです。うちの父もどういうことなんだと、あちこちを聞き回っているみたいで」
「ですよね」
やはり連絡があったのはうちノックレイブン公爵家だけのようです。
わたくしがニコラス殿下の婚約者候補ナンバーワンと思われていましたし、ノックレイブン公爵家はウェステリウス王国最大の貴族ですから。
とにかくうちを宥めておかなければという考えが王家にあったのだと思われます。
「ブリタニーちゃんも婚約者候補だったのかー。侯爵令嬢だもん、当然だよね。各方面に迷惑をかけて申し訳ない」
「いえ、ウテナ様がニコラス殿下の婚約者というのは、私は結構なことだと考えているのです」
「ブリタニー様もそうお考えですのね?」
「はい。私がいくら力説しても、父にはわかってもらえないのですけれども」
そういえばニコラス殿下の婚約者決定の時、ブリタニー様は納得の表情のように見えました。
ブリタニー様の意見も聞いておきたいですね。
「ブリタニーちゃんの父ちゃんの考えが正常だと思う。あたしがニコラス殿下の婚約者じゃ、保守派貴族が納得しないでしょ。揉めちゃわない?」
「いえ、トルブレアム辺境伯家がウテナさんの後ろ盾になるようではないですか」
「エルシー様。ノックレイブン公爵家はどうなのですか?」
「王家の決定に従うと考えていただいてよろしいですよ」
調べるとウテナさんのすごい業績が出てきましたからね。
王家がどこまで把握しているのかはわかりません。
またどうして王家がウテナさんのドラゴンを倒したのスタンピードを鎮圧したのという業績を発表しないのかもわかりません。
……情報を得ていく内に、じわじわとウテナさんの規格外なところは理解できます。
少なくともうちノックレイブン公爵家はそうでした。
情報を絞ることで各自に調べさせ、時間で認知せしめるということなのかもしれませんね。
上からの発表より、自分で調査したことは信じやすいですから。
「そうですか。やはりウテナ様支持……」
「ブリタニー様。モンクリーフス侯爵家はウテナさんを推せないということですの?」
「と言いますか、父の頭が固いのです。平民がニコラス殿下の婚約者なんて承服できるか。ならばブリタニーでいいではないかと聞かなくて」
「うーん、至極まともな意見だと思う」
「逆にブリタニー様はどうしてウテナさんで納得なのですか?」
「私は貴族学院でウテナ様と同じクラスなのです。その優秀さはよく存じていますから」
「あっ、同じクラスなのですね?」
「あれ? エルシーさん知らなかったのか。エルシーさんの弟のケネス君も同じクラスだよ。だから知ってると思ってたわ」
ケネスったら何も話さないのですから!
情報の有用性をとくと教え込まねばなりません。
「ウテナ様はお勉強ができるだけではなくて、とても積極的なのです。クラスを引っ張っていく力があります。私よりずっとニコラス殿下の婚約者に向いていると考える所以です」
「ええ? そんなことないって」
いえ、ブリタニー様の言っていることは当たっています。
将来の王妃にリーダーシップは必要だと思います。
ただその牽引力も、普通なら実家の格があってこそという側面はあります。
ウテナさんが疑問視されるとすれば門地のないところですが……。
正直わたくしもウテナさんはニコラス殿下の婚約者に最適だと思い始めています。
おそらく王家は、魔法の実力や戦闘力のあるウテナさんを確保しておきたいのだろうという事情を抜きにしてもです。
ウテナさんは誰とでも自然に話すことができます。
そして説得力があります。
普通、平民が貴族学院でクラスを引っ張るってあり得ないですよ。
「わたくしもニコラス殿下の婚約者にはウテナさんがベストだと思いますよ。少なくともわたくしよりはお似合いです」
「もーエルシーさんまであたしを持ち上げて。何にも出ないぞ?」
アハハウフフと笑い合います。
ウテナさんは楽しいです。
そしてニコラス殿下の、落ち着いていながら時に人が変わったように情熱を見せる性格。
ウテナさんなら笑って合わせることができても、わたくしだとどうでしょう?
ウテナさんほどの親和性はない気がするのです。
わたくしが思いますに、ブリタニー様は大人し過ぎる。
シャーロット様は尖り過ぎている。
ニコラス殿下の婚約者にピッタリかと言われると、隙間が大き過ぎる気がするのです。
やはりウテナさんに支持を集めるのが、ウェステリウス王国のためです。
となればブリタニー様とモンクリーフス侯爵家に情報を提供しておきましょう。
情報を得るのは早いか遅いかだけだとは思いますが。
「ブリタニー様は御存じでしたか? ウテナさんの魔法はすごいのですのよ」
「ウテナ様が魔法を器用にお使いになるということは存じております」
「ネルタ・コルラ連邦の辺境で、ドラゴンを退治したのですってよ」
「ど、ドラゴン? 最強の魔物と言われている?」
「最強というわけではないけどね。でもエルシーさんもあたしがドラゴンスレイヤーだってこと知ってるのか。ウェステリウスでも話が広がってるのかな?」
「ウテナ様、ドラゴン退治というのは本当なのですか?」
「本当。飛び回るタイプのドラゴンは、放っとくと被害が予想できない規模になっちゃうことがあるんだ。辺境の人の少ないところにいる内に倒せてよかった」
ドラゴン退冶の少女はウテナさんで確定ですね。
「でもこれ、あまり言わないでくれる?」
「どうしてですの?」
ドラゴンスレイヤーだ、それだけの力があると宣伝した方が、ウテナさんの権威付けに役立つでしょうに。
「ネルタ・コルラ連邦が揉めちゃってさ。あたしがどこに帰属するかで。ほら、ネルタ・コルラっていろんな国家の寄り集まりじゃん? それぞれで思惑が違うんだよね」
「わかります。が、ウェステリウス王国内では知らせた方がいいのではないですか? 既にニコラス殿下の婚約者なのですし、その論拠を補強するためにもいいと思うのですが」
「そーゆー考え方もあるか。でもあたしは人間兵器みたいな目で見られるのは嫌なんだ。キュートな乙女であるし」
なるほど。
戦力として見られるのは面白くないということですね。
ここはウテナさんの考え方を尊重しましょう。
「わかりました。言わないことにしておきますね」
「私もです」
「ありがとう。おなか減っちゃったな。何か食べて帰ろうよ」




