第5話:新たな情報、スタンピードとドラゴン
――――――――――三日後、ノックレイブン公爵家邸にて。辺境伯令嬢シャーロットとのお茶会。
「そう、じゃあウテナちゃんは正式にニコラス殿下の婚約者になったのね」
「ええ。当家にロジャー殿下がおいでくださって、そう伺いました」
「ニコラス殿下の発表通り……ええ、そうでしょうね」
シャーロット様はわたくしとのお茶会に快く応じてくださいました。
というか待ち構えていたみたい。
そしてやはりシャーロット様は、ウテナさんについてよく御存じのようです。
うふふ、今日は楽しみですね。
どんなウテナさんのエピソードが飛び出してくるのでしょうか。
お父様が懸念していたような、王家がトルブレアム辺境伯家を重視して我がノックレイブン公爵家から距離を置くということはないと思います。
しかしニコラス殿下の婚約者を平民に決定したということに関しては、王家の方針に掴みきれないことがあるのです。
高位貴族として道を誤ることは、我がウェステリウス王国の安定にも関わってきますからね。
この件に関しての情報収集は非常に重要です。
「教えてくださってありがとう存じます。学院が休業期間に入ってしまったでしょう? 噂を聞く機会もなくなってしまいましたし。父も王家のガードが堅くて全然話を聞けんと言っていたのです」
「いえ、どういたしまして」
「ノックレイブン公爵家には王家から何らかの思惑が伝えられているかもしれん。お茶会はいい機会だから、ぜひとも話をよく聞いてこいと、父の鼻息が荒いのですのよ」
「情報収集は大事ですものね」
あれ、トルブレアム辺境伯家には王家から連絡が行ってないのですかね?
もっとも婚約についてはニコラス殿下御自身が発表なさったことです。
特に変更することはなし、殿下の発表の通りであるという王家のスタンスのようです。
やはりロジャー殿下を寄越して説明してくださったのは、我がノックレイブン公爵家に対する特別な配慮なのでしょう。
懸念は一つなくなりました。
「それでわたくしも教えていただきたいことがありまして」
「わかっておりますとも。エルシー様はウテナちゃんのことが知りたくて、私を呼んでくださったのでしょう?」
「はい」
「うふふ。エルシー様もウテナちゃんのことが相当気になるようね。すぐトルブレアム辺境伯家に縁があるって調べがついたのですから」
図星です。
今日のお茶会にはシャーロット様しかお呼びしていないのです。
情報収集が目的なら多くの高位貴族の令息令嬢をお呼びした方が有効だと思われるのに何故か?
理由があります。
この件に関する王家の姿勢にもわからない点があるのです。
何故平民であるウテナさんをニコラス殿下の婚約者に据えたのか?
本来でしたらその理由を発表して、臣民の心を安からしめることが必要だと思うのですよ。
ところが王家は積極的な情報公開をしていません。
それどころか貴族学院の学期末パーティーという、休業期間に入ってしまう直前の情報が飛び交いにくい状況での発表です。
ということは、何か理由があるはずですよね?
その理由は広く知られては都合の悪いことなのか、あるいは今ではタイミングが悪いということなのかもしれません。
今日は最も有益な情報を所持していそうなシャーロット様の話を聞ければ十分と見ました。
他所で話せない、重大な秘密が飛び出してくるかもしれませんしね。
「淑女としてはしたないかもしれませんけど、ウテナさんはすごく気になる方なのです。知りたくなってしまいますね」
「エルシー様の気持ちはよくわかります。ウテナちゃんはすごいの。私はあの子がウェステリウス王国の王妃になるのなら、全然文句ないわ。第一候補と思われていたエルシー様には悪いですけれどもね」
ニコラス殿下の婚約者としては、わたくし以外にシャーロット様も有力な候補であったと思います。
そのシャーロット様にここまで言わせるウテナさんとは一体……。
「父もウテナちゃんのことをすごく気に入っているのよ」
「ウテナさんは辺境伯様の推薦で学院に入学したらしいではないですか」
「そうなの。領でスタンピードがあった時にね」
「スタンピード? とは何でしょうか?」
「王都じゃ聞かないわよね。魔物の大発生現象のことよ」
何と、大変ではないですか。
あっ、ウテナさんは元冒険者という話でしたか。
では魔物の退治に協力して功があったということなのですね?
「辺境伯領の魔物事情は全然知りませんでした。大きな被害が出てしまうものなのでしょう?」
「と、思うでしょう? ところが大掃討作戦で死者どころかケガ人もゼロよ。ウテナちゃんがほとんど一人で片付けちゃったから」
「ええ?」
一人でって、あり得ないでしょう?
どうやったって手が足りないではないですか。
「ウテナちゃんったら大きな魔力塊を作り出して魔物の群れを追って谷底に突き落とし、窒息魔法でとどめを刺すというのを繰り返したの。私も実際に見ていて、すごく興奮したわ! あれほど莫大な魔力を持ち、各種大規模魔法を使いこなせる魔法使いは、ウテナちゃんの他にいないと思うわ!」
驚きです。
ウテナさんがそんなにすごい魔法使いだったとは。
「お父様がウテナちゃんに褒美として何が欲しいって聞いたのよ。そうしたら勉強がしたいんですって」
「だから貴族学院への推薦を?」
「御名答! ウテナちゃんは強くてすごい魔法が使えるだけじゃなくて、意識が高いのだわ!」
「実際に特待生になるほど成績がいいですしね」
「ええ。お父様もそれだけじゃ功績に全然足りないって言ってたのですよ? けれどウテナちゃんは、辺境伯領の人達は親切にしてくれたからいいんですって。詳しいことはわからないですけれど、外国で嫌な目に遭ったらしいんですよ」
「そうでしたのね」
ウテナさんも苦労しているのですね。
「とにかくトルブレアム辺境伯家は、ウテナちゃんがニコラス殿下の婚約者であることを積極的に支持するのですわ!」
◇
――――――――――その日の夜、ノックレイブン公爵家邸にて。
「何と、ウテナなる少女と辺境伯ワイアット殿とはそんな因縁が……」
「お父様の方は何かわかりまして?」
お父様とウテナさんについての情報交換です。
「王宮文官や学院の教授どもは口止めされてるされてるようで何も」
「シャーロット様も似たことを仰っていましたわ。発表の時期を見計らっているのかもしれませんね」
「しかし外国の商人から面白いことを聞いた」
「何ですの?」
「三年ほど前に、ネルタ・コルラ連邦の辺境でドラゴンが出現して暴れたことがあったそうだ。そのドラゴンを退治した少女の名がウテナであるという」
ど、ドラゴンですって?
神話とかに登場する暴虐な魔物の?
それを退治したって……。
いえ、魔物の大発生を独力で解決できるほどの実力者なら可能なのかも?
「ホラ話かと思ったが、辺境伯領での活躍を聞く限りではどうやら本当で、同一人物なのではないかと思えるな」
「おかしいではないですか。ネルタ・コルラにいれば一生安泰でしょうに、どうしてウテナさんはウェステリウス王国に来たのでしょう?」
「ネルタ・コルラ内部の国家群で、大変な争奪戦になったそうだ。ネルタ・コルラは寄り集まり国家だからな。ドラゴンを独力で退治できるほどの人材を手に入れれば大きな顔ができることは、そなたにもわかるだろう?」
「なるほど……」
「程なくして行方知れずになった。大方嫌気がさして国を出たのだろうと」
それでトルブレアム辺境伯領に流れ着いた、ですか。
冒険者なら魔物のいる辺境伯領を目指すのは自然です。
辻褄は合いますね。
「辺境伯が後ろ盾になるとなれば、案外そのウテナなる少女支持でまとまるのかもしれん。エルシーよ、ウテナと親交を保っておくのだ」
「はい」
時々家にも招待しましょう。
きっと刺激的な体験談を話してくださるわ。




