第5話 蛇①
リリリリ リリリ
バチン!
今日も今日とてやかましく鳴り響いた目覚まし時計を止めて俺の、大神蒼の朝が始まる。
「くあっ、く~」
まだまだ眠い事を伝えるあくびを我慢せず、そのままモソモソと布団から出て洗面所へ。
冷水で顔を洗えば意識はハッキリしてくる。
顔をハンディタオルで拭き、タオルは洗濯かごに放り込む。
今日も朝食を求めて冷蔵庫の前に立った。
「えーっと、ゆで卵と昨日のソーセージとキャベツと……後は米と味噌汁だな」
昨日の朝とは違い、今日の冷蔵庫にはきちんと昨日の夜に作った朝食がある。
ソーセージは既に焼いてあり、キャベツも千切りキャベツにして同じ皿に盛ってある。
まずはこいつらをレンジに入れて1分。
その間にケトルに水道水を入れてスイッチをオン、沸騰を待つ。
その間は暇だから適当に携帯を起動する……うん、特に組織からの連絡は無い。
レンジが「チンッ」と良い音を鳴らしたのを聞いて、ソーセージとキャベツを取り出す。
一度焼いたソーセージを更にレンチンした事で一部破裂して肉汁があふれているが、キャベツが吸うから無問題だ。後、個人的に生のしゃきしゃきキャベツも良いけどこのしなっとした千切りキャベツも好きだったりする。
朝飯の準備に話題を戻そう。
今度は休みにまとめて炊いた後、ラップにくるんで保存した米をレンジに入れる。
今度は少し長めに3分を設定してスタートボタンを押す。
と、今度はケトルが中で沸騰した事を告げてきたのでケトルのスイッチを切って、器にインスタント味噌汁の具と味噌を出す。
一人暮らしの高校生が鍋で味噌汁なんて朝から作るわけが無いだろ。
味噌汁の器にケトルからお湯を注ぎ、箸で暫くかき混ぜる。
味噌が溶けたら一旦放置だ。
何故って? 熱いからだよ、大神蒼は猫舌なんだから。
狼怪人なのに猫舌とはこれいかに、なんてくだらない事を考えながらテレビをつけた。
一人暮らしを始める前は「携帯があればいらなくない?」と思っていたが、孤独を紛らわせるという意味じゃ必需品かもしれん。
「めぼしいニュースは無いねぇ」
俺にとって重要なニュースとなれば当然ヒーロー関連だが、特にそういったニュースは流れずスポーツがどうとか有名人のなんだとかの目次が流れていく。
と、また「チンッ」と良い音がしたのでレンジまで戻って米を取り出す。
お椀は用意するが、洗い物を考えて米はラップからは完全には出さずに並べる。
最後にゆで卵を作り置きのタッパーから取り出してソーセージとキャベツの皿に置く。殻は作った時に剥いてあるので問題ない。
うむ、十分な朝飯だ。
「いただきます」
そう言葉に出して、俺はニュースに耳を傾けつつも食事に集中していった。
ーーーーーーーー
朝食を終え、食器達は夜にまとめて洗うので流し場に突っ込み放置。
その後は昨日と同じように、電車を使って登校して教室で下らない事を笑いながら朝を過ごし、退屈な授業を受ける。
「えー教科書の通り、ヒーローと怪人の歴史の始まりは今からざっと30年前、日本近海に隕石が堕ちてきた所から始まります。ページはーー」
本当に退屈な授業である、なんだよ現代史ヒーロー学って。
いやだって、ねぇ?
俺バリバリに現役の怪人だぞ? そして英孝高校に入学するまでは怪人として生きてきたんだぞ?
「(とっくに知ってるっつーのー)」
ヒーローと怪人の力の源が隕石から見つかった鉱石な事とか、その隕石が特定の人間と共鳴・反応すると謎のエネルギーを発生させるとか、隕石に反応したのか世界各地で同様の鉱石が活性化して発見され始めたとか。
そんで鉱石から出るエネルギーを研究してた科学者が人間と鉱石の完全同化という名目ので人体実験に踏み切り、その結果生まれたのが怪人の始まりなのも、それに対抗して結局社会側も機械を挟んで安全性を上げたらしい人体と隕石の同化を始めたのがヒーローの原点とかも。
もう全然知ってます、なんなら現在まで議論されている怪人二世問題ーー怪人の子供は生まれた時から怪人の可能性が高く、その場合は社会に害を成すように親から育てられている為、自ら怪人となる事を選んだ親世代の怪人と同じように罰して良いのかという問題ーーの、張本人だぞ?
俺は父親が怪人で母親は怪人研究者の怪人ハーフ(?)だからな。
実態?
ご覧の通り組織の命令でヒーローをぶっ飛ばしつつ、特定のヒーローを探すために高校に通うという、がっつり悪の組織の犬ですが? 狼怪人だけに。
「アホらし」
小さく声に出した呟きは誰に聞かれるまでもなく、消えてーーいかなかった。
「なーにがアホらしいんだ? 大神?」
「げ、聞かれてた」
「おら、そこまで言うなら次の解説任せて良いのか?」
「えーっと……『怪人達の独立と行方』? はいはい。まずは『怪人革命』ね、この事件は怪人とヒーローが初めて世界の表舞台に立った事件だ。怪人達が世界各国の政府機関を襲撃した所から始まり、それをヒーローが防いだっていう今のヒーローVS怪人の形が取られた世界初の事件。重要なのは怪人を既存の軍隊では倒せず、社会は怪人の対策をヒーローに頼るしかなくなったって所」
「うんうん……うん? 最後の部分教科書に載ってないぞ? 詳しいな大神?」
「次に『怪人島』な、これはさっきの事件を受けた怪人は特殊鉱石の研究所としていた島を占拠、怪人は人類とは別の存在であると声明を出した後にこの島を怪人達の領土『怪人島』と主張した事件だ」
「まて、悪かった、すまん。俺より分かりやすく解説するの止めてくれない? 先生の存在意義が……」
「……この怪人島は元々は鉱石研究の為に作られた人工島で、怪人達は声明を出した段階で既に島を改造し終えていた。怪人島は光学迷彩を搭載しつつ巨大な艦として動き始め、今現在も常に動き続けており、明確な場所の特定は現代の技術でも不可能だ。これが怪人被害を大きくしている要因の1つでーー」
「大神!? ごめんて! 頼むから俺の仕事を奪わないでぇ!!」
独り言を咎めてきた先生の言葉に対して、がっつり役に立てるよう分かりやすく要点をまとめて解説してみたが、どうやら先生には不評らしい。
周囲からはくすくすと笑い声が聞こえてきたから、決して悪い内容ではないと思うが……はて、何が問題なのやらだなぁ?
ま、冗談はともかく先生へと授業を返して数分後には現代史の授業は終わった。
そこからはまた退屈な授業を聴いて昼休み。
俺、翼、恭介の三人は自然と集まり、学校の中庭に設置されている木製テーブルで向き合っていた。
残念ながら、この学校の屋上は一般生徒には解放されていないのだ。
ま、とは言えこの植物の中で食べるサンドイッチも悪くはない、軽いピクニックみたいな気分だ。
「しっかし、面白かったなー。1限目の現代史……く、くく、くっくくふ……」
「恭介の笑い方、クセが強過ぎるだろ」
「気持ちは分かるけどね……」
「なんだよ。ヒーローの追っかけ……みたいな物してんだからあれ位知ってるっての」
「趣味の知識で授業を乗っ取られたら、先生はたまったものじゃないと思うよ」
「むう」
クセが強い……ぶっちゃけキモい笑い方をしてる恭介は放置して、翼からの指摘に思わず唸る。
だがしかし、ならばこそ、俺は俺なりに思っていた事で対抗するとしよう。
「そもそもの話だけどさ、現代史ヒーロー学ってのがどうなのよ。ヒーロー関連は史って名前が付く程古い物でもないだろ? それこそ趣味の範囲で全部追える位浅いぜ?」
「それはまあ……そうだね。先生も言ってたけどヒーローと怪人の歴史はどれだけ遡っても30年が限度だし」
「もっと言えば、ヒーローと怪人の戦いはまだ終わってない。戦いが終わってないのに歴史なんて学んでもしょうがなくね?」
「いやいや、歴史を知って生徒達に当事者意識を持ってもらって、怪人やヒーローへの理解を深めるという意味は大きいんじゃない?」
「んー、難しいなぁ」
「そうだね……恭介はどう思ってる?」
「とりあえずお前達の会話は、ただの高校生が考える事じゃないのは分かる」
ヒーロー歴史学について議論していた俺と翼であったが、恭介からのぐうの音もでない一撃に何も言えなくなった。
そりゃそうだ。
俺も、そしてもしかしたら翼もワンチャン、裏の顔はこういうことを考えるべきかもしれんが今の俺達はただの高校生。
そんな壮大な事を考えても実行するだけの権限も力もありゃしないのだ。
「この議論全否定だなおい」
「事実だからどうしようも無いけどさ」
「うっせ、そんなのはヒーロー管理協会の偉い人達が考えるものだろうがよ……それよりも見ろよこれ! ついさっき発表されたばっかの新ヒーロー!!」
「なんだそれ気になる」
「ああ。そう言えば……そんなニュースがあったような、無かったような」
翼の発言にひっかかりそうになるが、「まぁ俺と翼が同じニュースを見てる訳じゃない、俺の見た局にはなかったんだろう」と考えて放置だ。
俺が見たのは国営放送局で、ヒーロー関連では最速かはずだが、まぁそんな事もあるだろう。
もしかしたらネットニュースかもしれん、俺はそっちは見ないからな。
「へぇ、蛇のヒーローなのか」
「正確にはコブラのヒーローな、ヒーロー名は「パープル・コブキシン」だってよ」
「蛇、蛇ねぇ……どっちかっていうと敵役よりなイメージだな。批判とか大丈夫か?」
「いきなりそんな心配は止めてあげなよ……」
翼と意見はごもっともだが、やはり蛇やコブラと言うとどうしてもあんまり良くないイメージがある。
ほら毒とか牙とか、人を殺したなんて話を聞いた事だってある。
そういうモチーフ元の影響って案外バカにできないからなぁ。ヒーローも怪人も力の源である鉱石、それに宿っている……属性? 力? 記憶? とにかくそういうもの。
ブルーウルフの狼やレッドイーグルの鷲、後は珍しさで言ったらライトル・ヒロインズ達の各種宝石か。
鉱石に共鳴するーー適合する人間は、鉱石の中に眠る力に近い事が多い。
……とは言え、その近いってのは何がどう近いのかは自称怪人研究の第一人者であるモーディ博士でも不明だそうだ。
まぁともかくーー
「面倒くさそうだな、このヒーロー」
「どういう視点?」
「いやファンとかめっちゃ下に見てそう、傲慢さが凄そう」
「酷い偏見だ……」
「まー気持ちは分かる。蛇ってそういうイメージあるよな」
「ノーコメント」
俺の呟きに反応する恭介と翼。
恭介は同意、翼も偏見と良いながらも最後なノーコメントな辺り少しはそういうイメージがあるんだろうな、と思っておく。
「しかし蛇、蛇かぁ……」
「……蛇なぁ」
「お前らが今、何を考えてるか当ててやろうか?」
「昨日のドッジボール」
「だよねぇ。蛇原君は凄かった」
「俺は無視か!? 泣くぞ!?」
「違うな。お前が答えるよりも先に俺が翼の考えていることを当てた、が正解だ」
「そえそう。恭介が問いかけを投げた時点で勝負は始まってたのさ。そしてこの三人で一番早かったのは蒼、それに気付いて即座に敗けを認めたのが僕」
「つまり恭介、お前は勝負を始めた側なのに始まりにも終わりにも気付けなかった。完全敗北者という訳だ」
「こ、こいつら……だぁー!!」
これ以上新ヒーローの話題は避けようとしたのか、単に次の話題に移っただけか。
翼は「蛇」という部分から別の話題を切り出した。
俺も同じ事を考えたから乗っかって、恭介の問いかけに対しては先手で答えを出すことで恭介をからかう。
それに対して怒りを見せた恭介を相手に翼と二人で更に煽り、恭介は怒りを爆発させた。
俺と翼はそんな姿を見て悪戯が成功した悪ガキらしく笑い、恭介が落ち着きを取り戻すまでを一旦の休憩とした。
さっきまでの話題は新しいヒーローの蛇について、そして次の話題はこの学校にいる蛇についてだ。果たして、その2つの蛇は関係があるのか無いのか。
知りたいような知りたくないような、そんな曖昧なまま、この日常を俺は好きだと感じている。




