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九話 落とされたシャンデリア

後半、独白です。

 伯爵と話していた背の高い方が、注目を避けるようにフードをさらに深く下げる。

 何とも言えない微妙な視線が交わされる中、伯爵が声を上げた。


「では、オシィーフ殿」


 その声に、全員がはっと気を取り直す。


 犯人はどちらだと、問われて。

 聞きに行って、戻って来た伯爵が、声をかけた。

 

 全員から一斉に、まさかお前が、という視線を向けられたオシィーフは、狼狽え、ちがう、とばかりに首を振った。声もなく、引きつった表情で伯爵に顔を向ける。


 一瞬で剣呑になった雰囲気の中、気づいた伯爵が気まずそうに、誤解させてしまったな、すまない、と詫びた。


「いや、先ほど、シャンデリアの上に輝光石を置いてもらっただろう? どうして、浮遊や念動の魔法を使わなかったのか、と聞こうと思ってな」


 悪い悪いと言いつつも、伯爵はしっかりと返事を要求した。

 意図が分からなくて困惑した表情を隠せないまま、オシィーフが素直に答える。


「それは、特に理由は、ない、というか……届くのだから、わざわざ魔法を使わなくてもいいのでは? そんな面倒なことをせずとも……あ、いや、跳躍のために、脚力と敏捷を魔法で増強させはしたが」


 それが何か、と不安そうに尋ねるオシィーフに、伯爵は答えず、さらに質問を重ねた。


「もし、今あのシャンデリアを落としてくれ、と頼まれたら、オシィーフ殿であれば、どうやって落とす?」


「それは、さっきみたいに飛び上がって剣を振るい、鎖か支柱を切って落と……」


 途中まで答えて、オシィーフは言葉を止めた。

 事件の起こった邸宅の、落とされたシャンデリアを思い出したからだ。


 ――シャンデリアは、支柱はそのままに、天井が崩落したように砕けて落ちていた。


 その場にいた全員が、ゆっくりと、マイツーギに顔を向けた。

 静まり返った部屋の中に、伯爵の声が流れる。


「天井にも血がついていたが、あれは返り血ではない。血の付いた手で触ってしまったせいで、天井に付いてしまった血だ。

 犯人はアッシー殿を殺した後、『浮遊』で天井近くまで上がり、手で天井を伝って横に移動し、倒れている場所から離れた。

 そして足跡がつかないよう血の付いた靴を脱いで、新しい靴に履き替えてから、浮遊を解いて下りる」


 魔法の『飛行』は高等魔法すぎて、さすがに使えなかったか――そう言って、伯爵は確認するかのようにマイツーギに顔を向けた。


「後から来たラブリン嬢も、同じように殺害して。最後に少し離れた場所から、シャンデリアを支える天井を魔弾で破壊して落とせば。『偶然にもシャンデリアが落ちてしまった、心中した二人』の出来上がり、だ。

 攻撃魔法の使えない、オシィーフ殿には不可能なことだ」


「……『攻撃妨害の陣』が、あるだろう? 攻撃魔法は使えないぞ」


 マイツーギが苦し気に、絞り出すように反論するが。


「実戦では使えない、というだけだな。この屋敷に入る前、警備兵が実践しただろう? ウチの一般の警備兵でさえ、時間をかけて魔力を練り上げれば、木に穴を空けるぞ」


 伯爵は表情も変えず平然と、反論を潰した。

 マイツーギの指に嵌る大きな指輪――対魔獣用に魔法攻撃力を上昇させる発動体に、ちらりと目を向ける。


「魔の森の最前線、デュマが誇る岩砦所属の魔法兵マイツーギ=メーロス。

 よもや、一般の警備兵に劣るとは言わんだろう?」



~・~・~



 後継者が決まったのだと。

 父が母と話していたのをこっそり聞いたと、そう言うと、アッシーは疑いもせず信じた。


 あの夜、次期当主のことで話がある、内緒で別邸に……祝い酒を用意しておくから、オシィーフには絶対に内緒で来いよ――そう言えば、あっさりと誤解した。

 誤解して、簡単に騙された。


 どうして、ボクが注ぐ夢魔芥子入りの酒を、疑いもなく飲むんだ。

 少しは疑えよ。


 飲んだ瞬間、吐き出して。すぐに反撃しようとしたじゃないか。

 一撃は、防いだじゃないか。

 なのに直後、夢に意識を飛ばすなんて。

 もっと頑張れよ。


 ラブリンも、ラブリンだ。

 アッシーが呼んでるから、仕事終わった後に別邸に、って。

 なんでそんな、あっさりと信じる?


 暗闇にランプってロマンチック、じゃないよ。

 暗い屋敷にのこのこと入って来るなんて、バカだろ。

 なんでそんなあっさり、短剣を胸に受け入れるかな。プレゼントじゃないんだよ。


 そして、血を流して倒れている二人に短剣を握らせて。

 浮遊で足跡が残らないようにして。

 シャンデリアを落として、屋敷を出たら。


 もう、次の昼には、心中だって噂になってて。

 一族総出の大騒ぎになって。


 アッシーも、ラブリンも、本当にいなくなったんだ、って実感した。殺したかっただけで、死んでほしいわけじゃなかったのに。


 悲しかった。

 本当に悲しくて。

 やっと、やっと、ボクは泣いて、悲しむことができたんだ。


 なのに。


 なのにどうして、アルナシィオン国だなんて他国の、それも貴族が口出ししてくるのかな。

次話「友情の在り処」


関係者と家系略図(再掲載)

 (現当主と当主の弟は高齢のため欠席)

 当主の弟      現当主

  |     ____|____

  |    |    |    |

 長男   次男   長男   長女

 オーパ  アーチ 当主補佐 メーロス夫人

  |    |    |    |

オシィーフ アッシー ロメオ  マイツーギ 

クルミ髪  黒髪    ー    金髪

      (下敷) (故人)

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