八話 キラリと光っていた証拠
心中ではなく殺人事件なのだと。
半信半疑だったギュモンタの一行は。
アッシーの父母は。
……ようやく、実感した。
「誰だ、オシィーフか、それともマイツーギかっ……息子をっ、アッシーを殺したのは!?」
父のアーチが叫び、夫人が二人を睨みつけた。
「何の恨みがあって、アッシーを殺したの!?」
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関係者と家系略図(再掲載)
(現当主と当主の弟は高齢のため欠席)
当主の弟 現当主
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長男 次男 長男 長女
オーパ アーチ 当主補佐 メーロス夫人
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オシィーフ アッシー ロメオ マイツーギ
クルミ髪 黒髪 ー 金髪
(下敷) (故人)
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「お二人とも、落ち着いてくれ。まだ話は終わっていない……話が終わる前に、自ら名乗り出てもらってもかまわないが」
伯爵が二人を宥めつつも、念のため犯人からの申し出を促すが。オシィーフもマイツーギも、殺してはいないと主張を繰り返した。
「机上の空論で、ボクたちに冤罪をかけるのはやめてくれ。大体、アッシーとラブリンを殺す理由がどこにある!」
しかも、マイツーギの否定は理に適っていた。
「そもそも、アッシーとボクたちの実力はそう変わらない。戦っても五分五分の相手を、いくら不意を突いたとしても、そうそう殺せるものじゃない」
一方で、オシィーフは悲痛な表情を浮かべて、愛と友情を掲げて殺害を否定する。
「私も、アッシーを殺してはいない、友の誓いを破るような真似を誰がするものか! そしてラブリン嬢は愛を捧げた相手だ、幸せを願いこそすれ、殺すなどっ」
でもお前フラれたよな、と誰もが思ったが、口には出さなかった。
「そういえば……防御創が手の甲に……逆に言えば、一度は不意打ちを防いだ、ということだろう?
アッシーならその一度で、剣と魔法で牽制して体勢を立て直せる。私たち相手であれば、体勢を立て直して逃亡を図ることは容易い……もっと、手練れの者では」
「そうだな、オシィーフの言う通りだ。
それに、ボクたちとアッシーが戦ったなら、防御創なんて一つどころじゃない。もっと多くの傷がつくはずだ」
二人とも、防御創一つ付けただけでアッシーを倒すのは無理だ、と言い募るも、メーロス夫人が冷静に指摘した。
「待って。『攻撃妨害の陣』があるわ。争った時には、攻撃魔法は使えなかったはず」
言われて、オシィーフとマイツーギの二人は顔を見合わせ。
「アッシーと、魔法無しの剣だけで……? ボクではさすがに話にならないな」
「……魔法無しであれば、私に分がある、あるが……」
魔法兵のマイツーギが両手を上げて降参のジェスチャーをする横で。オシィーフが目をさ迷わせながら、私はやってない、と小さな声で呟いた。
二人の様子に、犯人は名乗り出なかったかと、伯爵は一瞬だけ残念そうな表情を浮かべるも。
気を取り直したように、では、と声を上げて注目を集めた。
「それでは、アッシー殿がどうやって殺されたか、それを説明しよう」
伯爵が、感情的にならないようあえて淡々と語るのを、全員は固唾を飲んで聞き入った。
発見された時、シャンデリアは落ちていた。
魔力の抜けた輝光石は、白く濁る。受け皿の輝光石は床に落ちて砕けて、白い破片がそこら中に飛び散って、それはもうひどい有様だったが。
その砕けた輝光石の中、透明なガラス片が混じっていた。
シャンデリアは、輝光石だけを使っていた。ガラス片が混じるはずがない。
なのに、ガラス片があった。
で、そのガラス片を調べてみたら。
わずかだったが、夢魔芥子混じりの葡萄酒が付着していたそうだ。
「デュマ国では、祝いの折には、ガラスの杯で飲み物を配ると。
暗がりで、明かりを持った友である『犯人』に手招かれて。祝いだと、勧められた酒を断るだろうか」
その場にいる全員が、想像した。
よく来た、と歓迎されて。
こっちだ、と手招きされて。
渡されたガラスの杯に、祝いだと言って注がれる酒。
「飲み物に混ぜられた夢魔芥子は、一口でも飲めば。いや、飲まずとも舌に触れただけでも分かるだろうが。一瞬は、どうしても『夢』を見る。
アッシー殿にとって致命的な、無防備な一瞬が、どうしようもなく生まれてしまった」
伯爵が沈痛な表情を浮かべて語る。
「葡萄酒のボトル自体は、最初から予想していたろうから割らないように気を付けたとしても。
アッシー殿が持つガラスの杯は、どうしようもない。襲われた時に手から離れて、床に落ちて割れたんだろう。大きいガラス片は拾ったとしても、小さいのは見逃してしまった――それが、残されていたガラス片だろう」
無防備な一瞬。
通常であれば敵わずとも。その一瞬の隙があれば人一人、そう、アッシーでさえも簡単に殺せることを。
オシィーフも、マイツーギも。
親しくしていればこそ、その努力を。成長を見守っていたからこそ、その実力を。
武門の一族ギュモンタは皆、知っていた。
伯爵が淀みなく説明する中、当主補佐が言いにくそうに口を挟んだ。
「その……確かに、それだとアッシーを防御創一つであっさりと殺すことができる、それはわかった。だが、その方法だと、やはりどちらが殺したかは、特定できないのでは……?」
三人は親友で。
オシィーフもマイツーギもどちらも疑われず飲ませることができて。
どちらも、殺すことが可能だと。
そう当主補佐から言われて、確かに、と伯爵も思案顔で小さく呟き。
おもむろに、スッと片手を上げた。
「少し、待ってもらえないか」
え、ナニ言い出してるのコノヒト、とほぼ全員が虚を突かれた隙に、伯爵は後ろを振り返り、フードで顔を隠した二人組――アドバイザーだと言っていた――に近づいた。
そのまま、二人組の背の高い方と小声でやり取りし始め。
「今の……はどう答え……」
「だから……なので……ということで……」
「あ、そう言えばそうだっ……」
「あと……なので、……と説明していただければ……」
「なる……わかっ……まか……」
しばらく話した後、大きく頷いたと思ったら、こちらに戻って来て。
「では、説明しよう!」
意気揚々と、伯爵はそう宣言した。
今まで伯爵に向けられていた、尊敬、畏怖、期待、の視線が、一気に白くなった瞬間だった。
次話「落とされたシャンデリア」
シャンデリアは落ちるもの! ロマンです。
一話目、ガラス片がキラリと光を反射してました。




