六話 デュマの四勇士
追加の人物紹介とかが後書きにあります。
現場は、ギュモンタ家所有のゲストハウス。
その日は招待客はなく、警備も置かず無人状態だったと。
富裕層の邸宅の常で、高い塀に泥棒除けの格子、加えて『警戒の陣』『攻撃妨害の陣』が敷かれていた、と聞いている。
警報は鳴らなかった、つまり、犯人とアッシー殿、そしてラブリン嬢は、正式な鍵でもってゲストハウスに入ったはずだ。
では、ゲストハウスの鍵はというと。
マスターキーが本家に一つ、次に複製された三本、当主の弟殿、次男、長女に、それぞれ自由に使って良しと渡した、そう、ご当主殿から聞いている。
アッシー殿が使った鍵はポケットにあった……次男のアーパ殿の所有する鍵だったそうだ。
「誰が、何故、どうやって、の内の『どうやって』だが」
まず、その日の仕事が終わった夜に、正式な鍵でもってゲストハウスを開け、アッシー殿を呼び込んで、殺す。
そして、後から来たラブリン嬢を招き入れ、邸宅内で殺し、互いに刺し合って心中したように偽装する。
「さすがに国軍のアッシー殿は、不意打ちであっても反応できたのだろう。防御創がその証拠だ。
戦いとは縁のないラブリン嬢は、急所に一撃だったのだろうな。抵抗の後は無く、心中だと偽装するには容易かったろう」
仕上げに二人の上にシャンデリアを落として、邸宅を出る。
かなり大きな音だったろうが、ゲストハウスはよくパーティも催される。騒音対策用に音遮断の魔法がかかっている上に、庭も広い。周囲の住人も気づかなかったろう。
で、次の日の朝。五日後の来客のためと、ゲストハウスの用意に訪れたメイドや警備兵が、真っ先に発見した。駆け付けた警備兵も、二人分の血が周囲に派手に飛び散っていた、と証言している。
靴跡は、シャンデリアを持ち上げる時に踏み乱されて、もう分からなくなっていたそうだ。
「犯人はこのためにシャンデリアを落としたんだろう。心中を装ったのに、靴跡が残っていたら台無しになるからな」
――それで、大事なことだが。
伯爵が一瞬だけ目を伏せ、覚悟を決めた表情で顔を上げた。
「犯行当日の夜だが。
デュマ国魔法八家の城館で、当主補佐殿や、メーロス夫人、オーパ殿やアーチ殿たちは、俺と会ったな。八家の方々からご紹介をいただいたのを、覚えている。
そして貴方方は。ギュモンタ家の後継のことを相談をして、時間も遅くなったから王城館で一泊して、帰宅した。
だから」
伯爵は、視線を逸らすことなく真っ直ぐ二人を見つめた。
「犯人は、オシィーフ殿、マイツーギ殿、二人に絞られる」
~・~・~
関係者と家系略図(再掲載)
(現当主と当主の弟は高齢のため欠席)
当主の弟 現当主
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長男 次男 長男 長女
オーパ アーチ 当主補佐 メーロス夫人
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オシィーフ アッシー ロメオ マイツーギ
クルミ髪 黒髪 ー 金髪
(下敷) (故人)
~・~・~
「そんなことはありえない!」
「ロメオも入れてギュモンタの四勇士、そう言われていたボクたちに、大した言いがかりをつけてくれたものだ」
瞬間、オシィーフが大声を上げて立ち上がり、マイツーギが伯爵に射殺すような視線を向けた。
「ボクたち四人は、ロメオを次代の当主として団結していた。力を合わせてギュモンタ家を盛り立てようと、桃の花が咲き誇る庭で誓った」
金髪をかき上げ、マイツーギが矢継ぎ早に伯爵を詰る。
「アッシーの手の傷に防御創? あいつは国軍に所属していた兵士だぞ。昼間の訓練でついた傷じゃないと、何故言える。
アッシーとラブリンの二人をシャンデリアの下で殺すというのも、どうやって、だ。そんなに上手く誘導できるものか」
立ち上がったオシィーフも、大きく頷いた。
「そもそも、アッシーが殺されたその後で、ラブリン嬢が邸宅内に入って来たのなら。
アッシーの死体を見て、ラブリン嬢は当然、逃げるだろう」
少なくとも、シャンデリア近くまでは、ラブリン嬢は自力で歩いて来たはずで。そこまで近づいたなら、アッシーの死体が目に入るはずで。
「ラブリン嬢には、他に外傷は無かった。無理やり腕を掴んで引きずって来たのではない、ということなら」
やはり二人は心中したのだろうと、オシィーフは俯いた。
悄然として途切れさせたその後を、マイツーギが言葉を継ぐ。
「ロメオもジュリエッタ嬢との仲を反対されて……二人で逝ってしまった……どれだけ、ボクたちは後悔したことか。相談された時、反対なんてしなければよかった。
だから、今回の心中はっ」
悔しそうに顔を歪めるマイツーギに、オシィーフもその通りだと大きく頷いた。
「アッシーも、ラブリン嬢も、何も死ぬことはないだろう……っ。遠慮なんかせず、一言、相談してくれれば!
私たちは、友情を誓い合った仲間だったろうに……」
オシィーフは血を吐くように叫んだ後、力尽きたように席に崩れ落ちた。
人物紹介(New!)
当主弟の長男オーパ
:オシィーフのパパさんのオーパさん
当主の次男アーチ
:アッシーの父さんのアーチさん
用語説明
デュマ国、実は「王様」がいません。貴族制ではなく、魔法八家というのが中心となって、合議制みたいな政治形態をとっています。ただし建国から年月が経ちすぎて、もはや支配者層である魔法八家が貴族、あるいは王(八名いるけど)といっても過言ではなくなっているのが現状です。
次話「暗闇トリック」
ミステリには、やはりトリックが使われていてほしい。シャンデリアは落ちるものだし、広間の大階段ではローリングストーンが転がり落ちてほしい。スプリングフロアで暖炉に叩き込むのも、釣り天井を落とすのも好きでした。トリックを考える時は、某罠ゲームが頭を過ります。
六話にして、テーマの友情をやっと出せました。企画に間に合うようがんばりました!




