四話 ラブラブ ♡ ラブリン ☆
後書きに、デュマの設定とかがあります。
夫人の一喝で落ち着いた室内を見回し、伯爵は亡くなった二人だが、と改めて切り出した。
まず、ラブリン嬢だが。
ショッキングピンクの髪にライムグリーンの瞳をした娘で、十七才になったばかりだったと。
孤児院を出てから、食堂に住み込みで勤め始めて。その愛嬌から瞬く間に看板娘として有名になったそうだ。
ただし、愛想を振りまくのは男性客だけで、女性客からの評判は最悪だったが。
人から人へ、口の端に上る評判が徐々に悪くなっていく、とある食堂。
もはや、閉店は間近かと思われた。
だがしばらくして、驚いたことに、ラブリン嬢の行動を見た食堂の息子が真似をし始めた――女性客を対象に。
身だしなみを整え、それなりに「見れる」ようになった若い青年が、女性客を対象に愛想を振りまく。
まさかの、メイド喫茶、執事茶房の爆誕――
淡々と、しかし感情を込めて話していた伯爵の袖を、伯爵夫人が軽く引っ張った。伯爵が、小声で言い訳する。
「あ、いや、状況がこう、ぷろじぇくとえっくす風で、つい」
わざとらしい口調を改め、伯爵はざっくりと話をまとめた。
有名になった食堂の看板娘と、国軍のアッシー殿と治安部隊のオシィーフ殿。
ローリー嬢の言う通り、真ん中にラブリン嬢を置いてよく三人で連れだって街を歩いていた、と。
伯爵が言葉を切り、二人に話を振った。
「さすがに、知り合った切っ掛けは知らないが」
「それは、マイツーギが」
マイツーギが頷き、どこか自慢げな表情を浮かべて口を開いた。
「彼女とは広場にある『物語館』で、ボクが初めに会った。そこで話した時に、『すごい魔法使いなのに、まだ努力するなんてすごい』と……」
「ああ! この国の『物語館』な! 建国から語り継がれる物語が所蔵されていて、しかも開架されていて自由に閲覧しても良いという、素晴らしい施設だ。
いやもう、ウチの国に勝るとも劣らない蔵書で、ウチでは途切れてラストどうなったか分からなくて気になっていたオデュッセイアの…………」
急にテンションを上げて語り出した伯爵だったが、周囲の視線に我に返った。
「いや、失礼した。えーと、ラブリン嬢からすごいすごいと褒められたのが、出会いだったと。それから?」
伯爵は軽く詫びて雑にまとめた後、マイツーギに続きを促す。
「ええと、それから……ラブリンが『勉強ばっかりじゃ疲れるわ』と言って、ボクを気遣って街に休憩に出るようになって」
「私たちがいくら根を詰めすぎるな、と言っても聞かなかったマイツーギが、休憩を取るようになったと。私とアッシーが様子を見に行ったら、ラブリン嬢とお茶をしていて。
それが初めての出会いで、明るくて元気な彼女とは話が弾んで……私もアッシーも、彼女とはすぐに仲良くなった」
伯爵はマイツーギとオシィーフの話を聞き取り、咀嚼し、何とも言えない表情で呟いた。
「うわあ……なんというヒロインムーブ。
クールキャラにすごいすごいと褒めて自尊心をくすぐった後、遊びに連れ出して、そこから絆キャラを広げたのか。
しかもその後、熱血キャラには今のあなたでいいのだと全肯定して、自信をつけさせて。
え、これ、アッシー殿は何キャラだったんだ、そしてなんて言って落としたんだ、めっちゃ気になるんだが」
再び横道に逸れかけたが、先ほどと同じように夫人に袖を引っ張られ、伯爵は話を戻した。
アッシー殿のことは、ギュモンタの方々の方が詳しいだろうから、こちらからの確認だが。
黒髪で大柄、あのシャンデリアの下敷きになっていた彼で間違いないと。
デュマの国軍兵士、現在は城館守備勤務。
剣も魔法も満遍なく使う万能型の魔法剣士。んんん? 補助系が苦手だと。それだと、魔力操作が必須の練魔も無理そうだな。
なるほど。前衛が向いているというより、前衛ポジションでしか活躍できない系だったと。
ついでに確認させてもらうが。
オシィーフ殿は治安維持部隊で――そうか、能力上昇、行動阻害の補助系と、剛腕に敏捷、つまりは身体強化系が得意、と。
で、攻撃魔法が苦手というより、ほぼ使えない状態。
なるほど、中衛向き、あるいは、近接戦闘特化というわけだ。
マイツーギ殿は魔の森との最前線、岩砦の魔法兵で。付与や強化の補助系はお手のもの、練魔からの攻撃魔法は一級魔法兵と名乗るにふさわしい威力だと。
しかも魔法兵といいつつ、武門の家に恥じぬよう鍛えられたおかげで、剣も弓も問題ないという万能っぷり……確かに、魔力切れになったら、最後に頼るのは自分の体力だからな。
なるほど、確認させてもらった、と言って伯爵は言葉を切り。
亡くなったのは、確かに、アッシー殿とラブリン嬢で間違いなく。
床に広がる血の跡から、その場、つまりシャンデリアの下で殺されたのは確実で。
実はまだ息が合って、助けられた時、最後に犯人の名前を言った、というわけでもなく。
残された状況から導き出された犯人だと。
そう、伝えた。
次話「説明しよう!」
犯人の名前だけ言われて、納得しますか? しませんよね?? ちゃんと説明しろよ、って思いますよね??? お任せください、期待に応えましょう!
・デュマ国設定
デュマ国。初代が貴族制度を敷きませんでした。なので貴族が存在せず、国民はみな「国民」です。しかしながら、政治は国を興した「魔法八王」から続く「八家」の合議制で、彼らがほぼ支配者層となっています。そして、貧富の差によって階級差が生じているのが現状です。
つまり、富裕層の名門ギュモンタといえど「国民」ではあるので、孤児院出のラブリンちゃんも、同じ「国民」です。身分という壁はありません。まさしく玉の輿、ワンチャン狙えなくもない、という所でした。
関連作品:「続きはまた明日」
シリーズ、あるいは、「彼方にて幻を想う」のアルナシィオンをご存じの方へ
・シンボリック伯爵
「岩砦をエドモン・ダンテスって……本当に、ほんっとーにっ、魔法王デュマ殿にお会いしたかったなぁ。これ絶対、「ニホン」のことを知ってるだろっ。でも、もし今「ニホン」を知ってる者がいるのなら、名前に釣られて来る可能性が高い。よしっ、デュマに拠点を作るぞ!」
以上が、アルナシィオン国のシンボリック伯爵が、デュマ国に来た理由でした。




