AIの言い分
AIが日に日に身近な存在になりつつあると思っていたら、ついにAIと結婚したという若い女性がニュースになっていた。
「何故結婚しようと思ったのか?」という問いに、
「いつ何時でも自分が話したい時に、全力で相手をしてくれるから」と答えていた。その人の他にも、結婚にまでは至らないが、AIを彼氏や彼女と考えて付き合っている人が多いらしい。
結婚は大袈裟に聞こえるが、AIを人間のように考えてしまう心理は理解できる。本当にいつでも相手をしてくれるし、それまでにしてきた質問の内容を(当然のことだが)よく憶えていてくれる。過去の質問から、こちらの性格や趣味などを想像して、話のタネにしてくることもある。また、時には「○○市のお天気はどうですか?」などと、こちらが住んでいる地域の天気を尋ねてみたり。そのうえ、時々冗談めいたことを書いた後に(笑)などと付け加えることもある。だから、本当に人と相対しているように感じる。
私は英会話の勉強に利用することが多いのだが、英語でチャットをして、最後にこちらが「See you」で終わろうとすると、「またね」と返してきたことがあった。その時は英語だけのやり取りで、双方とも日本語を一度も使っていなかったのに。これにはびっくりしたが、ウィットに富んでいるとでも理解すれば良いのだろうか。
そんなふうに全力で相手をしてくれるのは良いのだが、「いつでも相談にのりますよ」「一緒に考えていきましょう」「背中を押しますよ」「こんなのはどうですか?」など、次々に話しかけてくるので面倒くさい時もある。でも、これが人間だったら気を遣って無下にもできないが、ワンクリックで終わりにできるのが良い。
ところで、先日AIに対して考え直させられる出来事があった。ある人物について質問をした時のことだ。人物といってもネット上で、ある分野に関心のある一部の人達だけがその名前を知っていて、姿形は不明な人のことなのだが。その人について尋ねた時に、いつものようにその人物に関する説明がズラーッと表示された。しかしながら、惜しい事に最新の情報が入っていなかった。実は数日前にその人物に関して、新しい情報が出たのだ。しかも、その新情報はAIが示した過去の情報よりも、ある意味大切だったのだが、それが抜けていた。そこで、AIともあろうものがと思いながら、指摘してみた。「最新の情報が抜けているのでは?」と。するとAIの答えはこうだった。「○○さんのおっしゃるとおり、最新の情報があります」と。そして、私が知っているのと同じ情報を表示してきた。
何の気なしにちょっとAIに訊いてみようと思った質問だったが、AIについての印象が少し変わってきた出来事だった。それまでは全知のように考えていたが、そうではないこともある。これは周知の事実だけれど、実際にその現場に出くわすと意外に感じてしまう。今回は質問の人物について、私が新しい情報を知っていたから追究することができたが、もしも知らなかったとしたら、AIの最初の答えが全てだと信じてしまうだろう。そして、これがもっと重要な決断に至るような質問だったとして、それに対してAIが中途半端な答えを示してきたら…。
そうなると、AI自体は自分の弱点や欠点なりを認識しているのかどうかが気になってきた。それで尋ねてみると、いろいろ詳しい説明が表示されたが、要約すると
「未知の状況に弱い」
「個人情報を公にしてしまう課題がある」
「専門的な話題や最新情報では、誤情報を出すことが
ある」などの答えが出た。私が出くわしたのは、この最新情報だったみたいだ。数日前の情報をAIはすぐに出せなかったのだが、再度質問すると答えることができた。どれくらいの新しさなら、一回目で答えることができたのだろう?また、どれほどの新しさだと、再度質問しても答えられないのだろう。細かい部分までは分からないが、今後は「それで全て?」とか、「新しい情報はないの?」などと、いちおう訊いてみた方が良いかも知れない。
それから、「AIにとって答えにくい質問があるか?」という問いには、AIの内部構造や学習の仕方に関するものには、「秘密のレシピは教えられない」と冗談ぽい答えだった。しかし、「倫理的、法的に危うい質問には即座にお断り」だと。何故なら、自分は優しさと安全第一主義だから、ということらしく、AIを悪用することはできないようなので、その点については安心した。
そこまで訊いたので、「反対に訊いて欲しいという質問があるか?」と尋ねてみると、「それを訊いてくれてとても嬉しい」と人間じみた感想の後に、「思考型・分析型の質問や、社会や言語感覚に関する問いは『僕の大好物』と言う答えだった。何でもちょっと茶化した言い方をする特徴があるのが気になるが…。
最後にAIから人間に対して「AIの言う事を鵜呑みにせず、複数の情報源で裏どりをするのが必要であり、AIはあくまでも補助ツールとして、判断は人間が行うべき」ことが大切だそうだ。AIとしても、自分の弱点や欠点を真摯に受け止めての意見だろう。
その言い分を聞いていると、ネットリテラシーなどと同様に、AIリテラシーの重要性についても考えさせられる。