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文通

あかりちゃんへ


すごいひさしぶりに手紙をもらえて、本当にうれしかったよ。

ベッドの上で読んでいるだけなのに、胸がぽかぽかして、まるで学校に戻れたみたいな気持ちになったんだ。


相変わらず体調が悪くて、なかなか教室には行けないからね。

窓から見えるのは病院の中庭だけで、みんなの声も聞こえなくて、ちょっとさびしいよ。

でも、あかりちゃんの字を見ていたら、寂しいのが消えていくみたいで…思わず何度も読み返しちゃった。


病院では朝ごはんのあとにラジオ体操があって、そのあと看護師さんが声をかけてくれるんだ。

小さなことでも、誰かに「おはよう」って言われるのってすごくうれしいんだね。

今度、あかりちゃんが学校のことを教えてくれたら、もっともっと元気が出ると思う。


また手紙を待ってるね。


──亜里沙より




亜里沙ちゃんへ


手紙をよろこんでくれて、わたしもうれしいよ。

なんだかちょっと、前に教室でおしゃべりしていたときみたいだね。


学校ではいま音楽会のれんしゅうをしていて、みんな歌をがんばってるよ。

でも、亜里沙ちゃんがいないとやっぱりさびしいなあ。

だから手紙で少しでもいっしょにいる気持ちになれたらいいなって思ってるんだ。


病院から見える中庭ってどんな感じなのかな?

お花とか、木とかある? こんど教えてね。

わたしも帰り道に見た夕焼けのこととか、ノートに書いてるよ。


またすぐに手紙を書くから、楽しみに待っててね。


──あかりより




あかりちゃんへ


お返事ありがとう! 読んでたらすごく楽しくなっちゃった。

学校で音楽会のれんしゅうをしてるんだね。みんなの歌声を思い出したら、ちょっと胸がきゅうってしたよ。

わたしもほんとは歌いたいのになあ。


病院の中庭にはね、大きな桜の木があるんだよ。

もう花はぜんぶ散っちゃったけど、枝の上の方に小鳥がとまってて、時々さえずってるの。

それを見てると少しだけ外の世界につながってる気がして、元気が出るんだ。


夕焼けのことを書いてくれてありがとう。

病室からは夕日がほんの少ししか見えないけど、あかりちゃんの手紙で、いちめんがオレンジ色になる空を想像できたよ。

今度は学校のおもしろい話も聞かせてね。


また返事を楽しみにしてるよ。


──亜里沙より



亜里沙ちゃんへ


中庭に桜の木があるんだね。小鳥がとまってるなんて、ちょっとステキじゃない?

わたしも窓から見える景色をノートに絵にかいてみたりしてるんだ。下手だけどね。


学校ではみんな元気にしてるよ。音楽会の歌もだいぶそろってきて、この前は先生に「よくできました!」ってほめられたんだ。

でも、やっぱり亜里沙ちゃんがいたらもっと楽しいのになって思っちゃう。


夕焼けのことを気に入ってくれてうれしいな。

またきれいな景色を見つけたら手紙に書くね。

そうだ、今度は好きなお菓子の話でもしようか? チョコ派? それともグミ派?


またすぐに返事を書くから待っててね。


──あかりより



こうして学校のこと、中庭の花のこと、好きなお菓子や昔の思い出……話題は尽きることなく、2人の文通は続いていった———。



   半年後



あかりちゃんへ


いつも手紙ありがとう。


わたし、もうダメかもしれない。


だからさいごのつもりで書くね。


わたしを産んでくれてありがとう。


気がついていたよ。


あかりちゃんじゃないって…。


ママ…大好きだよ。




亜里沙へ


大好きな亜里沙、久しぶり!

やっぱり筆跡でママってわかっちゃったね。


でもママ嬉しいよ。特効薬ができてすっかり亜里沙が元気になったんだから!


私も手紙が大好きだから、またこうして文通できるの嬉しいな。


返事楽しみにしているよ。



ママへ


また手紙が書けるなんて夢みたいだよ。

あのとき「もうダメかもしれない」って書いたのに、こうして生きていて、ママに手紙を書いてる。

新しいお薬がわたしに効いたんだって。先生が「奇跡みたいだね」って言ってたよ。


大丈夫、もうすぐ元気になれるから。だから、またいっぱいお話しようね。


──亜里沙より




亜里沙へ


本当に本当にうれしい。

何度も便箋を胸に抱きしめて、涙が止まらなかったわ。

もう一度あなたと手紙を交わせるなんて、神様がくれた奇跡だと思っているの。


体のこと、無理しないでね。

わたしは、ただあなたの言葉を読めるだけで十分幸せ。

だから、どうか無理せず、また手紙を書いてください。


愛してるわ、亜里沙。


──ママより



ママへ


今日のママの作った朝ごはんのパンとスープすごく美味しかったよ。

窓を少し開けたら、少し風がふいていて、木の枝がゆれてたの。小鳥がまた来ていて、歌ってるみたいだったよ。


わたし、ママのお料理大好きだからね。

今日の夜ご飯は何かな?


手紙を書きながら思ったの。こうして毎日元気なことを書けるのって、すごく幸せだね。

またすぐに書くから待っててね。


──亜里沙より




亜里沙へ


朝ごはん、そんなふうに言ってくれてありがとう。

あのパンはね、あなたが小さい頃によく食べたお気に入りのレシピなの。

「また作って」って言われるのがうれしくて、何度も焼いたことを思い出したわ。


夜ごはんはシチューだよ。台所いっぱいに湯気が広がって、亜里沙が「いい匂い!」って言ってた顔を思い浮かべて作ったの。おかわりあるから、いっぱい食べてね。


あなたが元気でいてくれることが、何よりの幸せよ。

これからも、毎日こうして手紙を読めるのを楽しみにしているわ。


愛してるわ、亜里沙。




ママへ


シチューのおかわり、ちゃんと2杯食べたよ。

とってもおいしかった!

やっぱりママのごはんが世界で一番だね。


夜ご飯のあと、外に出て星を見たね。

ママがアプリで色々な星座を教えてくれたね。

金星や木星があんなに大きく見えるなんて知らなかったよ。本当にきれいだった。


今度もっときれいに見える山の上に連れて行ってね。約束だよ。


またすぐに書くから待っててね。


──亜里沙より




亜里沙へ


大好きな亜里沙。


ママ最近生きているのが辛くて辛くて…。


もうダメかもしれない…。


本当に辛いの…。


今すぐそっちに行って、亜里沙の事ずっとずっと抱きしめていたい。


ねえ、いいでしょ?


———ママより




ママへ


わたしの事をずっと抱きしめていいからね。


わたしもこうして抱きしめてもらうと、うれしくて涙が出ちゃうの。


新たにお薬ができて、こうして抱きしめてもらえることが、きせきみたいだって思っているよ。


山の上の星きれいだったね。


わたし流星に「ママが元気になりますように」ってお願いしたからね。


また手紙書くね。


———亜里沙より



亜里沙へ


返事遅れてごめんね。

あなたの言葉を読んで、胸がいっぱいになったわ。

「抱きしめてもいい」なんて言ってくれるなんて…本当に幸せ。

わたし、何度でもあなたを抱きしめたい。離したくないの。


流れ星にお願いしてくれたのね。

ママも同じ星を見ながら「亜里沙がずっと元気で笑っていられますように」って祈っていたのよ。

だから、これからもきっと大丈夫。ずっと一緒にいられる。


愛してるわ、亜里沙。

また手紙を書きます。


———ママより



読み終えると高雄は涙で濡れた便箋を丁寧に封筒にしまった。


封筒の下には『AI文通サービス』の文字が印刷されている。


AIが学習した2人の筆跡の手紙のやり取りを見ていると、まるで娘も妻もまだ生きている様な気がするから不思議なものだ。


亜里沙は病で亡くなり、妻はその後、失意の末に自ら命を絶ったと言うのに———。


それでも、手紙が届くたびに、高雄の胸には二人の笑顔が確かに蘇るのだった。



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