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猫のオルゴール

アンティークショップ「時の結晶」で買った、猫の刻印のされた不思議なオルゴール。

鳴らすとかわいい猫がやってくるが……。

猫のオルゴール


アンティークショップ「時の結晶」で、安田浩司(39)は一つのオルゴールに目を留めた。


その蓋には真鍮で猫が刻印されており、何か惹かれるものを感じた安田は手に取ってみた。


そして、ゆっくりと蓋を開けると、今まで聞いたことのない不気味なメロディが流れ出した。


その音に引き寄せられるように、「ニャー」と猫の声がした。驚いて足元を見ると、黒猫が安田の足に頬を擦り寄せ、尻尾を巻きつけて甘えている。


「うちの看板猫のモナリザですよ」


店主の岡本が微笑んだ。


「かわいいですね」


「猫は好きですか?」


「はい、飼ったことはないですけど…。でも今、このオルゴールを鳴らしたら、モナリザが来ましたね。」


「まあ、そういうことですね」


岡本は軽く頷いた。


「但し、扱いには十分お気をつけください」


安田はしばらく考えた末、このオルゴールを買うことに決めた。値段は5,000円。高いのか安いのか、よく分からなかったが、不思議な引力を感じずにはいられなかった。


家に帰ると、安田は丁寧に梱包された箱からオルゴールを取り出し、早速鳴らしてみた。


あの不気味なメロディが静かな部屋に響き渡る。安田の家はアパートの1階にあり、窓は曇りガラスで外の様子は見えない。


オルゴールの音が鳴り始めてから2~3分ほど経った頃、「ニャー」と猫の鳴き声がどこからか聞こえてきた。


「マジかよ。どうなっているんだ…」


安田はつぶやいた。オルゴールに反応するのは店の看板猫、モナリザだけだと思っていたのだ。


曇りガラスの引き戸をそっと開けると、そこには茶色と黒の縞模様の猫がいた。安田は手元にあったツナ缶を取り出し、猫に差し出してみた。


猫は最初、警戒するように距離を保ちながら近づいてきたが、ツナの匂いを嗅ぐと、一気に食べ始めた。


「めちゃくちゃかわいいな…」


安田は思わずつぶやいた。首輪はしておらず、野良猫のようだ。ツナを食べ終えた猫に向かって、安田はそっと手を伸ばし、部屋の中に招き入れた。


安田は今度、お皿に水を注ぎ、床に置いた。猫はペロペロと水を舐め始め、その姿がまた可愛く見えた。この猫を飼うことに決めた。このアパートはペット可の物件だ。よく見ると、あれがついているのでオスのようだ。その猫に「ゴン」と名づけた。


安田は早速ホームセンターに出向き、キャットフード、猫砂、トイレ、爪とぎ、おもちゃなどを買い揃えた。


家に帰ると、趣味である競馬中継を聞きながら、ゴンと一緒に遊んだ。こうして、ゴンと安田の新たな生活が始まった。


1週間が経ち、「ゴンの友達が必要なんじゃないか?」と思った安田は、再びオルゴールを鳴らしてみることにした。


あの不気味なメロディが部屋に響く。


そして、また2~3分ほど経つと、「ニャー」と猫の鳴き声が聞こえた。曇りガラスの引き戸を開けると、前回と同様に猫がそこにいた。今度は薄いベージュの縞模様の猫だった。


その猫を家に招き入れると、ゴンと同じようにエサを食べ、水を飲んだ。今度はメスのようだ。


安田はその猫に「メリー」と名づけた。ゴンとメリーはすぐに仲良くなり、並んでじゃれ合う姿に安田は思わず微笑んだ。

しかし、同時に、このオルゴールの持つ不気味さに気づき始め、恐ろしさを感じた彼は、オルゴールを押し入れの奥底に一旦しまうことにした。


二ヶ月ほど経った頃、安田はメリーの異変に気がついた。どうやらメリーが妊娠しているのだ。


「マジかよ。まいったな…避妊手術してなかったな。ただでさえ、月に2匹で1万円以上かかるのに…。そんな金、ねーぞ」


安田は頭を抱えた。先週、競馬で大勝負に出たものの、見事に負けてしまい、生活はカツカツだった。さらに、消費者金融に借金まで抱えている状況だ。


それから1ヶ月後、メリーはなんと7匹もの仔猫を産んだ。まだ目も開けられない仔猫たちが小さな鳴き声を上げる姿は愛らしかったが、安田はそれ以上に先行きの見えない不安に襲われた。


安田は生まれたばかりの仔猫たちの世話に追われていた。ミルクを与え、体を温め、排泄を手助けする毎日、おまけに鳴き声がうるさすぎて寝付けない。


連日の寝不足で仕事中にミスを連発し、上司にこっぴどく叱られてしまった。


安田は、競馬で負けを取り戻そうと、再び大勝負に出た。

だが、またしても惨敗。借金はさらに膨らむばかりで、返済の見通しも立たなくなっていた。


猫は好きだったが多くの猫達との生活と多額の借金は安田を蝕んでいき、精神は限界を迎えていた。


安田はついに決断した。猫たちをすべて山に捨てることにしたのだ。もしまた猫を飼いたくなれば、あのオルゴールを鳴らせばいいだけの話だと、自分に言い聞かせた。


「悪く思わないでくれ。俺も大変なんだ…」


そう呟きながら、夜の山奥で猫たちを車から降ろした。


猫たちはニャーニャーと泣き叫び、必死に安田にすがろうとしたが、彼はそれを振り切るように背を向けた。


エンジンをかけ、鳴き声が遠ざかるのを背後に感じながら、安田は車を走らせた。暗闇の中に消えていく猫たちの声が、まるで呪いのように耳に残った。


——————      


3年後


安田はその後、競馬で大儲けし、生活を見事に立て直していた。


そんなある夜、1人晩酌をしていると、また猫が飼いたいと思い始めていた。


「また、あのオルゴールを鳴らすか…」


そう言うと、安田は押し入れの奥底からあのオルゴールを取り出し、久しぶりに鳴らしてみた。不気味なメロディが久々に部屋中に響き渡る。


「俺の猫ちゃん、早くおいで〜」


安田は浮かれて上機嫌だった。


しばらくすると、「ミャー」と猫の鳴き声が静寂を破った。


「来たぞ…」


安田はほくそ笑み、猫を歓迎した。


だが、オルゴールは止まるはずのタイミングを過ぎても、不気味なメロディを響かせ続けている。


「ミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャーミャ」


次々に重なる鳴き声が聞こえてきた。どうやら一匹ではない…何十匹もいるようだ。


「なんだ…?」


安田は恐る恐る曇りガラスの引き戸に手をかけた。


音を立てないように少しずつ開けると、暗がりの中に無数の緑色の光が見える。


それはすべて猫の目だった。緑色の目が、安田をじっと見つめている。


「シャーーーシャーーーシャーーーシャーー!

シャーーーシャーーーシャーーーシャーー!」


猫達の鳴き声は次第に威嚇へと変わっていった。


背筋が凍りつくのを感じた瞬間、安田は後ずさりしようとしたが、足がすくんで動けない。


次の瞬間、猫たちは開けた隙間から次々に部屋に入ってきて安田に飛びかかった。


牙をむき、爪を立て、安田の喉元に食らいつく。その数はどんどん増えていき安田を覆い尽くす。


「うわああああああー!!!」


安田の断末魔が響き渡った後、夜は再び静寂が戻った。


説明


書いていませんが、安田が借金を立て直した後に、やってきて猫達はゴンとメリーとその子供達です。


Googleの情報では…。

猫は繁殖力が高いことから、理論上は1匹のメス猫から3年で2000頭以上に増えるとされています。しかし、現実には、子猫の死亡率や環境要因(エサ不足、ケンカ、ストレスなど)によって、その数は大きく減少します。


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