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悪役令嬢は恋愛においても悪役を貫く

作者: さばサンバ

語彙力と構成力の疎さに途中で断念した没作品ですが

削除するには惜しいので投稿しました。


私が幼い頃、父様は言った。


お家を大きくするために

どんな手段を使っても相応しい相手と結婚しなさいと。


だからね、正しいことをしたいの。


誰に忌み嫌われようが、煙たられようが

秩序を重んじることが正しさだと父様は仰っていたのだから――



「貴方!もう少し身なりをきちんとしてくださいまし!」


「で…でもアンリ様!このヘアピンは友達から貰ったものなのです!」


「その不適切な態度、退学に相応しいですわね。

理事長に掛け合ってみましょうか」


「え…?!そ、それだけは!」


「何、口答えする気?」


「い…いえ…滅相もない…」



ここは歴史ある学園です!


令嬢、令息としてのマナーや振る舞いも厳しく求められ、それらに魅入られた

生徒たちが集まるからこその学びがある。



「アンリったら、少し調子に乗り過ぎじゃないの?

いくら、名家の実娘だからって」


「だから婚約者が未だ見つからないのよ」


声高々にわなわなと外野が騒ぎ出す。

それら大衆に向けて、扇で口元を隠し、高らかに笑う。



風の噂で、私が悪役令嬢だと囁かれていると

聞いた時、笑い転げてしまいましたわ


悪役令嬢ですって。正しいを成しているに過ぎないのに。

しかし、それがきっかけで嫌われている

というならば、それは、私のためにある言葉。



「それじゃあ、この方のような

みすぼらしい女になって構わないということ?

将来は一生床掃除。言い返すことも出来ない人生になりたくないでしょう」



扇子で指した先には、薄汚れた格好の女。

掃除やらその他諸々の雑用を担う、俗にいう使用人の一人。

雑巾のような布を身に纏い、髪もボサボサ。

オマケに黒髪で、特徴の”と”の字もない。


規律の見出しを整える価値もない女。

踊り場から見る彼女は惨めも惨め。


「私は反面教師として、学ばせているんですの。

いつもお世話になっておりますわ」



だからって、私が誰かの味方であることはないけれど。


「もし、このまま退学なんてすれば

貴方の御実家にも傷がつくのではなくて?

恩を仇で返すような真似はなさらないように」


「……っ!」

悔しそうに唇を噛み、私を睨んでくる。



緊迫した膠着状態が続いたその時。

時計の針が丁度、十二時を示した。


古時計の鐘が学園全体に響き渡り学園生たちは皆、時計を見る。

ランチタイムは食堂で取るのが通例。


一流のシェフが高品質な素材を用い

巧みの技で作り上げる料理に舌鼓を打てる。


料理の香りを嗅ぐと、我を忘れて皆

食堂へと足を運ぶ。


「あら、もうこんな時間。皆様ごめんあそばせ」


先程までの空気は一変し、食堂へと向かう生徒たち。


でも、私はその方向とは真逆の方向へと歩み始める。


飯が美味かろうが衛星管理が整っていようが

騒音があれば飯も不味くなる。


「やはり、静寂という美学が分かるのは

この学園でも、私くらいですのね…って…ん?」




中庭。花々が咲き誇る中庭に、珍しく一人の男子生徒が座り込んでいた。

私の登場に驚いたのか、肩を上げてこちらに顔を向ける。



「驚いたな。あの学食を前にして、わざわざここに足を運ぶなんて」


彼は微笑みながら私に話しかける。

一体、何を企んでいるのか……。

しかし、彼をよく観察すると金髪の髪

と深く広がる海に似た青い瞳孔には見覚えがあった。



「ユーリ様、ごきげんよう。

学食をお召しになられませんの?」


「はは、まさか。あんな騒々しい食堂よりここの

庭園で食べる購買のパンの方がよっぽど美味しいよ」


「あら、私と同じですわね。

もしよろしければご一緒させていただいても?」


「うん、構わないよ」


一挙手一投足を慎重に判断して、彼の対面に座る。


「君は……いつも一人でいるのかい?」


「えぇ、私は孤高の存在ですもの」


彼は購買で購入したであろうサンドイッチを口に運ぶ。

彼に倣い、持参した弁当箱の包みをほどく。


「良ければ召し上がってください」


「…へぇ、美味しいよこの卵焼き。君が作ったの?」



弁当箱の中身から一部ひょいとつままれる。

いつもなら無礼だと怒り散らしただろうが

相手はあのユーリ様。学園でも指折りの

地位を誇り、学内外問わず支持される有名人。




「えぇ、そうです。お料理も嗜んでこそ、淑女ですもの」


「あぁ本当だ、このウインナーも絶品だよ」


「他には?」


「え…あぁ勿論、この米だって最高だね。

米が引き立て役になってるからこそ、主役が引き立ってる。

あと、この弁当箱の包みもセンスがいいね」


「成程。ご満足頂けたみたいでなによりです」


「ご馳走様。随分と食べてしまって

食べ盛り育ちざかりの学生に悪いことをしたね」


「腹八分目にも満たないですけれど元々少量でしたしね。

それこそ、お腹いっぱいの状態では

最高のコンディションも崩れてしまうというものです」



「それに…」と話を続けながら

持参のティーカップに紅茶を注ぐ。


淹れたての紅茶にミルクを入れて、泡立てる。

ぽこぽこと音を立てて沸き立つと、私の心を落ち着かせる。

白磁のティーカップが彩りを増していくと共に私の気も高まる。



「良い香りでしょう。紅茶だって作法だって

私がぬかることなどありません」


「…確かに美味しい。

じんわりと身体の芯が温まって

まるで何かが抜けていくような感覚だ」


「そして、美しい紅茶には穢れが良く映るもの。

だから、私は紅茶を嗜むのです」


「へぇ……それはまた……」


ユーリは顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。


「あと、噂はかねがね聞いているよ。

悪役令嬢だとか、鬼が世に降りて来た。

だとか、色々とね」



「なんだそれ」とツッコみが喉から出かけたが、飲み込む。


咳払いを一つして、ユーリの膝元に手を置く。


「ねぇユーリ様。そんな貴方様に

お願いがあるのです」


そして、身を寄せ彼の耳元に呟いた。



「一目見たときから、貴方に好意を抱いておりました」




*********




私ったら大胆!


まさか、とんとん拍子で公爵の息子と関係を持つなんて。

今日は一緒に帰る約束をしたし。


ふんふんふんと鼻歌を口ずさみ、ご機嫌な姿に

驚きの目を浴びられても「あらどうも」

なんて涼しげな顔で受け流せるくらいには余裕があった。


本当は心臓がバクバク鳴ってるけど、それは内緒の話。


とまぁ、うきうき気分で教科書を鞄に詰めている途中

教室の隅から二つの声がした。



「ねぇ知っている?ユーリ様が

使用人と付き合っているという噂!」


「学園中の皆が知ってるよ。

でも、身分差のある恋って憧れるよね」


惚気話に花を咲かせる二人の名は…

確か、ルーナとアリアといったか。


目立った家柄でもなく、特段優れた容姿も

特徴もない貴族を鼻にかける子達。



今の私は気分が良い。それはもう絶好調に。

なので、彼女達に一つ良い事を教えて差し上げましょう。




「ごきげんよう、ルーナ、シャルロッテ」


「…!ッはい!ごきげんよう!」


ルーナが深々と礼をし、続いてシャルロッテも同じ動きをする。


「それで、何のお話をしていたか。

よろしければ、私に聞かせてくださらない?」


「え……あ、あの」


ルーナは目を泳がせながら、シャルロッテの背後へと隠れる。

しかし、シャルロッテは私に向かって一歩前に出る。


「何?私を仲間外れにする気?」


「い、いえ。そのようなおつもりは。

アンリ様は恋愛など、不純なものとお考えかと」


「でもあの御方ですもの。

不純なお付き合いなんて親が許さないでしょう」



当たり前だ。恋愛が不純なものかなんて。

元来、結婚は子孫の繁栄。家の名を存続させる為の手段。

つまり、恋愛は結婚を有利に進めるための戦略でしかない。


ユーリはちゃらんぽらんな一面もあるが

公爵という位は伊達ではない。


幼少期に誰もが教え込まれるうちの一つであるのだから。



「知っていますか?毎日床拭きをしている使用人

リリアナがユーリ様と付き合っているという噂を」


「あらあら、それは事実無根ですわね」


「ですが、なんと証拠の数々がちゃんと実在しているんですよ!」



シャルロッテは先程の様子から打って変わって

鼻をふんと鳴らし、机の上にバァっと写真を広げる。


「これは……ユーリ様のハンカチが

リリアナのポケットに入れられているのです!」


他にもまだまだ出てくるわ出るわ。

どれもこれも、決定的なものとは言えないものばかりの写真が。


「拾っただけじゃありませんの…?」



しかし、次の写真に息を呑むことになる。


リリアナとユーリが会話を交わす場面。

幸せな笑みでユーリもそれに応じ、見つめ合う二人の図。



「…リリアナは解雇しましょう」


「え…?急にどうしたのですかアンリ様?」


「見て分からない?ユーリ様には相応しくないのよ」


あの時、私は二つの約束を結んだ。

一つが彼と帰宅する、もう一つが政略結婚に関して。


首を縦にこそ

振らなかったものの、 横にも振らなかった。

だから、リリアナが彼に恋慕を抱くならそれを全力で潰しにかかる。


「お言葉ですが…リリアナには幸せに

なって欲しいとは思わないのですか?」



写真を手に取って、力いっぱいに握り潰す。


「はぁ?少々オツムが弱いようで?」


シャルロッテ動揺を隠しきれず、後ずさりをする。

数秒見つめ合ったと思えば、はぁっと

擬音交じりの悲痛の叫びを私に浴びせた。



「お前はいつもそうだ!」


ルーナが叫ぶ。



「いつも上から目線で、私達をバカにして!」


まぁまぁと宥めるシャルロッテを無為にして、ルーナは続ける。

嫌悪という感情でできたそれは、針のように刺々しい。


「皆が皆お前のこと嫌っているよ。

正義を名目にやることといえば

人を傷付けることだけだろ?」


「急にどうしたのですか。

だって、可笑しな話じゃないですか。

貧乏人のリリアナと、未来ある私。

メリットを考えれば一目瞭然です」



「もしかして…ユーリ様を狙っているのですか…?」


血管の浮き出た拳を握り締める

ルーナとは反し、至って冷静を保つ私がいた。


無論それを彼女らに教える義理はない。

ゆっくりと席から立ち上がり、鞄を肩にかけて、教室の扉へと進む。



「どうでしょうね。それじゃあ、さようなら。

私を悪役令嬢と蔑むのも、貴方たちみたいな人なんですかね?」


あせあせと写真を拾う二人を視界の隅に感じながら教室を立ち去った。



―――窓越しから見る景色は

夕焼けに染まって校舎もまた紅く照らされている。

授業はとうに終わり、生徒の出入りも疎らになっていた。



「急がないとユーリ様がお帰りになってしまうわ。

引き留める話題も考えておかないと…

あぁ、私ったらなんて気が利く女なのかしら」


思わず頬が緩む。ユーリと会えるという期待に、胸が躍った。


軽はずみなステップは、先ほどの出来事を払拭するかの如く。

階段はコツコツ、コツコツと木琴を弾くように。



「………!…!」


「ユーリ様!お待たせして申し訳ありま――」


降りていく途中で確かな声色が、脳へ響いた。

階段から顔を覗かせると、一組の男女が。

喉ぼとけから声が漏れない。

ユーリとリリアナだ。噂もあってか猜疑が混ざる。



「な…何ですのこれ……」



やはり、予想は的中していた。

思わず壁に凭れてしまい、力なく下ろした腰がずるずると下がっていく。

渦中の私を放って二人は想い人同士その口を重ね合わせていたのだった……。



「その声はアンリかい?

いたのなら声を掛けてくれれば良かったのに」


「いや…それよりその子は…?」


「リリアナのことかな。

いやはや、お恥ずかしいところを見せてしまったね」


「ふざけないでください、立場をお忘れですか?

公爵の名が廃れますよ?正しいことを成さるように」



踊り場から見下ろしても、煮えたぎる思いを隠せずにいる

自分が妙に滑稽なのかとふと思う。


大声で怒鳴りつけたあとも、既に遅いというのに至って冷静を装い

所詮貴女は見窄らしい存在ですと哀愁漂うリリアナを逆に同情するしかなかった。



「あぁ、道理だ。

でも、僕は好きで好きで堪らないんだ。

公爵の立場だって無視して構わない」



リリアナから発せられた擬音混じりの声が、鼓膜を揺さぶる。


気付けば、ユーリに駆け寄って柄にもない声を張り上げた。


「結ばれる相手に相応しいのは私なのよ!?

身分だって申し分ないし…!」



みっともなく男の足に縋り付くことになるなんて。

ここまで成り下がれば

「どんな手段を使っても相応しい相手と結婚しなさい」

と仰った父様のお姿が良くも悪くも思い起こされる。




「悪いけど。僕の愛はリリアナだけに注いでいたいんだ」


そう言ってユーリは縋り付く私の手を振りほどく。


「ッ!」


突き放された私は顔から倒れこみ、地面に倒れる。


「僕は、きっと勘当されるだろうね。

けれども、その行動が自分自身で決めたのなら

君の言う”正しい”って言えるんじゃないのかな」


ユーリはリリアナを見つめる。

彼女の沈黙は一世一代の告白に対しての返事

なのだとすぐに分かった。



「大好きだよリリアナ」


二人だけの空間は、介入する余地など。



どうしよう、どうしよう。


このままじゃあ、今までの人生

お家の為に従ってきたこと全てが水の泡になっちゃうんだもの。



「とりあえず止めないと

…でも…どうしたら…?

今の二人に、きっと声は聞こえない。

…………あぁ一つだけあった」



こんなの、決して正しいことではない。けれど、もう止まれない。

おもむろに立ち上がり、思いっきりに拳を握った。



頭巾がひらひらと宙を舞い、はらりと落ちる。



目にかかった黒髪は酷く美しかった。

窓辺からの風で、髪が靡き

彼女の露わになった希望に塗れた瞳を見て

初めて”悪役”と呼ばれた理由に納得した。

すると、何故だかふっと腑に落ちて安心するのだ。



「君の”正しい”とは一体なんなんだい?

その原動力は私利私欲ですらないと見た。

あまつさえ人様に迷惑を掛け。

誰のための正しいなんだい?」


悪意のない純粋な疑問に

髪を掴んだ腕は重力に沿って垂れていき

その言葉を聞いてあぁやってしまったんだなと。


夕日に照らされた彼は影に落ちた私

と対極にいて、 それはまるで、私と彼との

間に境界線を引かれているかのようだった。



「君との婚約はお断りだよ、アンリ」



頬がじんと痛み、流れた涙が橙の夕焼けを歪ませた。


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