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虹霓国の女東宮  作者: 浮田葉子
第十一章 五雲国動乱
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 その年。夏の終わりに。


 成州へと派遣された禁軍は、叛乱軍に敗れた。




 勝利に勢い付いた農民らの叛乱軍は、各地の不満層を取り込み、更に拡大化。


 その勢いで、なんと成州政府の役所である()をも陥落させる。


 成州の治所(首都)を制圧したのだ。


 そして、ついに革命軍と名を改め、より組織的な軍勢へと変貌を遂げた。




 革命。つまりは五雲国王朝を倒す。


 新しい国を興す。


 それが軍の目的となった瞬間であった。






 その影響は他の州へも波及している。






 特に近年併合された新しい州の公たちは、この波に乗るか否かの決断を迫られた。


 五雲国(ごうんこく)へ変わらぬ忠誠をつくし、このままの地位を維持するか。


 それとも、再び一国として立ち上がるのか。








 国家転覆の危機に、五雲国が揺れている。








 宰相会議。


 門下侍中鶯皚雪(おうがいせつ)は国王玄秋霜(げんしゅうそう)に決断を迫った。




 求められたのは粛清。


 叛徒(はんと)の一掃である。




 無論、朝廷には粛清を求める強硬派だけでなく、穏健派も存在する。


 話し合いで解決をと主張する穏健派を、強硬派は一蹴した。




「革命軍と名乗っているのです。苔星河(たいせいが)は逆賊以外の何ものでもない」




 鶯皚雪はそう断じた。


 即刻排除すべき対象に他ならない。




 しかし、と中書令の(きつ)宰相は反論する。




「民の不満が爆発した。その結果担ぎ上げられたのが苔星河であった、というだけのこととは考えられぬでしょうか」




 話し合いの場を持つべきだとの穏健派の主張は退けられる。




 そも、誰が和睦の使者に立ちたいものか。


 激昂した農民たちの只中(ただなか)に放り込まれて、無事に帰ってこられるとは思えない。




「このままでは国家が崩れ去るでしょう。争いに巻き込まれ苦しんでいる民を救うためにも、逆賊は即刻粛清するのが正しいと存ずる」








 一方の革命軍の方でも意見の相違は生じていた。




 苔星河はただ、皆が苦しまぬようにと願って居ただけだった。


 だが現状はどうだ。


 革命軍の大将に押し上げられ、担ぎ上げられ。




 苔星河という一個人の想いとは裏腹に、周囲の人々の期待ばかりが膨らんでいく。


 英雄として祭り上げられる程に、星河の意思と現実とが乖離(かいり)していく。




「成州の英雄になるんだ!」


「王を討て!」


「新たな国を興すんだ!」




 煽る者たちの熱は加速していく。




「こんなはずじゃなかったのに……」




 頭を抱える星河の嘆きを聞く者は居ない。


 ただ浮かされるままに、燻っていた不満を燃え上がらせ、走り続ける。




 暴走する民の姿がそこにはあった。








 鶯皚雪とて、血に飢えた冷酷な圧制者ではない。


 彼は彼の立場で、国家の為に叛乱を鎮めることを第一に考えているのだ。




 そう。成州に居るのは革命に賛同し立ち上がる民ばかりでは無い。


 巻き込まれ、逃げ惑う者も多い。


 逃げ場をも失い、途方に暮れるしかない力弱き者も。




 彼らこそを救うために、一刻も早い鎮圧が必要なのだ。




 国王、玄秋霜は悩んでいた。


 誰もが正しく、また誰もが間違っている。




 模範解答などそこにはない。




 革命軍は速やかに鎮圧すべきだ。


 だが、被害を最小限に食い止める術は無いものか。




 そこで鶯皚雪は一計を奏上した。




 秋になれば農民兵たちは続々と脱落するだろう。


 秋は農業の重要な時期である。


 米の収穫に麦蒔きに、人手は幾らあっても足りない。


 収穫高が減っているからこそ、一粒も取り零せないのだ。




 そこで税を減じ、尚且つ此度(このたび)納めた者は、革命軍に関わっていたとしても罪を減じると触れ回る。




 そうすれば寝返る者は多いだろうと鶯皚雪は述べた。


 とても説得力のある策だ。


 玄秋霜はその提案を受け入れた。




 秋まで間が無い。




 即座に触れ回ることが肝要だ。


 朝廷は五雲国各地に間諜を放ち、噂を吹聴した。






 静かに、だが確実に。


 噂は広まっていく。




 此度、滞っていた税を納めた者は、《《たとえ革命軍に関わっていたとしても》》その罪を減ずる。




 この文言は、荒んでいた民衆の心にとても大きな影響を及ぼした。


 多くの者の背中を押す、大きな決め手となったのである。






 そして、鶯宰相の読み通り、革命軍の戦力は急速に低下し始めた。


 戦線を維持できなくなっていったのである。




 農民兵にとって、戦うことよりも家族のために田畑を守ることが最優先なのだ。


 当然の帰結だろう。




 稲の刈り入れを前に武器など持っていられるものか。




 必要なのは鎌であり、剣ではない。


 小麦を()くために畑を耕す(くわ)こそが、今必要だった。






 そして戦線は崩壊。


 鶯皚雪の読み通りである。




 鶯宰相は、禁軍の再派遣を冬まで待つことを進言した。






「飢えと寒さが彼らの戦意を更に削ぐでしょう」






 今度こそは都護府(とごふ)軍との連携を取り、革命軍を囲い込む。


 農村が最も忙しいこの時期こそ、策を進めるに丁度良い。








 そうして、その冬。


 禁軍は再び成洲への進軍を開始した。






 今度こそ革命軍を壊滅させるために。





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