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虹霓国の女東宮  作者: 浮田葉子
第十一章 五雲国動乱
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 叛乱は瞬く間に拡大した。

 鳴珂(めいか)県どころか成州全土に広がる勢いである。



 苔星河(たいせいが)は穏やかに生きたいだけだった。


 その筈だった。


 だが、彼の意思とは無関係に担ぎ上げられ、今や叛乱軍の総大将。




 何でこんなことに。




 そう思う星河の心とは裏腹に、叛乱軍は快進撃を続けていた。








 当然のことだが、朝廷が黙って見過ごしてくれる筈も無い。

 鎮圧のため、都護府(とごふ)は軍を派遣。



 速やかに鎮圧されると思われた叛乱だが、府軍はまさかの敗北。

 軍を率いた都護は府へと一時退却した。



 成州公は飛び火を恐れ、慌てて王都康安(こうあん)まで逃げ帰ったという。







 五雲国朝廷は対応に苦慮していた。




 不届きな叛乱は早急に鎮圧すべし。


 満場一致の結論である。




 だが、各々の意見は千差万別。

 都護府にこのまま任せておくべきではないのか。

 いや、ここは禁軍を派遣すべきではないのか。



 宰相会議は一向に(まと)まる気配は無い。



「禁軍を派遣し、早急に鎮圧すべきと存ずる。朝廷の威信に関わります」




 尚書省(しょうしょしょう)門下省(もんかしょう)中書省(ちゅうしょしょう)それぞれの長官、次官の六人が宰相として宰相会議は行われる。


 宰相は、建前上は同列である。


 だが、実際には明らかな差が存在した。




 門下省長官である門下侍中(じちゅう)鶯皚雪(おうがいせつ)


 宰相会議で彼に異を唱えられる者はごく僅か。


 行政最高責任者と言える尚書左僕射(さぼくや)潤春水(じゅんしゅんすい)でさえ、鶯皚雪には一目も二目も置く。




「ですが鶯宰相、禁軍派遣ともなりますと、国を揺るがす大事だと認めたことになりませぬか」


「認めるも認めないも、潤宰相。現に国の一大事であると考えておりますが、如何(いかが)か」


「確かに。ですが鶯宰相」


「一刻も早く平定するため禁軍を、と申し上げているのだ。成州が陥落せば、余波は五雲国全土に及びましょう」


「現に、成州公は王都に逃げ戻って参りましたな」




 尚書右僕射、(ねい)宰相が静かに言い、鶯皚雪を支持した。


 (すい)門下侍郎、(きつ)中書令、(たん)中書侍郎は黙して議会の行く末を見ている。




「余は禁軍の派遣を見送り、再度都護府に追討命令を下すべきと思っている」




 五雲国王、玄秋霜(げんしゅうそう)の言葉に頷く者は二人だけ。

 翠宰相、桔宰相は国王派だが、他の三名は鶯宰相派だ。


 ざっくり分けるなら国王派が穏健派、鶯宰相派が強硬派である。




「都護府は国境の防備が一の任務。内側の揉め事にかまけていれば、蛮族に国境を侵されましょう。すぐにも成州への禁軍の派遣を進言致します」




 確かにその通りではあるのだが。


 秋霜は苦く吐息した。


 翠宰相が静かに口を開く。




此度(こたび)の叛乱、民の不満に拠るものでありましょう。減税やら手当の方が必要かと存じます。ですが、まずは火消しを致さねばなりません。ただいまは禁軍の派遣が最適かと存じます」




 国王派の翠宰相の一票で、一気に形勢が決まった。


 穏当なやり取りなど、逆上(のぼ)せあがった民衆には無理だ。


 一度沈静化させなければ、話し合いにも持ち込めない。




「よかろう。禁軍の成州への派遣を命ず」




 消極的ではあったが、五雲国朝廷は武力を(もっ)て内乱鎮圧へと乗り出した。








 麟徳殿(りんとくでん)にて。


 月白凍星(つきしろのいてぼし)は王弟、玄曙草(しょそう)を迎えていた。




「私としましては、早々に全国的な雨乞いを進めて欲しかったのですが、中々思うようにはいきませんね」


「我々は武力を持ちませぬ故、一旦ことが沈静化するまでは動けぬでしょうな」


「ええ。少しお待ちいただくかと。ですが、できるだけ早くに鎮圧しないと、それこそ農村部が手遅れになりかねません」




 曙草は眉間に皺を寄せ、溜め息を吐いた。


 いつもは柔らかく明るい表情が、硬く張り詰めてしまっている。




「虹霓国の霊威が、五雲国に恵みの雨を(もたら)してくれたら、すぐにも平穏になるでしょうに」




 そう簡単にいくものか。


 凍星は内心そう思いながらも曖昧に微笑んだ。





 神々に見限られれば、五雲国は遠からず滅びましょう。





 卜部(うらべ)鶸忍(ひわのしのぶ)はそう(ぼく)した。

 他の卜部の者たちも同じ意見だ。




 一刻も早く全国各地で祭祀を行い、神々の魂を静め、慰めなくては。


 でなければ民の不満は更に募り、手の施しようがなくなるだろう。


 そうしてまた、神々の嘆きは増し、旱魃は悪化。民は飢える。




 悪循環だ。






 だがここで、手を差し伸べるのが良いのか。


 あるいは滅びへ向かう背を押すのが良いのか。




 凍星には判断がつかなかった。


 ただ、手を(こまね)いて見届けるだけ。




 五雲国は生き延びるのか。


 はたまた滅びの一途を辿るのか。




 どちらが虹霓国にとって吉と出るのかは、まだわからない。




 当面、凍星にできることは無い。


 ただ静かに茶を飲み、行く先を見守るだけだ。







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