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転生者が溢れた世界で  作者: nanotta
異界と冒険者の町
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姫様の異界7


 兵士たちの戦いは圧巻だった。


 流石の最精鋭部隊ということなのだろうか。金の光を身に纏い、稲妻のような軌道で駆け抜け、宙を舞い、一撃を加える。


 対する悪魔は、まともに当たれば終わりの巨大な腕の振り回しや二次的な礫攻撃に加え、ウネウネと気持ちの悪い触手を無数に生成し襲い掛かってくる。


 悪魔の召喚を防いだ際と比べて、兵士の動きは圧倒的に良い。もともと屋外での戦闘が本領なことに加え、儀式場に仕掛けられていた魔法の多くが兵士の力を制限していたのだろう。でなければ本来反乱分子など相手にならなかったはず。


 高速で動きながらも、互いの背中を常にカバーし合っている完璧な連携。悪魔があの叫び声を上げたところで、対策済みなのか兵士たちは気にも留めない。見ているだけで感動を覚えるほどの戦闘を繰り広げる。


 姫様やヒノも助力しようとタイミング計っているにも関わらず、何もできないでいる。ヒノは魔法を手元で捏ねながらいつでも使えるようにしているが、あまりにも隙がなく弄ぶばかりだ。


 見事としか言えない。だが、それでも足りない。悪魔の攻撃を全ていなし一方的に攻撃しているが、彼らの攻撃では巨体に対して有効とは言えない。いくら細かな傷を付けられようと悪魔はたちどころに再生し、何の影響も見せない。

 それどころか、兵士の攻撃が無意味だと学習し、悪魔はカウンターに専念し始める。



 徐々に、悪魔の攻撃が噛み合って行く。

 簡単に避けていたはずの触手が鎧を掠めるようになる。腕自体は避けても距離が足りず風圧をまともに受け、姿勢が乱れるようになる。


 悪魔の攻撃が生み出した礫が運悪く兵士の逃げ場をなくし追撃を食らい、脱落する。瞬間的に空いた穴を防ぐことに成功しても、兵士一人一人の負担は増える一方。


 綻びが出始め、連鎖する。


 数本伸びた触手を全て切り落としたつもりが、一本だけ間に合わず腕を絡めとられる。カバーに入りその一本を切り落とした兵士が、同じく触手に足を絡めとられてしまい、地面に叩きつけられる。


 叩きつけられた兵士は何とか意識を保つが、巨大な腕による追撃が迫る。

 隊長による救出が間に合い、援護の攻撃を加える兵士たち。


 そして。


 隊長が助けた兵の状態を確認しながら背中を励ますように叩き、持ち場に戻るため足を踏み出す。

 そのタイミングを狙って、触手と共に再び巨大な左腕が振り降ろされる。


――いけない


 隊長が一瞬兵士を気遣ってしまったがために。悪魔から目線を外してしまったために、気付くのが遅れ隙が生まれた。僕ですら、致命的だと分かる隙。

 隊長なら今からでも逃れられても、あの兵士はもう助からない。もう少し距離を置いて兵士の体制を整えさせるべきだった。


 運悪く犠牲者が出るのはこの際仕方がない。だが、運の関係ないところで犠牲者が出るということは、この先の結果が見えてしまうということ。


 終わった。


 そう、勘違いしてしまった。


「ふっ!」


 隊長が、身に纏う光をいっそう強くして弾けるように飛び出した。


 黄金の弾丸は一直線に目標――肉の突起に向かう。


 腕を伸ばしたことで、どうぞ攻撃してくださいと言わんばかりに左肩に生える突起を晒している。

 これまであえて積極的に狙うことをせずにいた目標。根気強く待ち続けたチャンス。この機会を作り出すためだけに、あえて隙を見せた。


 これを見据えて、兵士を一人犠牲にした。


 直前から回転を始め勢いを乗せ、振り降ろされる大剣。激しく発光するその一撃の威力は容易に推察できる。が、それでも肉の突起は見た目に反して頑丈らしく、簡単に切り落とされてはくれない。


「おおおおおぉぉ!」


 雄叫び上げる隊長。その声は全てを終わらせてやるという意志と、今しがたわざと死なせた兵士の死を悼む慟哭。

 より強く、より鋭い一撃になるように全てを籠める。


 時間がかかってしまった以上、悪魔も黙って見ているわけではない。隊長を振り払おうと、触手をけしかける。しかし、隊長の発する光に近付くと触手は焼け、触れることは叶わない。

 痺れを切らし、自らの腕を振るう悪魔。兵士たちが防ごうとするが、巨大な腕の動きを止めるような力はない。


 圧倒的な質量を前に、光の防御能力は足りず。隊長の体は容易く捩じれ、千切れる。

 だが、絶対に剣は離さず。自らに襲い掛かる暴力、その力を利用し――切り落とした。


「ぁ――」


 肉片となった隊長が、哀れにも振り落とされる。


――間髪を入れず、姫様とヒノが動いた。


 練りに練った魔法の弾を投げ込むヒノ。悪魔に当たるよりも手前で効果を発揮し大爆発を起こす。目を見張る威力だが、直撃していない以上せいぜい表面を軽く炙るか、目くらましにしかならない。


 そう、目くらましだ。


 姫様の持つ剣が異常な光と熱を帯びている。あれだけ眩しかった隊長のものよりもさらに濃密。もはや光と呼んで良いのかさえ分からない、全てを塗りつぶす白。味方であり、距離をとり見守っているだけの僕でさえ恐怖を覚える危険性。


 あんなものを持っていたのか。あんなものを使えるのか。


 危険を感じたのか悪魔が腕を振るうが、正確な位置が分からず空振る。


 血走る目で煙の向こうの悪魔を睨み続ける姫様を、二度目の腕が捕らえるかと思った瞬間。光が弾けた。


 放たれたのは、斬撃だったのか。


 凄まじい衝撃波が僕のところまで届き、目を開けていられなかった。

 やっと目を開け確認できた頃には、煙はすっかり晴れ。光と熱の塊が、巨大な悪魔の体を両断していた。


 重心を失った巨体が、徐々に倒れ行く。


 ズズゥン……


 地面に激しくぶつかる半身が、瓦礫を吹き飛ばし、土煙を巻き上げる。



「や、やっ……え?」


 倒れた二つの半身が、もがき、動いている。


「ごふっ、は、ああぁあああああぁ!!」


 反動なのか、穴という穴から血を流れさせる姫様は再び剣に力を籠め、さらなる追撃を用意しようとする……が。


 ドシュッ


 いつの間にか姫様の背後まで触手が伸びており、呆気なく貫かれる。


「「姫様!」」


 僅かに残る兵士が姫様に駆け寄り触手を切る。声を掛けているが、既に絶命しているのか反応はない。

 力任せに姫様から抜かれた触手は複数に枝分かれしており、内蔵をぐちゃぐちゃにしていることが察せられた。


「くそ、こ、これでもダメなのか」

「違う!見てみろ、先端を切られただけの触手が止まっている。確実に弱ってるはずだ!」


 兵士たちがまだ諦めずに気合いを入れ直し、倒れている悪魔の触手を迎撃し、追撃を加える。


 だが兵士たちに勢いは既になく、輝かしい光も碌に纏えていない。

 思うように動かない体が悔しくてたまらない。その感情が弱弱しく点滅する光を通して伝わってくるようだった。


 こちら側の消耗の方が激しそうだが、悪魔だって半分になり横たえ体を再生しようともがきながら、触手のみで戦っている状態。今なら僕にも何かできることがあるかもしれない。


 そう思い戦場へ近づこうとした時。不意に別方向へ意識が引き寄せられた。


「え?」

「あ」


 ヒノが、肉塊を抱えてコソコソと戦場から離れ僕の近くまで来ていた。


「なに、やってるんですか」


 肉塊には大きな口と、目が一つずつ。顔だけというよりは胴体にそれらが生えているような気色の悪い物体。あの悪魔の幼体のようにも見える。


「何って言われると、うーん」


「何でもいいです!もう少しで倒せそうなんですから、早く行って加勢してください!」

「え、多分無理だよ?姫様死んだみたいだし火力足んないでしょ」


「足りるかもしれないのが、ヒノさんの魔法じゃないですか!悪魔に通じるかもしれないのはあの爆発だけです!」


「……ん?悪魔?何の話?」

「は?今、戦ってたやつ、え?」


「あ、あの化け物のこと?」


 なんだその反応は。


「悪魔でしょ?二体の悪魔がいて、一体は封じて」

「……?」


 なんでピンと来てないんだ。


「あの悪魔の暴走を止めるのが僕たちの仕事だったんでしょ?失敗したからこうも被害が広がった。みんな、死んだ」


「え、えーっと、暴走って何の話だっけ?」


「ヒノさん、が、お前が、姫様に伝えたんだろ?それで僕のパーティに暴走を止めてって……」


「あ、ああー!そういうこと。やば、てきとー過ぎて忘れてた。アハハ!」


「うん、もういっか。そこら辺てきとーな創作だよ?私はこの人が必死こいて怪物の体内で自分を集めるのを待ちたかっただけだし、そのための時間稼ぎをできたら良いなぁって思っただけ」


 何を。こいつは何を言い出した?


「なんだかんだ兵士たちが強そうだったし、戦ってあっさりやられちゃったりしたら嫌だからね。姫様もいざとなったら秘策があるとか言い出すし。実際あれヤバいよねっ」


「完成するまでは、無限に再生するって」


「そんなこと知るわけないじゃん!そもそも完成って何?アハハ!」


「じゃあ僕の仲間は、何のために……」


「特別な死に方ができる人なんてそういないよ?エベナに来てどれくらい?まだ主人公のつもりだったの?」


「ふ、ふざっ」


 不意に、足元で何かが爆発した。それがヒノによるものだと気付いたときには、既にメイスによる殴打が迫っており、一瞬意識が飛んだ。


「激高して周囲が見えないなんて下の下だよー?よくここまでやって来れたね。ろくに動けないみたいだしどっちにしろかもだけどっ」


 ……目が回る。脳みそが揺れる。痛みを何故か感じない。僕の体は横たわっていて、辛うじて動くのは首だけ。力を振り絞り、ヒノの方を何とか見据える。


 一周回って落ち着いた。腹が立つとか、恨みがどうとかじゃない。ただ、こいつは殺さなきゃいけないと思う。でも、どうやら僕はそれができないまま死ぬようだ。


「あ、でもでも、最終的にアレを倒したいのはホントだよ?倒さないと帰れそうにないし。これ抜いたらそれだけで死ぬかなーとも思ったんだけどねっ」


 もういい。黙れよ。


「というかこの人、私に何もしないで良いって言ってたけど、本当に何もしなかったらもう死んじゃってるじゃん。考えているようでちょっとてきとーなんだよね。まあ私もそういうとこあるし、そこが可愛いし楽しい部分でもあるんだけどねっ」


 ペシペシ。


「ヴ、ヴヴァ……」

「あー、ごめんごめん!もう死にそうじゃん。そんなんなってんのに、あいつのしぶとさ持ってないのねっ。面白いねー」


 ふざけている。終わっている。なんだこいつは。


「じゃ、まずはこれかなっ」


 ヒノがポケットから砕けた赤い石を掴んで取り出す。そして、そのままその手を肉塊の口の中へと突っ込む。


 ゴリッ、メキ、グチャ、クチャ、クチャ。


「痛ったぁ。もっと優しくできないの?そんなんじゃ嫌われちゃうぞー?」


 な、何をやってる。

 ……いや、肉塊がうごめき始めた。形を変えようとしている、のか?


「あー、やっぱこれでも肉が足りないのか」


 チラッと、こちらを見る異常者。

 ……あぁ。そういうこと。どうせもう死ぬというのに、そんな終わり方は勘弁して欲しい。


「いや、やっぱそれはなしでしょ。こんなんが混じるのは嫌」


 ……え?

 まあ、このまま死ねるなら文句はないが。


「ここは愛が試される場面だよねっ」


 え、は?



「どうぞ!お食べ!」


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