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転生者が溢れた世界で  作者: nanotta
異界と冒険者の町
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姫様の異界5

 儀式をしていた祭壇から、赤と黒の煙が立っている。いかにも失敗しましたと言わんばかりだ。


「貴様ぁ!」

「姫様とヒノを守れ!」


 ローブを着ていたのは思っていた通り、ヒノだ。どこかのタイミングで敵に紛れ、チャンスをうかがっていたのだろう。


 恐らくノーマルルート攻略における冒険者の動き。悪魔の召喚を防ぐ最適解。やはりこの人はエベナの冒険者だ。何の情報も持たない者ができることじゃない。


 ただ、残念ながら今はノーマルルートではない。もう一体悪魔がいる。


 向こうは今どうなっているのか。既に悪魔は召喚されてしまったのだろうか。


 召喚されていたとしても、暴走を止めるのが最優先なために時間稼ぎを優先しているはずだ。大きな被害はないと願いたい。


 それにしても、こちら側は召喚を防ぐことができるのか。

 

 召喚を防いだこの場は、気付いたら一方的な展開になっていた。一時は均衡を保っていたが、敵のリーダーがフラフラとその場を離れ悪魔はもう召喚できないと気付いたのだ。

 敵の士気が大きく下がり、抵抗を見せなかったリーダーを始め一人また一人と敵は数を減らしていった。

 

「残党狩りはしなくていい!次に行くぞ!」


 負けを悟った敵が逃げ出すと姫様がそう言い放ちすぐさま外へ向かい始める。その間ヒノは祭壇へ行き何かを搔き集めていた。


「ヒノさん、ですよね。何やってたんですか」

「次の敵への対策だよ。というかリーダーがこっち来てるんだ。使えなーい」

 

 僕の接触に驚くわけでもなく、シンプルに非難された。


「侵入したのはあなたの方でしょう。巻き込んでおいてそれですか」

「関係ないじゃん。私に文句を言えれば死んでも満足?」

「……今はこの件については置いておきます。端的に聞きますが、僕たちは必要ですか?」

「必要ないなら侵入すると思う?そんなことも分からない?もう行くよ」


 思わず眉をひそめる。いちいち神経に触る言い方をしてくる人だな。

 兵士たちに続いて出口へ向かうヒノを追いかけ、話を続ける。


「だとして、何をすれば良いんですか。暴走を止めろと姫様からは聞きましたが、具体的な方法が分かりません」

「知らないけど。少しは自分で頭使いなよ」


 建物から出ると、僕が鬱陶しいのか門の方へは行かず塀を飛び越え違う方向へ向かって行った。


 どうせ目的地は同じ。せめてもの意趣返しも含め追いかけようとしたが、そのタイミングは失われることになった。


 ゴゴォン……


 何かが砕ける大きな音が響き、地が揺れる。ビリビリと空気が振動し、足が止まる。


「何だあれは!!」「ひぃ!」「化物だ!」


 誰かの叫び声で我に返り、その姿を確認しに通りへ出る。


――あれが、悪魔。


 地上八階建てほどの高さを持つ巨体は、まだ距離があるここからでも確認できた。


 人型ではあるが首はなく、直接胴体から頭部が盛り上がって付いている。目は不規則に複数配置され、ぱっと見で五個はある。他にも何の機能を持つものか分からない穴がいくつか。口は大きなものが一つだけだが、ひん曲がり歯の大きさも不揃い。腕は太く長く、あらゆるものをなぎ倒すだろう。


 人と同じような肌があるようだが、ところどころ抉れていたり、中の肉が飛び出していたりで汚らしい。全身が奇妙に脈を打ち、溶けだしているようにも見える箇所がある。


 おぞましい姿。悪魔というよりも、巨大なゾンビの化け物。

 一つ確かなことは、通常の方法では絶対に勝てそうにないということだろう。


――ィィイイィアアアァアアアァー


「ぐあっ」


 悪魔の叫び声。何の意図があって叫んだのか分からないが、極めて高い音で響く叫び声は耳に痛く、それだけで攻撃足り得た。これだけ距離があっても辛いのだから、近付いたら鼓膜がすぐに破けそうだ。


 兵士たちは金属のフルフェイス兜を投げ捨てまでして、耳を抑える。


 音が止み動けるようになると、兵士たちの行動はそれぞれだった。悪魔を倒すため加勢に向かう者、その場で絶望する者、そして悪魔とは反対方向へ逃げ出す者。


 もともと、今ここにいるのは出遅れた実力の低い者たちだ。最も離反者も多くなるのが自然。市民たちも動ける者は家屋から飛び出し逃げ始めている。

 正直僕も逃げ出したい。だけど、異界は丸ごと世界が用意されているようでいて実際には制限がある。少なくとも僕たちはどこかで壁にぶつかってしまうはず。


 まあ、壁なんてなくてもここを滅ぼした後に平気で追い付いてきて殺されそうではある。


「ふぅーっ」


 無理やり呼吸を整え、悪魔の方へ向かう。


 ヒノという冒険者には色々言いたいことがあるが、ひとまず悪魔の暴走とは関係がなさそうだ。腹が立つけど、まずは悪魔の対処が先。仲間の応援へ行こう。


 気付けば護衛の兵士もいない。姫様の指揮に従い他の兵士と一緒に行ってしまったのだろう。召喚を防いだ悪魔への対処が完璧だったこともあり、僕を守る必要性も感じなくなったのだと思う。

 僕はこそこそと安全圏にいただけなので、責める気も起きない。


「うわっ」


 悪魔が暴れているせいで、瓦礫が飛んで来る。大きな瓦礫は質量のせいで防ぐことのできない圧倒的なパワーを持つ攻撃になっているし、細かいものはその分高速で飛来する。

 まだ碌に接近していないのに、直撃すれば死ぬ。道は瓦礫で塞がり足元は不安定。普通の汗と冷や汗が混じる。クソゲーだと言って投げ出したい。


 命からがらなんとか悪魔へ近付いて行くと、兵士たちの数人グループが建物の影に隠れていた。


「状況を教えてください!」

「もう一度!」

「状況を!!教えて!!」


 叫び声対策として誰もが耳に布を突っ込み栓をしている。悪魔が暴れ轟音が響くこともあり、声を聞き取れないのだ。額をくっ付けながらも怒鳴るようにして会話を行う。


「悪魔は再生する!対処法は不明!時間稼ぎに徹する!」

「了解!」


 再生?確かにそうした能力がありそうな不気味な見た目ではある。だが、実際にそんなことをされたら手の施しようがない。流石に無限だとは思いたくない、解除条件か限界があるはず。いずれにせよここで縮こまっていても何にもならない。


 何かないかと走り回る。ところどころに兵士のグループが隠れており、機をうかがっている。中には僕の護衛だった者も一人いて、謝罪しながらもまた僕に付いてくれた。それどころか、そのグループごと僕を護衛すると動き出した。


 もう、他に方法がないのだ。兵士たちがどれだけ集まろうと、正面から戦ってどうにかなる相手じゃない。

 悪魔の召喚を防いだ際の勢いなんて欠片も残っておらず、完全に窮地に追い込まれている。




 走る。走る。走る。不思議と疲れは感じない。ハイになっていて、後で酷い反動が来るという自覚がある。

 既に一時間以上、走りながら怪しい場所を探り続けている。移動した距離や時間に反して、成果は何も得られていない。新たに得た情報は、精々仲間の二人が死に、一人が重症で倒れもうすぐ死ぬということだけ。


 あとは一応、死んだ仲間たちが担当していた悪魔の召喚地点や悪魔周辺に怪しい者はいなさそうとのことだった。僕も永遠走り回り何も見つからなかったので、もう周辺には何もないと断定するしかない。


 単純に、ここから離れたいという気持ちもある。当たり前のようにそこかしこに死体が転がっていて、だからこそ仲間の死を知ってもショックで立ち止まることはない程度に耐性が付いていた。

 生きている兵士も、その多くが絶望を顔に張り付けている。


「一度、王城へ行きます」


 枯れた声で普通に喋ったところで、誰も聞こえていないだろう。それでも僕の行動を見れば意図は伝わるはず。

 気付けば僕を守ってくれている兵士も残り二人。悪魔の近場を通ることもあったので、飛んできた瓦礫にぶつかったり、僕を庇って死んで行ったりもした。


 王城で何か発見はあっただろうか。なかったとしても、せめて無事でいてくれ。悪魔は北西部で発生しそのまま南下した。初動以外の被害は少ないはずだ。担当していた仲間は誰だったっけ。ああ、死んでないやつが担当者か。じゃあミシェルだ。アニメが好きで、細目で、優しい人。


 城の門は固く閉ざされていたが、兵士の一人が鍵縄を使い器用に登って行き僕も付いて行く。一人は片腕をやられているようで、ここに残るようだ。



「なんで、ですか」


 門の内側は、予想と少し違っていた。

 多くの市民が避難しているか、逆にもぬけの殻か。どちらかだと思っていた。


「……」

「何をやってるんですか!姫様!」


 姫様とヒノ。そして最精鋭である兵士たちが休憩していた。召喚を阻止した戦闘から新たな傷が付いた様子はなく、寝転がったり食事をしたり。思い思いの形で英気を養っている。叫ぶ僕の方へ兵士は白けた顔を向ける。


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