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転生者が溢れた世界で  作者: nanotta
異界と冒険者の町
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姫様の異界2

 僕たちはエベナに来て、どうしようもないほど自分の無力さを知った。

 だから決して無理をせず情報や装備を揃えて、確実に行けるという確信を持ってから行動に移すようにしてきた。


 お金で情報を買い、さらに良い収入を得てまた情報を買う。その繰り返し。言われた通りのことだけをする日々。


 冒険者という名前に相応しくないことは分かってる。それでも最近はもう諦めがついて、こういうものだと納得した。


 結局、どんな世界に行っても未知の領域を開拓するすごい人と、既に舗装された道を歩く平凡な人がいるだけだ。生きる世界が変わったところで、自分自身が変わるわけじゃない。


 でも平凡が悪いとも限らない。無理をせず堅実に生きていくだけで、この世界じゃ大したものだ。死んでしまった何も残らないのだから、生きているだけで勝ち組だ。


 こうして異界なんて面白いものに手を出せるようになったし、十分転生した甲斐があった。お金の稼ぎを第一にして、やっと僕たちでも異界に手を出せるくらいの情報を集めたのだ。


 今回『南第二クエスト』に入ったのは、予習のため。一部だけ攻略したところで報酬は大したことがない。所要時間を考えれば何の得もないくらいだ。

 それでもこうしてわざわざやってきたのは、言葉だけの情報との齟齬がないか確かめるためだ。いくら正確な情報だとしても、一度も異界に入ったことがないままではイメージも上手くいかない。


 何の危険もない一部を情報通りに進めて空気感を確かめ帰るだけ。この国のお姫様と顔を繋いで、仲良くなって、イベントをこなす。何もかも分かっていることの確認作業。ほとんど休憩みたいなものだ。パーティメンバーのみんなも普段とは違う雰囲気を楽しんでいる。



 それだけのはずだった。


 何故か姫様は町の外を気にしている。王国軍は既に外のモンスター部隊をいくつか潰したみたいだけど、まだ何かあるんじゃないかと疑っているようだ。


 外のモンスターを倒すのは二部の内容のはず。一部で離脱するつもりの僕たちには関係ない話だ。今回のパターンだと、あとはケシコール家の連中の証拠を掴み兵士を連れる姫様と一緒に突入するだけ。何で外のモンスターと戦っているのか分からない。


 二部の内容はまだ買えていない。なんとなく知っているだけの情報しかない。今はケシコール家について集中してほしいのに、姫様は町の外の様子についてあれこれと質問してくる。質問されても僕たちが答えられる範囲は狭いし、できることもない。勘弁して欲しい。


 


 無事に一部が終わった。情報通りに動いた結果、姫様の連れる優秀な近衛兵がケシコール家を叩きつぶした。僕たちの仕事はこれで終わり、この国から旅立つ。つまりこの異界への初突入は終わりで、あとは帰るだけ。


 妙な予感がして、早く帰りたい気持ちでいっぱいになっていた僕にとって達成感はひとしおだった。気持ち程度の報酬も遠慮してさっさと退場しようと思ったけど、先に口を開いたのは近衛兵の一人だった。

 

「まだ町の外で異常に発生しているモンスターがいる。こいつらはやはり反乱分子によるものだそうだ。恐らくケシコールはただの囮。まだこれで終わってはいない」



 最悪な予感が当たった。ゲートが開くことはなく、そのまま二部が始まってしまった。こんなことがあるなんて聞いてない。



 ◇



 意識が戻った。


 今がいつなのか、ここがどこなのか。今の俺は何なのか。


「聞こえているか?」 


 苦しかった気がする。そうだ、とにかく苦しかった。今はどうだ。苦しくはない……か?


 分からない。苦しかったとして、俺は苦しいと感じるのだろうか。そもそもコレは俺なのか?


 コレ?コレとは?そういえば何も見えていない。暗いのか?目を開けても……目?目はどこだ。ない。


――ないから作ろう。


「お、おお!おい、ついに反応があったぞ!目が出てきた!おっと、保険は必要か」


 誰かがいる。何か言ってる。そうか、耳もない。必要なものは作らないと。


「う……。分かってはいましたが、気持ち悪いですね」


「見た目なんてどうでもいいだろう。これは期待できるぞ、怪しい儀式なんぞに頼る必要もなくなる!」


「そうなんですかね。いや、疑うわけじゃないんですけど、この肉団子って何ができるんですか?」


「何を言う。今のを見ていなかったのか?目に続いて耳と口も出現した。手足を生やすことだって容易いだろう。今の図体で暴れまわるだけでも十分な脅威になる」


 手足?ああ、作れるのか。あれ、足ってどんなものだったっけか。こうか?いやなんか違う。こうでもない。そもそも足なんて必要か?なんか眠くなってきたし、もういいか。


「あの、失敗しているみたいですが……」


「……いや、暴れだされても困るから目が覚めてからすぐ麻酔を入れ始めた。その影響だろう。ようやく得た成果だ。慌てた結果手放すようなことはしたくない。先日の侵入者の件もある。予期せぬ事態になれば台無しだ」


「そうは言いますけど、既にここまで結構な時間が経っていますよ。慎重になるのは分かりますが、いちいち長い時間がかかることになれば、結局間に合いません」


「問題ないはずだ。目などの感覚器官の方がよほど難しいに決まってる。何もなければ容易く手足など生成できる」


「ならば良いのですが……。麻酔で簡単に動きを止められてしまうようでは使い物になるのでしょうか」


「ま、まあ実戦時には、体内に入り込む異物を全て排出するよう先に教えてやれば良いだろう。思考力はあるはずだ。今はとにかく、肉を継ぎ足してより質量を増やすことを優先すべきだ」


「木偶の棒にならないよう祈りますね」



 ◇



 勝手に始まった二部のクエスト。一時はどうなることかと思ったけど、順調に推移しているみたいだ。


 正直何もしていないので、これで良いのかという不安は拭えない。姫様の顔を出す頻度も減っている。


 とはいえ何か文句を言われているわけでもないし、姫様の方は調子が良いらしくご機嫌だ。


「これで良いの?」


 パーティメンバーも同じく不安を抱えている。しかし僕たちの力じゃモンスター部隊に挑んだところで仕方がないし、迂闊に動けば足を引っ張るだけだ。


「異常事態なんだ、良いかどうかなんて分からない。僕たちに被害がないようにしながら、ゲートが開くタイミングを待つしかないよ」


「ランダム要素ってやつなのかねぇ」


「だとしたら、情報屋で注意してくれると思うんだけどね」


 国の一大事として町の住民も外出を控えている。サブクエストをして気を紛らわすこともできず部屋に引きこもっている時間が多く、不安やストレスが溜まる一方だ。このような会話も既に何回も繰り返している。


 そんな折、部屋のドアが開かれ僕たちと違う明るい調子で姫様が現れた。


「こんにちは。こちらは変わりない?」


「うん、まあ。こんな調子ですることもないしね。雑用でも何か手伝えることがあればするんだけど、どう?」


 やれやれという雰囲気を出しながら、冗談のつもりで質問する。前回もこんな感じで声を掛けたけど、モンスターたちに敵わないし情報もない以上やれることなんてない。


 本当に荷運びなんかの仕事があるなら喜んで引き受けるけど、いちいち部外者を使うよりも正規で雇っている人を使うに決まっている。まだそんな切羽詰まっているわけではなさそうだし。

 

「そうね、じゃあ町中に潜んでいるかもしれない反乱分子を探してもらって良いかしら。前回と違って本命の方ね。悔しいけど、やっぱり前のは囮みたいだったし。こちらの方はもう目途が付きそうなのに、人の姿は見かけないのよね」


「え、ああ、そうなんだ。良かったね」


「やっぱり冒険者も色々ね。適材適所ってところかしら。町中の調査はあなたたちの方が実績もあることだし、期待しているわ」


「わ、分かった。頑張るよ」



 その後軽く雑談を交わし姫様は帰って行った。でも、その内容は全く頭に入ってこなかった。


「ねえ、これって……」


 何かを察したメンバーが怯えながら口を開く。

 僕は声で答える前に、思い切り拳を床に叩きつけた。木製の床は大きな音を出し砕かれ、穴が開く。こうした行為を見ることのないメンバーたちが驚いた顔をする。僕自身、何かに八つ当たりするなんて初めての経験だ。


「三部が始まった」


 まだ二部の内容も途中だというのに。

 

「おい、三部って確か」


「僕たちは攻略する方法を知らない。しかも必要な道具があったはず。何より、一部二部と違ってやり過ごすという方法は使えない」


 一部は最悪、隠れ続ければそれで済む。今こうして安全に過ごせていることから、二部も多分同じ。もちろん報酬はないし入ってきた意味は何もないけど、だからこそ安全。


 でも三部は違う。「王国と辺り一帯の生き物が死滅する。悪魔が召喚されてしまえば確実に殺される」掲示板でみんなと一緒に見た情報。眉唾な話だらけの掲示板だけど、誰もこれには反論や突っ込みを入れなかった。今更どうこう言う意味のない前提になっていることを感じ取れた。


 そうした状況に、勝手に入ってしまった。

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