酒場2
驚異的だ。ノーツとかいうやつは、世界の犯罪者全てを一人で裁いて回ったのか。
「みんながみんな納得したわけじゃない。それこそどこからが犯罪か、なんて個人によって認識が違う。酒が表で飲めないのも仕方ないとは思うが、やっぱ飲みたいしな」
酒の扱いもノーツによって決められたと。
「ノーツの行い自体が人殺しであり犯罪だと声を上げる奴もいて、対抗するための組織も作られた。だが、そのほとんどが返り討ちに遭い殺された。ただ殺すだけじゃなく、拷問もよくやっていたな。
そうこうしている内に、みんなノーツに殺されないよう従い始めて異議を唱える者もいなくなったんだ」
誰よりも人を殺していて恐れられているが、そのお陰で多くの秩序が産まれ感謝されてもいる。人々のノーツに対して持つ感情は様々で、あまり表で話すべき内容ではないそうだ。「もしノーツに聞かれてたらと思うと怖いしな」なんて冗談交じりに言うが、シャレにならない。
「あらましは分かったんですけど、それこそ同じかそれ以上に強い人が反発するということはなかったんですか?」
ノーツこそが最強というなら話は早いが、もっと強い冒険者もいるという。ならばその者たちは従う必要がないし、気に食わなければノーツの方が殺されてしまう。
「強い奴等ってのは案外横のつながりがあるみたいでな。反発するにしても、じゃあ代わりに世界をまとめろ、みたいな雰囲気だったらしい。ここら辺は噂でしかないがな。
で、実際に『守護の剣』は独自の法律を定めた都市連合を南方に作って運営してる。あまり良い話は聞かないがな」
南方の都市連合についても聞いたことがある。転生前の社会に近いものが形成されているが、運営が上手くいっていないらしく犯罪者が蔓延っているという。
『守護の剣』も最強議論で耳にはさんだことがあるが、最強と謳われるギルドの一つでも上手くいっていないのか。あるいは強いだけでその手の能力は優れていないのか。
「むしろ、その失敗のせいでますますノーツが支持されることになってるのは皮肉な話だ」
他に秩序をもたらせる者がいないのならば、多少横暴だったとしても一般市民としてはノーツに頼るしかない。
「強さに関してはそれこそ最強議論になっちまうな。ただ、少なくともノーツは殺されないってのが共通認識だ。典型的なソロ冒険者で生存能力が飛びぬけているし、勇者殺しの実績もある。さらには支援者に最強常連の魔王がいるんだから喧嘩を売る気にゃならんだろうよ」
勇者に魔王。なんだかまた冒険者が好きそうな話が出てきたが、これは有名な話なようで特に説明されることもなく切り上げられてしまった。
「ちと話し疲れたな。なんかもっと気楽な話題にしようぜ」
勝手に同じテーブルを囲み始めて何をという感じでもあるが、色々聞かせてくれたので追い返すのも座りが悪い。
「あー、じゃあ今日新種っぽいモンスターを見つけたんですけど、皆さんならどう戦うか聞きたいですね」
新種ではあるが似たようなモンスターなどいくらでも発生し得る。経験豊富な冒険者なら有効な手段を知っていることもあるだろう。情報屋と違って正解と言えるほどの細かい手段は得られないだろうが、参考になることもあるかと思い聞いてみた。
一応自分たちは魔法で爆破したことを話しながら、訊ねる。
「へぇ!爆破魔法なんて使えんのか、すげぇじゃねぇか!洞窟で使うには怖いが、まああそこなら平気か?やっぱ特殊な洞窟は崩落とかしねぇんだな。分かってても、もし崩落するとって考えちまって、洞窟内じゃ激しくは戦いたくないんだよなぁ俺は」
なんて、明後日の方向に話が進みながら時間は過ぎて行った。
酒気が抜けるまで店からは出られない。愉快な時間ではあったが、鍛錬の時間などが大きく削られる羽目になってしまい、反省する。ある意味当たり前かもしれないが、酒場など昼過ぎから行くような場所ではなかった。
◇
「幸運だ」
転生して冒険者としてこれからだというタイミングで腕を失い、続けて両足を失った俺は運が悪いのか。
そのようなことを考えると、俺は間違いなく運が良いという結果になる。
なんてったって今生きているし、死にたいとも思っていない。
人間賛歌を説き四肢の一つも失わずに不幸だと嘆くクソ野郎がどれだけいようと、比べたところで意味はない。
まあ、コーメンツを通っておいてその考えを維持できるなら大したものだとも思う。
寝起きに何故こんなことを突然言ったのかというと、三階にあるこの部屋の窓の外に映る景色内で、三つ首の大蛇が暴れているからだ。そもそもその地響きで起こされた。
家々の屋根より高い位置にある大蛇の首は、次の瞬間には三つとも落とされ亡き者となる。腕の立つ冒険者がやってくれたのだろう。
精々大蛇が暴れていられた時間は一分そこらだろうが、それでも当然被害は出ているはず。数件の建物が潰されただろうし、死者もいることだろう。
あのような大物が突然出現し町中で暴れているところは初めて見たが、新たな異界が発生したのだろうと予想はつく。
街中で異界が発生、その門から大蛇が出現。周囲の建物やその他諸々が吹き飛ばされた。即座に大蛇の出現に対処できない身からすると、あんまりな即死コンボ。
こんなことが平気で起きる町に人が集まるとは。
まあ俺もその一員だし、危険があろうと実入りが良いなら構わないのが人間か。
「むぁ?何だったん?」
寝ぼけ眼を擦りながら今更聞いて来たヒノに異界が発生したみたいだと説明する。
この町で過ごしていれば珍しくもない出来事なので、すぐ合点が行ったみたいだ。
頻繁にあることとは言え、町中の新しい異界の発生はちょっとしたお祭り騒ぎになる。
今みたいな強力なモンスターが出現する異界はほとんど災害のようなものだし、すぐに脅威を排除し救助や封鎖、見張りが行われる。この際に出現するモンスターは新種であることが多いため金になるので皆喜んで討伐に出る。
ただし、周りに被害を出さない事や即殺が求められたりと一定のマナーがあり、俺たちはまだ参加できない。俺は高火力を出せないし、ヒノの魔法は周囲に被害を出さない保証がない。
また、新しい異界が出たなら当然クリア報酬を得ようと我先に攻略に乗り出すのが冒険者だ。
クリアするのは何だかんだで有名な上級冒険者である事がほとんどのようだが、それ以下に全くチャンスがないわけじゃない。むしろ力不足を補うためにも、所要時間を増やそうと真っ先に挑戦を始める者たちばかり。
新異界で有効なアイテムがあると特需になったりもするので、そのアイテムの生産や素材集めもまたお祭りの一つとなる。
早く色々なことに挑戦したいが、俺たちでも参加できるのはこの特需関連くらいなものだ。
◇
日が経ち三人での狩りに慣れて来た頃、一日の狩りを終え街中をぶらついていると懐かしい顔に会う。
「お……?スガ、スガじゃねぇか。まだ生きてるようで何よりだ」
初期の頃コーメンツで俺が命を救いパーティに入れた一人、エノンだ。結果的に一緒に狩りをした期間はほとんどなかったが。
「エノンか。そっちも元気そうだな」
どちらともなく積もる話をするために、近くの喫茶店に入る。
「へぇ、サンゴはともかくミリリとも別れたのか」
エノンとはあれ以来一度もやり取りをしていなかったので、互いに何も知らない。
生きているなら大抵情報屋を通じて連絡をとることもできるが、わざわざそれをする理由もない。ヴォーヨンにいた頃はずっと同じ町にいたはずなのに会うこともしなかったし、そんなものだろう。
「むしろヒノがまだ付いてきてることの方が不思議だよ。一度ドジを踏んで、しばらく冒険者業を休んでたんだ。底辺なのに誰かを養ってる暇なんて普通ないだろう?」
ヒノの態度はとても怪我人に対するものではなかったが、宿と食事代を持ってくれていたことは確かだ。
冒険者としては、そんなお荷物捨てて当然。好意があろうとなかろうと、結局は仕事仲間として有用であることが大前提。
「色々あったみたいだな。怪我をするならそれこそミリリだと思ったが、そんな簡単な話なら冒険者業も苦労しないか」
「そういうお前は順調そうだな」




