ポルデゴ
一話飛ばして投稿してしまっていたので修正しました。申し訳ありません。
早速、と言うほど急いで来たわけではないが情報屋を訊ねた。
見るのはギルド員募集の張り出し。紙には条件や方針、現在の規模、利点などが書き記されている。
定型文しか書いてないものから突飛なことが書いてあるものまで様々。この町は規模としてはヴォーヨンに比べれば遥かに小さいが、冒険者の数としては中々のものなのでギルド員の募集も多く行われているようだ。
「ポルデゴ」それがこの町の名前だ。
門を意味する名の通り、町とその周辺に多くの異界の門、ゲートがある。
募集の紙にもその異界に関することが書かれてるものがよく目に入る。「○○のタイプの異界攻略を目指す」だの「異界情報の共有と人員の融通」だの書いてある。
冒険者の夢が詰まった異界のことを考えれば、ごく自然な流れだろう。ダンジョンタイプの異界であり、ただの狩場であったヴォーヨンとは訳が違う。
異界の種類と活用方法は多岐にわたるが、『冒険者の塔』ほど利便性が高いものはあまり見つかっていない。ポルデゴにある多くの異界も同様で、町の敷地内で食料や基本物資が簡単に賄えるなんてことはない。
利便性を低下させる大きな要因は、その危険さ。
入口は安全であるなんて決まりも、モンスターは通れないなんて決まりもない。下手をすれば異界にある国が兵士を伴い攻めてくることもあるそうだ。
モンスターの数が多いダンジョンタイプは特に異界の外へ出てくることが顕著であり、ヴォーヨンのものは本当に特別性なのだと分かる。
ゲートの向こうの事情もそれぞれであり、ゲートの発生と同時にそうした脅威が大量にやってくることも珍しくない。もはやゲート自体が脅威といっても過言ではない。
さらに、入ることもリスクが大きい。なぜならゲートは一方通行であることもある。入ったが最後、クリアするか一定条件を満たすまで出てこれなかったりする。
なんらかの理由で異界を維持しようとしても、相当の負担とリスクを負う。
何とか楽をしようと橋頭保を築こうとしても逆に入口を執拗に狙われるようになったり、異界自体の難易度が上がったりする。一度出るとリセットされるタイプの異界では当然橋頭保ごとリセットされるので何の意味もない。
その為もし異界が出現したら、速やかにクリアすることが目指される。
普通、何らかの条件が達成されると異界の門は閉ざされる。一般的にこの現象を異界のクリアと称し、多くの報酬を得ることができる。
異界のクリア自体が多くの冒険者の目標でもあり「便利だからクリアしないで」などと言ったところで誰かが勝手にしてしまうものでもある。
本気でそれを目指すなら、ゲートのある土地の所有権と安全性があることを証明し高名な冒険者に保障して貰ったりする必要がある。あるいは、その存在ごと秘匿したりだろうか。
とはいえ危険性が低いタイプのものもある。
それがクエスト型であり初期化型の複合異界である。ポルデゴには長く存在し続ける異界がいくつかあり、大抵がこのタイプ。
基本的に異界は発見されると一か月から半年ほどでクリアされるのだが、平気で十年そのままになっている。
門をくぐりさえしなければ問題は少なく、中々クリアできずに情報だけ蓄積され上手く利用する方法を思いつかれたりしている。
先日俺が中級冒険者に同行したのもその一つ「ポルデゴ南第二複合連続クエスト集団初期化型異界」、通称『姫様の異界』あるいは『南第二クエスト』だ。
王国にて様々なお使いをこなしながら信用を得て襲い来るモンスターに打ち勝つ。というのが大体の流れらしいのだが、先に敵の部隊を倒した場合も問題解決となり一定の報酬が貰え帰ることができる。
これはクリア扱いではなく異界とゲートもそのまま。何度も最初から再挑戦ができる。
こうした「稼ぎ」をメインとするパーティ、ひいてはギルドもある。
攻略本片手にゲームをクリアするかのようで、比較的安全に稼ぎを期待できる方法だ。ただし初期化型には必ずランダム要素が含まれるので、調子に乗って周回を繰り返していると大変なことになるらしい。
『南第二クエスト』でも、稼ぎパーティがたまに丸ごと帰らぬ人となるらしい。
……らしいのだが、稼ぎ周回をするに当たってはハズレでも、攻略時にとっては当たりな場合もあり、その情報を持ち帰るととんでもない稼ぎになったりもする。もちろんそのままクリアできてしまえば、さらに多くの報酬が与えられ、分不相応な一財産を築くこともあるそうだ。
この、問題が起きても上手く運べば多くの見返りが得られるという要素がまた冒険者に好まれる点だろう。
張り紙に目を通していると、「稼ぎ」をメインにする方が多い。
情報を武器に、効率良く金を稼ぐ。うむ、正しい。正しいが、こうしたギルドに入るつもりはない。
以前の俺だったら、間違いなくこれらのギルドに入っていただろう。だが、それはもういい。
俺がヴォーヨンの異界ダンジョン、『冒険者の塔』で四肢を失うはめになったモンスターに出くわしたのは予期せぬ縄張り変更によるもの。
掲示板に載っていた推測では、レイピアビーの女王蜂が進化して産まれる個体も強くなり、それに対抗するため他の種も深部から強い個体が出張ってきてどうのこうの。
特殊個体はレイピアビーじゃなくブレイドビーだとか。まあ話を聞く前からそんな名前の気はしてた。
詳細はどうでも良くて肝心なのは、あれは数か月に一度くらいの頻度で発生すること。法則性はなく、運が悪ければ俺のように何度でも巻き込まれる。
そしてこうした不定期で発生する事柄はどんな場所でも当たり前のようにあるとのこと。
なぜ狙ったように俺に降りかかるのかと腹が立ったりもした。
でも、どこでも起こり得るならきっといつかはぶつかる。どのタイミングであろうとも、情報に頼り切りだとイレギュラーに弱くなる。
生存確率、いや生存時間を伸ばすだけなら避け続けるのも良いかもしれない。だが、それで冒険者として成功するのか。成長できるのか。
誰かが踏み固めた道を歩き続けて楽しいか。それを冒険と呼ぶのだろうか。
結局、そんなことを続けていたら転生前のつまらない毎日と同じだ。
闘技場を見に行って気分転換できたこともあったが、所詮は一時の遊楽でしかない。社会人がたまの休日に映画を見るのと何ら変わりはしない。根本的には何も解決しておらず、転生の意味がなくなってしまう。
明確な目的がない限り異界で行うべきは稼ぎではなく攻略。少なくとも最初から攻略を諦めているギルドに入る気は起きない。
極論、それは緩やかな自殺なのだから。
張り紙と睨めっこしていてもピンと来るものがなく、埒が空かないと店員にコツみたいなものを聞こうとしたが「売りたいのは山々ですが明確な目的がなければ好みですので……」と断られてしまった。
ここら辺誠実なのは非常に好感が持てるのだが、それでは何も変わらないので今日のところは諦めて店を後にした。




