運び屋
ただの荷運びを、俺たちでは守り切れない。
文字通りのお荷物を魔物の巣窟の中で確実に守りながら移動など不可能だ。もとから移動速度を求めない大人数のパーティならともかく、二人でなんてあり得ない。それが可能なほど格下の狩場に行けば結局収入は増えやしない。
つまり一定以上の戦闘能力が必要である。
荷運びを雇うという行為はそもそも完全に無理。するなら、運搬能力の高い仲間を増やす、ということになる。
この考え方はエベナの冒険者としては一般的なことでもあり、ただ荷物を運ぶだけの"荷運び"に対して"運び屋"と呼ぶ。
冒険者内の役割分担、言わばRPGにおける職業の大雑把な最初の分類には「戦士・斥候・魔法使い・僧侶」などが多いが、こちらでの分類では「前衛・後衛・運び屋」が最初に来るくらいだ。
転生者が皆最初は前衛一択であるからこその大雑把さではあるが、それでもすぐに運び屋は別に扱われ始める。
魔法の袋、とりわけ重量がそのままのしかかる容量袋は個々が装備するというより運び屋が持つアイテムという認識である。
運び屋は超重量の荷物を運びながらも戦闘において一定の役割を期待され、その多くが"運び魔"か"運びタンク"という二種類に属する。
運び魔は、どうせ碌に動けないなら固定砲台になろうという発想であったり、逆に固定砲台になるなら荷物も持っておこうという発想から産まれたという。最もメジャーな運び屋だ。
簡易魔法という存在と容量袋の関係もあり"金があれば最も簡単になれる冒険者役職"とされている。
運びタンクは、貝やカタツムリのような存在である。背嚢ごと装甲でガチガチに固め動く障害物となる、力自慢の一つの究極系だ。
一定以下の攻撃力、貫通力しかない相手にはとことん強い。防御特化のタンクであり有効に働くことは多い。地域によってはこの役割の者が最も人気で引く手数多である。
俺たちの問題の最も簡単な解決法は、運び屋を仲間に迎えること。それだけで済む。
それは分かっているのだが……正直、俺たちとの相性が不安だ。
ヒノは地雷が多いだけでなく、根っこから狂っている。俺が障害者生活を送ってきた中で得た実感だ。「気を使う」という言葉がヒノの辞書にはない。ここまでとは思わなかった。ついでに俺もそれに順応し、移っているとこがある。
わりとそういう性質の者を集めた最初のパーティならば良かったが、だからこそ荷運びをやる様な人間がいなかったとも思える。メンバーを増やすだけなら、応じてくれるかどうかはともかくサンゴやミリリを呼び戻すという選択肢もあるのだ。意味がないからやらないだけで。
リョウなら可能性はあったが、一番まともだから真っ先にいなくなったのだ。そういう人選、活動をした俺の失敗である。
仲間を増やしたせいで不和が起き全滅する、というのはよく聞く話。掲示板でもしょっちゅう誰々が地雷だとか口差のない事が書き込まれているが、命にかかわるのだから敏感になってしまっても致し方ない。
俺たちが書き込まれ悪い意味で有名にならないためにも、安易に仲間を増やせない。
他にはモンスターを仲間にするという方法があるにはある。荷運びに有利な種類を得られればその一点では一番良い選択肢になる。今後の人間関係にも影響ないだろう。
ただし、これが最も難易度が高い。
便利なボールや餌はない。能動的にできることといえば地道な餌付けか、卵から育てるくらいだ。時間が掛かり根気が必要だ。
「また方向性迷ってる?」
俺が思案しているのを感じたのだろう、ヒノが次の総菜パンに手を伸ばしながら聞いてくる。
「まあな。仮に重量袋を持っていたとしても、今回の仕事ではあんま意味無かったんだよ。金になるのはオークの装備品だし、購入予定のサイズじゃ入りそうにない」
本来の論点とは違うが、これも事実だ。
「装備系はあまり入らないって話だったもんねー。袋が手に入ったら入ったでそういう場所は避けるようになりそう」
「幅を広げるために袋を買うのに、結局違う方向に変わるだけな感じがどうにもな。もちろん行ける場所での儲けは違うわけなんだが」
「まー私はスガさんについてくだけだから、好きに決めてー」
現在のヒノは俺との関係だけで言えば非常に良好なんだが、難しいものである。
◇
「ええ、もちろんそこでも餌付けに時間が掛かります。むしろ他の場所より時間が掛かるとされています。安全に可愛い仲間を増やせる場所は他になく、多くの方が集まります。餌を貰える事がもはや当然になっており、簡単には懐かないでしょうね」
モンスターを仲間にする為の情報を聞いているが、やはり一筋縄ではいかなさそうだ。
その手の者たちに人気な町があると聞いていたのだが、そこも期待できそうにない。
むしろ、詳しくなればなるほど難しい事だと感じる。
「ですので、最初に説明した通り卵を孵化させる事が最もお勧めの方法となります。街中で見かけるモンスターも半分以上この方法で仲間になったはずです」
ただし卵が孵化した際に側にいなければまず事故って無駄になるし、孵化するまでの時間も分からない。常に卵を持ち歩く事になり、冒険者業をする事はままならない。
孵化した直後のモンスターが役に立つ筈もなく、一年近くはお荷物。愛があってこそという雰囲気を感じる。
少なくとも今戦力を増やそうとしてする行為ではないのがよく分かる。
こうして何か良い方法はないかと悩むごとに情報に金を使い、重量袋を買う金が減ってしまう。その上方向も定まらないまま。
「……どうしたんだい?」
爽やかイケメンを気取る声音に、我ながらキモッと心の中で引いてしまった。
「わっ、えと、その…パーティを探してて」
情報を聞き終え個室から出てきた後に店内のパーティメンバー募集に関する紙が張り出されている一角で、オロオロしている娘を見つけたので優しく声を掛けた。こうした活動が思わぬ収穫に繋がることもある。味を占めている俺の日常だ。
「君のような子が?いや失礼。現地民なら、むしろ僕たちより強かったりするのかな」
転生直後の転生者より少し幼く見える容姿。十中八九この世界で産まれた現地民だ。鍛錬してきた時間を考えれば転生者より強くなることは何も不思議ではない。転生に特別な特典がない以上、現地民の方が有利だ。
「あ、いや、そこまでではないかもしれませんが……あの、見方がよく分からなくて」
冒険者のほとんどは転生者。とりわけ大して活動範囲の広くない、低レベルな冒険者のうち情報屋を使うのは転生者だけと言っても過言ではない。
使うこと自体ほぼないのだから、分からないこともあるだろう。だが、これは特殊な状況だ。
現地民は育ってきた過程でこの世界の多くの知識を得ているものだし、人との繋がりも形成されている。聞きたいことは信頼のおける知り合いに聞けば良いだけだ。
パーティに関しても知り合いと組めば良いし、知り合いに紹介してもらっても良い。横のつながりというのは偉大だ。
「わざわざこんなところで探さなくても良いと思うけど、何か事情があるのかな?とはいえ店内で俺があれこれアドバイスするわけにはいかないかな。店員さんに聞いてみたらどう?」
話し声から状況を察した情報屋の店員がこちらに視線を向け始めていたこともあり、速やかに誘導する。
娘も店員の視線に気付き、言われるがままに店員の方へ向かう。俺は募集の紙を見ながら、娘を待つことにした。恩を売れそうなら売ろうという魂胆。
案の定、店員との話が終わった後俺に「あの、ちょっと良いですか……?」と声を掛けられた。
転生者なら情報屋の店員に聞いたこと以上の情報は期待しないので、こうして再度話しかけることは少ないだろう。現地民の持つ緩さがある。話しかけられなければこちらから声を掛けようと思っていたので、都合が良い。
併設されたカフェがあるが、店員の目が届く範囲にいるのは居心地が悪いので店外へと行き、一つ横の店の壁に寄りかかり道行く人の往来を眺めながら要件を聞く。
「えっと、私は……あの、昔はこれでも結構褒められたんです。家や村の仕事は誰よりもできたし、遊びで何かするときも勝つことが多かったんです。……」
「うんうん」
そうして無駄に長い話が始まった。




