騎士モドキ
冒険者二十名が、男の話を大人しく聞いている。
冒険者達の格好などはてんでバラバラ。荒事に長けているのが見た目から伝わるが、それにしては秩序立って話を聞いている不思議な印象を受ける。
「すでに分かっている者も多いだろうが、あなた達は寄せ集めだ。こちらで能力を把握していたりはしない。求めるのは雑魚を蹴散らし注意を引くという一点のみだ。あらゆる責任は負わないが、仲間の妨害をした者に報酬はやらん」
男は集まった冒険者達へ依頼内容、作戦を淡々と告げていく。
「……以上が作戦ということになる。決行は予定通り1時間後、正午丁度に突撃を開始してくれ。何か質問のある者は?」
最後にお決まりの質疑応答の場が設けられるが、発言する者はいない。依頼内容を理解しているからこそ集まり参加しているのであり、今更聞きたいことなど無いのだ。
「では、健闘を祈る」
そう締め括られ、男は集団を置いて去る。持ち場に戻ったのだ。
「新顔だな、ソロか?」
顔の真ん中斜めに傷の入った、いかにもな雰囲気を醸し出す彫りの深い強面の男。寄せ集めだと言われた冒険者達でも一目置かれている存在なのだろう、皆を代表して話しかけた。
「参加自体は、そうなる。普段はバディを組んでいる奴がいるんだが、今は別行動でな。定員のこともあったし丁度良いと思って参加させて貰った。世話になる」
答えたのは、身綺麗な青年。もっとも、集まった冒険者の多くとその風貌は大して変わらない。
それでもどこか綺麗な印象を受け、ついでに言えばお高く止まって見えるのは、身につけている装備によるものだろう。
細かな意匠が施された銀色の鎧。植物を思わせる繊細な模様が全体を覆っている。泥臭い冒険者と言うよりも、一国の姫を守る騎士様と言うところだろうか。
見た目の良さに反比例して鎧は華奢。動きを鈍らせる金属鎧であるにも関わらず装甲には期待できない。
実力第一主義の冒険者という職業に置いては、無駄な部分に金を掛ける半端者に見えることだろう。いかにも新品かのように光を反射し輝いているのがまた印象が悪い。
もちろん、こうした鎧は大抵魔道具であり何か効果が付随している。ただし、防御力が増えるようなものは少なく鎧としての性能は見た目通り。生存を第一とする冒険者にとっての印象は結局変わらず良いものではない。
さらに言ってしまえば、ここに集まっているのは金魚の糞と馬鹿にされようとも、ただ金のためだけに美味しい条件を求める冒険者たちだ。見た目が良い上に強力な魔道具など持っているはずもない。
「悪いがお前さんの相棒と違って、足手まといになるようなら手助けなんぞしてやらんが、覚悟の上か?」
見た目でどれだけ悪印象だろうとも普段からソロで活動しているならば心配はなかったのだが、悪い方向に期待は裏切られた。そのため連携をとる気はないと告げたのだ。
ソロ冒険者というのはパーティを組んでいる者より一回りも強いことが珍しくない。それほどにパーティというのは優位性があり、逆にそれに頼らず生き残っているソロは強い。
特に生き延びるための術は圧倒的と言われるほどで、パーティを組むならば定期的にソロ冒険者に教えを乞うべきだと言う者もいる。
「もちろんだ。諸々の自覚はあるから何かあっても、いや、何があっても気にしないで良い。心配してくれて感謝する」
お互いに挑発しあうかのような言葉を交わし、話は終わる。
強面の男は勝手にしなという手振りを交えながら振り返り、自身の仲間の元へ戻る。最低限の確認は終えたのだから、もう用はない。
もとより定員残り一人になった時点で、追加が来るとは期待していなかった。ソロ冒険者なんて珍しい存在が上手いこと来ることはまずない。であるならば魔物を一時引き付けてくれるエサとして使える要員がいれば、それだけで助かるのだ。
騎士モドキの方はそれに気を悪くすることもなく、軽く手を振り返した。
一時間の間、各々のパーティ同士で軽く話し合いが行われた。最低限の情報共有と連携のためだ。
好き勝手にやるのが冒険者というものだが、能力や相性によっては思いがけず味方の足を引っ張る可能性がある。”仲間の妨害禁止”という条件が言い渡されていることもあって、その確認を怠ることはない。
新顔が少ないこともあり、強面の男が中心となり滞りなく確認は行われた。
「よっす。気にしないで良いって話だったんだけど、俺としては一応確認しときたい。使える広範囲攻撃や、逆に使われたら嫌な魔法ってある?」
軽薄そうな男が騎士モドキに話しかけ、確認をとる。
「どちらもないから安心して欲しい。わざわざありがとう」
「そうか。じゃあ健闘を祈る。無理すんなよー」
「……」
一連の行動を視界の端で追っていた強面の男は、軽くため息を付く。皆で”気にしない”という方針を固めたのに、それを簡単に破られるのは困るからだ。和を重んじたつもりかもしれないが、逆に乱している。
注意しても良いが、結局は別パーティ。それこそ喧嘩の元になりそうなので、頭を抱えながらもそのまま時刻を迎える。
誰が声を掛けるわけでもなく、各々が装備を締め直し動き始める。
その後ボソッと誰かが「十秒前」と呟くと、あたりに響くのは微かな鎧がこすれる音と、風や葉の騒めきだけとなった。
景気づけに冒険者らしい粗野な叫び声を上げる等ということはなく、一斉に無言で走り出す一団。
森の中、器用に木々を縫いながら迅速に進んでいく。静かに、そして素早く駆ける様はまるで忍の集団だ。
注意を引くという当初の役割からするとおかしなように思えるが、折角身を隠していたのに敵に対して襲撃を知らせるなど、その戦闘に命を懸ける側からしたらあり得ない。少しでも対応が遅れてくれた方が良いに決まっている。
とはいえ、冒険者たちが潜伏用の結界を張り身を潜めていた森から敵の陣までは数百メートルの草原を走ることになる。敵が構える陣地は主にテント群とそれらの防衛設備だが、簡易ながらも見張り櫓があり見つからず侵入とはいかない。
迷彩を施しているわけでも夜襲でもない。当然見張り――櫓の上にいるゴブリンに見つかり、敵襲を知らせる警笛を鳴らされる。
しかし熟練の冒険者、とりわけ先鋒を務める者達にとって数百メートルなどわけもない。森を抜ける際には抑えていたその脚力で、地をえぐりながら駿馬のごとく駆け抜ける。
騎馬や普通の歩兵を想定した木製の返し柵は軽々と飛び越えられ、歩みを鈍らせることすらできやしない。
警笛を鳴らした者、それに呼応した者たちが弓を構え終わる頃には既に先頭の冒険者が陣地に踏み込んでおり、弓兵という役割に意味がどれだけあったのか疑問だ。
それでもめげずに後続へ矢を射るが、冒険者からすると格下の矢。櫓から見やすいということは冒険者側からも櫓が見やすいということでもあり、正確な偏差射撃であったが軌道は分かりやすく軽く躱され無視される。
先頭を走る冒険者が通り掛けに、警笛を鳴らした櫓の柱へ剣を振る。頑丈に組み上げられた丸太の柱、その数本が大した抵抗もなくあっさりと切断され、バランスを崩し倒れていく。
そうこうしている内に、冒険者たちは次々と陣地の中へ侵入する。
冒険者たちは、思い思いにモンスターを蹴散らす。出てくるのはゴブリンやオーク、犬頭のコボルトといったメジャーな人型モンスター達だ。最初は簡単に一撃で倒すことの出来る雑兵だけだったが、次第に敵は強力になる。
これは事前に手に入れていた情報を元に、戦いやすい時間を狙ったが故である。強力な敵が休憩している時間を狙ったのだ。
強力な敵と言っても、種類が変わるわけではない。単純に各個体の能力が向上し装備が良くなる。人間と変わらない。
慣れているのだろう、強面の男を始めとした多くの冒険者は特定の位置を陣取り敵を呼び込む形で敵を減らす。決まった装備の敵が現れると、拘束魔法を掛けてから綺麗に首を刎ねる。装備を回収し売り物にするためだ。
そんな中、騎士モドキの男は何も戦法を用意していなかったのか、単身突っ込んで行く。
長剣を振り回し見た目に似合わず豪快に一人で無双していたが、敵が強くなり始めるとすぐに勢いを失くす。
次第にモンスター達に追い込まれ、ぐるりと周囲から剣や槍の先を突きつけられる形になる。
「……」
それを遠目に見ていた冒険者がいたが、予定通り無視した。死ぬにせよ逃れるにせよ、関係ない。




