第七話 空っぽのブーケ
翌日。やはり穂高は僕より先に起きている。
「お、起きたか〜。最後にメシ作ってくれるってさ」
「…わかった。準備するよ」
最後、か。自分から言い出したことだけど、いざ目の前に来てみると案外寂しいものだ。あんなに憎んでいた存在でも、僕をここまで育てた親代わりなんだから。
「またね」
面と向かっては言えないから、小さく呟いてみた。
「ん?なんか言ったか?」
「いや、帰ったら勉強頑張らなきゃなーって」
「がんばれー」
「いや、あんたが一番やらなきゃでしょうが」
「えぇーっ、オレちゃんと助けたんだから今日ぐらい見逃してよ〜」
「前半ほとんどオロオロしかしてなかったくせにぃ〜。それにそういうのは自分で言うもんじゃないんだよ…ア穂高。」
「なんだとーっ!」
「うるさいうるさい、蝉の声かきけすな」
期末テストも終わり、いよいよ夏休み。
「なぁ、テルは将来どんな仕事に就きたい?」
「…考えたこともなかったな。穂高はどうなの?」
「オレはね〜、しんがぁそんぐらいたぁ?ってのになりたい。オレの歌で、いろんな人を元気付けたい」
「…なれると思うよ、きっと。僕が保証する」
誰もを元気にするシンガーソングライター。実際に勇気づけられたのだから、なれると信じるほかない。穂高を信じるからこそ、ある一つの仕事が頭に浮かんだ。
「作曲…」
「ん?」
「そうなったら、僕が曲作ってあげるよ。誰もを元気づけるようなメロディー、ベース、ドラム。穂高の歌を最高に引き立てるようなインストを」
穂高はにっこり笑って、
「おう!きっと、二人で叶えような!」
と僕の手を握った。
「で、だ。歌が上手くなるには、歌い続けることがいちばんの近道と見た。そこで、Y○utubeに”歌ってみた”を投稿し始めようと思う」
「ほう」
「でも、一人でできることには限りがあるから、手伝って欲しい。MIxとか、映像とかに関する知識は全くないから」
「いいよ。でも、僕もそんな詳しいわけじゃないから調べながら進めることになるかも。mixなんかはいい勉強になるだろうしね」
長い道のりが始まった。