第四話 とけてしまえよ期末試験 1
7月。それは世の学生たちがそわそわしだす時期。夏休みが近いのもあるが、その前に「きまつてすと」とかいう行事があるからだ。
多くの生徒は夏休みに気を取られて勉強をサボりがちで、泣きを見る。案の定穂高もその一人だった。
「テルえも〜ん、勉強教えてよ〜!」なんて、某猫型ロボットみたいな名前で僕を呼ぶ穂高。やっぱりか、と思いながら勉強を教えてやるのが休み時間のお決まりになっていた。
ある週末、「次の土日、暇?」と聞いてくる穂高。予定はないよと答えると、「休日一人で勉強する気にならないから勉強会しようぜ!」と。一人で勉強できないって子供かよと思ったけど、僕も一人でいるのはつまらないので勉強会の約束を受け入れた。正直、楽しみだ。
土曜日。暑い。外にも出たくなくなる程に暑い。スーパー、コンビニ、ショッピングモール。誘惑が次々と視界に映ってくるが、今日はそんなところに寄っている時間などない。目的地はただ一つ。穂高の家だ。
「ここ…かな?」
教えてもらった住所に着くと、そこには「大衆食堂 あべや」と書かれたのれんのかかった建物があった。暖簾をくぐって扉を開ける。
「いらっしゃいませ〜!」
元気な掛け声と共に姿を現したのは、人間の夫婦。どちらも若々しい。にしても、狼獣人である穂高の両親がどちらも人間であることには驚いた。そんな意外な発見も束の間、穂高が降りてきた。
「いらっしゃいテル!上がって〜」
こんなに暑いのに、髪だけの僕より体毛が多いはずの穂高の方が元気って、一体どういうことだよ。体力だけはバカみたいにあるんだから、こいつ。
「始めようか」
「はぁ〜っ疲れたぁぁ」
気づけば空はオレンジ色に染まっていて、時計に目をやると短針が7を指そうとしていた。腹減ってきたなぁ、と思いつつ、テルの方を見た。テルも疲れた顔をしていて、こちらを見ながら
「僕もなんだかいつもより疲れたよ」
と言って机に突っ伏した。
「そろそろ飯の時間だし、せっかくだから食べて行きなよ」
「…じゃあお言葉に甘えて」
疲れているのもあるのかも知れないけど、なんだかテルの顔に元気がないように見えた。見ると、料理にもあまり箸をつけていない。料理を口に運んだ後、
「おいしい」
と呟いたのが聞こえた。頬に何か光ったのが見えた気がした。