第三話 僕とオレ
4月。僕は見知らぬ学校の体育館で見知らぬおじさんの話を聞いている。これはだいたいどこでも共通しているんだろうけど、長い。ただひたすらに長い。
隣で座っている2人は僕を睨みつけている。僕の目論見は成功した。
2人を気にせず前に目をやる。一瞬、ほんの一瞬だけ誰かと目が合った気がした。きっと気のせいだろう。僕は前を向いてるんだから、後ろでも向いてない限り目が合うはずがない。入学式で、しかも校長先生の話の途中に後ろ向きながら聞いてるやつなんているわけな…いたー!しかもめっちゃこっち見てるー!
あー…退屈だな。だいたい話長いんだよこのおっさん。なんか面白そうなやついねーかな。周りを見渡す。ほとんど知り合いだから新鮮味がない。そりゃそうか、自分から知り合いの多いところに入ったんだから。
ん?なんか見慣れない顔がいるな。緊張してるのかな、だいぶ疲れた顔してる。あ、こっち見た。「!?」って顔して目線逸らした…反応面白いなあの子。
そろーっとこっちに目線を向けてくるその子にニッと笑って見せると、その子も笑顔を返して見せた。緊張が抜けきってない、硬い笑顔。相当頑張って返してくれたんだろうなと、なんだか嬉しくなった。
もちろん帰り際に先生には結構怒られた。
クラス分けも終わり、最初のホームルーム。僕の席は、一番前だった。
「隣の席の子と、自己紹介やショートトークなんかをしてください」先生はそう告げて、タイマーのボタンを押した。隣を向くと、なんだか見覚えのある顔があった。しばらく思い出そうとしたけど、もう少しで思い出せそうなところでわからなくなってしまう。そんな悩みは、彼の一言で一瞬で吹っ飛ぶことになる。
「初めまして!...入学式の頃ガチガチに緊張してたよね」
「あー!あの時の!目合わせてきてた子!」
「そうそう!...迷惑だった?」
「そんなことはないよ、むしろあれのおかげで校長の話退屈じゃなかったし」
「そっか、よかった!オレは阿部穂高!よろしく!」
「よろしく。僕は入島照斗。」
「照斗かぁ…んーじゃぁ…テルだな!」
「え?」
「あだ名つけた方が仲良くなれると思って!これからテルって呼んでいい?」
「えっ、あ…いいよ」
無邪気に聞いてくる穂高にノーの答えを出す気にはなれず、つい首を縦に振ってしまった。せっかく向こうから親しくしにきてくれているんだから、こちらもそれに応えなければ。
「よろしく、穂高」