第二話 玉乗りのオオカミ少年の話
——幼い頃から、他人を騙すのは上手い方だった。
嘘をつかないと、周りから笑顔が消えそうで、怖かった。周りの子にも、家族や親戚にも、自分の気持ちにさえも。
嘘をつくことが増えていったのは、きっとあの日から。
あれはまだ小学生の頃、卒業式の前日。オレは、トラックに撥ねられた。オレの不注意でも運転手側の過失でもない。”友達”と歩いていたはずなのに、なぜか車道に投げ出されていた。
病院のベッドの上で、ありのままを話したときのあの母さんたちの顔は今でも覚えている。もうあんな顔は見たくないから。だからオレは嘘をつき続けるようになった。それは中学に上がって環境が変わっても同じで、鏡の中の”オレ”には友達がたくさん出来た。たくさんできればできるほど、どこか寂しさを感じるようになってしまった。みんなの友達は”オレ”であってオレじゃない。本当のオレを見せてしまえば誰も友達ではいなくなってしまうかも知れない。
オレってなんだっけ。何がしたいんだっけ。いつしかオレ自身がなんなのかもオレ自身の意思さえも見失ってしまった。
ただ、少なくとも小学生の頃よりはまだ苦しくなかったんだと思う。あの時オレよりも辛そうだった母さんが、中学時代のことは優しい顔をして話すんだから、きっと。人に囲まれて、バカやったりして過ごしていたんだろう。実際中学時代のことを思い出すのは苦じゃなかった…と言えば嘘にはなる。
それでもオレは、みんなが通うような高校に行くことを選んだ。友達とノリで「同じ高校行こうぜ」って言われたからだけど。正直、もう一度イチから友達を作れる自信なんてなかったし、元から知ってる顔がいる方が安心だと思った。
苦手な勉強もその時だけは死に物狂いで頑張った。もうこれ以上、誰にも置いていかれたくなかった。独りでいるのはもうこりごりだ。少しでも気を抜いてしまえば、みんなの背中がとてつもないスピードで遠くなっていく気がして。吐きそうになるぐらいに勉強に打ち込んだ。
努力は報われる。そう信じた。
受験当日。大きく深呼吸をして、会場の学校へと足を踏み入れる。出てきた頃には足取りがおぼつかないぐらいにへとへとだった。緊張と、頭の使いすぎと、空腹。もっと食べてくればよかった。いや、十分か?なんて考えていた。
それでも、手応えは確実にあった。