第84話 救出隊
能力者犯罪捜査機関 葉泉支部の支部長
橋本千陽がAACAに捕らえられてから3日目の朝、
AACAのアジトがある五養山の登山ルート西口には3人の訓練生と
葉泉支部の捜査官、景山省吾の姿があった。
「判明しているAACAの能力者については依頼時に伝えた通りだ。
稲鳴昂輝と鳥の少女は先日の美術館襲撃で笠尾組の隊員と渡り合った程の実力がある。
楽な相手ではないが、支部長の救出を頼んだ」
「何か作戦とかあるんですか?」
訓練学校4年生の高木彩が尋ねた。
「それは今回の隊長に確認してくれ。
俺から言えるのは、、そうだな、山火事とか起こすなよ」
「それ俺らに言います?敵に言ってくださいよ。
鳥の奴は火も使うんすよね」
次いで口を開いたのは、同じく4年生の氷堂佑だった。
「まぁ、上手い事やってくれ」
「雑っすね」
「わりぃな、俺は作戦とか苦手なんだよ。
いつも同期が立ててたからな」
「で、どうすんだ?隊長さんよ」
「基本1対1でやる。以上」
「な゛!」
「つー君もテキトーじゃん」
「景山さん!何でこいつが隊長なんすか!」
佑は狐の面を着けた少年を指さして言った。
「ん~、実力だ」
「ますます納得いかねぇっすよ!
だいたい、俺―――」
「はいはい、ゆー君そのくらいにして。
早く行かなきゃなんだから」
「じゃ、いってきます」
「おう、任せた」
少年は2人を置いて歩き始めた。
「おい!先に行くんじゃねぇ!」
「あ!もう、2人とも待ってよ」
こうして、橋本支部長救出隊は五養山に入山した。
「3人、西口から入って来たよ」
「千陽さんの救出ね」
「遅かったじゃねぇか」
「で?で?誰が来たの?」
「顔照合した。訓練生2人」
「はぁ?捜査官じゃねぇのかよ」
「多分、捜査官は来れないわよ」
「なんで」
「千陽さん、上の許可取らずにここに来てるもの」
「よく支部長やってんな」
「あれ?入ってきたの3人じゃなかった?」
「もう1人は、お面被ってて照合できない」
「じゃあよ、そいつ!強いんじゃね?」
「ん~、まつりはそんなに変わんないと思うけどなぁ」
「でもこの人、、、」
「なんだよ」
「カメラの位置に気づいてる、気がする」
「え!ちゃんと隠してるのに?」
「アル、美術館の時にカメラ全部壊されてるわよね?」
「うん」
「あの場に居た奴かもしれないって事か」
「えぇ、たぶん、村井勇斗を倒したのも」
「わかった、ちょっと時間貰う」
アルはそう言うとアジトの奥に消えていった。
「なぁ、ちょっくら挨拶してきていいか?」
「いいわよ」
「あ!昂輝だけずるい!私も~」
昂輝は地上から、まつりは空から、3人の行く西登山ルートを目指した。
「さて、じゃあ、私も」
救出隊の3人はアジトまで半分の所に来ていた。
「そういえば、千陽さん救出のタイミングは?」
「全部片付いてからでいいんじゃね?」
「アジトを壊さないようにしなきゃだね」
「それは無理だろ、能力の戦いだぞ。
てか、笠尾組の隊員と互角って、今日の奴らも強いのか?」
「何番隊の隊員かによるでしょ。
1番隊の隊員は次の隊長候補って聞くけど」
「ふーん、美術館に来てたのは誰なんだよ。
お前行ったんだろ?隊長さんよ」
「俺が隊長するの余程気に入らないんだな」
「あぁ、気に入らねぇ」
「形だけだぞ」
「それでもだよ!
で、誰が居たんだ?」
「2番隊の村井兄弟と3番隊のジョン・スミス」
「ん~、知らねぇなぁ」
「え!村井兄弟は有名だよ?
まず、2番隊は隊長が有名なのに」
「そいつは知ってるよ、毒島だろ?
隊員の方は何とも言えねぇなぁ」
「実力の詮索なら必要なさそうだぞ」
「あぁ?なんで」
「お迎えだ」
「"降り注ぐ火の粉"!」
声がした方を見上げると、1羽の鳥が両翼から火の粉を散らしている。
「挨拶か、礼儀のなってる敵だな。
彩、広域」
「わかってる!
山火事には気を付けろって言われたばっかりなのに」
彩は背負っている筒から長大な筆を取り出した。
その筆先には青の絵具が着けられている。
「"青の水玉模様"」
彩が宙に描いた青い円が薄く広がり、
全ての火の粉を相殺した。
「ふ~ん、良いじゃん?」
鳶の能力者、笛鳴まつりはアジトの方へ引き返した。
「あ!逃げちゃう」
「気にするな。
もう一人いるな、佑」
「ちっ、隊長ぶりやがって。
言われなくてもわかってるよ!」
― バチッ ―
「"雷撃爪 -辻-"」「”氷の彫刻 長杖”」
佑は昂輝の急襲を受け止めた。
「訓練生、思ったよりやるな。
アジトで待っといてやるよ」
昂輝は長杖を砕き割ると、アジトへ戻っていった。
「砕かれてんじゃねぇか」
「その方が向こうに格好がつくだろ?」
「負け惜しみか?」
「ちげーよ!」
「でもさ、思ったよりやるね。
訓練学校の4、5年生に居てもわからないかも」
「ちょうどいいレベルってことだな」
「2人とも、おかえり。どうだった?」
「いい感じ!」
「あぁ、今日の戦いも俺を強くしてくれそうだ」
「昂輝は外で戦うよね?この前の試すんでしょ?」
「まだうまく使えねぇけどな」
昂輝の両手が交互に光る。
「そんなに難しいの?」
「左右の出力をなかなか均一にできねぇんだよな」
「千陽さんに訊いたんじゃなかった?」
「それがこの練習なんだよ」
昂輝はずっと両手を交互に光らせている。
「他には~?」
「敵にこれ以上教えることはないって言いやがった」
「言いやがったって、それが普通でしょ」
まつりは笑いながら言った。
そこに、アルがパソコンを持って戻ってきた、
「みんな、ちょっと」
「あぁ?なんだよ」
「これ見て」
画面には回転する「R」の文字が映った後、
西白共立美術館周辺のカメラ計6台の画像が映し出された。
「何だってんだよこれ」
「これは、僕たちの襲撃前の映像」
「下の数字は?」
「それぞれの画像の時間。
この人物は襲撃前に美術館に近づいていってる」
「んな奴、他にもいんだろ」
「次にこれ」
アルが→キーを叩くと、画像が全て切り替わった。
「これが、昂輝が展示室に戻った後」
「私たちがまだ襲撃してる時ね」
「そう。
この人物はその少し後に美術館から離れてる」
「離れてんじゃねぇかよ!じゃあ別人だろ」
「いいえ、その人物を私たちは見ていない。
それに、昂輝が展示室から出る付近で、展示室に向かうようにカメラが壊された。
だったわよね?」
「そう、それに
美術館のカメラが壊された時間、この人物はどこのカメラにも映っていない。
他の建物に入った様子もないんだ」
「じゃあ」
「ほぼ決まりね。
そこから顔照合できる?」
「うん、待ってて」
アルは再びアジトの奥に戻っていった。
「さて、私たちは」
「出番のようだな」
「た~の~し~み~」
特殊能力のある世界 第84話 ご覧いただきありがとうございます。
連載開始から、はや2年3ヶ月、ようやく第1部最終章です!
最初からずっと見てくれてる人っているのかな?
多分、やっとここまできたかって感じですよね。
第1部残り、頑張ります!
応援メッセージ、お待ちしております。
次回の投稿は6/15(日)です。