第78話 廃墟の騒霊
(中は外と同様、廃墟そのものね)
千陽は正面玄関をくぐると、旧ホテルのエントランスホールを見渡した。
薄暗い建物内のカーテンは破れ、壊れた家具、枯れた植物が無造作に置かれている。
千陽は自身の能力である、電気によって生体反応を確認しながら、
AACAの3人が待つ広間の扉の前まで来た。
(中には、3人。多分、美術館の時の能力者も、、、。
ふぅー、、、。)
千陽は一呼吸すると扉を開けた。
「えぇ!何でいきなりここに来ちゃうの!?」
笛鳴まつりが目を丸くして驚いている。
「昂輝と同じ、電気の応用よ」
リーダーの御剣凛奈が短く説明した。
「へぇ~、便利ぃ」
「ようこそ、私たちのアジトへ」
室内には、シャンデリアに円卓、いくつかの椅子があり、
凛奈は扉の正面に位置するソファーに座っている。
「ここは、元々ただの広間じゃなかった?」
千陽は部屋を見渡すと凛奈に訊ねた。
「えぇ、そうよ。下にあった物を移動させたの」
「凛奈ちゃんなら、簡単だものね」
「えぇ。
で?世間話でもしに来たの?」
「いいえ、あなた達を捕まえに来たの」
「でしょうね」
その瞬間、凛奈の横を稲妻が駆け抜けた。
「やれるもんなら、やってみろよ!"電撃爪"」
飛び出したのは、稲鳴昂輝だ。
「やめなさい」
凛奈の言葉と共に、昂輝の進路を机と椅子の壁が阻んだ。
「何すんだよ!」
昂輝は苛立ちながら、凛奈の方を向いた。
「昂輝とまつりは下がってなさい。
今のあなた達では、勝ち目はないわ」
「あぁ?そんなのやって―――」
「下がりなさい」
「、、、わかったよ」
凛奈は2人が下がったことを確認すると、立ち上がった。
「じゃ、はじめようかしら」
その言葉と同時に、凛奈は10本のナイフを宙に放った。
(来るっ!)
身構える千陽に刃先を向けてナイフは宙で静止した。
「、、、、、、」
「、、、、、、」
少しの沈黙の後、
ナイフは一斉に別々の軌道で千陽目掛けて飛び始めた。
しかし、半分も進む前に、千陽によって全て撃ち落とされた。
「はっやぁい、一瞬じゃん。
昂輝、あのままだったら死んでたんじゃない?」
「あ、あぁ」
(早いとかの次元かよ、
凛奈の能力で弾道逸らされたらすぐ2発目を撃ってやがる。
しかも、全て電気属性の能力弾、エネルギー操作が尋常じゃねぇ)
「この前も思ったけど、さすがね」
「凛奈ちゃんもね」
「ありがと。少し、増やすわよ」
そう言うと、凛奈はさらに10本のナイフを放り投げた。
始めの10本も凛奈の傍に戻り、計20本のナイフが千陽に刃を向けている。
そして、前触れもなく20本が別々の軌道で千陽に迫る。
が、これも全て千陽によって撃ち落とされた。
違うのは、4本のナイフが千陽のすぐ足元に転がっていることだ。
(ナイフと弾道を操作を同時に、、、)
千陽が足元のナイフを見ていると、そのうちの1本が飛んできた。
ナイフは千陽の頬を掠めると、Uターンして戻ってくる。
千陽は後ろに跳びながら、ナイフに銃口を向けた。
「"高速充電"」
右手に握った銃の銃口に光が集まり始める。
「俺のより、速い!」
「"百雷一点"」
銃口から放たれた弾丸はナイフを粉砕した。
「えぇぇぇぇぇぇ!!りなっちのナイフが」
「砕きやがった。
コンクリに叩きつけても刃こぼれしないナイフを」
(さすがに、強力なのも持ってるわね。
でも、その技、、、)
次いで、残りの3本のナイフが浮き上がったが、
千陽は距離を取り、再び撃ち落とした。
(さすがに、この数厄介ね。
どうにか、凛奈ちゃんの1発当てて集中力を削ぎたいんだけど、、、)
ソファの前から1歩の動いていない凛奈がこちらを見つめている。
― ガタッ ―
「!?」
その音に千陽が横を向くと、左右から飛んで来る椅子が視界に入った。
すかさず両手の銃で迎撃するが、椅子は止まらない。
(かなりエネルギーを集中させてるわね)
千陽は跳んで椅子を避けると、凛奈に銃口を向けた。
「"高速充電"」
「さっきの技ね」
「"百雷一点"」
銃口から放たれた弾は、椅子の座面と背もたれを粉砕し消滅した。
しかし、その椅子の脚が千陽目掛けて飛んで来る。
千陽はそれらを迎撃するが、凛奈に弾道をそらされ、脚の1つが直撃し膝をつかされた。
「家具も使って自在に攻撃と防御、、、。
さすが、騒霊ね」
「心霊スポットにはピッタリの能力でしょ?」
特殊能力のある世界 第78話 ご覧いただきありがとうございました。
凛奈の能力、やっと明かしたような気が、、、
来週にはこの戦いに決着が?