第76話 アルのノート
南雲市長の護衛任務の2日後、
能力犯罪捜査機関南雲支部の支部長、四阿紫水は
朝からパソコンの画面を睨みつけていた。
(侵入した3名のうち西尾雄斗と堤号の2名は
機関の所有しているBブックの一部に名前が記載されている犯罪者であった。
前出のBブックは2年前に―――)
「支部長、おはようございます」
出勤してきたのは斗升合蔵だった。
「斗升さん、おはようございます。
時間通りに支部に来るなんて、今年初じゃないですか?」
「いやー、先日の任務で気になることがありまして」
「私も1つ訊き忘れたことがあったんです。
斗升さんは何が気になるんですか?」
「私が戦っていた堤号の事なんですが、」
斗升はそう切り出すと、焼酎を温め始めた。
「他の2人に関しては能力しか知らない、ような口ぶりだったんでさあ。
Bブックってのは、本人たちは内容を把握してないんですかね?」
「Bブックの原本は本人たちも持っていないのかもしれませんね。
今まで捕まえた能力犯罪者たちからもそれらしいものは押収されていませんし」
「機関が所有しているってのは誰のなんで?」
「2年前に、Bブックに記載のある人物に犯罪を依頼した人の物です。
まぁ、それも一部のコピーであって、丸々1冊ではないんですが」
「じゃ、今回の2人はたまたまそこに名前があったってことですかい」
「えぇ。当時、依頼された人物の前後に名前が在りました」
「ところで、そこには名前のほかには何が書いてあるんです?」
「犯罪者の顔、名前、能力、ランクですね。
ランクはその強さ、クリアした依頼によって決まり、
依頼料にも直結している、と聞いています」
「ん?依頼先はないんですかい」
「自分からBブックに記載されている人に依頼するわけではないようです。
依頼主の元をBブックを持った人物が訪れ、そこで依頼をする。
コピーは依頼料の証明書として渡されるようです。
2年前の件に関して、依頼者の前に現れたのは
片言な日本語を話す外国人だったようですよ」
「随分と特徴的な」
斗升は笑いながら盃をクイッと傾けた。
「で、支部長は何が気になるんですかい?」
「護衛No,8の件ですが、彼は銃弾を避けていたんですか?」
「避けてはいませんよ。
腹部と背中に木の板を身に付けていやした。
銃弾はその厚さ半分に満たないところで止まってたんでさあ」
「なるほど、それで無傷だったわけですか」
「木工が趣味なようで、良い木が手に入ったから作ったそうで。
何か引っかかるんですかい?」
「いえ、何でもないです」
そう言うと、四阿支部長は報告書の校閲作業に戻った。
葉泉市、AACAのアジト
凛奈、昂輝、まつりの3人は
眠りながらペンを握っているアルの様子を観察しながら、小声で話していた。
「ね、ここで書くの久しぶりじゃない?」
「そうね」
「また外れんじゃねぇの?」
「えー、まつりは当たって欲しいなぁ」
「今のところ外れているのが確定しているのは、
今年の2月以前に書いたものだけ。
その他は当たっているか、未確認よ」
「美術館のっていつ書いたんだよ」
「あれが2月じゃなかった?後で見てみよ?
あ、動き出したよ」
まつりはアルが起き上がると真っ先に声を掛けた。
「ね!ね!なんて書いた?」
「ん?、、、あっ!」
右手のペンとノートから状況を察したアルは
ノートに書かれた文章を読み始めた。
「、、、、、、、、、、、、」
「おい!なんて書いたんだよ!」
「、、、うん、」
「ちょっと貸してみろ」
昂輝はノートを読むと、アルに掴みかかった。
「お前、テキトー書いてんじゃねぇぞ!」
「ちょっ、昂輝やめなよ」
「何で、俺たちが―――」
「やめなさい」
凛奈の投げたナイフが2人の顔の間を駆け抜けた。
「昂輝、これはアルの意思じゃない。
夢の内容の一部を書き留めているだけ。
あなたもそれは知っているでしょ」
「だとしてもだな!」
「ねぇ、昂輝は何をそんなに怒ってるの?
3文目にあるように大丈夫なんじゃないの?」
「、、、そうだけどよ」
昂輝はアルから手を離した。
「すまねぇ」
「いいよ、この内容なら、、仕方ない」
「、、、、、、」
「アル、前半の事のあとに後半の事が起こるまでの期間は?」
「わからない」
「そうよね」
「でも、そんなに空かない、と思う」
「それはどうして?」
「今まで、複数の事柄があるとき、時間が記されているのがあるから」
そう言うと、アルは過去に書いた内容を見せた。
[薄い本には様々な能力が書かれている。
本は数年の時間を費やして厚みを増していく。
平和の守り人たちは、まだその存在に気づいていない。
気づいた時には、本は厚く、厄介な存在になっている。]
「これは、数年、だけど」
「たしかに、期間が書いてあるわね」
「ねぇ、この本って?」
「僕はわかんない」
「その本ってのは、Bブックじゃねぇか?
裏で出回ってる、能力者に犯罪を委託するための本があんだよ」
「へぇ、確かに機関とかからしたら厄介だね。
って、昂輝は何で知ってんの?」
「ここに来る前、誰かが俺の始末をそこに載ってる奴に頼んだんだよ。
まぁ、大したことなかったけどな」
「そんな恨まれ方するって、あんたなにしたのよ」
「、、、、、」
「ちょ、何で黙るのよ」
「ちょっと待て、、、。
、、、、、、、、、。
おい、お客がこの山入ってきたようだぜ」
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