第64話 試運転
「ね~、速いんだけどさ、空中戦苦手?」
昂輝は膝に手を置き、息を切らしていた。
白い翼を着けた女性は昂輝と誠斗を見下ろして続ける、
「ほらほら、そっちの笠尾組のひと~?
もういいんじゃない?それとも、戦うのやめる?」
「戦うに決まってんだろ!」
誠斗は両手両足に灯した炎の出力を操り、女性に迫る。
「ふ~ん、君の方が空中戦は得意そうだね。
でも、、、」
女性は誠斗が次々と繰り出す技を空中で舞うように避けていく。
(こいつ、ちょこまかと)
「"拡散する炎"」
誠斗の両手から放たれた炎が放射状に拡がる。
「お、いいねぇ~」
しかし、女性は瞬時に天井に張り付いて技のすべてを避けた
(!一瞬であの高さまで避けるのか
どうする、相手にせず彫刻だけ、、、)
誠斗が視線を落とすと、
昂輝が『黒檀の昇り龍-紅玉ノ眼-』の置いてあった台座にある繭に手を伸ばしていた。
「てめぇ、抜け駆けしてんじゃねぇ!」
誠斗が放った炎を昂輝は避けるが、白い繭に火の粉がかかり燃え上がる。
「何しやがる!これ、燃えてんじゃねぇか!」
「てめぇが漁夫の利なんざ狙うからだろ!」
「賢いと褒めてほしいところだけどな!
てか、これどうすんだよ」
「てめぇが離れたら消してやるよ」
「ちっ」
昂輝が燃え上がる繭から少し離れると誠斗が降りてきた。
(油断も隙もあったもんじゃねぇな)
誠斗が手をかざすと、炎は吸収されていった。
そして、2人はあることに気が付いた。
「おい、お前、これはどういうことだ」
「俺が知りてぇよ、なんで焦げ一つついてねぇんだよ」
2人はクスクスと笑う女性を見上げた。
「あ、それ?その程度の攻撃じゃ壊せないよ?
君たちも知ってるでしょ?エネルギーの密度。
それが違うのよ、ま、試してごらん?」
「お前の炎が弱いんだってよ、
俺が壊してやる"電撃爪-辻-"」
雷の爪が繭の側面を一閃する。
しかし、かすり傷一つつかない。
「まじか、、、」
「どお~?雷の子もムリでしょ?
つ、ま、り、私を倒さないとダメってこと~」
「おい、充電小僧、」
「不本意だが、仕方ないな、、、」
「「共闘すんぞ!」」
その時、アルが昂輝に叫んだ、
「昂輝ダメだよ!任務の核は依頼人の―――」
「アル、ここまで来て引き下がれるかよ」
「実力差もわかったろ?死ぬかもしれないんだぞ」
「そん時はそん時だろ」
「凛奈、どうしよ」
「アルが心配するのもわかるけど、変えられないこともあるわ」
「りなっち、こっち片付いたらどうしようか」
「まつりは依頼人を送り届けて。
そしたら、私が昂輝の方に行くから」
「、、、、、、
今から、僕もそっちに行く。ほぼやることはないし」
アルはそう言うとパソコンの電源を切り、
作戦を書いたメモ帳を閉じ、ノートと一緒にリュックにしまって図書館を後にした。
「充電小僧、空中戦の心得は?」
「あまりねぇな、お前のあれはどうやってんだよ」
「四肢の炎の出力を調整して飛んでんだ」
「お前、そんな繊細な事できんのかよ」
「あ゛?馬鹿にしてんのか?
てか、てめぇのあれは何だよ、充電は」
「技を使うたびに練り上げてるエネルギーを事前に溜めとくイメージだ」
「それも一朝一夕では身に付かねぇ芸当だな」
「時間稼いでやるから、試してみろよ。
弟もまだ来てねぇしな」
「ほんとあいつ何やってんだよ」
昂輝はペンダントのボタンを押すと、
地面を強く蹴り、垂直に跳んだ。
(お、さっきより速っ)
しかし、女性は空中を動き周り昂輝の攻撃を躱した。
昂輝は手足に集中するが、毎回壁や床、天井に激突するまで接近しては
脚力で女性を追いかける。
(あいつ、全然できてねぇじゃねぇか)
誠斗は心の中では昂輝をバカにしているが、
自身もエネルギーを放出し炎を纏ってしまっている。
「毎回、壁まで跳んでたら私は捕まえられないよ?」
「うっせぇ、これからいい感じになるだよ!」
(もっと弱く、持続してエネルギーを放出する必要が)
昂輝も誠斗も成長する様子はない。
「ねぇ~、私も新しいの試していい~?」
((あ?))
宙に浮いた女性の左袖から刃が伸び床に刺さった。
「きゃっ、すんごい伸びるんだけど何なのよ」
「ありゃなんだよ」
「刀?5mは伸びてんぞ」
「も~、びっくりしちゃった」
刃は袖に吸い込まれるように約30cmまで短くなった。
「さぁて、いくよ?」
女性は宙を舞いながら左袖から伸びた刃で2人の攻撃し始める。
「おいおい、これは」
「新しい事はやめだ、普通にやんぞ」
「それがよさそうだな、畳みかけてくぞ。
"バーン・フィスト"」
しかし、女性は刀身で拳を受け止めた。
だが、すかさず昂輝が背後から仕掛ける。
「"電撃爪"」
それも、上に飛んで避けられる。
「ふう、危ないな~」
「あの刀、実体があるぞ」
「だろうな、床にも傷がついてる」
「で?何であんなに伸縮すんだ」
「能力だろ」
「浮いてるのは何でだ?」
「能力だろ」
「私はそんな物珍しいものじゃないよ。
ほら早く早く、もう終わり?」
特殊能力のある世界 第64話 ご覧いただきありがとうございます。
敵との共闘は時間を置いてから出すのが王道ですが、
今回は相手が強いですね、仕方ない。
たびたび出てくる「エネルギー」ですが、
代替する良い単語思いつきませんねぇ
「エネルギーの密度」って書いてるし、それでいっか。
ってなわけで、次回は6/29(土)に更新します!
※誤字脱字は明日確認するのでご了承ください。