第53話 刃と夢
西白本部から通達が発せられた翌日 7月6日木曜日
放課後に遊んでいた駿と拓也はコンビニでお菓子を買っていた。
今流行りの『霊獣アニマ』のシール入りウエハースを2個ずつ買い、
コンビニの前で開封するのを楽しんでいた。
「あ゛ー、また犬だったー、しかもノーマル。
絵柄違いでレアとかならよかったのに」
「駿は最近ノーマルばっかだよな」
「拓也はどうなんだよ」
「俺?鷹と猫だったけど?」
拓也はさっき出た2枚を駿に見せびらかした。
「2枚ともノーマルじゃねぇかよ!」
「ダブってないだけマシだろ」
「確かになー、コレクションできていいなぁ。
俺なんてこの弾の犬のノーマル3枚目だぞ」
駿はウエハースと一緒に買った炭酸入りジュースを開けた。
「でもよ、この弾の目玉は狐だよな。
シークレットでしか出ないし、えーっと、何だっけ、、、」
「名前か?俺も忘れた。
でもよ、亀のやつもよかったぞ!
前の弾と違って大砲装備してるイラストなんだよ、ダブルレア以上だけど」
「ノーマルばっかりの駿に引けるのか?」
「うっせぇ!もう1個買って―――」
駿が再びコンビニに入ろうとすると、
17時を知らせる音楽が町中に響いた。
「もう買うなってよ」
「くぅ~、仕方ない、帰るか」
駿は200円を握りしめ、扉の前で悔しそうな表情を浮かべる。
「ほーら、早く帰るぞ」
拓也は自転車にまたがり今にも出発しそうな勢いだ。
「わかったよ、待てって」
2人は数分進んだところで別々の方向へ自転車を進める。
「じゃあな」
「おう、また明日」
駿はもう1個を買えなかったことを悔やみながら自転車を漕いでいた。
そしてふと思い立つ、
(今日は遠回りして帰るかっ)
遠回りになる道へ自転車を進めた駿は途中で波溜を見つけた。
「おーい、波溜ー」
しかし、波溜は誰かと話をしていて駿の声に気づいていない。
(ん?誰かと話してんのか?)
駿は話し相手が見えるところまで近づいた。
(う~ん、誰だあれ?見たことはある人なんだよな、、、)
駿は波溜と話をしている人物の顔に見覚えがあった。
(最近見た気もするし、少し前にもどこかで、、、)
駿はどんどん2人に近づいていく。
(何か言われて、波溜が断ってるようにも、、、)
すると、その人物が波溜の腕を掴んだ。
と同時、駿はその人物の名前を思い出し、走った。
「波溜!伏せろ!」
駿はペットボトルの蓋を開け波溜の話し相手に投げつけた。
「!?何だ、この液体、、ジュースか!?」
男が顔を拭うため、波溜から手を離すと
すかさず駿が波溜の手を引っ張って走り出した。
「あいつ知り合いか?」
「ちがうけど」
「じゃあ、さっさと逃げるぞ」
「逃げるって、どこに」
「ここからなら学校しかないだろ!
急げ、追ってきてる」
時を同じくして、
葉泉支部の捜査官と西白本部に通知が入った。
[葉泉市内芽吹小学校校区内にて小田切武人と思われる人物を確認]
葉泉支部
「橋本支部長、カメラシステムから通知が」
「芽吹小校区内に小田切、なんでそこに、、、」
芽吹小学校
「校長先生、校区内に指名手配中の能力犯罪者が確認されました。
至急、連絡網で呼びかけを行います」
芽吹小学校校区内
「小田切か、、、この刀を試すのにちょうどいいな。
さて、どこにいる、、」
駿と波溜は学校の裏山まで逃げてきたが、小田切に追いつかれてしまった。
「おいおい、人目に付きにくい場所に逃げたらダメだろ?」
「学校へ、の最短、、距離だったんだよ」
駿は息を切らしながら小田切に答えた。
「学校?そうか、それならいい考えだ。
でも、ここまでだな、その女の子を渡せば危害は加えない」
「誰が渡すか!お前、指名手配中の、、小田切だろ」
「坊主、よく知ってんな」
「俺はあの現場にいたから、印象に残ってんだよ」
「そうだったのか。
まぁ、そこはいいか、その女の子を渡してくれないか?」
「渡すわけないだろ!」
駿はそう言うと、小田切の脚に体当たりして転ばせた。
「こいつっ!」
「波溜!逃げろ、あと景山さんに連絡」
駿は波溜にスマホを投げた。
「あんたはどうすんの」
「後から行く」
「スマホは―――」
「誕生日をいれろ!早くいけ!」
波溜は駿のスマホを手に走り出した。
「お前、無傷じゃ済まないがいいのか?」
「俺は捜査官になりたいんだ、見過ごすよりマシだ」
「ケガして夢を断たれることになってもか?」
「気にしねぇ」
「能力は?」
「ない!」
小田切は両手を刀へと変化させる。
「もう一度確認させてくれ、俺と戦う気なんだな」
「あぁ、戦う」
小田切は駿の迷いのない目を見て笑う
「いいだろう、これを使え」
小田切は近くの枝を切断し、駿に投げ渡した。
「なんだよ、これ」
「ハンデだ、お前の覚悟を認めよう。
傷つけるのは気が乗らないが、お前の覚悟を無下にはできない」
「?」
「俺は能力を使わず戦おう。
しかし、お前が立てなくなったら、一太刀浴びせる。いいな」
「わかった」
駿は木の棒を握りしめ、小田切に立ち向かう。
何度もいろんな角度から振るうが、1発も当たらない。
「隙だらけだぞ」
駿は足を引っかけられては転ばされ、時に腹も殴られる。
そのころ、波溜は学校が見えるところまで来ていたが、
「何で開かないのよ!誕生日入れろって言ったじゃん!」
駿のスマホを開けないでいた。
「あいつの誕生日って8月3日じゃん!0803じゃないの!?」
(、、、誕生日をいれろ?、、まさか、ね、、、)
波溜はその言葉を復唱し別の4桁の数字を入力した。
(あ、開いた)
「おい?もう終わりか?」
「くっ、、、腹が、、、」
「だろうな、5発耐えたんだお前は強かったよ。
だが、約束は約束だ」
小田切は右手を剣に変化させた。
「致命傷は避ける、安心しろ。
もし、捜査官になるって心が折れてないなら、
その隙だらけの戦い方を改めることだな」
(くそっ、1発も当てられなかった、、、)
駿はうずくまったまま、小田切を睨みつける。
「いい目だ。その闘争心は称賛する。
機会があったら、また会おう」
(子どもはまっすぐでいいな、すまない、、、
俺の命には代えられないんだ)
小田切の右手が駿へと振り下ろされる。
その時、黒い影が間に入り、駿を助け出した。
「ん?誰だ!」
「お前、もう少し粘れよ」
その声に駿は恐る恐る目を開け、声の主の顔を見る。
「!?」
「面を着ける時間、なかったじゃねぇか」
「お、お前、何で、、ここに」
駿を助けた人物は狐の面を着けると小田切の方を向いた。
「さっきの女の子なら、学校についた。こいつの勝ちだ。
小田切武人だな、ここからは俺が相手をさせてもらう」
特殊能力のある世界 第53話 ご覧いただきありがとうございます。
遂に、投稿を初めて1年が経ちました!
皆さん本当にありがとうございますm(__)m
さて、3度目の登場となる狐の面の人物。
初登場は第7話、そして第20話からも登場してます。
前回の話で出た失踪者リストに記載された能力犯罪者たちに関する話は
サイドストーリの方で随時投稿していきます。
楽しみにしておいてください!
次回 第54話の投稿は3/30(土)19時ごろです。
今後も応援よろしくお願いします。