[wait for Orion]
「そんなに心配なら……行っても構わないよ」
『……創造主』
「僕の目的を告げたければそれも良し。まあ、それはしないか。余計苦しめる事になるだけだろうしね」
深淵を見つめ、男は静かに笑む。
その男の傍に浮かぶ箱は、項垂れるかのように光を薄めた。
『……創造主はそれで良いのですか?』
「意味が……分からないな」
このやり取りも、これが初めてではない。
何度となく問い、同じ答えを聞いていた。
それでも尋ねたくなるのは、一握の希望に縋りたくなるからか。
漆黒の箱は壊れたオルゴールのように、自らを創りあげた相手に問いかける。
これで良いのか――と。
無論、答えは変わらない。
意味が分からないと嘯きながら、男の心はとうの前に決まっていた。
「……全ては思い描いた通り。いや――予定外の事の方が多かったけど、この計画はじきに完成する。そのためにも必要な犠牲だ。必要な……ね」
もう選択は覆らない。
奈落の口を見つめたまま、男は溢す。
「どのみち……止まらないよ。もう匣は開いてしまったんだ」
それは災禍の箱と同じく。
ひとたび開いてしまえば、閉ざしたところで意味がない。
狡猾に人々を騙し、疫病の如く蔓延し、生ける者を堕落させるに留まらず、いつまでもいつまでも禍根を残し続けるのだ。
その匣を御すための――匣。
その完成を前に男は笑みを消す。
「良い結果を待つとしよう」
『…………』
漆黒の鳥は答えなかったが、答えなど求めてはいない。
男はただ深淵を見下ろし、昏い底に見つめ返されるのだった。
Please Talk me Back Should you Morphed.........
――夜明けを待つ




