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ステイタスライム鑑定

 ステイタスライムが変形し、私の手を包みこむ。

 すると――


「あら? 変ね。色が変わらないわ」


 色の変化は得意属性を表す。

 例えば、黄色なら雷属性、赤なら火属性、青なら水属性だ。


「わわっ、色は変わらないけど、何これッ! すっごい大きくなってるッ! 嘘でしょ!?」

「やばっ……!」


 大きさは魔力量を表す。

 私はどんどん大きくなるステイタスライムから慌てて腕を引っこ抜いた。

 十歳の時に鑑定した時よりも、遥かに大きくなっている。自分でもこんなに大きくなるとは思っていなかった。直径二メートルは超えている。


「やだ、まりりんさん。得意属性はなくて魔力量だけは異様に高いって、あなた変よ。魔力量だけならAランクパーティーの魔法使いと比べても遜色ないわよ? しかもあなた、途中でステイタスライムから手を引っこ抜かなかった?」

「抜いてないです」

「ジィー……」

「あ、あんま見ないで下さいよ。ミルフィさん、すごく綺麗だから恥ずかしいです……」


 なんて、ね。へへっ。


「まあ、いいわ。えっと、じゃあ得意属性はなし。魔力量は暫定でAってとこね」

「暫定、ですか……」

「なんか文句ある?」

「ないです」


 有無を言わせぬ迫力で私を睨むミルフィ。怖い。


「えっと、じゃあ、身体能力の方は――」


 仕事のできる女、ミルフィはさっさと次のステータス鑑定に移っていった。


 無色透明で直径二メートル程の大きさになったステイタスタイムは台座を跳ね降り、部屋の中をぴょんぴょんと時計回りに跳ねて回っている。動作の確認だ。


「敏捷力はCね」


 動きの速さはそのまま、敏捷度を表す。


「体力の方はっと……。あら、けっこうあるわね。部屋一辺が十メートルとして…………、一周回りきったわ。体力はB+」


 体力もそのままだ。十メートル単位で体力の評価は変わる。

 平均は三十メートル程でC評価。私の場合は四十メートルちょっと跳ね回った所で止まったからB+評価だ。


「私、体力にはちょっと自信があるんですよ」


 給仕として朝から晩までほとんど休みなく働いていたし、仮病で休んでいた時も、ユータス様をストーカーまがいに、ずっと後をつけていたしね。


 ――って誰がストーカーよッ!


 最後に、ミルフィは止まったステイタスライムのボディをバシバシ叩いて硬さを調べた。


「柔らかいわね。膂力はD-」


 ボディの硬さは、膂力を表す。ざっくり言うと、硬ければ力が強いってことだ。

 こういった具合に、ステイタスライムは対象者のステータスを測る手段として用いられているのだ。便利なもんだ。

 でもその便利さが、今はうとましい。バレないよね? こんな特徴的なステータス、王国内を探しても、たぶんいない。故郷の辺境地までこの報が届かないことを祈るばかりだ。


「では、まりりんさん。職業は……、得意属性はないけど魔力量はばっちりあるから魔法使いでいいわ。得意属性がなくても努力次第では初級程度の魔法なら使えるようになるから頑張ってね」

「はーい。がんばりまーす」


 適当に返事をしておく。


 仕事のできる女、ミルフィでも知らないことがある。

 ステイタスライムの色が変化しないパターンには、得意属性がない場合の他にもう一つあるのだ。お母さん曰く、たぶん世界でお母さんと私の二人だけの特性。

 過去の記録にでも当たればこのパターンも出てくると思うけど、今は黙っとこ。バレるとめんどいから。


「次はイートンさん、あなたも鑑定しましょうか」

「はッ! わ、吾輩、決して寝ていたわけではありませんぞッ!」


 私の鑑定で暇を持て余していたトンさんが、飛び起きた。がっつり寝てた。

 きっと昨日は色々思うところがあって寝れなかったんだね。うんうん、仕方ないよ。


 トンさんの鑑定は滞りなく終わった。

 トンさんの太いましい手を包み込んだステイタスライムは、一回り大きな赤色に変化して、のっそのっそとゆっくり部屋の中を跳ね回り、四周で止まった。やたら硬かった。


「イートンさん、あなたは戦士ね。前衛で戦うというよりは仲間を守るタイプの戦士が向いてるわ。魔力量はD-、得意属性は火、膂色はB+、体力はB、敏捷はDね。あなた達、見た目と違ってやたら体力はあるのね」

「ええ。吾輩、熱気のこもる厨房で朝から晩までフライパンを振っておりましたゆえ」


 王都一、繁盛している酒場の店員の体力、なめたらあかんぜよ。へへっ。


「じゃあ、こんな感じで登録しておくわね。鑑定も終わった事だし、もう帰っていいわよ。お疲れ様でした」

「はーい。お疲れ様でしたぁ」


 完璧な営業スマイルで私達を見送るミルフィ。鑑定って時間かかるし、けっこう疲れるんだよな。

 ああ、お腹空いたな。お昼ごはん何にしよっかな。とか考えて冒険者ギルドを出かけたところで、はっと気がついた。


「って、ちがあああぁうッ! 勇者ッ! 勇者紹介してッ!」

「あら。そうだったわね。めんごめんご」


 誰だよ、仕事のできる女って言った奴はッ! めんごめんごってなんだよ、古典かッ! 若作りしてるけどアラサーだよね!? 


「今、パーティ―を募集している勇者はいないわ」

「いないのッ!?」

「いないわね。私は王国内で誕生して、現在ギルドに登録している全勇者、並びに全パーティーメンバーを把握してるけど、今はいないわね」


 元々期待はしていなかったけど、がっくしだ。

 これで推し活の難易度が一気に上がったよ。


「そっかあ、仕方ないか。別に募集はしてなくて、暇してる勇者でもいいんだけどなぁ……」

「暇してる勇者ならいるわね」

「いるのッ!?」

「いるわ」

「ほんとにッ!? 冒険者を引退して、余生でとりわけ何もすることがなくて暇を持て余してるよぼよぼの元勇者とかじゃなくて!?」

「ふふっ、何それ。一応、現役の勇者よ。まだ十代だったと思うわ。言ったでしょ? 私は全勇者を把握しているの。間違いないわ」


 さすがは仕事のできる女、ミルフィだ。

 持っている情報量はやはり絶大だった。


「紹介してくださいッ!」

「いいけど。難しいと思うよ、彼」


 勇者の称号を持っていれば、ぶっちゃけ誰でもいい。

 私にとって本物の勇者はユータス様ただ一人だけだし、パーティーが結成できて、冒険者ギルドに登録できればそれでいいのだ。


「かまいません。お願いしますッ!」

「わかったわ」


 美しき受付嬢ミルフィに、暇してる勇者の情報を聞き、私とトンさんは冒険者ギルドでの用事を済ませた後、さっそく彼がいる宿へと向かうことにした。


 ミルフィに聞いて良かった。暇してる勇者が本当に見つかるとは正直、思ってなかった。若作りしてるとか、アラサーとか言ってごめん。


 あっ、間違えた。

 めんごめんご。


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